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子爵令嬢メリッサの場合・1

 メリッサがセストと婚約したのは、互いにまだ幼い子どもの頃だった。

 父のコンカート子爵は先代の庶子で、メリッサが子どもの頃はガリーニ商会の隣に住んでいた。だからガリーニ商会の息子であるセストとは、幼馴染だった。

 メリッサは魔導具が好きで、ガリーニ商会で扱っている商品がとても好きだった。何度も見に行っているうちに、自然とセストとは親しくなっていた。

 セストはガリーニ商会の次男で、商人の息子らしく社交的で明るい子どもだった。

 でも子どもの頃は、女の子の方が大人びているものだ。メリッサにとって、同い年のセストは弟でしかなかった。

 それが婚約することになったのは、父の異母兄が流行り病で何人も亡くなってしまい、急遽コンカート子爵を継ぐことが決まったせいだ。

 庶民育ちで後ろ盾のない父は、事業を成功させて急成長をしているガリーニ商会との繋がりを求め、ガリーニ商会の方では、これからますます商会を大きくするために、貴族の後押しを求めていた。

 そこで子爵令嬢となったメリッサと、商会の次男であるセストの婚約が決まったのだ。

 メリッサはそのとき、自分が貴族の娘になったことを受け入れるのが精一杯で、婚約のことまで考えていられなかった。でも、貴族の娘となってしまったからには、いずれ親の決めた相手と結婚しなければならない。顔も知らない、年も離れた男よりは、まだ幼い頃から知っているセストの方がいい。

 そう思い、受け入れることにしたのだ。

 婚約者となってからも、やはり彼のことは弟としか見ることはできなかったが、それでもそれなりにうまくやっていた。

 だが、かつてはかなりの勢いだったガリーニ商会も、辣腕家だったセストの父親が亡くなり、彼の兄が継ぐと、少しずつ経営が傾くようになっていた。コンカート子爵家の援助を受けて、何とか生きながらえているような状態だ。

 子爵家にとっても負担だが、親戚となるからには仕方がない。父もそう思っているようだ。

 セストとは、それなりに仲良くやっていたと思う。

 あいかわらず魔導具を見るためにガリーニ商会には通っていたし、彼ともたまにデートらしきものをすることもあった。町で買い物するだけだが、それなりに楽しかったと思う。

 ふたりの関係が変化したのは、魔法学園に入学してからだ。

 セストは庶民だが、魔法の才能があったので、父が後ろ盾になり入学することが決まったのだ。

 初めは、一緒に通えることが嬉しかった。

 でもセストはそのうち、ひとりの女生徒と仲良くなっていく。

 その女生徒はグロリアと言って、庶民の女性だった。赤い髪をしたとても可愛らしい少女で、学園内でも目立っていたと思う。彼女は同性の友人がおらず、いつも複数の男性と一緒にいたようだ。

 それを噂で聞いたときは、とくに何も思わなかった。

 メリッサは他人にあまり興味がなかったし、子爵令嬢とはいえ、最初から貴族ではなかったメリッサは、他の令嬢たちと感覚が少し違う。

 異性の友人だっているだろうし、いくら身分を持ち込むことが禁止であるとはいえ、庶民であるグロリアが気に入らず、何をしても否定的な人間はいるだろうと思っていたからだ。

 だが、その取り巻きに婚約者であるセストが加わったと聞けば、話は別だ。

 友人だという言葉を最初こそ信じていたが、そのうち彼はメリッサとの約束を簡単に破るようになる。

 買い物の約束など、学園に入学してから一度も果たされていない。それなのに、例のグロリアとは何度も町に出かけ、色々なものを買い与えているらしい。

 彼が誰に何を贈ろうが、メリッサには関係のないことかもしれない。

 でもそれは、セストの商会が安定であればの話だ。セストは実家にあれだけの資金援助を受けておいて、メリッサには婚約者としての贈り物など何ひとつせず、グロリアに高額な贈り物をしている。

 それとなく注意すると、彼は不機嫌になった。なぜかそこにグロリアが駆けつけてきて、子爵家の権力を使ってセストを束縛するのはやめてくださいと訴えられた。あなたには関係ないだろうと、ごく当たり前のことを言うと、今度はセストがグロリアを庇う。

(これは……。何の茶番かしら?)

 もともと弟としか思っていなかったのに、なぜかふたりの中では、メリッサは彼に夢中になっているらしい。自惚れもいいところだ。

 今となっては、コンカート子爵にガリーニ商会との繋がりなど些細なものだ。

 いや、もともと必要はなかったのだ。

ただいきなり子爵を継ぐことになった父が、心細さにつけこまれ、辣腕家だったセストの父に利用されたにすぎない。

 グロリアをいじめたと言いがかりをつけられ、これからどうするべきか困っていたところに、他の三人の令嬢と知り合うことができた。彼女は自分よりもずっと身分の高い人たちだったが、彼女たちの婚約者もまた、グロリアに夢中になっているらしい。

 その中には王太子であるリベラートまでいると聞いて、メリッサは呆れた。

 たしかに学園内では身分によって差別することを禁じられているが、それぞれの立場に合った節度は求められる。学園を卒業したあと、在学中に将来に影響するようなことをしでかした者は、破滅してしまうこともあった。

 どうやら、セストもそうなりそうだ。

 制服を汚されたと泣きながら訴えるグロリアを庇いながら、セストは君には失望したと言い放つ。メリッサは何も言わずに溜息をついて、その場を後にした。

 メリッサがグロリアに嫌がらせなどしていない証拠。

 そしてコンカート子爵家が、ガリーニ商会への経営のために資金援助していたものを、セストが私用に使っていた証拠を持って、父に会いに行くことにした。


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