10話『国内の有力候補者たち』
こんなにも心躍ることが私にもあるんだって初めて感じたの。
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「ねぇ!なんとか言ったらどうなの!!」
ルビーがずいっと私に迫ってきた。
「どうと言われましても…。クォーツ国が小国なのは確かですし、この婚姻がアジュール王国にもたらす利益はありませんし、私の身体が弱いのも本当ですから…。どれも確かなことですので、特に私から申し上げることはございませんわ」
困ったなといった顔でルビーを見るとポカンと口を開けていた。
ふと視線の先にディアマンテ様がこちらに向かってくるのが見えた。
私は3人にニッコリと笑うと
「皆様、ディアマンテ殿下がこちらに向かってきておりますので、少し声のボリュームを下げて、話す内容を変えた方がよろしいかと…?」
3人が驚いたように口を開けているところにディアマンテ様がいらっしゃった。
「すまない、ルチル。1人にして。大丈夫だったか?」
ディアマンテ様は私の腰に手を回し、顔を覗き込むように見てきた。
スカイブルーの瞳には焦りと心配の色が見えた。
「はい。大丈夫でしたよ。皆様良くしてくださっております」
私は安心させるようにニッコリと笑う。
「…そうか」
ディアマンテ様は本当に?というような声色で私から視線を3人に向けた。
「ルチルと一緒に居てくれてありがとう」
「いえ、王太子殿下。こちらこそ妃殿下の優しさに感動していたところです」
パールがそう答えたので便乗するように
「これから仲良くしてくださると嬉しいわ」
「有難いお言葉です」
パールは何事もなかったようにそう答えた。
トパーズはディアマンテ様の登場のお陰か顔色が元に戻ったようだ。
ルビーは…恋する乙女の顔になっていた。
さっきまでの威勢は何処へやら、ディアマンテ様に熱い視線を送っている。
なるほど、ルビー様はディアマンテ様に恋しているのね。
それならあの態度も納得だわ。
あまり褒められた態度ではないけど。
「そろそろ、出ようか」
ディアマンテ様に促されて私たちは会場を後にすることにした。
「では、皆様。またお会いしましょう」
「はい、妃殿下」
そう答えたのはパールだけだった。
トパーズは声には出さずカーテシーをした。
ルビーは…
「もう帰られてしまうのですかぁ…」
猫なで声でディアマンテ様に話しかけている。
「朝から緊張の連続でとても疲れていてな…すまない」
「そうですよね!私ったら…気づかずに申し訳ございません。ゆっくりお休み下さい」
瞳をウルウルさせながら私と話す時よりワントーン高いような声でディアマンテ様と話している。
「あぁ、ありがとう」
「いえ!またお会い出来るのを楽しみにしておりますわ!その時はもう少し長くお話し致してくださると嬉しいです!」
若干ルビーのテンションに押され気味のディアマンテ様はあえて返事はせずニッコリと笑った。
「それじゃあ行こうか」
「はい」
私はそれが少し面白くてふふっと笑みを零してしまった。
王太子宮の王太子妃の部屋に戻り、やっと緊張するドレスから開放された。
ゆっくりと湯浴みをして、たっぷりとマッサージを受け、後は寝るだけだ。
今日の出来事を外を眺めながらぼんやりと思い出しているとディアマンテ様が訪ねていらっしゃった。
ディアマンテ様がいらっしゃったので侍女たちは部屋を下がることになる。
「今日はありがとう。ゆっくり休んでくださいね」
そう侍女たちに声をかけた。
「体調はどうだ?」
そう聞きながらディアマンテ様はソファーに腰掛けた。
「少し疲れましたが大丈夫です」
ディアマンテ様に促され、私もソファーに腰を下ろす。
「そうか。明日は1日休みだから何も気にせずゆっくり休むといい」
「はい。ありがとうございます」
ディアマンテ様の気遣いに私はニッコリと笑い返した。
「パーティーではしばらくの間1人にしてすまなかったな」
「いえ。お気になさらず」
「いや、心細かっただろう?慣れない土地でいきなり1人というのは」
ディアマンテ様が眉と目尻を下げ私を伺う。
「少しだけですよ。それよりも楽しさが勝りました」
「?」
どういう事だ?といった顔で私を見るディアマンテ様。
「私はクォーツ国から出たことがありませんでしたし、パーティーも小規模のものに短時間しか出ることが許されていませんでしたので。異国でこんなにも大きなパーティーに出席出来るなんて…それが自分が主役のパーティーなんて…夢のようでした」
生まれて初めての体験だ。
正確には物心着いてからのだが。
とにかく嬉しかったのだ。
「…そうか」
ディアマンテ様は優しく微笑んでくださった。
「そういえば。合流した時に一緒にいた令嬢方がディアマンテ様の婚約者候補だった方々だとお聞きしたのですが」
「あぁ、そうだ。彼女たちが国内の有力候補者たちだった」
「そうなんですね。ディアマンテ様から見て彼女たちはどんな方々なんですか?」
「ん〜〜?……そうだな〜」
ディアマンテ様が仰るには、
パール様は侯爵家のご令嬢、17歳だが候補者の中では1番落ち着いているらしい。
私の侍女になったオパール伯爵夫人を尊敬しているらしく、結婚する前のオパールの服装や髪型を真似ているようだ。
トパーズ様は伯爵家のご令嬢で20歳。
控えめな性格で周りに流されやすい性格らしい。
トパーズ様はオパールの幼なじみでもあるそうで昔はよく一緒に居るところを見たそうだ。
ルビー様もトパーズ様と同じく伯爵家のご令嬢、19歳だが童顔と言動から歳よりも幼く見られがちらしい。
とにかく自己主張が激しい方で着ている服はたいていピンクだそうだ。
そして、ディアマンテ様に猛アタックしている。
「悪い子ではないのは分かっているんだが…私のことで周りによく噛みついているというのが耳に入ってくるから…心苦しい」
相当困っているのだろう何とも言えない、苦虫を噛み潰したような顔で話すディアマンテ様が可愛く見えた。
「あ、あと。なぜかオパールを嫌っている」
「?オパールを…ですか?」
「理由はよく分からないんだが昔からオパールによく突っかかっているのを見た」
「…そうなんですか…」
なぜだろう?と疑問に思ったが面倒事に巻き込まれるのはごめんだと思いそれ以上は聞こうとしなかった。
「そろそろ寝よう」
「そうですね」
そう言って私たちは同じベッドで寝た。
世継ぎは作らないとは言っても体裁がある。
同じ部屋で寝れば文句はないだろうということだ。
今日は1日気を張りつめていた。
目を閉じるとあっという間に意識を手放した。
次の日、私は体調を崩した。
「申し訳ございません、殿下」
「気にするな。今日は休みだしな、ゆっくり休め」
「はい。ありがとうございます」
ディアマンテ様はそう言うと手のひらを私の額に当て、反対の手を自分の額に当てた。
「熱はそこまで高くないな」
私の額から手を離すと冷たくした手ぬぐいを額にのせてくれた。
その心地よい冷たさにホッとし、また意識を手放した。
なぜだろう。
体は辛いのに心は辛くない。
昨日から続く高揚感のせいなのだろうか…。




