21話『誰かのため』
最終話まで毎日、投稿していきます。
貴方はいつだって誰かのために全力で生きている。
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オパール達が乗り込んだ馬車が遠ざかっていく。
「ちゃんと別れは出来たか」
「えぇ」
ディアマンテ様の方を向きにっこりと笑ってそう答えた。
事件も落ち着き、即位式の準備も、ある程度大きなことは終わったということでディアマンテ様と私はオブシディアン様とヴェルーリヤ様のお屋敷にお邪魔させてもらうことにしたのだが…
「それでこっそりとオパールの元に行ったと」
ヴェルーリヤ様の視線が冷たく感じる。
事件の話題の中でオパールを見送った話をした途端、ヴェルーリヤ様の雰囲気が変わった。
先程までの和やかな空気が消え、ピリついた空気に変わった。
「その通りです…」
ディアマンテ様が気まずそうにヴェルーリヤ様から顔を背けてそう答えた。
「魔法の鍵を使って」
「その通りです…」
オブシディアン様は困ったように笑っている。
「殿下」
「ハイッ!!」
名前を呼ばれたディアマンテ様は姿勢を正し、ヴェルーリヤ様の方を見た。
「その鍵は緊急事態のために渡したんです。いつでも好きな所に行くためじゃありません」
ヴェルーリヤ様はディアマンテ様を睨みつけながら淡々と話す。
「次、私用で使ったら鍵を没収します」
「んえっ!?」
殿下が身を乗り出す。
「緊急時なら構いませんがそれ以外なら没収です。いいですね?」
ヴェルーリヤ様はもう一度そう言うと殿下はしぶしぶといった顔で頷いた。
「ルチル様。今度、殿下が鍵を使いそうになったら止めてくださいね」
ヴェルーリヤ様の視線が私の方に向いた。
「はい…」
「ヴェル。顔が怖いよ」
オブシディアン様が困り笑いのままヴェルーリヤ様にそう言った。
「可愛い…」
私の目の前にはよく似た顔の双子の赤ちゃんがいる。
今日の目的はこの子達に会うことだった。
着いた頃は眠ってしまっていたので起きるまでお茶を頂きながら待っていた。
もちろんお茶はヴェルーリヤ様お手製のハーブティー。
しばらくすると乳母に抱かれた双子がやって来た。
「男の子がアンブロイド、女の子がアンバーです」
ヴェルーリヤ様が紹介してくれた。
「初めまして。アンブロイド君、アンバーちゃん。ルチルです」
キャッキャッと笑いながら私に手を伸ばしてくるアンブロイドとアンバーに私は両手の人指を差し出すとキュッと握ってくれた。
「可愛い…」
可愛い以外の言葉が出てこなかった。
しばらくの間、アンブロイドとアンバーと遊んでいたが体力の限界を感じたので、ディアマンテ様とオブシディアン様に2人の相手をお願いして、ヴェルーリヤ様と2人で休憩することにした。
「大丈夫ですか?」
ヴェルーリヤ様がお手製のハーブティーを淹れてくれた。
「はい。ありがとうございます」
ハーブティーを受け取りながらそう答えた。
「ハイハイが出来るようになってから恐ろしいほど動き回るようになって、大人が追いつけないほどの時もあるんですよ」
ヴェルーリヤ様は困ったように笑った。
「しかも別々の方向に動き出したらもう…地獄。歩き出したらどうなるのやら…」
ヴェルーリヤ様は遠い目をしている。
「ルチル様。改めて、オブシディアンの無実を証明してくださってありがとうございます」
「いえ。私の方こそありがとうございました。ヴェルーリヤ様のおかげで早くに目を覚ますことができました。お二人のおかげでオパールにも別れを告げることもできましたし、感謝しても、し足りません」
にっこりと笑ってそう伝えるとヴェルーリヤ様は柔らかく微笑んでくださった。
「…オブシディアンが昔、毒殺未遂に関わっていたことは知っていますよね」
ヴェルーリヤ様は伺うようにそう聞いてきたので私は頷いた。
「元々オブシディアンは王位に興味はなくて、魔法の方に興味があったんです。でも、師匠が私を後継者に選んだことでオブシディアンの人生は変わってしまった。私自身も師匠の後を継ぐのはオブシディアンだと思っていましたしね。その日以来、オブシディアンは私たちの前から姿を消しました。師匠が死んで、殿下が私を訪ねてきた時、嫌な予感がしたんです。その予感は当たっていて、オブシディアンが事件に関わっていた。再会は最悪なものでした。師匠の後を継げないのなら、王太子になるくらいしか自分には価値がないと深刻に考えて、追い込まれていて、越えてはいけない一線を越えてしまった。でも、誰もオブシディアンを責めることは出来なかった。過度な期待を勝手にしてしまってオブシディアンを追い詰めてしまったのだから。生ぬるいのかもしれませんが、もうオブシディアンを1人にはしたくなかった。まあ、私なんかより殿下やお義母様の方が心強かったと思いますがね」
ヴェルーリヤ様はそう話しながら、アンブロイドとアンバーに振り回されてるオブシディアン様とディアマンテ様を優しい目で見ている。
「殿下のおかげでオブシディアンは幽閉を解かれました。あの時は自分のことのように喜んだのを覚えてます。殿下には私とオブシディアンの結婚の時もお世話になったんです。私、元は平民なんです」
「そうだったんですか」
私は驚きながらそう返すとヴェルーリヤ様はふふっと笑った。
「母が平民で父が貴族だったんです。母は私を身籠ったと分かり、父の前から去ったそうです。そこから母が亡くなるまで親子2人で暮らしていて、母が亡くなってからは師匠と暮らしてました。だから、父のことを何も知らなくても別に困ることもなかったのですが、オブシディアンと結婚するに当たって私の身分が問題になっていったんです。そこで私の父を探すことになりました」
お父様が貴族ならヴェルーリヤ様も貴族の席を簡単に手に入れられる。
両親ともに平民ならこの問題はもう少し難しくなる。
「でも、名前も分からず、爵位も分からず。だいぶ苦労しました。それでも殿下は諦めることなく突き止めてくださったんです。おかげで私はオブシディアンと結婚できることが出来ました」
ヴェルーリヤ様の視線の先にはオブシディアン様がいらっしゃった。
「良かったですね」
私がそう伝えるとヴェルーリヤ様はオブシディアン様を見つめながらにっこりと笑った。
陽が落ちかけ始めた頃、公爵邸をあとにした。
城までは馬車で10分足らずの距離だった。
「アンブロイド君もアンバーちゃんもとっても元気で可愛らしかったですね」
「そうだな。ちょっと元気がよすぎる気もするがな」
ディアマンテ様はそう言って苦笑いした。
「ヴェルーリヤ様が歩き出したらどうなるんだろうと言っていました」
私が笑いながらそう言うとディアマンテ様は少し考えて若干眉間に皺を寄せた。
「今以上に大変になるのは目に見えてるな…」
そう言ってまた苦笑いした。
いつの間にかディアマンテ様との何気ない会話がとても心地の良い時間になっている。
こういうのが幸せと言うのだろう。
明日は21時に投稿予定です。
よろしくお願いします。




