9話『祝いの場』
思い返してみればあっという間に過ぎていく時間に私は翻弄されていたのかもしれない。
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心遣いは本当に有難いことだが私には休む暇がない。
なぜなら、これからパーティー用のドレスに着替えなければならないのだ。
花嫁はまともに休憩などとれない。
「妃殿下、ドレスの準備が整いましたのでこちらへ」
「分かりました」
着替えの準備が整えられた衝立の裏へ行き用意された椅子に座る。
まずはティアラや装飾品を外し、次に靴を脱ぐ。
そして、ドレスを脱ぐ。
ここが1番大変だ。
後ろにあるボタンを外し、私にピッタリと作られた総レース部分を破かないように慎重に脱いでいく。
着る時もとても大変だった。
上半身が脱げればあとは簡単だ、手を離すだけで下に落ちていく。
美しいレースとフリルの輪の中からメイドたちの手を借りて抜け出すと用意されていたパーティー用ドレスに着替える。
パーティー用に用意されたドレスも結婚式用に用意されたドレス同様、一から作り上げた私専用のドレスで結婚式の物より少し可愛らしいデザインになっている。
色はアジュール王国を象徴する色、スカイブルー。
胸元には金の糸で竜の刺繍が施されている。
こちらもアジュール王国を象徴するもの。
手袋は光沢のあるオフホワイトのロンググローブ。
ドレスに合わせて装飾品も変わる。
大ぶりだったネックレスは華奢な物に、イヤリングも揺れるデザインから耳元に固定されているタイプの物に変わった。
ネックレス、イヤリング共にスカイブルーの宝石が輝いている。
ティアラはディアマンテ様がいらっしゃってから着けることにした。
やっと準備が整い休憩に入れる。
日が沈み始めた頃、ディアマンテ様が迎えに来てくださった。
「そろそろ時間だ」
「はい」
メイドたちが最後の仕上げとしてティアラをのせてくれた。
ゆっくりと立ち上がりディアマンテ様がいる扉の近くまで歩く。
先程まで着ていた結婚式用のドレスより今着ているドレスは軽く、足取りも心做しか軽やかだ。
「ゆっくり休めたか?」
ディアマンテ様のそばまで行くとそう聞かれた。
「少し」
ゆっくりとまではいかないがそれなりには休めたのでそう答える。
「そうか」
優しく微笑んでくださった。
ディアマンテ様が手を差し出してくださったのでその手を取ると部屋の外にエスコートされる。
廊下に出るとディアマンテ様は私の手を自分の腕に回すよう促してきた。
腕に手を回すとディアマンテ様は結婚式の時のように私の手にポンポンと合図した。
私たちはゆっくりとパーティー会場に歩き出した。
大きな扉の前にオブシディアン様がいらっしゃった。
「お加減はいかがですか、妃殿下」
その問いかけに私はガーネット様を思い出し、少し微笑ましく感じた。
「大丈夫です。お心遣いありがとうございます」
「無理はなさらぬよう。体調に変化があれば迷わず王太子殿下や侍女に申してください」
「はい」
私がそう答えるとオブシディアン様は扉の前から横にずれた。
それが合図だったのか目の前の扉が開く。
眩しい光に一瞬目を細めた。
煌びやかな装飾にオーケストラによる生演奏が心地よい。
扉が開くと会場中の視線が私たちに向けられる。
ゆっくりとディアマンテ様と共に会場に入ると先に会場にいた国王陛下方の元に向かう。
国王陛下方の前に着くと1度陛下方に礼をとり、陛下の合図でくるりと反対、会場の皆様の方へ向く。
「今日は私の息子であり、アジュール王国王太子ディアマンテとその妃ルチルの婚姻の祝いの場にお越しいただき感謝する。心ゆくまで楽しんでいただけると幸いだ」
陛下の言葉と共に私たちは礼をとった。
パーティー序盤は代わる代わる挨拶にやって来る人達の対応をし、あっという間に過ぎていった。
心からのお祝いの言葉を言う人間が1割、形だけのお祝いの言葉を言う人間が3割、残りは何がなんでも祝福なんてしないぞという感じ。
もちろん口では「おめでとうございます」と言ってはいるが。
挨拶に疲れた頃、ディアマンテ様が政務でお世話になっている方と少し仕事の話をしにパーティー会場をあとにした。
それを待ってましたとばかりに令嬢たちが私に集まってきた。
最初は私に取り入ろうと媚びを売ってくるような声と言葉で話していた令嬢たちがとある令嬢方の登場で蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「妃殿下、御三方はディアマンテ様の婚約者候補だった方々です」
3人が私の前に来る前にオパールがそう教えてくれた。
「初めまして、妃殿下」
「初めまして」
最初に声をかけてきたのは綺麗なサーモンピンクの髪にエメラルドグリーンの瞳の令嬢。
「私、パールと申します。ご結婚おめでとうございます」
私と同じくらいの歳だと思うが、とても落ち着いた声だった。
「私はトパーズと申します。おめでとうございます」
次に声をかけてきたのは琥珀色の綺麗なストレートロングの髪に優しい印象をあたえるテラコッタの瞳をした令嬢。
「ルビーと申します」
最後に名乗った令嬢の青紫の瞳からは敵意を感じた。
赤紫の髪を高い位置でツインテールにしている。
ピンクのフリルいっぱいのドレスが彼女の自己主張の強さを物語っている。
「ありが…」
「私は祝福の言葉なんて言わないから」
ありがとうと言おうと口を開こうとした矢先ルビーから
そう言葉が飛んできた。
「ルビー貴女!妃殿下に失礼よ」
「うるさいわよ!八方美人は黙ってなさい!!」
ルビーを叱ったトパーズの方が口を閉じることになった。
これは予想の何倍も面倒くさい事になりそうだ。
そんなことを思っていたらルビーはこちらに矛先を変えてきた。
「王女だかなんだか知らないけど!クォーツ国なんて小国と大国アジュール王国の王太子が釣り合うわけないでしょっ!!調子に乗らないことねっ!!!」
「ルビー様少し声が大きいですよ」
「馬鹿なのパール令嬢!聞こえるように言ってるのよ!!」
「はぁ…」
「だいたいアンタだってこの婚姻バカみたいだと思うでしょう」
「いえ、そんなことは思いませんよ。ただこちらにメリットもデメリットもないことには些か不思議には感じておりますがクォーツ国にはメリットがございますし…でも、妃殿下は確かお身体が弱いと聞きました。そうなるとクォーツ国のメリットも不確かですよね…」
「気に食わないってハッキリ言いなさいよ!」
私を置いてけぼりにして2人は私とクォーツ国を非難している。
同じように置いてけぼりにされているトパーズは顔の色がどんどん悪くなっている。
「ねぇ!なんとか言ったらどうなの!!」
ルビーは私が何も発しないことにやっと気づいたようだ。
どうと言われても…。




