煙草と心臓
なんにもない日。
築何十年かも分からないボロアパート。
もう住み始めて何年目だろうか。
ハチワレの猫のような黒と金の肩まで伸びた髪。
染めることすら億劫で。
眼鏡はいつからかぼやけて見える。
いつ朽ち果てるかも分からないベランダには
足を踏み入れたことすらない。
そんな窓辺で煙草をプカプカ。
梅雨も明け切らない、そんな久々の晴れ間。
沖縄の海を思わせるような青い空。
クラゲのような白い雲。
それを濁らす煙草の煙。
そんな景色は今の自分の心のようだと思う。
煙の先には澄んだ空。
そこに何かがあるようで、
何もないようで。
ぼーっとしながら気づく。
世界には必要のないモヤ。
この空を濁らせているのは自分だと。
煙に巻かれた空を見上げて思う。
(今はこんなでもいいかなぁ。)
いつか変わらなければならないとしても
今はまだ澄み切らない心でも
きっと彼には必要なんだ。
濁ったこの心を
今のこの心を
ずっと忘れないでいたいと
彼は思う。