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公爵令嬢アリーナの戦い・3

 仲間たちとの、恒例のお茶会。

 今まで、アリーナの屋敷にメリッサ、ルチア、カルロッタが集まって、近況を報告していた。

 だが、この日はいつもと雰囲気がまったく異なっていた。

「グロリアさんの家には、誰もいなかったわ。近所に聞き込みをしてみたけど、一年くらい前から留守になっているそうです」

 そう報告したのは、メリッサだ。

 彼女は町娘に扮して、町に住んでいた頃の知り合いに会いに行ってくれた。

グロリアについて色々と聞き込みをしながら、実際に彼女の家の近くまで行ってみたらしい。

「予想通り、と言ったら失礼かもしれないけど、彼女もその母親も、あまり評判は良くなかったみたい。グロリアさんの母親は、若い頃からたくさんの男の人たちと関係を持っていて、グロリアさんの父親が本当にメリーギ男爵なのか疑わしいって噂もあったようです」

 そして当のグロリアも、母親譲りの美貌で多くの男たちに貢がせ、贅沢に暮らしていたようだ。あの年でそれだけの手管を身に付けていたのなら、単純な男たちがあっさりと篭絡されても無理はない。

(でもそんな経歴なら、彼女たちは完全に誰かの手駒ね。協力者ですらないわ)

 時がくれば、あっさりと切り捨てられてしまう捨て石だ。その前に、さっさと回収しなければと思う。こちら側にとって彼女たちは、貴重な証拠となる。

「これがメリーギ男爵についての報告書です」

 続いてルチアが、分厚い報告書をアリーナに差し出した。彼女はそれを受け取り、さっと中身を確認する。

「これは、誰かに確実に資金提供を受けているわね」

「はい。これだけの負債を取り戻すのは、容易ではないかと。さらに詳しく調べてみたのですが、どうやら国内ではないようです」

 その可能性も、頭にはあった。

 でも実際に耳にすると、思わず溜息をついてしまう。

「……黒幕は、他国の人間かもしれないわね」

 もしそうだとしたら、これはもはや国家反逆罪だ。王太子もグロリアも、無事では済まないかもしれない。

 もっとも、助けるつもりは最初からなかった。

 人は、自分の行動に責任を持たなくてはならない。騙されただけ、言われた通りにやっただけなど、ただの言い訳だ。

 ましてリベラートはこの国の王太子。自分がどれだけ責任のある立場なのか理解していたら、このような軽はずみなことはできないはずだ。

 婚約者となってからもう五年が過ぎたが、残念ながら、彼とは最初から縁がなかったと思うしかない。

 そしてグロリアも、学園に入学する前から、複数の恋人たちの仲に割り込んで破局させてきたようだ。今まで多くの人たちの仲を引き裂いて来たのだから、今度は自分が物理的に引き裂かれても文句は言えない。

「メリーギ男爵に、どこからそれほどの大金が流れているのか。父の力を借りて、さらに詳しく調査をしました。それが、どうやらレムス王国のようです」

「……レムス。あの国だとしたら、厄介ね」

 この国の北方に位置するレムス王国では、国王が突然逝去し、今まさに三人の王子たちによって後継者争いが繰り広げられていた。

それがこの件に関係しているのだとしたら、予想していた以上に厄介なことになりそうだ。

「次は、レムス王国に関する調査をしなくてはならないわね」

 情報をより多く集めた方が勝つ。アリーナはそう思っている。たとえ無駄になろうが、少しでも懸念があるのならば、できることはすべてやった方がいい。

「あの、アリーナ様」

 そのとき、三人の会話を黙って聞いていたカルロッタが声を上げた。

「わたくしの従姉がレムス王国に住んでいます。マウロとの婚約がなくなってから、いろいろと慰めてくれて。会いに行きたいと言ってくれるのです。彼女なら、レムス王国の内情に詳しいと思います」

「でも、カルロッタ……」

 まだ気分が沈んでいたカルロッタは、従姉の訪問を断ろうと思っていたようだ。でも、それがアリーナの役に立てるのならと、そう申し出てくれた。

「わたくしも、いつまでも立ち止まっているわけにはいきません。皆さんと一緒に戦います」

 そう言って、顔を上げた。

 彼女も必死に立ち直ろうとしているのだ。それがわかったアリーナは、その申し出を受け入れた。

「ありがとう、カルロッタ。では、レムス王国の情報収集はあなたに任せるわ」

「はい、お任せください」

 そう言って、嬉しそうに微笑む。カルロッタの笑顔を見たのは、ひさしぶりだ。

「じゃあわたしは、引き続き町で情報を集める。過去に、グロリアの家に誰が訪ねてきていたのか、調べてみるね」

 メリッサがそう言った。

「では私は、メリーギ男爵についてさらに調査を。レムス王国との繋がりを、しっかりと調べてみます」

 ルチアが頷く。

「わたくしは、従姉からそのレムス王国の後継者争いについて、詳しい話を聞いてみます」

 カルロッタが、意気込んでそう告げた。

「みんな、ありがとう。私は引き続き、リベラートとグロリアを監視するわ。一応、ジェラルド殿下にも気を付けないと」

 第二王子のルキーノは、今のところ警戒対象ではない。

 もし本当にレムス王国が絡んでいるのだとしたら、事はアリーナひとりの手に余る。父や、国王陛下に報告する必要があるだろう。

だが、一応王太子が関わっているのだから、まずは証拠をきっちりと集めて、グロリアが何を言ってこようと自分は潔白だと示さなくては。

 そして向こうの手駒である彼女を、早くこちらの切り札に変えなくてはならない。


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