15話『貴方の願い』
最終話まで毎日、投稿していきます。
どうか貴方の願いが叶いますように。
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「私は不出来な王子だったからな」
「え?」
突然ディアマンテ様がそう口にしたので驚いた。
ディアマンテ様が不出来?
「陛下に認めてもらうために功績を上げなければならなかった。そのためにオパールに力を借りたんだ。彼女は兄上に似ていたから」
「オブシディアン様に?」
どういうことだろうと首を傾げる。
「あぁ。冷静に対局を読める。先を読む能力が高いから。考えるより先に動いてしまう私とは真逆の人間が、兄上に似た人が欲しかった。兄上のためにも」
ディアマンテ様は遠くに視線を向けた。
「オブシディアン様のため?」
私がそう聞くとディアマンテ様の視線がこちらをとらえる。
「当時、兄上は罪を犯し幽閉されていた。私の母に毒を盛ってな」
「!?」
オブシディアン様が事件を起こしたことは知っていたがその内容までは知らなかった。
まさか、あのオブシディアン様が毒殺を企てるなんて…
しかも、ペリドット様に…
「兄上は第一王子。侯爵家出身の第二妃、ガーネット様の子。私は第二王子。伯爵家出身の正妃、ペリドットの子。年も1つしか変わらず、父上も王太子を決めていなかった。しかし、兄上は魔法が使えた上、頭も良かった。周りは兄上に過度な期待をしてしまったんだ…私も含めて」
そう言ってディアマンテ様は視線を逸らした。
「王太子になるのは兄上だから自分はその補佐ぐらいになれればいいと考えていた。結果、兄上を追い詰めてしまった」
ディアマンテ様は両手重ね、ギュッと力を込めた。
「自身を認めてもらうためには戦果を上げなければならない。幸いなことに兄上には才があった。それでも難しい局面はやってくる。その突破口として兄上が考えたのがヴェルが持つ魔法書だった」
「魔法書?」
聞き返すとディアマンテ様の視線がまた私に戻ってきた。
「ヴェルが師匠から受け継いだものだ。兄上とヴェルは同じ師に魔法を習っていたそうだ。その魔法書は師から弟子に代々受け継がれているもので今はなき魔法も記されていたらしい。兄上は昔その魔法書を師匠から許可を得て読んだことがあったらしく、その魔法書に記されている魔法なら今の状況を打破できると考えたんだ」
「それでなぜペリドット様に毒を盛らなければいけなかったんですか?」
いまいち、魔法書と毒殺が結びつかない。
「魔法書は魔法によって受け継がれる。持ち主が許可を出さなければ読むことは愚か、出現させることも開くことも出来ない。魔法書の持ち主はヴェル。しかし、当時ヴェルと兄上は絶縁状態だったんだ。そこで兄上は私を使うことを考えた」
仲睦まじいお二人にそんな過去があったとは。
ディアマンテ様の視線は握りしめた、ご自身の両の手に落ちた。
「母上に魔法で作った特殊な毒を盛り、ヴェルのことを私に教えた。彼女なら解毒ができると、私は兄上の思惑通りに動いた。暴走した兄上を私は救えなかった。それどころか心のどこかで兄上が事件に関わっていることを分かっていながら見ないふりをしていたんだ」
より一層力を込めたディアマンテ様の手に私はそっと手を重ねた。
ディアマンテ様がこちらを見て力なく笑う。
「結局私は何も出来なかった。そんな不出来な王子だが、兄上が事件を起こしたことで不出来なままでいることは許されなくなった。今まで兄上が行なっていた政務の一部が私に回ってくるようになった。しかし、上手くいかなくてな…。そんな時、オパールが婚約者候補の1人に選ばれたんだ。彼女とは幼い頃からの付き合いで私より年下なのにとてもしっかりしていて、頭も良かった。どことなく兄上に似ているなと感じたんだ。色々と相談に乗ってもらうようになった。彼女は他の令嬢とは違い、政治にも明るくてな。まだ、10代前半だったが頼りになると感じて、政務を手伝ってほしいと頼んだんだ。彼女はその申し出を快く受けてくれた。結果、私は大きな功績を上げ王太子になった。そして、兄上の幽閉を解くことが出来た」
ディアマンテ様は握っていた手を開き、私の手に重ねた。
「しかし、私は兄上に王位を継いで欲しかった」
「だから、婚約者を決めなかった」
ディアマンテ様は静かに頷いた。
「オパールを含めた信頼のできる者、数人にはこのことを話していた。だからなのかはわからないが、私が王太子に就いてすぐ、オパールが伯爵家に嫁ぐことが決まったんだ。オパールの祖父、前侯爵は何としてでも王族と繋がりを持とうとしていた。オパールの年齢を考えたのだろう。当時オパールは20を超えていたからな。伯爵には娘が2人おり、オパールが娘を産めば候補者が増えると考えたのだろう。オパールもそのことをわかっていたと思う。それでも私に少しでも猶予を与えようと結婚を決めた。私の勝手な思いでオパールの人生を振り回してしまったという自覚はあるんだ。それでもこの願いだけは譲れない」
先程まで揺れ動いていた瞳は力強く真っ直ぐと前を見据えていた。
「オパールは私にとって戦友のようなものなんだ」
チクリと少しだけ胸が苦しくなった。
「だから、貴女のことを頼んだ」
「…信頼していらっしゃるのですね」
「あぁ。オパールだけじゃない。あの頃、前も後ろも分からず、ただガムシャラに走っていた私に道を示し、後ろは任せてしっかり前を見て進めと助けてくれた者たちは皆、命を預けても良いと思える。私にとっての宝だ」
そう言って笑うディアマンテ様はとても眩しかった。
私はどう頑張っても貴方に命を預けてもらえる人間にはなれない。
それでもいつか貴方の宝物に私もなれるだろうか。
烏滸がましくもそんなこと思ってしまった。
明日は15時に投稿予定です。
よろしくお願いします。




