入宮編④
「乱界という名前の世界さ。下界は主に二つの世界と繋がっている。一つは互いに影響を及ぼしあってる神界、一つは影響を及ぼしあっていないが、繋がっている乱界。ちなみに神界は乱界とは繋がっていないし、乱界は下界を滅ぼすことで下界も滅ぼそうとしている。もし、神界と下界が繋がっているとする。そうすると、乱界はどうすると思う?」
「当然、下界を攻めて神界もろとも滅ぼそうとしますけど、だったらもう攻めていますよね?何でこんなに乱界は動いていないんですか?てか、乱界ってどんな世界ですか?それに乱界はなんで神界を滅ぼそうとしているんですか?」
「一つ一つ説明していくぞ。現在の下界の文明は三つ目なんだよ。何回か下界の人類は変わっていているんだ。今の文明では下界と神界は存在を知り合っていない。しかし、旧文明では互いに助け合っていたんだ。ちなみに俺は知らないが。乱界が征服する理由なんて一つだ。単に自分達の国を作りたいだけ。」
勇が丁寧に教えてくれる。
勇の言うことを整理すれば下界の人類は二回滅んで今が三回目の人類ということだ。そして、一回目と二回目の人類は神界の存在を知っていたということだ。
「なんか話しが異次元に飛んでいるなぁ…。下界の言葉でいうなら『SF』ですね。」
「そうだな。信じられないかもしれないな。俺も正直信じられない。俺も生まれたときには第三文明だったのだから。それで、話しを戻すと、一度目と二度目は予想はつくと思うが、いずれも乱界の手引によるものだったんだ。それで、我々神界はその乱界を倒すために動くんだが、その乱界にはとんでもない化け物がいたのさ。見たことはないけどな。絵巻で書いてあったもので説明すると、人外の大きさであり、目や鼻はいずれも尖っており、もちろん頭には角、全体的に黒いものを纏っているんだ。この化け物を乱界魔王と言って、旧文明を倒した原因そのものさ。」
「凄いですね。最近下界の物語じゃ見ない典型的な悪役ですね。絶滅危惧種ですよ。考えも姿も名前も。魔王なんて最近は悪役より、味方側ですよ。」
現代日本における悪役の行動に意味があるようにしているが、ここまで純粋な悪役だと逆に清々しいとさえ思ってしまう。
「そんな悪役を俺達神界の先祖は死闘の末、彼らを乱界から出られないように封印したんだ。そして、乱界はその乱界魔王によって力を得ていたから下界を攻めることが出来ずになったため、現在の人類は今日まで続いているんだ。しかし、乱界が下界の人間と知り合えないように下界と神界の間に罠を張りやがったんだ。」
「だったら俺、どうやって来たんですか。」
「それがわからないんだ。正規の通りにここには来れないし。神界と下界の境界全てに先祖達はどちらも乱界から守るために罠にかからないよ結界を作ってそれぞれあまり関わらないようにしているんだ。だけど、さっきも言った通り、下界と乱界は繋がっている。乱界の人間が下界の人間に接触して下界に悪い影響を与えてしまう人間が出てしまう。その人間がすでに乱界に洗脳されていたらその人間を処罰し、その人間がこれ以上害悪にならないというならばそれを見逃す判断をする役目を神界はする必要があるんだ。」
「その役目を審判者って言って、俺達がしているんだ。」
横から勇の肩を組んで葵が口を挟んだ。
「でも結界があるならどうやって下界まで行っているんですか?」
「それは女神が罠を解除してくれたりしてくれるんだ。で、…静人、これだけ言ってお前頭の整理ついているのか?」
葵が目をパチクリさせておちょぼ口のまま静人に尋ねる。葵の言う通り、一息つけば整理する時間が欲しい。
「そうですね。俺、明日もう一度確認したいです。」
「じゃあもう時間だし静人歓迎のために俺が美味い鴨鍋つくってやるよ。勇、鍋貸して。あと俺も泊まらせて。」
「泊まるのは構わないけど鍋を使うのは今日だけだぞ。お前の物の扱い方いつも酷いんだから。鍋洗いお前がやるんだぞ。」
「了解。あっ、でも鴨狩りに行かなくちゃならないし。弓も貸して。」
「お前なぁ!」
勇が声を荒げて、抗議するが葵はこれを無視して玄関においてあった弓を掴むとさっさと出て行ってしまった。
