神の悪寒
オールグローリアの周辺では、一ヶ月程前から変化が起きていた。とは言っても、別に悪いことではない。レイトアが頻繁にやってきては雑談を交わすようになったのだ。おかげで退屈な時間は少なくなった。代わりに、ハイドワンエルは来なくなった。もしかしたら、忙しいのかもしれない。
「そういえば、最初に会ってから結構時間経ったよね」
「そうですね、もう何年前だったのかも思い出せません」
今日もまた、レイトアは雑談をしにやって来ていた。一応はイニシエンの従者であるために<赤光王国>の所属にはなっているのだが、形ばかりの為に仕事はなく、暇な時が多いというのは本人談である。
「そうそう。その事なんだけど、最初に言い出したのはグレスアじゃなくてファーアだったんだよ。知らなかったでしょ?」
「えっ? そうなんですか?」
初耳である。グレスアはまるで自分が思い付いたかのように提案と言う名の強制をしてきたし、ファーアはそんな話を一言もしていなかった。知っている筈がない。
「そうなんだよ。最初はファーアが言い出してね、その時には僕とギレーアが居た訳なんだけど」
「何となく、流れが解ってしまいました」
レイトアは兎も角、ギレーアならば絶対に同意しないだろう。オールグローリアはあの時に、一度しか会っていないのだが、その様子を簡単に想像することが出来た。
「まぁ、言い合いになると言うか、ギレーアが一人で騒いでた感じになるんだけどね。それを聞き付けたのかグレスアが来て、あんな感じになったんだよ」
「そうだったんですか」
「そうそう、アストアまで連れていくとか言い出したときには、何を考えてるんだと思ったけど」
「あれは、あまり思い出したくないです」
オールグローリアはあのおぞましい姿を思い出しそうになって、頭の中から振り払う。あんなもの、想像するだけ気分が悪くなるだけだ。どうしてそんなものまで呼び出したのか、本当にそれだけは解せないし、勘弁してほしかった。
「グレスアは言い出したら聞かないからね。傲慢の悪魔だからって、自分まで傲慢にならなくても良いのに」
「ある意味、在り方には沿っていると言えば、そうなのかもしれませんね」
「そういえば、僕達は<外部>における欲望っていう明確なモチーフがあるけど、そっちはどうなの?」
あくまで、イニシエンの従者のモチーフとなっている七つの欲望は<外部>由来のものであって、この世界のものではない。そして、メビウスの従者のモチーフである光さえも<外部>由来のものなのだ。
「勿論、私達のモチーフも<外部>における光が元になっていますよ」
「いや、そこまでは知ってるんだけど、光って言われてもイメージしにくいからね? 実態はどんなものなんだろうって思っただけだよ」
「確かに、そうですね。秘密主義的であったり、表面上は別物であったり、何かと説明しにくいのですよ」
実は、メビウスの従者の在り方は複雑であったりする。例えば、オールグローリアの元となった光は、慈悲という意味を持っている。信仰というのはまた別の所から持ってきたものであり、それらが混じったような在り方となっている。
「うーん。メビウスは何を思ってそんな設定をしたんだろうね」
「私にも解りません。ですが、メビウス様には何か考えがあるのですよ」
良く言えば信頼とも考えることもできるが、ある意味、思考停止と変わらない。まるで、天使にすがるグロリアス正教の姿のようにも見えてしまう。
「……そうかな? そういえば、エリヤ協会が分裂しかかってるって話は知ってる?」
「……どういう事ですか?」
「それは<機鋼都市連合>に対する関係でね。ハイドの率いる戦争否定派と、バウトの率いる戦争肯定派だよ」
ハイドというのは、ハイドワンエルの事だろう。それは良いとしても、バウトと言う名前は一度だけ聞いたことがあった。メビウスが、人として活動する時に使っていた名前。それに思い当たり、オールグローリアは慌てふためく。
「そんな筈はありません! メビウス様がこんなことをする理由は無い筈です!」
「本当にそうかな? だって<機鋼都市連合>はレアル・グリードの領域、<赤光王国>はイニシエンの領域で、その2つがぶつかって両方消耗するとしたらね、誰が一番特をすると思う?」
「それは……」
両者に圧倒的な力の差でも無い限りは、無傷な第三者が一番特をする可能性が高いと言える。最も被害を受けにくいのはエンシェントであるが、この辺の抗争に手を出すとは考えにくいので除外、そうなると、消去法的にメビウスとなってしまう。
「<機鋼都市連合>と<赤光王国>の力の差は結構大きいけど、それでも動き始めたってことは、何か考えがあるんだと思わない?」
「そうですね……。なにも考えずに動くことは、無いですよね。ですが、何処まで本当の事かも判断できません」
「まぁ、それもそうだよね。だから、直接聞きに行ってみない? エリヤ協会に乗り込んで、メビウスに」




