神の狂落
ファーアが何をしたのか、オールグローリアには全く解らなかった。ただ、解るのは、グレスアと共に吹っ飛ばされ、その衝撃によって支配の糸が切れてしまった事。状況が、一気に不利に陥ってしまった。だが、支配の糸が従者にも効果がある事が証明されている以上、また異次元の穴から機会を伺えば良いだけだ。
「ファーアさん、一体どんな力を持っているのですか? ただ力の強化だけでは無いと思うのですが」
「ハッハッハ! 前にも言っただろ? 俺は何かを食べることによって、力を増すことが出来るし、身体を再生させることもできるぞ!」
豪快に笑うファーアの姿を見ると、どうにもそれが嘘であるようには見えない。実際、片方の力はその通りなのだろう。確かに、あの攻撃は凄まじいものだった。だが、もう片方の力については何も言っていない、何かを隠している筈。
「ファーア、遅いのではないかね?」
「ハッハッハ! グレスア、助けたんだから文句は言うなよ」
グレスアとファーアは言い合いをしているらしい。戦闘中であるというのに危機感が全くない。オールグローリアは、今のうちに異次元の中へ潜もうと、異次元の穴を開こうとしたが、何故か開くことが出来ない。おかしい処はそれだけでは無い、身体に違和感があるのだ。
「一体、何をしたのですか」
「ハッハッハ! 言っただろ? 俺は何かを食べることによって、力を増すことが出来るんだよ。あーそうか、言い方悪かったかな? 俺は何かを食べる事によって、力を増すことが出来る力を持ってるんだよ。食ったものがデカければデカいほど、力が増す筈だから、お前の身体は相当に強くなってると思うけどな」
なんにしても、オールグローリアは異次元の穴を使えなくなってしまっているのは違いないようだ。身体が強化されていたとしても、使い方が解らなければ宝の持ち腐れだ。支配の糸は変わらず使えるみたいだが、馬鹿正直に使ったとしても、支配されてくれる相手では無い事は解りきっている。
「私の異次元の穴は、ファーアさんを倒すことが出来れば、元に戻るのですか?」
「ハッハッハ! 何を言ってるんだ? 食ったものが元に戻る訳無いだろ? まぁ、俺達従者は次の世界で再構築されるから、その時には戻るけどな」
「そうですか、それは残念です」
ある程度の強さの相手であれば、洗脳した信者たちに拘束させて、支配するのは数の利で何とでもなるが、管理者の従者ともなるとそうはいかない。オールグローリアが信者を呼び出さなかった理由だ。支配の力を十分に使うには、どうしても異次元の穴は必要なのだ。
「どこまで行っても、底なしで満たされないんだ。だから、お前はこの辺で満足しておけよ。」
「……。それでも、私は、全ての人を救わなくてはならないのです! 救われなくても良い人間など、居るはずが無いのですから!」
オールグローリアの訴えは、ファーアにも、グレスアにも届きはしない。ただ、ただ虚しい響きが残るだけであった。
「……お前は、満たされないよ。空腹って言うのは、辛い話だ」
「関係ありません。私はただ、全ての人を救うだけ、全ての存在を救済するだけです! 貴方も、その諦観から救済されなくてはなりません! 古き神の力よ! 慈悲たる四番目の光よ! このままで終れる訳がありません!」
支配の糸が、オールグローリアを包み込む。そして、糸は光り輝くローブとなり、神々しさをまとう。支配する対象は、自分自身。どれだけ身体が強化されたとしても、自分自身が戦うのは苦手。だが、支配して操作するのは、今までやってきた事と変わらない。ファーアとグレスアへ、その身一つで突っ込んでいく。
「ファーア、あれは悪手では無かったのか?」
「ハッハッハ! 悪手も消化すれば同じだろ?」
ファーアによって強化された身体能力に、支配の糸で形造られたローブは、信者の祈りによって強度が増している。グレスアの振るう斧も、ファーアが何処からか取り出した槍も、ローブで防ぎつつ、反撃できる。武器を持っていない以上、殴るしか出来ないが、それでも強化されている身体はそれなりの威力を出せるらしい。戦況は硬直しているが、オールグローリアは傷つかず、支配によって操作されている以上は、疲れて動きが鈍る事も無い。このままいけば、結果は見えてくる筈だった。
「おかしい、何かが、おかしい。私は、未だダメージを受けていない筈」
オールグローリアが一方的に攻撃している筈なのに、何か力を削がれている。だが、その要因は思いつかない。グレスアとファーアは、今や守備に専念していて、積極的に攻撃しては来ない。精々、隙を突きに来るぐらいだ。だが、支配の糸によって編まれたローブは、自動的に攻撃を防ぐ。それが解っているから動かない、もしくは、時間稼ぎを狙っているのか。力は、削がれていく。
「ハッハッハ! そろそろだろ? ハイドワンエル」
オールグローリアの力、いや、削がれていたのは存在だったらしい。もはや、存在が薄れつつあり、まともに動けなくなったところで。気配を消して潜伏していたらしい、ハイドワンエルが姿を見せる。
「ハイドワンエルさん、どうしてですか」
「俺は、テストケースであり、保険だった。お前に対する、保険だ。解るか、これが、真実だ」
「そんな、メビウス様……」
ハイドワンエルは存在を希薄にする力を強めた。魂を持たない、オールグローリアにとって、それは致命傷となってしまう。どれだけ足掻こうと、存在しない存在が、出来る事は何も無いのだ。




