それぞれのエンディング アリーナの決意4
この日、アリーナはひさしぶりに仲間たちとゆっくり話したくて、屋敷でお茶会をすることにした。
最近は毎日のように王城に通っていることもあり、学園内ではなかなか話すことはできない。それに最近は彼女たちも、とても忙しくなっているようだ。学園を卒業してしまえば、顔を合わせることさえ少なくなってしまうかもしれない。
それを少し寂しく思う。
でも気ままにふるまう婚約者たちに翻弄され、ただ対策を練るために集まっていたあの頃とは違い、今は自分たちの目標のために、それぞれ精一杯努力している。だから寂しさよりも、頼もしい仲間たちを誇らしく思う気持ちのほうが強かった。
だが今日は、ただひさしぶりに仲間に会いたいからという理由で、みんなここに集まってくれる。
たとえ頻繁に会えなくなっても、互いに立場が変わってしまっても、友情は変わらない。それが嬉しくて、アリーナは微笑んだ。
最初に到着したのは、コンカート子爵令嬢のメリッサだった。彼女はしばらく見ないうちに、とても大人びたような気がする。彼女は明るい笑顔で、あとでみんなに報告があると言った。きっと良い報告だろう。
そしてルチア、カルロッタが続けて到着した。
ルチアは学園を卒業したら王城に勤めることが、ほぼ決定している。女性を文官として起用するのは初めてのことだ。色々と偏見や障害も多いかもしれないが、アリーナもできるだけ彼女を助けるつもりだ。
カルロッタは正式に婚約が決定し、学園を卒業したらすぐに結婚するつもりのようだ。彼女の婚約者は本当に有能な男のようで、すでに現宰相の養子になっている。いずれ義父の跡を継ぐに違いない。カルロッタは将来、宰相の妻になる。それを見越して、外交などに力を入れているようだ。
それぞれ、確実に目指す未来に近づいている。
集まった仲間たちと、いつもの場所でテーブルを囲んだ。
この日のためにアリーナが用意したのは、他国から取り寄せた花茶だ。華やかな香りが周囲に広がり、感嘆の声が上がる。
「とても良い香りですね。昔、この花の香りを嗅いだことがある気がします。たしか、砂漠に咲く花だったような……」
メリッサがそう言うと、ルチアは、これはサイラの花の香りだと頷く。
「ええ。サイラの花は、乾いた土地でも咲く貴重な花。エージィ王国の名産です」
「エージィ王国といえば、レムス王国の向こう側にある国ですね」
ルチアのあとにそう言ったのは、カルロッタだ。
仲間たちの答えに、アリーナは頷く。
エージィ王国は、領土の半分を砂漠に覆われた国だ。だが鉱山や宝石の発掘場があり、国はとても豊かである。
この国からかなり離れていることもあり、今まであまり交流はなかったが、最近はレムス王国のことで頻繁に連絡を取り合っている。もしかしたら同盟を結ぶことになるかもしれないと、ルキーノが語っていた。
もちろん、いくら仲間たちとはいえ、国家機密を口にするつもりはない。
だがエージィ王国の名品であるサイラの花茶を、王太子の婚約者であるアリーナがお茶会に出した。それだけで、仲間たちは両国の同盟の可能性に気が付いたようだ。
「砂漠からは、質の良い魔石が発掘できると聞いたことがあります」
魔導具に詳しいメリッサが、そう言って目を輝かせた。
「質の良い魔石が手に入るようになれば、もっと大掛かりな魔導具を作ることができます。もしかしたら、生活ががらりと変わるようなことがあるかもしれません」
メリッサの実家であるコンカート子爵家は今、魔導具の開発にとても力を入れているようだ。一般 市民でも手に入りやすい価格の魔導具。それを作ることを目標としていると聞く。それと同時に、生活の質を変えてしまうような大きな魔導具も開発している。
もし上質な魔石が手に入ったら、コンカート子爵が相談してみようとアリーナは思う。
「このサイラの花茶やエージィ王国から発掘される宝石は、貴族たちの間で評判になりそうですね」
そう言ったのは、カルロッタだった。
将来の宰相の妻として、外交だけではなく貴族たちとの交流にも力を入れているようだ。
人当たりが良くて聞き上手の彼女のもとには、すでに多くの貴族の女性が集まっていると聞く。彼女の支えは、いずれこの国の王妃となるアリーナにとって、とても重要なものになるだろう。
「サイラの花茶は、王太子殿下からたくさん頂いたわ。皆さん、お土産に持って帰ってね」
「ありがとうございます。さっそく今度のお茶会で使わせていただきますね」
カルロッタはそう言って微笑んだ。
きっとそのお茶会のあとには、サイラの花茶を求める貴族の女性が増えるに違いない。貿易が盛んになれば、同盟も組みやすくなるとルキーノが言っていた。エージィ王国から採掘される宝石も、これからたくさん取引されると思われる。
アリーナにはたくさんの宝石が、婚約者であるルキーノから贈られていた。それを身に纏い、夜会に出席するのがアリーナの役目だ。
「取引が増えれば、商会の馬車も増えるでしょうね」
ルチアは少し考え込むような顔をして、そう呟いた。
「人の動きが大きくなれば、その分、町も賑わいます。港町や国境の町の宿屋や休憩所の需要が増えるかもしれません」
街道の整備。商会の馬車を狙う盗賊たちの討伐。あらたに宿屋や休憩所を開店しようとする者に対する援助など、ルチアはこれから先のことを考えているようだ。きっと彼女の父であるロッセリーニ伯爵を通して、国王陛下に伝えられるだろう。
仲間たちは皆、自分たちのできることでアリーナを支援してくれる。
おそらくルキーノは、こうなると予想して、アリーナにこのサイラの花茶を贈ってくれたのだろう。仲間たちの優秀さを認めてもらったような気がして、とても嬉しかった。
これほど力強い仲間たちがいるのだ。必ず勝てるに違いない。
もうアリーナは、レムス王国もエドガルドも恐れてなどいなかった。むしろ、彼に勝利したあとのことを考えているくらいだ。




