1章 3話「出会い」
葉月は、人一人入れる大きさの祠っぽい建物の前で立っていた。
入っていいのか。声をかけてもいいのか。襲われないか。
本当に中に人がいるのか?罠ではないか?
等と、頭の中でグルグルとそのような考えが回っていた。
立ち尽くして数分、心に決めたかのように。
1歩足を前に踏み出した。
コンコン、とドアを軽くノックし、声をかけた。
「急にノックしてごめんなさい。中に、楓さんはいらっしゃいますか…?」
「は、はぃ……。わ、私です……」
そう、声が聞こえたと同時に、ドアが開かれた。
そこにはエメラルドグリーンの、とても長い髪の毛が…床に着いており、髪と同じ色の瞳は怯えたようにして葉月を見ていた。
とても体が細く、見る限り食事が出されていない感じだった。
「…大丈夫?とりあえず、外に出れるかな?」
「わ、私……外に出るなって……お母様とお父様が……」
「なるほど…。大丈夫。だから、一緒にここから出よう?」
「待って…、まだ私、天狗様からご飯を貰ってないの…」
自分の持っている懐中時計をポケットからだし時間を確認すると、朝7時半には宿を出たはずなのに、もうこんなに時間も経っていた。
「天狗様?もうすぐで10時になるけど…楓さんはご飯はご両親から貰ってないの?」
「う、ん……。私は神隠しにあって、帰ってきた。呪われた子として扱われているからね……。10時と、19時に天狗様は私に食べ物を持ってきてくださるんです。」
「なるほど……なら、ボクはその天狗様という人にも用があるから。ここにいさせて欲しい。」
闇月について、聞けるかもしれないから……。
「え、うん……大丈夫だと思うけど……」
「ありがとう!あ、まだ名前言ってなかったね。ボクは稲田 葉月!相棒も居るんだけど生憎今は居なくてね。」
「えっと、私は…浜松 楓です!葉月ちゃん…?って呼んでもいいかな?」
「もちろんOKだよ!!タメで話そうよ!!!気軽にね!ボクも楓ちゃんって呼んでいいかな?」
「う、うん!大丈夫!!ありがとう葉月ちゃん!!」
2人でちょっとした話をしてると土を踏む様な音が聞こえた。
先程まで、気配が無かったのに。急に……何者かの気配を察知した。
『おやおや…今日は先客が居るようだね。かえで。』
「あ!天狗様!おはようございます!えぇ、葉月ちゃんって言う子なんです!さっきお友達になったばかりで!」
『なるほど。葉月さん…ねぇ?あぁ、かえで。朝と昼ご飯だ。冷めないうちにお食べ。その間にこのこと少しお話をしてくるから。』
「はーい!わかりました!」
張り付いた笑顔で、葉月の方を見やる。
肩に手をポンと乗せられた。
楓は、ご飯に夢中になっている。さっさと、用事を済ませたい。
「………………あの。」
『何かな?』
「ボクの…大切な相棒を攫ったのは貴方ですよね。」
『んー。誰のことを言ってるのかな。』
「黒髪で赤目で、ボクに似た顔の子だ。見覚えがあるはずだ。」
少し、天狗様と言われている男は悩むと
なにか思い出したかのように言い出した。
『あー!はいはい!闇月と名乗っていた子だね?』
「……やみちゃん…はやっぱりそっちに居るんですね。」
『あぁ、居るとも!今頃子供達と遊んでいる頃だと思うけど。』
ニコニコしながら言うそいつは、どこか不気味だ。
初旅で早々事件に巻き込まれるとは思わなかった。もう少しのんびりとしたいものだ。
「彼女を返してください。あの子はボクのだ。」
『おぉ……独占欲が強い事…。まぁ君も1度私の屋敷に行こうではないか!』
「……やみちゃんに会えるなら。着いていく。神隠しに会った子供たちも皆、この街の人々に返すんだ。」
『おかしいなぁ……私の記憶上、この街の人達から、“闇月”という子の存在は消してるはずなんだけど。』
「さぁ。ボクたちは、魂が繋がってる。だから、忘れることは無いんじゃないのかな?」
少しピリピリとした空気の中、楓がご飯を食べ終わったみたいで、コチラに顔をひょこっと少し出していた。
「お話は何処まで…いきましたか?私もう食べ終わりました!」
『コチラも話は終わった所さ。かえで、久々に“我が家”に帰らないかい?』
「…!!!!行きたいです…!!!あ、でも……私にはこの足枷が……」
(足枷……?)
