神の日常
「特に何も変化の無い事は良い事です。平穏の証ですからね」
「うむ。それには同意しよう。だが、少しの刺激位は欲しいのでは無いかな?」
オールグローリアの日常は、信者からの祈りを受け取る事に尽きる。つまり、祈りの時間以外は暇であり、自分の転移能力を使い、異空間の方から色んな場所を覗くのが趣味と化していた。そんな中〈赤光王国〉を覗いていた時に、イニシエンの従者の一人、ラギ・グレスアに見つかってしまったのであった。
「グレスアさん。私はずっと平和に暮らしたいのですよ」
「だがね、それを望まない人も居るという事だがね。少しはその力を振りかざしたいとは思わないのか? 力があるのならば、傲慢さえも許されるぞ」
その結果。度々遊びに来ては、雑談する仲になったという。どちらかと言えば、グレスアが押し掛けて来ている状態であるが、暇を持て余しているオールグローリアからしてみれば、こんな交流も悪くないと考えている。
「グレスアさんは、何というか。自由な人ですね」
「自由と言うのは力のある者の手の中にしかない。そして、それを掴むのは傲慢な者だ。神聖の者達は、欲を滅却する事を美徳とするようだが、私達は欲を動力源にして何が悪いと考える」
「私にはなかなか思いつかない考え方ですね。ですが、争いを生む欲を好むことはできません、消せるに越したことは無いのです。これが在り方の違いと言うものなのかもしれませんね」
メビウスは神聖の管理者、イニシエンは邪悪の管理者であり、お互いに対立する立場である。だからこそ、その従者も在り方としては対立してしまう。とは言え、そんな事お互いに理解しているので、別に言い争いとかになったりはしない。
「だがね。私はその言葉を受け入れるつもりは無い」
「それは私も同じですね」
「君も中々に傲慢では無いか」
「それに関しては心外ですよ」
笑い合うオールグローリアとグレスア。中々に仲が良いようだ。因みに、イニシエンの従者には、姿を自由に変えられる力があるのだが、グレスアは初老の男性の姿になっている。
「あぁ、そうだ。我らは自由に姿を変えられるが、君も姿を変えられたりはするのか?」
「私達の場合は、他者の認識によって姿を得ているので。私の姿を、別の姿として広めた場合は、その姿になりますね」
つまり、オールグローリアの姿は周囲からの、こういう姿だという認識によって、その姿になっている為に、その認識を変えない限りは、姿を変えることが出来ないという。そういう意味では、イニシエンの従者の力よりも劣っているかもしれない。
「だがね、姿を変えない私には関係の無い事だ」
「確かにグレスアさんはその姿のままですね。変えたりはしないのですか?」
「ふん。姿を変えるなど、折れぬ意志には無意味な事だ」
イニシエンの従者は全員で7体居るが、その中でも姿を変えないのはグレスアとファーアの2体だけらしい。ギレーア、アストア、レイトアの3体に関しては、頻繁に姿を変えるらしく、未だに自分が定まっていないのだろうとの事。
「私には理解が難しい事柄ですね。さて、リンゴでもどうですか?」
「リンゴ? いや、私は要らんぞ」
「庭にリンゴの木が生えていたんですよ。実がなっていたので収穫してみたんですけれど、私は食べる事が出来ませんので、遠慮しないで持って行ってください」
そう言って差し出されるリンゴは、何だか少し萎びている。グレスアはとりあえず受け取るが、そのリンゴを鼻の近くに寄せ、匂いを嗅いだ後に、テーブルの上に乗せる。
「これはいつ収穫したんだね?」
「いつかは忘れました。そこそこの時間は経っているかも知れません」
「このリンゴは地面に埋めたまえ」
どれだけの時間放置していたのか、このリンゴは腐っていたらしい。オールグローリアは不思議そうにしているが、物を食べる機能が無い為か、そういう事が解らないようだ。とはいえ、グレスアはそれを説明するつもりは無い。解らない事を説明するのは難しいからだ。
「そういえば、グレスアさんはエリヤ協会に介入しているんですか?」
「私はな、傲慢なんだ。どこかに所属する事は無い。だが、そうだ、ディーア辺りが協会員になっていた筈だ」
元々エリヤ協会はメビウスの影響下で設立した組織ではあるが、今やイニシエンの手も入り込んでいるという事らしい。こうなるとオールグローリアにとって心配になってくるのは〈赤光王国〉の抑止力足り得るのかという事だ。
「エリヤ協会を乗っ取って〈機鋼都市連合〉と戦争を始めようとなんてしてないですよね?」
「ふむ。我らとしては、世界征服を達成するには〈機鋼都市連合〉が邪魔なのだがね」
〈赤光王国〉は世界征服というか、世界統一を目指し、多くの地域を巻き込んで、大きな国になった。その対抗勢力が〈機鋼都市連合〉として結束してから、その動きは止めていたものの、諦めてはいないらしい。
「いや、本当にやめてくださいよ?」
「だが、私はその言葉を聞くつもりは無い。人の意見を変えるというのは、中々に傲慢な事だ。それでもと言うのであれば、存分に抗いたまえ」
「私に抗う方法なんて無いんですけれど」