表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神のお膝元  作者: 常盤野信乃
9/9

入宮編⑨

「そういや、葵、何で静人を気に入ったのさ?」

 勇が静人が寝たのを確認すると、奥の押し入れから酒瓶を取りだし、同時にとっくりも出した。静人はまだ十三のために酒は飲めない。だから静人が寝た現在こうして飲んでいるのである。

「お前と理由は一緒だけど?あの堂々っぷり俺は好きだな…。普通さ、神界にいきなり来て混乱して俺達に八つ当たりしても仕方ないのに恐怖とかを上手く処理しているんだ。でも、時折見せる甘えん坊っぽいところが可愛いんだよなあ。まるで弟を見ているみたいだ。」

 葵は一気に言い終わると、グビッと酒を飲み干す。

「うーん上手い。勇、いいもん買ってきたな!」

「そりゃあ十両もしたからな。お前と今日飲みたかったんだよ。あの子のある意味門出を祝って。」

「ハハ…今になってようやく勇の気持ちがわかるよ。本当に勇は人を見る目があるよな。」

 葵が膝に頬杖をついて白い歯を勇に見せるが、勇としては葵の褒め言葉は正直、あまり嬉しくなかった。

「俺は無能だと言われているけど?仕える主人を間違えたとか言われているし。」

「少なくとも朔也様は優秀なお方だよ。俺の主人には負けるけど。」

「フンッ、主を比べられても境遇がだいぶ違うお二方だ。お前の発言はいただけないな。いつも俺に武術稽古じゃ負けるくせに。主を自慢するんじゃない。」

 勇は主を馬鹿にされた気分である。勇も葵同様に酒をあおると、酔っ払って挑発する葵を睨む。

「すまないな。でも、俺がよく負けることは関係ないだろ。もう酔っているのか?ところで、明日は勇は帯同するのか?」

「しない。明日は覚に書類仕事しろと言われてな。ついでに下界の少年も話させられることになってしまった。まあこの二ヶ月、静人にべったりだったし、そろそろ仕事しろ怒られそうだったし。」

 もう何年も審判者をしているが、基本的に年数を重ねれば重ねるほど審判者の仕事は減っていく。理由は最初の一年は下界に降りない新人達が任務ではなく書類整理などをするからである。だから数ヶ月仕事をしなくても勤続歴が長い人間は仕事をしなくてもよくなる。

「じゃあ俺と静人の二人きりか。って、明日天音言っておかなくちゃな。お前が神宮に顔を出すって。」

 勇が酒を飲もうと口につけていたとっくりの動きがぴくりと止まった。葵はそれを見てため息をついた。

「葵…何言っているんだよ…。天音様は八家のお方とご婚約が決まっているんだ。何故俺が行くと報告する必要がある?」

「そうだな…。だが、八家の誰とは決まっていない。お前だって…!」

「もう、この話はやめましょう?」

 勇が突然、敬語で言葉を発し、顔をフッとあげて潤んだ目に自重気味な笑みに葵も押し黙ってしまった。

「すまなかった…。冗談でも言ってはいけなかったな…。」

 気まずい雰囲気が部屋に流れている中、二人とも静人と明日のことを考えるのであった。


「二人とも酒臭い…。」

 静人は思わず鼻を摘んだ。さらに目にくまができており、二人ともとても調子が悪そうに見える。

 静人が寝た後に酒を飲んだのだろうが、静人を教示する二人が酒で失敗しているとは何とも呆れる。静人は二人に向かって盛大にため息をつくと、家の中に昨日汲まされた水を湯呑みですくうと二人に渡した。

「何でこんなに二人とも顔色悪い上にさっきから黙っているの?」

 静人は少しいらつきながら二人に声をあげる。二人はそれでも一言を発することもなく、水を一気のみした。

「はぁ…。本当に昨日何があったの…。」

 静人はため息をついて、湯呑みを片付ける。静人と葵が任務に行くまでまだ半日ある。いつまでこの時間が続くのだろうか。

「俺、仕事行って来るから。」

 静人がこの雰囲気に困らされている中、勇は唐突に立ち上がるとこちらを振り返ることもなく、家から出て行ってしまった。

「ほんと、何があったの…?」

「勇もいないし、いっか。……………俺にもう一人妹がいるんだけどな、勇とその妹はかつて想い合っていたんだ。……今でも想い合っているけど。なんか、突然二人とも気まずくなっていたんだ。俺は二人に結ばれて欲しくてこう色々聞きだそうするんだけど、勇の態度が煮え切らないんだよ…。」

