最終話『即位式の日』
最終話となっていますがもう1話だけあります。
もう少しだけお付き合いください。
これは私が10数年生きてきた中のたった1年半の怒涛のように過ぎ去っていった時間の話。
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私が嫁いできてからまだ1年と半年しか経っていないにも関わらず、色んなことがあった慌ただしい日々だった。
嫁いできた頃に比べれば、体調を崩すことは少なくなり、毎日充実している。
不安だらけの日々はあっという間に消えてしまい。
気づけば毎日、朝が来るのを楽しみにしている自分がいた。
こんな風に思えるようになったのはたくさんの素敵な人たちのおかげだ。
私は本当に人に恵まれていると思う。
陛下、ペリドット様、ガーネット様、オブシディアン様、ヴェルーリヤ様。
オパール。
そして、ディアマンテ様。
全ての出会いに感謝している。
祖国のために私はここに来た。
国のためなら自分の幸せは二の次でいいと考えていた。
でも、私は今、とても幸せだ。
そう思うと同時に自分がこんなにも欲張りだったことに驚く。
少しでも長くこの時間が続きますようにと願ってしまう自分がいる。
少しでも長く一緒に生きていきたいと。
貴方と共に。
ディアマンテ様と共に。
あっという間にディアマンテ様の即位式の日がやってきた。
私は支度を済ませるとディアマンテ様が待つ控え室に向かう。
ふと、結婚式の日と逆だなと思った。
結婚式の日はディアマンテ様が私を迎えに来てくださった。
控え室の扉の前にオブシディアン様が立っているのが見えた。
オブシディアン様は私に気づくと柔らかい笑みを浮かべた。
「おはようございます、妃殿下。お加減はいかがですか?」
「おはようございます。お心遣いありがとうございます。今日はとても調子がいいみたいなんです」
私はオブシディアン様に近づきながらそう話す。
「それは良かったです。もしもの時は私に仰ってください」
オブシディアン様は優しくそう言ってくれた。
「はい。頼りにしています」
私はにっこりと笑った。
「殿下にはもうお会いになられたのですか?」
オブシディアン様にそう聞く。
「はい」
オブシディアン様はそう答えた後、何かを思い出したかのように少し笑った。
「柄にもなく、とても緊張しているみたいですので、どうか緊張をほぐしてやってください」
ディアマンテ様も緊張なんてするのか…なんて思ってしまった。
「私に出来るでしょうか?」
「大丈夫ですよ」
にっこり笑うオブシディアン様に少し困ったような表情を見せると扉をノックして部屋へと通された。
部屋に入ると、ソファーに腰掛けるディアマンテ様と目が合った。
「おはよう、ルチル。ドレス、よく似合っているな」
「おはようございます、殿下。ありがとうございます。殿下もとてもよくお似合いです」
今日のために誂えた衣装は2着1組のようになっている。
光沢のあるオフホワイトの生地には全体に金糸で繊細な刺繍が施されている。
光に当たるとキラキラと煌めいて、とても美しい。
これがこれから私たちの正装になる。
式典にはこの上からマントを羽織る。
マントはアジュール王国の色、スカイブルーの生地に中央に2体の大きな竜が刺繍で描かれている。
マントに描かれている竜達はその昔この国を守った英雄だそうだ。
2体の竜はお互いではなく外側を向いていて、これはお互いのことを信頼しているという意味があるそうだ。
「そろそろ時間になるか」
「そうですね。そろそろ向かった方がよろしいかと」
ディアマンテ様は立ち上がるとマントを羽織る。
私より数倍お似合いになられる。
スカイブルーの瞳が私をとらえる。
「どうかしたか?」
「見惚れていました」
微笑みながらそう答える。
「ありがとう」
少し恥ずかしそうにそう答えるディアマンテ様が愛おしく感じる。
「行こうか」
そう言ってディアマンテ様は手を差し出してきた。
その手を取り、控え室を出る。
式典会場に向かうため、並んで歩いていると結婚式を思い出す。
「なんだか懐かしいな」
ディアマンテ様の方を見るとディアマンテ様はこちらを見て笑っていた。
「結婚式の時もこうして会場に向かったな」
「私も同じことを思い出していました」
嬉しくなって声を弾ませるとディアマンテ様の表情が柔らかくなった。
「あの時も緊張していたが今日の方が緊張している」
「私はあの時の方が緊張していました」
ディアマンテ様は、ハハッと声を出して笑った。
「あの時は祖国を離れて、仲の良かった者達とも離れ、寂しい気持ちと不安な気持ちでいっぱいでした。でも今日は違います。大変なことがあったとしてもディアマンテ様が隣にいらっしゃればどんなことも乗り越えて行けそうな気がするんです。この先の未来が楽しみに思えるのです」
私がこんな風に思えるのは貴方のおかげ。
私はディアマンテ様の目を見てそう伝える。
「だから、ディアマンテ様も私を頼ってください。私の力なんてたいしたことはないかもしれないけど、私はいつだって貴方を想っています。貴方が大切にしたいものは私も大切にしたい」
ディアマンテ様のスカイブルーの瞳は私をとらえたまま大きく見開かれている。
いつしか私たちは立ち止まっていた。
「もちろん私以外の人もディアマンテ様を思っています」
私はにっこりと笑った。
「…ありがとう。ルチル」
柔らかく微笑んだディアマンテ様のスカイブルーの瞳が揺らめいて、煌めいて見えた。
式典会場の前、天井まで伸びる大きな扉の前に結婚式の時と同じように並んで立つ。
あの時と同じように大きな鐘の音が響く。
ディアマンテ様の顔を伺うと目が合った。
あの時と同じだが違う。
「ディアマンテ様、お慕いしております」
自然と口から零れた言葉はあの時の私からは想像できないもの。
大きく目を見開くディアマンテ様に私はにっこりと微笑んだ。
明日は15時に投稿予定です。
最後までよろしくお願いします。




