神の絶望
「あの、ディーアさん。何だか心配になってきました」
「……。何もしないよりはマシなはずです」
〈赤光王国〉に向かうオールグローリアとディーアであったが、ブカブカなフード付きローブで全身を隠している、見るからに怪しい二人組と化していた。まだ他の人に会ってはいないが、こんな姿で怪しまれない自信は無い、そもそも、門番等に止まられる可能性が高いのではないだろうか。
「〈赤光王国〉に入る事は出来るのでしょうか……」
「私は旅をしている時、大抵はこの格好で行動しています」
「怪しまれた事は無いのですか……?」
「……。何かあればその時に考える事にしましょう」
図星であったらしい。そもそも、どうしてこんな事になっているのか。それは怪しまれ無いようにする為である。怪しまれないようにした結果、怪しまれるような格好をするしか無いという、本末転倒とも言える状態ではあるのだが、ディーアの言う通り何もしないよりはマシなのである。
「変身する力も万能では無いのですね」
イニシエンの従者は肉体を変化させる力を持っている。男性型になるのも、女性型になるのも、子供になるのも、老人になるのも自由自在であるのだが、その象徴とも言える、翼と尻尾と角は消すことが出来ない。正確には、元々持っている器官を消したり、持っていないものを増やしたりと言う事が出来ないらしい。ディーアは一般人として入り込まなくてはならないので、それらの特徴を隠さなくてはならないのだ。
「万能な力なんてありませんよ。それに、私よりもオールグローリア様の方が問題だと思いますが?」
「すいません」
ディーアの場合、尻尾はズボンの中にに隠せるし、角は大きな帽子でも被ればなんとかなる。最も邪魔になる翼も、無理やり折りたたんで、身体にロープか何かで縛ってしまえばどうにかなると言えばなる。しかし、オールグローリアの翼はイニシエンの従者の蝙蝠のような翼と違い、鳥のような翼であり、嵩張りすぎて隠せるようなものでもなく。頭の上に浮かぶ光の輪など、隠すには相当に奇抜な帽子が必要になってしまうだろう。
「気にしないでください。私は隠そうとすれば隠せますが、窮屈なのでやりたくないのです。無理をしても、後々大変なことになるだけですから」
しみじみとそんな事を言うディーア。もしかしたら昔に何かあったのかも知れない。もしくは、前の世界であろうか。どちらにせよ、なるようにしかならないという考えらしい。オールグローリアとしては不安になるが、助けてもらっている立場である為、これ以上は何も言えないのだ。
「何事も無ければ良いですね。ディーアさんは〈赤光王国〉との関わりは無いとの事ですが、普段何をしているのですか?」
「私は自身の在り方を見出す為に、色々な場所を巡っているのですよ。多くの経験が助けになると考えています。グネデアさんも、同じような考えをしているみたいですね」
そういった経験があったことも、レイトアがディーアを呼んだ一因かもしれない。自身の在り方を見出すというのは、自分自身の存在を決めるようなもの。色々な場所を巡ってみるというのは、意外と良い考えなのかもしれない。
「まるで、自分探しの旅、みたいですね」
「間違ってはいませんね」
そんな話をしながら〈赤光王国〉が見えてきた。それにしては、未だに誰にも会わず、妙に静かだ。オールグローリアはこんな近くまでは来なくとも、異次元の穴を通して付近を見た事はある。その時にはそれなりに人間が居たような気がする。
「ディーアさん、何だか様子がおかしくありませんか?」
「言われてみれば、ここまで来ても誰にも会っていないというのは、不自然です」
「……。少し、様子を見に戻ります。何もなければ、すぐ戻ってきます」
オールグローリアはディーアが返答する前に、異次元の穴を開け、その中に入り込んだ。そして、そのままグロリアス正教の拠点、祈りの大聖堂に戻ってくるが、レイトアの姿は無い。それどころか、信者たちの姿さえも見当たらない。
「一体何があったのですか……!?」
冷静さを失いかけるオールグローリアであったが、どうにか心を静める。祈りを受け取る存在であるのだから、信者の位置を特定する事も、不可能では無い筈だ。そして、見つけだす。信者が集まっている場所は〈機鋼都市連合〉だ。急いで異次元の穴を繋ぎ、信者達の元へと移動する。すると、二つの勢力が相対している場所の上空に出てしまった。
「〈機鋼都市連合〉に喧嘩を売るとは、愚かだ」
「我々には救済の神がおります。何も恐れる事は無いのです!」
片方は銃火器で武装した〈機鋼都市連合〉の兵士達、もう片方は剣や弓を持っているグロリアス正教の信者達。どう見ても、どちらが有利かは明白である。どうしてこんな事になってしまっているのか全く分からない。だが、兵士達は銃を信者達に向けているのだ。オールグローリアは、動かない訳にはいかなかった。
「どうして、こんな事に!」
オールグローリアは、支配の糸を呼び出す。意志ある存在を支配するのは時間がかかりすぎる。だが、意思なき物であるならば。支配の糸を使い、兵士たちの装備を奪い、それを遠くに投げ捨てる。勿論、そんな事をすれば、両方の陣営に存在をばれてしまう。
「なんだ! あれは!」
「救済の神が降臨なされたぞ! あの人の予言通りだ!」