「あいつ…。人の話し聞けよ!」
「まぁいいじゃないか。俺も泊まっていいか?」
怒って立ち上がる朔也がなだめ、座らせる。
「主は大丈夫ですか?御殿に主がいなければ起こし役が困りますよ?」
「人生で一回も来たことないからいいよ。昔からお前が起こし役兼護衛していたからな。」
「はぁ…。そうなんですか。だったら明日もその格好で帰ったら朔也様とは気付かれないから別に構いませんね。」
勇は朔也に苦笑いを浮かべると、静人へと向き直った。
「静人の道着と袴合わせなきゃいけないけど俺の奴入るかな…。俺が十歳頃に着ていたものあったかな…。主はあります?」
「残念ながら俺のはだいぶ捨てられているぞ。」
「てことは、葵に頼むしかないのか…。覚とか絶対に捨てているし…。」
何故葵に頼りたくないのは静人はわからなかったが、勇はがっくりと肩を落とすと、部屋中に勇の溜め息が広がるのであった。
「こんにちは。」
平安時代の女性が外出の際に着ていた服を纏い、笠から垂れる布によって顔を覆った女性が挨拶をした。ちなみに、詳しい服装の名前は静人は知らないため、感想については纏っている服が綺麗だとしか言えない。
「だから頼りたくなかったんだよ…。あと、葵なんで、夕音様連れてきたんだよ。」
勇が顔を歪めて文句を垂れる。
勇がなくなく先日、葵に静人の道着と袴を頼むと、わざわざいちからこさえると言われてしまい、その採寸に今日は来るはずだったのだが、女性が葵の隣には立っており、どうやら夕音というらしい。
「だって天音だったらお前、逃げるだろ?だったら仕方がない、夕音に頼むしかいないのさ。」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょ。静人は一応、下界の人間だとばれたら終わり、処刑なのに何でそういうことを知る人物増やしているんだ。いくら旧知とはいえなあ…。」
「夕音はこう見えても口が堅いことは知っているだろ?だから大丈夫だ。天音の妹の事が信じられないのはだめだぞ。」
「天音様の名前を連呼するな。」
おちょくる葵に対して勇はかなり機嫌を損ねたようで眉間に深いしわを刻み、眉をひそめる。そんな表情をする葵は呆れた風に溜め息をついた。
「お前なぁ…。まぁ話しはまた今度だ。勇だって夕音は信頼できるだろ?」
「そりゃあ…。でも次はむやみやたらに話さないでくれよ。」
「もちろんだ。」
葵は胸をポンッと叩いて主張した。勇が何となく疑わしい目つきをしたのははっきりと見えた。夕音はそんな葵の方向へ首の向きがいっており、仲の良さが伺える。
「つかぬ事を聞きますが、お二人はどういったご関係で?」
葵は夕音と呼び捨てにしていたし、どうやら女性との仲もいいとなればやはり恋仲なのだろうか。
「そんなふうに見ないで下さい。ただの家族ですよ。」
女性の透き通った声が垂れる布の中から聞こえた。静人は驚いて口を半開きにしてしまった。そして、告げられた内容から葵の顔を注視する。
「うん。五つ年下の妹の夕音だ。天音っていうのは俺より二つしたの妹な。そして、勇の…。」
「葵!さっきももう話さないと言っただろうが!」
葵の言葉に勢いよく勇が声を重ねて、会話をとぎらせた。
「はいはい。わかりましたよ。夕音、この子が静人だ。可愛い顔して、身長も低いがこれで男であり、年はお前と一つしか変わらないからな。」
「まっ!それは凄いですね。静人、よろしくお願いしますね。私のことは気軽に夕音えさんと呼んで下さい。私、下の兄弟が欲しかったんです。」
布の間から少しだけ垣間見える夕音の顔を見ると、大きく見開いた目でありながら若干釣り目という葵とそっくりの特徴であり、兄妹だと判断できるくらいだ。
ただし、夕音えさんと呼ぶのは恥ずかしい。
「夕音えさんですよ?」
どうやら静人の心境が見えるらしい。これは言わざるをえない。
「夕音えさん…。」
静人が恥ずかしがりながらもボソリとつぶやくと夕音は静人の手をぎゅっと掴んだ。
「はい!」
布から見えた彼女の嬉しそうな表情がとんでもなく可愛いかったために恥ずかしさとは別に顔が赤くなってしまった。




