神の墜落
「何が、何が悪かったと、言うのですか……。何を、間違えていたと、言うのですか……」
廃墟と化した場所で、オールグローリアは佇んでいた。〈機鋼都市連合〉と〈グロリアス正教〉だけでは無い。このタイミング、いや、初めからそんな筋書きだったのだろう。〈赤光王国〉の部隊が攻めて来て、〈エリヤ協会〉の交戦的な派閥も、攻めてきた。
「どうして、こんなにも、正しくは無いのでしょう……」
三つの勢力を相手取る事になった〈機鋼都市連合〉は、なりふり構わず強力な兵器を使うようになった。オールグローリアは守りに徹していたのだが、それでも、数を対処する事は出来ない。最終的に、数え切れないほどの爆撃を受けて、敵味方無差別に、壊滅してしまった。
「いったい、私はどうすれば良かったのでしょう……」
何もかも破壊つくされた廃墟の中、呆然と立ち尽くすオールグローリアの元へ、一体の存在が近づく。その気配に、視線を向けると、見覚えのある存在が立っていた。
「オールグローリア」
「メビウス様……!」
光り輝く、神聖の管理者としてのメビウスが、無表情でオールグローリアを見つめている。色々と問いたいことは多くあったが、言葉が出ない。そして、静寂の時間が流れ。
「貴様は、何をしていた」
「私は……」
「貴様が、その気になれば〈機鋼都市連合〉を滅ぼすことは可能だった。しかし、それをしなかった。その結果がこれだ」
オールグローリアは守りに徹していた。相手の装備を遠くに投げ飛ばしたり、攻撃されそうな信者を護ったり、飛んできたミサイルを上空で爆破させたり。だが、その力を攻撃する事に使っていれば、少なくとも、戦いは長期化しなかった、もっと生存者は多かった筈だ。
「ですが、私は……! 誰かを害する事を正しいとは思えないのです!」
「貴様は、〈エリヤ協会〉との繋がりを知っていた。その繋がりを断っていれば、この戦いに〈グロリアス正教〉が参加する事は無かった」
そもそも〈機鋼都市連合〉に戦いを挑む事になったのは、三つの勢力が結託したからだ。〈赤光王国〉は領土的な野心を持っていたが、力の差を理解していたから静かにしていただけだ。〈グロリアス正教〉の信者たちは適応できなかった者達、恨みを抱いてはいたが、力が足りなかったから何もできなかった。しかし、それを〈エリヤ協会〉が繋ぎ合わせたと言っても、過言ではない。
「ですが、それはメビウス様が……」
だが、レイトアの言葉を信じるのであれば、この戦いを引き起こした黒幕は、メビウスと言っても良いのだ。一体何を考えているのか、オールグローリアには全く分からない。
「確かに、私がこの戦争を引き起こした」
「何故ですか! 何故このような事を!」
「では、聞こう。何故私がこのような行動を起こしてはならないのだ? 我らは正しさを求めなくてはならず〈機鋼都市連合〉が間違った存在であるとするのならば、何故私が行動してはならない」
メビウスの言っている事は、詭弁とも言えるかもしれない。だが、それをオールグローリアは言い返す方法を持っていなかった。神聖の管理者は、正しくなくてはならないのだ。それは、従者も同じ事なのである。
「私は……、どうすれば良かったのですか……?」
「貴様は何もしていない。我らは正しくなくてはならないが、正しさとは何だ、間違いとは何だ。そんなものを、誰が判断すると言える。私の正しさは、私が判断している。貴様の正しさを判断する存在は、何処に居る」
神聖の管理者は正しい存在である。だが、その正しさを判断する存在は居ないのだ。簡単な事だっただけの話、邪悪の管理者であるイニシエンとの違いは、間違っていると解っていても行動できるか、ただ、それだけの違いでしか無かった。
「私の、正しさですか……」
「貴様の、人を害さないというのも、貴様の正しさでしかない。本当の正しさに囚われているつもりでいたとしても、所詮はその程度だったという事だ」
「そうですか、私は、私の正しさを、既に振るっていたのですね」
オールグローリアは思い出した。グレスアの在り方を、あの傲慢な在り方を。もしかしたら、それ以上に、これは傲慢な事なのかもしれない。だんだん、絡まっていたものが解けていく、そんな感覚がしていた。
「だが、それは、他の存在にも同じことだ。故に、戦いは止められない、争いが起きる。貴様がどれだけ自身の正しさを振るおうと、力なき信念はただの虚像だ」
それだけを言うと、メビウスは静かに去っていった。一人残されたオールグローリアは、異次元の穴を開く。そして、行動を開始する。自身の正しさを証明するために、全ての存在を救済するために、慈悲の存在は力を振るう。
「安心してくださいメビウス様。私は、全ての人を救済して見せます」
……
「ククッ……レイトア、利用された感想はどうだ?」
「俺が、利用だと?」
「貴様の行動は把握している、情報を流せば、どう動くかも予想の範疇。オールグローリアの成長の糧として、大いに役だった。だがな、これ以上の干渉は私にとって不都合。役目を終えた人形は、舞台を降りるべきだ」




