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2話『結婚の条件』



 あの日のことを私は一生忘れない。

貴方と初めて出逢った日のことを。



 -------------------------



「突然の訪問ですまない」

ディアマンテ様に座ってくださいと促すとそう謝りながら席に着く。

「いえ。殿下自ら足を運んでいただき、嬉しい限りです」

私は軽く頭を下げた。

「そうか?驚いただろう?」

ディアマンテ様はアジュール王国、王家特有のスカイブルーの瞳を少し困ったように細めた。

「…少々」

私はニッコリと笑みを浮かべディアマンテ様の瞳をしっかりと見た。


 驚くに決まっている。


 婚約発表から1週間後まさか婚約した人本人、王太子本人がいらっしゃるなど誰が思うだろうか。

てっきり結婚をするその日までお目にかかることすら出来ないと思っていたのに。


「結婚の前に色々と話しておきたいことがあって、ここまで来たんだ」

ディアマンテ様は少し言いづらそうにしながら口を開いた。

「話したいことですか?」

スカイブルーの瞳は私を真っ直ぐと見つめている。

「君との間に子を成すことは難しい」

ディアマンテ様は目を逸らすことなくそう言い切った。

「理由をお伺いしても?」

「もちろん」

子供に関して私は何がなんでも欲しいとは思っていないので構わなかったが、大国の王太子に世継ぎがいないというのはよろしくない状況だと思う。

「私に兄がいるのは知っているだろうか?」

「はい。存じております」

アジュール王国の王子は2人。

第一王子オブシディアン様、第二王子で王太子ディアマンテ様。

オブシディアン様は第二妃様の子で、ディアマンテ様は正妃様の子だったはず。

「私は兄に王位を継いでもらいたいと思っているんだ」

ディアマンテ様は真っ直ぐ私を見つめたままそう言った。

「…なるほど。となりますと私との間に子ができるのはあまりいい事にはなりませんね。わかりました」

確か10年ほど前はオブシディアン様が王太子候補として有力だったはず。

その後、事件を起こし、しばらく幽閉されていたがここ数年はディアマンテ様の補佐として活躍なされていた。

「………」

「何か?」

ディアマンテ様は驚いたような顔でこちらを見ていた。

「いや…、まさかこんなにもすんなり受け入れてもらえるとは思ってもいなかったから…」

少し間抜けな顔でそう言うディアマンテ様が可愛く見えて私は口元に手をやり、ふふっと笑ってしまった。

「確かにアジュール王国と我が国との政略結婚ですものね。周りの者たちは私たちの、…私の子が次期国王になることを狙って今回の婚姻を決めましたし、殿下が驚くのも無理がありませんね。でも、私はそんなことどうでもいいのです」


 そう、どうでもいい。


「どうでもいいとは?」

ディアマンテ様が少し眉間に皺を寄せこちらを伺った。

「私が殿下に、アジュール王国に、嫁ぐと決めたのはこの国の外に出たいからなんです」

私はニッコリとディアマンテ様に笑いかけると視線を窓の外に向ける。

「私は体が弱く、幼い頃はほとんどの時間をベッドの上で過ごしておりました。成長するにつれ、少しずつ良くなっていったのですが、今も国内での外出でも制限されておりますし、国外は禁止されております。ですので、今回の婚姻、私にとってはチャンスなのです」

私は今一度ディアマンテ様に視線を戻し、微笑んだ。

「…そうか」

そう一言だけ言いディアマンテ様は少し考え込むような仕草をみせた。


 何処だって、どこの王城だって息の詰まる生活を強いられるのはかわりない。

だったら国の外に出たい。

このままクォーツ国(ここ)にいたら私は一生この国の外に出られないだろう。

私を心配する者を振り切れるだけの心もない。

その点この婚姻は心配する者を強制的に振り切れる。

理由が欲しかったのだ。

国の外に出ることが出来る、確固たる理由が。


 私はとても卑怯な人間だから。


 少し俯き、ディアマンテ様を伺ってみる。

何をそんなに考え込んでいるのだろう。

まさか、私ではなくキャシテを選ぶと言うのだろうか?

そうなると困る。

そんな事を考えているとディアマンテ様が沈黙を破った。

「ほんの少しなら外に出ても大丈夫なのだろうか?」

「はい?」

突然の質問に私は一瞬理解が追いつかず、とっさに聞き返してしまった。

「長距離じゃなければ外出しても大丈夫か?」

ディアマンテ様は再度私に聞いてきた。

「えぇ…、長距離や長時間でなければ大丈夫です」

私がなんとか答えるとディアマンテ様は人払いをし、2人きりになった。

私の護衛は婚約者と言えども2人きりにするのはとすんなりとは首を縦にふってくれはしなかったが、アジュール王国側の護衛は馴れいるようで直ぐに下がっていった。

それを見て、渋々2人きりにしてくれた。


「ルチル王女は魔法を見たことはあるか?」

ディアマンテ様はそう言いながら立ち上がると隣の部屋へと続く扉に近づく。

「魔法ですか?昔、幼い頃に魔女と名乗る者を見たことはありますが魔法はないですね」

この世界には魔法使い、魔女と呼ばれる者が一定数いるらしい。

らしいというのは我が国、クォーツ国は他国と比べると魔法使いや魔女が圧倒的に少ない。

故に他の国より魔法を身近に感じないのだ。


「そうか、なら驚いて体調を崩さないように心構えをしていてくれ」

そう言うとディアマンテ様は首元から鍵のついたネックレスを取り出した。

その鍵を隣へと続く扉の鍵穴にさすと扉が眩く光った。

「ルチル王女、こちらへ」

私の方を振り返りディアマンテ様は手を差し伸べてきた。

私は驚きなのか高揚なのかわからない胸の高鳴りを沈めるように胸元に手を当てながら立ち上がり、ディアマンテ様の方へ歩みを進める。


「ディアマンテ様は魔法使いなのですか?」

そう問いながらディアマンテ様の手を取るとディアマンテ様はニヤリと笑い、ドアノブに手をかける。

「魔法使いは私ではない」

「え?」

扉を開き、ディアマンテ様が先に進む。

私も後に続くように恐る恐る扉をくぐる。


 眩い光の先、扉の先にいたのはマルベリーの髪にディアマンテ様と同じくスカイブルーの瞳を持った男性と赤銅色の髪に花緑青の瞳を持った女性だった。



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