1章 7話『楓の過去・壱』
これは、1人の天狗の力を持つ子供の話。
【注】楓の視点です。(たまに三人称視点)
【注】少し流血表現あります。
【注】過去はあまりいい話しではありません。(胸糞悪いかも)
ーーー浜松 楓の過去の話であるーーー
天狗様…いや、エイレーネー様に出会って。
葉月ちゃん達と出会って。私の運命の歯車は動き出した。
それより前は、地獄で……歯車なんて動くことは無かった。
楓は、今住んでる【白銀の世界】で、平和に暮らしている。
葉月達は楓やエイレーネー、子供たちに挨拶すること無く、次の旅に行ってしまった。
「こんなに平和に過ごしていいのかな……。」
ボソッと独り言を言う。誰からの返事も来ない。
子供達は紫夜と言う人にお世話になってもらってる。
面倒見のいい人で、子供たちも懐いているっぽい。
エイレーネー様については、現在は天と言う人に、神の力の制御のお勉強をしている。
天さん曰く、
『制御出来なくなったのではなく、元々は上の神が膨大すぎるこの神の力を無理やり抑えていて、追放された事により抑えていたものが解放され力が暴発したのだろう。』
とまぁ、そんな感じで力を自力でコントロールする、制御出来るようにする。を目標に勤しんでいる。
私はと言うと、…誰にも話していないけど。
【天狗の能力】を持っている。……無理やり持たされた。の方が正しいのかもしれない。
辛い試練を乗り越えて、生き残ったのだから。
ーーーーーーーーーー
これは、当時5歳だった時の話………。
「5歳の誕生日おめでとう!かえで!」
「ほら!お前の欲しかった可愛いお洋服だ!」
「ありがとー!パパ!ママ!!」
この時は私は、両親に愛されていた。
お喋りもしたり、お出かけだってした。遊んだりもした。
でも。そんな楽しい関係なんて。すぐに壊れてしまうのに。
それは唐突の出来事だった。
誕生日を迎えて、3ヶ月くらい経ったあとの事だった。
『皆さん、こんにちわ。ニュースの時間です。』
お母さんがテレビを付け、ソファに座ってニュースを見始めた。
私もテレビには興味があったのでニュースとかは良く見ていた。
『今日の午前10時頃、○○市で○○ちゃんが誘拐されました。もし、見つけましたら……ここの電話番号までーーーー。』
「楓。怖い人とか見つけたらすぐ防犯ブザーを鳴らして逃げるのよ……」
「うん。わかったよ!ママ!!」
最近、私の住んでる地域付近で誘拐事件が多発している。
誘拐された子供は帰ってこないらしい。
見つかる場合は死体として発見されることが多い。
可哀想だな…と思う。
ガチャッ……とドアが開く音がした。
「パパが帰ってきたのかな?」
「あら?それにしては随分とはy……」
ママの声が途中で消えた。
私の横で、赤い液体が出てくるママの姿が見えた。
「ぇ……?ぁ…、ま、ま……?」
「に……げ…………て……。」
ママの目の光が消え、ドサッと手が私の頬から離れていった。
首元から血を流していた。何がどうなって……?
(逃げないと…!!!)
中に入ってきた人は大きな男性3人……。
1人はママを殺した人。私を捕まえようとしてる人…!
元々身体能力は良かった方だ。なので身軽に動いて、男性から逃げていた。
パーンッ……と銃声の音がした。
私は足から崩れ落ちた。
「い"ッ……!!!ぁあ"あああ"!!!!!!!!!!!」
痛い痛い痛い痛い……!!!!!!
痛い…ママぁ……、パパ…、助けてッ…!!!
右足を拳銃で撃たれ動けなくなっていた。
『こらこら、打つなって言っただろ。』
ママを殺した男性は私を打ってきた男性を蹴っているのを横目で見て流す。
『ちょこまかと逃げるガキが悪い。』
『今手当してあげるね……だけどその前に。眠っててね。』
倒れてる私に近づいてきた男性は私に向かって手をかざすと自然と右足の痛みは無くなっていった。それと同時に睡魔が襲ってきて抵抗することも無くそのまま深い眠りに私は落とされた。
『ほら。起きて。』
パパの声がする……。
目を覚ますと、私は檻の中にいた。他にも数人入っていて、
周りを見るともっと沢山檻があった。
「な、に……ここ……。」
ジャラッと音がした。足に枷が付いていた。
檻の外を見ると、パパが居た。
「パパ……!!助けに来てくれたの…!?ママがね…なんか男の人3人に殺されて……!!!」
『助けに来たよ、ほら。出ておいで。楓』
「待って。ここにいるみんなも助けないと!!」
『それは無理だ……楓行くよ。』
私はパパに檻から出してもらうと私を抱きしめてきた。
『楓…、お前は何としてでも生きるんだぞ……!!』
パパは何故か泣いていた。
「ぱ……ぱ?」
手からはベッタリと何か…赤い液体が……付いていて……
よくよく見ると背中に深深とナイフが5本も刺さっていた。
事切れたのか私に全体重がかかった。
「ぁ……や……いか…ないで……」
私は目の前で両親を亡くした。
嫌だ……嫌だ嫌だ…嘘だ、嘘だ嘘だ!!!
