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【短編】令嬢たちの華麗なる断罪 ~婚約破棄は、こちらから~  作者: 櫻井みこと


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伯爵令嬢ルチアの場合・1

 ルチアの父であるロッセリーニ伯爵は、娘の教育にも熱心な人だった。

幼い頃から作法やダンスだけではなく、歴史や経済、政治なども学ばせてくれた。この国で、女性に

 そこまでの教育をしてくれる父親はそういない。

 でも父は、これからは、女性であろうと優秀であれば重用される日が来ると考えていた。もちろん、ルチアもそう思っている。むしろ男性であるというだけで、女性よりも優れていると思うのは、あまりにも短慮である。

 そうは言っても、ルチアは別に男嫌いではない。

 男性であっても女性であっても、優れた人ならば尊敬するし、教えを請いたいと思う。逆に、劣っているのに無駄に偉そうな人間や、優れていても他人を見下すような人間は軽蔑する。

残念ながら、ルチアの婚約者であるオルランド・ザニーニは、あまり尊敬できるような人間ではなかった。

 騎士団長の息子であるオルランドは、武勇を誇るザニーニ伯爵家の嫡男だ。

 ザニーニ伯爵家は父とは違い、保守的な考えの持ち主で、女性は夫に従い、家を守るのが仕事だと思っている。政治や経済まで学び、領地経営にも意欲を示すルチアとは、あまりにも相性が悪すぎる。

 父もそれを知っているからか、この婚約には最初から反対だった。

 それでも婚約を決めたのは祖父で、父も正当な理由なしに反対し続けることはできなかったようだ。

 祖父はオルランド個人ではなく、ザニーニ伯爵家を評価していた。たしかに武勲だけでここまで登り詰めた家は、他にはいない。その実力は、ルチアだって正当に評価している。祖父が縁を結んでおきたいと思うのも、理解していた。

(かといって、あそこまで愚かでは、手の施しようがありませんね……)

 最初はルチアも、価値観の違うもの同士が一緒になるのだから、ある程度は譲歩しなければならないと思っていた。

 それなのに向こうは、まったくこちらに歩み寄る様子を見せない。

 それどころか、生意気な女だとか、女のくせに政治や経済に足を踏み入れているのが気に入らないなどと友人達に話しているらしい。さらに、あんな冷たそうな女は嫌だ、可愛い女の方が好みだと言いふらしていると聞いて、ルチアはこの婚約を決めた祖父を本気で恨んだ。

 容姿の好みは誰にだってあるし、ルチアにだって、理想とする男性像がある。

 はっきりと言ってしまえば、オルランドのような筋肉質な男性は苦手な部類だった。ルチアは細身で顔の綺麗な人が好きなのだ。

 でも容姿は、本人の努力で変えられるようなものではない。努力でどうにもならないことを指摘するような人間にはなりたくない。だから、どんなにオルランドの行動に呆れ果てても、それだけは言うまいと決めていた。

 それなのにオルランドは、あっさりとそれを口にした。

 たしかにルチアは大人びた顔立ちで、お世辞で綺麗だと言われることはあっても、可愛らしいと言われたことはない。彼の好みとはまったく違うのだろう。でもそれをわざわざ、こちらを貶めるために口にするような男なのだ。

 その時点でルチアは、もうこちらから歩み寄ることを辞めた。きっとこの先、どんなに努力をしても、この誠意が相手に伝わることはない。

 なにせルチアがこの婚約のためにしている努力をすべて、自分に気に入られるためにやっていると勘違いしているような男なのだ。

 どうせ避けられない未来なら、少しでも快適に過ごせるようにしようと思っているだけなのに、どうしてそんな思考になってしまうのか、理解しがたい。

 彼の取り巻きは、あの才女と名高いルチアでさえ、将来の騎士団長と言われるオルランドの前ではただの恋する女に過ぎないと、オルランドに囁く。それにまんざらでもない顔で、あの女は俺の好みではないと言う姿は、滑稽ですらあった。

 これほど愚かなら、御しやすいかもしれないと思ったこともある。でも結婚相手となると、一生の問題だ。

 たしかにルチアは伯爵家の娘で、自分で相手を選ぶことはできない。でも、もっと良い条件の者は、他にいくらでもいるだろう。

 そのときからルチアはひそかに、婚約を破棄することができないか、模索していた。こちらの有責でもいいのなら、いくらでも手段はあったが、あんな男のために、自分の将来に傷をつけるのも馬鹿らしい。

 そんなとき、グロリアの噂を聞いた。

 庶民出身で、可愛らしい顔立ち。オルランドのような男が好みそうな、難しいことはわからない、あなたにすべてを任せますと言わんばかりの態度。

 もちろん、ルチアは何もしない。ただ事の成り行きを見守っていただけだ。

 そのうちグロリアは、ルチアにいじめられているとオルランドに泣いて訴えたようだ。私の婚約者に近寄らないでと言われ、突き飛ばされたと聞かされて、オルランドが憤る。でもその中に、優越感が混じっていたことにルチアは気が付いていた。

(本当に、愚かなひと……)

 自衛として、学園内ではけっしてひとりにならないように気を付けた。

 証言するのが生徒だと、ねつ造だと言われる恐れがあったから、放課後は教師のもとに通い、教えを受けた。

 父に話も通してある。

 もうすぐ、ルチアの願いは叶うだろう。

 その未来を予想して、優美に微笑んだ。


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