「それ、葵が悪いな。」

 静人は頭をかく葵に告げると、葵は驚いた顔をした。

「二人は二人のことで色々あるんだよ。第三者が勝手にほいほい首を突っ込むと余計ややこしいことになるんだ。というか、まざ二人が気まずくなった理由が何かは俺は知らないけど。もし、葵も知らないならあまり言わないほうがいいぞ。葵だって嫌だろ?」

「ぐうの音も出ない正論です…。」

 葵ががっくりと肩を落として静人の発言を認める。静人も色恋ごとに悩む姉の様子をたびたび見ていたから慣れているのである。

「それに、葵、俺はどうせ神宮にあがるんだ。俺に色々頼めばいいだろ?俺だって勇や葵に恩があるんだ。これくらいしないと。」

「静人…。普通さそういうの嫌だとか何だとかごねるところなのに…。本当にお前はこちら側に来て欲しくないなぁ…。」

 葵が静人の頭を撫でる。葵の寂しそうな顔が静人は少し胸がズキリと痛んだ。

「静人、そういや勇は結界張ったままって言っていたな。調度勇もいないし昨日の何故女神が審判者を嫌うのか教えるよ。」

「ハハ…。勇がそれ聞くと葵の溝落ちがまた可愛そうなことになると思うけどな…。」

 静人は苦笑いを浮かべる。

「俺は頑丈だから大丈夫さ。さてと、昨日は女神が男に異常に執着していることは話していたな。女神はとある審判者を気に入ったんだ。俺もその人のことはあんまり知らないんだけどな、『その人』っていうのは名前を知らないからそこはごめんな。その人は既に婚約者がいて、女神の寵愛を断ったんだ。でも、女神はその人が欲しくて欲しくて仕方がなかった。だから無理矢理閨に及んで何日も閨に縛り止めて、女神は子を孕んだ。同時にその人は側室にあげられたんだが、当然その人は不服さ。普通、審判者から側室なんて願ってもないことなんだけど。その人は女神達の目を盗んで婚約者と駆け落ちしたんだ。」

「もしかして、女神が孕んだ子供って、朔也様じゃ…。」

「正解。その人は自分の子供である朔也様を捨てた天罰か、女神に見つかってしまって二人とも処刑になっていたんだ。だが、それがまずかった。二人はあの世で一緒になれると互いに慰め合っていたことを二人の没後に知り、女神大激怒。自身が生んだ朔也様に八つ当たり。お前はあの最低な男だと何だと完全に冷遇されて、今に至るというわけさ。だから勇は自分の主である朔也様の女神様大嫌い。もし、朔也様が女であればもう少し待遇は良かったと思う…。」

「そりゃそうだな。朔也様よく荒れた性格にならなかったよな。」

「朔也様の兄弟は朔也様のことをとても大切に想っていて朔也様の境遇を考えてよく会っておられたんだ。だから朔也様は『愛情』をある程度与えられて育つことができたんだよ。」

 葵の表情が暗い。朔也を羨望の目で見ている気がする。葵や勇の過去は知らないが時折見せる仄かな暗さが余計に突っ込なと言っており、二人の心をえぐりかねない。葵も兄弟仲は悪くなさそうに見えるが、静人が知りえないことがあるのだろう。

「さっ、静人今日のおさらいをするぞ。今日は雅要家の当主が乱界と繋がっている証拠のでっちあげ、もしあれば万々歳だけど。多分無理だから。なんか筆跡を真似られるものが欲しいかな。手紙や日記なんていくらでも捏造できる。良くないことだけど俺達の証言に力がないんだから仕方ない。そして、当主はさっさとお隠れなって下さいって話しだな。」

「言い方だろ…。」

 明るく人殺しの話をする葵に静人は呆れるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