『おっと。1人脱走してるガキがいるぞ。』
『おやおや、本当だね。この屍の子だろう。逃がそうとして自分は死んだんだな。』
『このガキ、逃げる気力すら無くしてないか?』
「もぅ……やだ……殺して……パパもママも居ないなら……私が生きてる意味なんて……。」
ママやパパの遺言は守りたかったけど、まだ5歳の私にとって両親の死は重すぎた。
白衣を着た人に手を引っ張られ私は引きずられる形で“実験室”と書かれた部屋に入れられた。
「…………。」
『さて。君にはとある実験をしようと思う。も言ってももうコイツは聞く耳もないか。』
私は謎の台に座らされた。
白衣の人達は全員真っ黒な仮面を被っていて顔がよくわからなかった。
注射を持ってる人が居た。きっとこれを私に指すんだろうな……。そう、予想はできていた。だけど逃げる気も無かった。
注射の中身は赤い液体。文字は読めないけど2文字で何か書いている。
その注射を腕に刺された。液体が私の体内に入っていく。
「…………?」
『あれ?無症状?』
白衣の人がそう言った途端、ドクンッと、動悸が少しずつ激しくなって来ていた。
上手く、酸素を吸えない……苦しい。何これ……?
私には知らない記憶が流れ込んできていた。
クリーム色の長い髪の毛で、とても綺麗な白い羽が生えている。
妖怪の本で読んだことある……天狗、とか言う妖の姿が……居た。
「ッあ……?!」
何が何だか全くわからなかったけど。どこか私に馴染んでいくような気がした。
『おお?これは成功じゃないか!!30人に1人か……成功率低いなぁ……。』
バサッ……と私の背中から、小さな体には似つかわしい大きな羽が出てきた。
羽をバサッと動かすと風を生み出した。周りの紙や瓶などをぐしゃぐしゃに、壊していく。
「……なに、この力…。」
『それはお前の【能力】さ!』
『いや、能力と言うよりこれは人外だろ。』
何も考えてはいなかった。無意識な行動だった。
だけど、力を封じることが出来る人に無理やり停止させられた。
『やれやれ。、困った子供だ。だけどこれは成功だ。……サンプルもちゃんと取れたし、こいつにはもう用はないな。捨てるか。』
私は、力が使えないまま足枷を引っ張られ逆さだが引きずられて行った。
ドサッ……と知らない場所のゴミ捨て場に私は捨てられた。
(元々、実験の為だけに私を攫って、両親を殺したのかよ……)
天狗という人の人格も混じったのか、ヤンチャな性格から冷静な性格に少し変わった。
(さてと……ここからどうしようか……な。)
少し当たりを歩いていると優しそうな女性に声をかけられた。
『ねぇ、君、こんなところに1人でどうしたのかな?』
「私、捨てられて、1人なの……」
『あらあら、それはそれは……なら、私のお家に来る?』
この人は優しそうだな……と見た目判断をしてしまった。
「いいの?」
『えぇ、少しお手伝いをしてもらうけどいいかしら?』
「うん。それくらいなら。大丈夫だよ。」
私は女性に着いていくことにした。
知らない人について行くな。と言われていたが、その両親は居ないし。もう誘拐されて捨てられた見だし。良いかな…と何故か思ってしまった。
『ここが私の家よ。』
少し大きめの一軒家だった。隣には人一人入れるくらいの祠があった。
『そして、あなたの家はここ。』
その祠に指さされた。
「……これが私の家?」
『そうよ。人外の貴方を拾ってあげたんだから感謝くらいしなさいよ。』
「……ありがとう…ございます。」
女性はそのまま無言で自宅に消えていった。
私は祠の中に入ってみた。雨風は凌げそうだった。
そこまで古いわけでもなく、中は少し埃っぽいがまぁ、大丈夫でしょう。
私はそこの祠に住み着いた。
食事は1日2食用意してくれた。
パンとスープ……おにぎり。
飲み物は1リットルの緑茶が置かれていて、
1日をその食べ物で過ごさないといけなかった。
食事を出してくださるだけまだマシだと思う。
人外、獣人、能力者は、世界から嫌われている。人間扱いしてくれない。恐ろしい存在として扱われている。
前までは人間だったのに、急に人体実験され、人外にされた私はどうすればいいんだろうか。
厄介なのは逃げないようにする為なのか、少し長めの足枷が付いていた。これもこれで厄介だった。
自由の身では無いので。監禁状態に等しい。
自由もなく、ご飯は一日二食。……だけどそれも次第に一日一食となる。
それに、私に暴力を振るってくるようになった。
私は天狗の力で自己回復してるが、エネルギーを使うので食事がとても大事だった。
「お腹……空いたなぁ……。身体中痛てぇ……。」
この日は、丸一日楓の母と名乗る人から食事を貰えなかった。
ただ殴られ、蹴られ、罵られ……それだけだった。