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【短編】令嬢たちの華麗なる断罪 ~婚約破棄は、こちらから~  作者: 櫻井みこと


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それぞれのエンディング アリーナの決意3

 ルキーノはニコラスとふたりで話があるらしい。これからのことを、詳細に話し合う必要があるのだろう。

 その間にアリーナは、カルロッタの従姉に向こうの国の現状を聞くことにした。

 カルロッタの従姉は、サリアと名乗った。

 さすがにカルロッタの従姉だけあって、とても美しい女性だった。

 それに、過去にカルロッタのことを案じてこの国に来たことがあるだけあって、気さくで面倒見の良い性格のようだ。友人だというニコラスの婚約者を優しく気遣っている。こんなにも大変な状況なのに、明るく笑う彼女にアリーナも好感を抱いた。

 そんなサリアの話によると、レムス王国の内情はかなりひどいことになっているようだ。

 エドガルドは敵に容赦せず、兄のニコラスに味方した貴族を次々に追い詰めているらしい。中には言いがかりの近いようなことで、取り潰された家もあったと言う。

(なんてことを……)

 アリーナは唇を噛みしめる。

 聞けば聞くほど、ひどい有様だった。

 彼のような男が権力を持つようなことは、あってはならないことだ。

 エドガルドと敵対することを選んだルキーノは、正しかった。そう思うような話ばかりだった。

 むしろ、今までのことを考えても、常識人ならばニコラスに味方するに違いない。そんな人たちが虐げられている今の状況から考えれば、今後もこのサリア一家のように他国に逃れる者ばかり増えていくだろう。

 サリアの家もニコラス派だったことから、エドガルドの報復を恐れ、一家でこの国に移住してきたようだ。

 彼女の話を聞いて、アリーナはひそかに溜息をつく。

 周囲を味方ばかりで固めているエドガルドは、アリーナが思っていたよりも臆病な男のようだ。

 だが、自分の味方ばかりを優遇することは、権力を得た者として一番やってはならないことだ。

 たとえどんな名君でも、自国に味方しかいないということはあり得ない。

 だからエドガルドはあえてニコラスを国に残し、ある程度の力を持たせておくべきだった。

 そう、この国の第三王子ジェラルドのように。

 彼がルキーノに下ったことで、王城は適度な緊張感を保っている。それを良い緊張だとアリーナは捉えていた。

 エドガルドも同じようにすれば、ニコラスという共通の敵がいることによって、その陣営の結束は強固なものになったはず。

 敵がまったくいない状態では、いつしか味方同士で争いが起こってしまう。もともとの敵よりも、味方だった者が敵になったほうが厄介だ。

 周囲を味方ばかりで固め、好戦的な態度を崩さないエドガルドは、周辺国すべてを制圧するつもりかもしれない。だが国王の死や内乱で疲れ果てたレムス王国には、周囲の国々と戦うだけの力はもうほとんどないと思われる。

 あとはもう、敵を刺激すればするだけ破滅が近づくだけだ。

 本当にひどい状況だったと憤るサリアの隣では、ニコラスの婚約者が青い顔をして震えている。

 よほど恐ろしい目に合ったのだろう。彼女にはまだ、休養が必要のようだ。

 彼女をふたりに任せて、アリーナは部屋を出る。

 そろそろルキーノとニコラスの話し合いも終わっているだろう。王城を退出するには、婚約者のルキーノに挨拶をしなければならない。

 アリーナはルキーノのもとに向かった。

 どうやら彼のほうも、ちょうどニコラスとの話し合いが終わったようだ。さきほどサリアから聞いた話を報告すると、ルキーノはしばらく考え込んでいる様子だった。

「エドガルドについて、どう思う?」

 やがて、アリーナにそう質問する。

「そうですね。思っていたよりも、臆病な人かと」

 思った通りを口にすると、ルキーノは驚いたように目を見開いた。

「どうして、そう思った?」

「周囲を味方ばかりで固めているからです。このまま周辺国から圧力をかけるよりも、少し放置したほうが良いのかもしれません」

 このまま攻め込めば、敵を得たレムス王国はひとつにまとまってしまう。だが放置すれば、彼らは必ず味方同士で争いを始めるだろう。

 もともと自分の利益を重視して、黒い噂が絶えないエドガルドに与するような者たちだ。

「そうだね。それが一番だと思うよ」

 ルキーノは同意するように深く頷いた。

 女性であるアリーナの考えに大袈裟に驚くことも、否定することもせずに、静かに認めてくれる。

そんな彼の態度は、アリーナを対等だと認めてくれているようで、とても心地良く感じる。

「ただニコラスとしては、このままエドガルドを放置するのは避けたい様子だ」

 すべての人たちが、レムス王国から逃れられるわけではない。国に残ししてきた味方や友を思うと、心配でたまらないのだろう。

 その気持ちは理解できる。アリーナだって、もし敵国に大切な仲間達が残されたらと思うと、とてもつらい。

「でも、あなたが言っていたように、あの国を下手に刺激するのは得策ではない。むしろ被害が大きくなる可能性がある」

「……はい」

 しばらく動かずに、静かに待つしかない。

 ニコラスにとっては、過酷な時間だ。

 だがここで耐えられるかどうかで、彼の今後を大きく変えることになるだろう。


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