神の組織
「特に変化は無いか」
「無いと言ってるではありませんか。よくも悪くも、グロリアス正教は祈る事しか出来ませんから。ハイドワンエルさん、一体どうしたというのですか?」
オールグローリアの元に、ハイドワンエルが訪ねて来て、唐突にグロリアス正教の動向について聞き出そうとしている。もっとも、話さなくてはならないほどの変化は無い訳で、首を傾げるばかりである。
「すまないな。一応協会員として、調査の仕事なんかも入ってくるんだ。お前が何かをするとは考えていないが、建前は必要だからな」
「あぁ、そういう事だったんですね。驚きましたよ」
別に何かをしているつもりも無いオールグローリアではあったが、疑われるというのは気分の良くないものだ。疑われている訳では無いと知って、一息つく。もしかしたら、小心者なのかもしれない。
「そうだ。俺の他の存在から干渉はあったか?」
「グレスアさんが来るくらいですね。他は特にありませんよ」
そのグレスアも、頻繁に来るわけでは無く、今まで来た回数を両手で数え切れる程度でしか無く、ハイドワンエルもこれで二回目だ。世界干渉権限を使って、暇つぶししたくもなるものである。
「そうか。もしかしたら、近い内にドラゴンが来るかも知れない」
「ドラゴンですか?」
ドラゴンとは、中立の管理者フォルフルゴートの影響下にある存在であり、他の管理者が干渉する事の出来ない、ある意味独立した存在。管理者の干渉が強くなりすぎたり、人間同士の争いが激化したりすると介入してくるらしい。
「俺の所にも来た。ドラゴンに対しては、お前の力も何処まで通じるのか解らない。敵対しないように気を付けろ。とは言え、相手は話の通じない存在だ、何が気に障るのか、それは解らない」
「荒事に手を出すようなことはしませんよ。ですが、話が通じないのですか」
「まともに会話できるとは思わない方が良い。理解しようとするのも、理解させようとするのも難しいだろう」
相当に厄介な存在らしい。言葉が通じない以上は、雰囲気で気分を害さないようにしなくてはならないのだが、相手はドラゴンであり、その表情を考慮する事も不可能。もはや、打つ手なしであり、気にしても仕方ないのかもしれない。
「来ると決まった訳では無いですし、考えても仕方ないですよね」
「一応心に留めておけ」
「解りました。ところで、えっと、協会員とは他にどのような事をしているのですか?」
エリヤ協会に所属している人は、協会員と呼ばれ、自身の修行の為にだとか、困っている人を助けるために、便利屋のようなことをしているという話は聞いているが、実際にどのような事をしているのかはわかっていない。
「犯罪者の捕縛から、居なくなったペットの捜索まで、本当に便利屋でしかない。何か気になったのか?」
「いえ、ハイドワンエルさんが仕事を受けるとすれば、メビウス様の関係かと思いまして」
「あぁ、俺は人間として扱われているからな? 普通に一協会員として、他の人間と同じように仕事をしているだけだ」
ハイドワンエルは従者であり、命令を聞くとすればメビウスが関係していると考えたのだ。ただ、そうなると、グロリアス正教の調査なんて言う、意味不明な命令が来るはずがない。この組織に関して、何よりも知っている筈なのだから。
「なるほど、でしたら、グロリアス正教の調査という依頼が出る訳ですね」
「エリヤ協会の一部の奴は、グロリアス正教の事を不気味だと感じるようだ。今回の調査はその伝手から来たもので、メビウスは関係ない」
「不気味とは、感心しないですね。私達は何もしていないのに」
グロリアス正教のする事と言えば、集まって祈るだけ。確かにやましい事は何もしていないと言えば、していないのだが、寧ろ何もしていない事が怪し過ぎるのだ。
「一応俺はS級協会員だからな、納得するかは兎も角、何もしていなかったと報告して、疑われることは無い筈だ」
「疑われるも何も、本当に何もして無いんですけれど……。そのS級と言うのは、一番上だったりするんですか?」
「そうだ。D級が一番下で、S級が一番上だと思ってくれればいい。大雑把な分け方だが、そんなに細かく人を分類出来ないからな」
エリヤ協会に登録した時にはD級、とりあえずいくつかの依頼を達成し、その人に対して悪い評価が無い限りはC級に上がれる。後は、知識のテスト、戦闘力のテスト、依頼の達成率や評判といった信頼。この三つのどれかをクリアする度にランクが一つ上がる。CからBに、BからAに、AからSに。Sという事はこの三つ全てをクリアしている事である。
「そうなると、やっぱりここの調査は重用視されているんですか?」
「S級を動かすくらいだからな。当たり前だろう?」
「本当に、何もするつもりは無いのですけれどね」
「そんなもの、周りの奴らは信じない。怪しいと思われるだけだ」
「世知辛い世の中という事なのでしょうか……」