それぞれのエンディング アリーナの決意・1
アリーナの新しい婚約者は、思っていたよりもあっさりと決まった。
第三王子のジェラルドが、兄のルキーノのほうが王太子にふさわしいと言って、自ら勝負を下りたからだ。
まさかあの野心家の彼がそんなことを言うとは思わず、それを聞いたときはアリーナも驚いた。でも彼は長兄のリベラートならともかく、次兄のルキーノと争うつもりはなかったようだ。
たしかにルキーノは優秀な人間で、彼を支持する者も多い。アリーナの父であるインサーナ公爵も、ルキーノを推していた。もしジェラルドが本気で王位を争っても、彼に勝ち目はなかったのかもしれない。その言葉がジェラルドの本心かどうかはわからないが、最初から勝てない争いをして無駄に国を荒らすよりも、兄が王となったあとの保身を考えたのだろう。
こうしてジェラルドの辞退によって王太子はルキーノに決まり、彼の希望もあって、アリーナは再び王太子の婚約者となった。
思っていたよりもあっさりと復帰できたことに、少し拍子抜けした。
だが、アリーナの父が彼の後押しをしていたことを考えると、これは自然なことなのかもしれない。彼はアリーナを望んだのではなく、自分を支持してくれた父に報いるために、その娘を選んだのだ。
どのみち、アリーナが望んでいた通りになったことには変わりはない。
ルキーノの婚約者となってから、王城に行く機会も増えた。
妃教育が再開されたこともあるが、ルキーノがアリーナを頻繁に王城に呼ぶからだ。
人の意見を聞くのが好きだと、彼は語っていた。その言葉通り、ルキーノの周囲にはいつも大勢の人間がいた。アリーナはルキーノの傍にいて、さまざまな意見を交わす彼らの話を静かに聞いている。
こうして彼らの意見を聞いていると、視野が広がっていく思いがする。
いくら数多くの情報を集めていても、公爵家の令嬢であるアリーナには、こうして本人から直接意見を聞くことはほとんどなかった。だが王太子の婚約者となったことで、こうした機会が増えたのは、喜ぶべきことなのかもしれない。
ルキーノは穏やかで思慮深く、本当にリベラートと兄弟なのかと何度も思った。一見、ただ優しいだけに見えるが、話してみると彼の思考はアリーナが驚くほど深く、時には冷たく思えるほど冷静だった。
そんなルキーノは彼らが帰ったあとに、その意見についてアリーナに質問をすることがあった。
「サリジャーンの意見は、どう思う?」
ルキーノの質問に、アリーナはしばらく考える。たしか、辺境の農地改革についての意見だったはずだ。
「素晴らしいご意見だと思いますが、やや理想が高すぎるかと。実地調査をして、もう少し下方修正をしたほうが、将来的には長続きすると思います」
正直に思ったことを言うと、ルキーノは頷いた。
「そうだね。その方がいい。それと、女性を文官に採用することについては、どう思う?」
「もちろん、賛成です」
アリーナは大切な友のことを思い浮かべて、すぐにそう言った。
「仕事をする女性が増えているのは、この国だけではありません。将来的にはもっと増えていくでしょう。人は性別ではなく、能力で判断するべきだと思っています」
ルキーノはアリーナの意見に頷いた。
「たしかに、あなたの言う通りだ。この件については、ロッセリーニ伯爵の意見も聞いてみようと思っている」
ロッセリーニ伯爵は、ルチアの父だ。アリーナよりもずっと、説得力のある意見を出してくれるだろう。
「はい」
安心したところで、そろそろ帰る時間だ。アリーナは退出の挨拶をしようとしたが、彼はそれを遮る。
「すまないが、今日はもう少し付き合ってもらうよ」
ルキーノはそう言うと、手を差し伸べる。
「はい」
アリーナは迷わずに彼の手を取った。彼がそう望むなら、アリーナはそれに従うだけだ。
レムス王国のエドガルドと戦うと決めたとき、アリーナは王太子妃という地位を欲した。そのためなら、相手がルキーノであろうとジェラルドであろうと、どちらでもかまわないと本気で思っていた。
だが、こうして何度もルキーノと会ううちに、それを楽しみにしていることに気が付いた。
彼はアリーナに、今まで知らなかった世界を見せてくれる。アリーナの考えを聞いてくれる。新しい婚約者が彼でよかった。今では本気でそう思っていた。
「君に、会わせたい人がいる。君の友人の知り合いだから、彼女にも来てもらっている」
「友人?」
「ああ。会えばわかるよ」
そう言ったルキーノに連れられて向かった先には、ラメッラ侯爵令嬢であるカルロッタがいた。
「カルロッタ?」
「アリーナ様」
カルロッタと一緒にいたのは、ふたりの女性と、ひとりの男性だった。ルキーノが会わせたいと言っていたのはきっと、この人たちだろう。
カルロッタはアリーナとルキーノに挨拶をしたあと、彼女たちを紹介してくれた。
ひとりは、レムス王国に住んでいるカルロッタの従姉。他のふたりは、その従姉の友人らしい。
「まさか……」
以前、彼女から聞いていた話を思い出して、アリーナはその男性を見た。彼は王太子争いでエドガルドに敗れた、第二王子のニコラスだった。