楓の足を見ると、細い足首に似合わぬ枷…そして少し長めの鎖があった。
『大丈夫さ。私にかかればこんなの脆い。』
楓と天狗男が、手を握った途端、
楓の頬に、謎の文字っぽい模様が浮かんだ。
次の瞬間、楓の背中から白い羽が生え。簡単に足枷を壊した。
『それでは向かおうか。』
「……………………。」
「は、はい……。」
楓は無言のままだった。喋ろうともしない。操られているみたいに。
葉月はバサッ……と吸血鬼の(コウモリっぽい)羽を出し、
2人について行った。
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空を飛ぶ中、何処か違和感を持っていた。
それは闇月に何かあったんだと、すぐに分かった。
フワフワするような感覚。何処か持っていかれそうになる。
少しずつ、屋敷っぽい所に近づいていく。
そこに行くにつれて、段々と闇月の気配を感じてきた。
森林と、こいつの使う結界のせいで、気づけなかったらしい。
10分少々飛んでいると、急に見えない透明な壁に阻まれた。
楓と天狗様はすんなり通っていく。
「……は?」
『あぁ、少し待っててくれ。今入れるようにしてあげるから。』
葉月の手首をガシッと掴むと無理やり引きずり込む。
目をつぶり、その結界を抜けていく。
目を開けると、先程までの森林の景色では無く、
とてつもなくでかい、和風の屋敷が目の前にあった。
『さぁ、降りて。ここから歩いていくよ。』
「は、はい……。」
その場で下に降りると、天狗様が指をパチンッと鳴らした。
「あ、あれ!?さっきまで私…庭にいたような…」
『私が連れてきたんだよ。』
「なるほど!流石天狗様です!!!」
(さっきまでの記憶がないのか……だとすると……
さっきの行動は全て天狗が操っていた事であってるっぽいな。)
『さぁ、こっちだ。着いてきてくれ。2人とも。』
「はーい!久々だなぁ〜ここ、何年ぶりだろ……」
「…………。」
『おかえりなさいませ。ご主人様。』
『お待ちしておりました。楓様。』
『ようこそ、いらっしゃいました。お客様。』
3人の子供が、橋の前でお辞儀をしながら1人ずつ呟いて言った。
『『『どうぞ、コチラへ。』』』
白い着物を着ており……瞳に光を宿していない子供たち。
少し恐怖感を感じる。まるで、物のように扱われている。
『お客さんを、闇月の元へ連れて行ってやりなさい。』
『承知致しました。』
『では、お客様、こちらへ着いてきてください。』
ここで1度葉月と、楓達とはバラバラの行動を取る事になった。
『私たちは今で2人が来るのを待っていようか。』
「はーい!」
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『闇月さん。お客様を連れてまいりました。』
「………………。」
『…どうぞ、お入りください。』
「失礼します…。やみちゃん……?」
ポツンと、窓の縁に座って景色を眺めている闇月。
周りにいる子供たちと同じ服を着ている。
葉月と色違いの服は綺麗に畳まれており、闇月が抱えていた。
武器に持っている刀は折られており、使い物にはならなそうだった。
「闇月?聞こえる?」
彼女から、返事は来ない。ずっと景色を見ているだけ。
ゆっくりと近づいていき、闇月の頬を触るとビックリしたかのように、肩がビクッとはね、葉月の方を見た。
「ッ……ビックリした……。葉月…来ていたのか……。」
「うん。やみちゃんを連れ戻しに来たよ。」
「…そっか。ごめんな、迷惑かけて……。」
「いや、全然、大丈夫だよ!いつものやみちゃんでよかった!」
「…………」
軽く闇月はニコッと微笑むと、葉月の方へと向き直し立った。
「もうそろそろ、帰らないとな。……あまりに此処が居心地よすぎて。何も考えたくなくなってしまう。」
闇月は葉月の袖の裾を掴み、闇月のいた部屋を後にした。
前を歩く子供たちに道案内され、居間に連れてこられた。
そこには約20人近くの子供たちがいた。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
今回は新しいキャラクター『楓』が登場しました!
楓の紹介は、この章が完結する回で紹介しようと思います!