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子爵令嬢メリッサの場合・2

 父は一連の報告書を見て、深い溜息をついていた。

 ガリーニ商会への援助が年々嵩張り、負担になっていることは父もわかっていたはずだ。むしろ向こうから援助を打ち切る口実を作ってくれたのだから、もっと喜んでもいいはずだ。

(やっぱりお父様はおひとよしね)

 メリッサなど、もう婚約者に見切りをつけている。

「商会のための資金を私的なものに流用され、嫉妬していじめているなんて言いがかりをつけられて、わたしは傷つきました。もうセストの顔も見たくありません。正式に婚約を破棄してください」

 そうきっぱり言うと、ようやく父も決意を決めたようだ。

「わかった。そうしよう。手続きはすべてこちらで行う。もう何も心配しなくていい。つらい思いをさせたな」

「ありがとうございます。これで安心しました」

 このままあっさりと婚約破棄ができると思っていたが、そうはいかなかった。

 学園でメリッサはセストに声を掛けられて、立ち止まる。

「メリッサ、どういうことだ」

「何のこと?」

 急にどういうことだと聞かれても、何のことなのかわからない。メリッサが首を傾げると、セストは苛立ったように言う。

「すべてだ!」

「そんな言い方ではわからないわ。そんないい加減な言葉で、わたしがあなたのことを理解できるなんて思わないで」

「……っ」

 何を勘違いしているのか、セストはメリッサが自分のことが好きだと思い込んでいる。

だから、強気な態度に出ていたのだろう。

メリッサが苛立ったようにそう言うと、セストは途端に戸惑ったように視線を反らした。

「こ、婚約解消のことと、資金援助を断ち切ったことだ」

「当たり前でしょう? あなただってわたしとの婚約を嫌がっていたじゃない。むしろ感謝して欲しいくらいだわ」

「君との婚約は、家のためだ。仕方のないことだと理解している」

「わたしは仕方なく結婚してもらえるような、そんな価値のない女ではないの」

きっぱりとそう言うと、メリッサは微笑んだ。

「ガリーニ商会との繋がりなんて、今のコンカート子爵には何の得もないことよ。それなのに婚約していたのは、お父様がそう決めたから。わたしの意志なんて、まったく関係ないこと。それなのに、何か勘違いをしていたようね」

「なっ……」

「もしわたしがあなたを好きだったとしても、やってもいない罪を追求されて、失望したなんて言われたら、すぐに嫌いになるわ。それでも好かれていると思い込むのは、どうしてなのか、わたしが知りたいくらいだわ。そんなに自分に魅力があるとでも?」

「俺だって、お前のような高慢な女は嫌いだ。貴族だからって、偉そうに。お前だって普通の一般人だったくせに」

 憎々しげにそう言うセストに、メリッサは冷静に頷いた。

「それが最初から、あなたの本音だったわけね。互いに顔を見たくないほど嫌いだし、婚約に利点もない。じゃあ解消してよかったじゃない。婚約者でもない相手の家に、資金援助をする必要もないし」

「それとこれとは、話が別だ」

「どうして別だと思うの?」

 本当に呆れ果てて、メリッサはセストを見た。

「お父様がガリーニ商会に援助をしていたのは、この婚約があったからよ。解消されたあとも援助する理由は何? 慈善事業?」

 セストは悔しげに唇を噛みしめて、俯いた。やがて覚悟を決めたように、メリッサを見つめる。

「謝ればいいのか? そうすれば、お前は満足か?」

「別に謝ってもらっても、婚約解消を取り消すつもりはないわ」

 彼は頑なに、メリッサがセストとの婚約を望んでいると思いたいらしい。セストはこんなに頭が悪かったかしらと思いながら、ゆっくりと告げた。

「あなたとわたしは、もう他人なの。二度と話しかけないで。ああ、学園に入ったのもお父様の後ろ盾があったからよね。もちろん、今後はそれもなくなるから、自分で代わりの人を探すか、入学金を支払ってね」

 そう言って、さっさと背を向ける。

 学園に入学するには入学金を支払わなければならないが、庶民は貴族の後ろ盾があれば、支払う必要はなくなる。だがその後ろ盾がなくなった場合は、すみやかに入学金を支払う必要があった。今のガリーニ商会に、それが払えるとは思えない。

「ま、待ってくれメリッサ。ほんの出来心だったんだ。俺はただ、グロリアに騙されていただけだ。彼女が、嫉妬でメリッサが自分をいじめると言うから」

 ようやく自分がしでかしたことの大きさを理解したのか、セストが追いすがる。

(本当に、馬鹿な人ね)

 ここでまだグロリアを庇うようなら、いろいろと残念だったが愛には誠実だったのだと思えたかもしれない。

 でも最後に彼は、すべてをグロリアに押しつけようとした。それは事実だろう。でも、そんなセストにメリッサは失望していた。

「さようなら、セスト。もう会えないかもしれないけれど、元気でね」

 そう言って颯爽と立ち去る。

 その後、入学金を支払うことができなかったセストは、学園を辞めたようだ。

 ガリーニ商会は資金援助がなくなり、急激に業務成績が悪化しているらしい。あそこの魔導具は綺麗だったのにと、少し残念に思う。でも規模を縮小しながらも商会は存続していた。他のパトロンを見つけたらしいという噂を、メリッサは聞いた。

 どうやらセストが裕福な商人の未亡人に気に入られ、その愛人になったらしい。親子以上に年の離れた夫人だ。それを聞いても、とくに何も思わなかった。 


 事の顛末を他の令嬢達に話すと、彼女たちは褒めてくれた。

「では次は、私の番ですね」

 そう言ったのは、伯爵令嬢のルチアだ。

 彼女の婚約者は騎士団長の息子であるオルランド。彼もまたグロリアに夢中で、ルチアがグロリアに嫌がらせをしていると信じ切っているらしい。

「父はもともとこの婚約に反対していましたから、それほど時間は掛からないかと。すべてが終わりましたら、皆様にも報告いたしますわ」

 そう言ってルチアは、優美に微笑んだ。

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