神の突破
あれからオールグローリアは祈りを受けとるだけでは無く、異次元の穴越しに信者の様子を見るようになった。だが、何の発見も無いままに時間ばかりが過ぎている。とは言え何かあったのかと言うと、何もなく、焦りも危機感も無いのが現状である。
「今日も何もありませんでしたか、いつも通りの平穏な日になりそうです」
椅子に深く座り、目を閉じて休憩をしようとした所で、部屋の中で何か力場のようなものが渦巻いている事に気が付いた。これは以前に訪れた存在を思い出す。流石に、あんなにインパクトのある出来事は簡単に忘れられるものではない。
「私は、三番目。グラビ」
「知っていますよ。二回目ですからね。今回はどのようなご用件でしょうか?」
力場の正体、エンシェントの従者グラビは、考え込んでいるのか、表情も何も無いので解らないのだが答えない。無言の時間が流れる。気まずい空気だけが流れる中、ようやく言葉を発した。
「私は、私か」
「何を当たり前の事を言っているのですか? 私が私でしか無いように、貴方は貴方でしかありません。誰かが別の誰かになる事なんて無いのですよ」
「私は私か? 私は手足として、手足として? システムは、順守する。私は、私は? システムでしかない。それは、同じだ。お前も、システムだ」
「システムだとしても、私は私ですし、貴方は貴方なのです」
グラビの言っている事はまとまりが無いが、確かに管理者と従者は世界のシステムだと言って良い。だからと言って、自由意志まで封じられている訳では無い。どういう意図でそんな設計にしたのかは解りかねるが、それでも、そうなっているのだからそうなっているだけなのだ。
「私は、私はグラビ。四分の一の力学、秩序の欠片、東の顕現、エンシェントの手足。それが在り方、それが在り方?」
「確かに、在り方は私達が存在をするのに必要な事ですが、私達が在り方そのものになる必要は無いのですよ。在り方は在り方として、それとは別に、私達の自我はあるのです」
イニシエンの従者の在り方は欲望、メビウスの従者の在り方は光、エンシェントの従者の在り方は自然ではあるが、所詮それはモチーフと言っても良い。もちろん、在り方に反する事は出来なくとも、モチーフの存在その物になる必要も無い。
「あー、うん。ちょっと良いかな?」
唐突に、誰かの声が聞こえた。怪訝そうにオールグローリアは後ろに振り向くと、土で出来た人型の人形が立っていた。今までそんなものは無かった筈である。とりあえず、話しかけてきたのはこの人形である訳で、おそらくはエンシェントの従者の一人であろうという所まで予測するが、それにしては流暢に言葉を発している。
「えぇと、誰でしょうか?」
「うん。そうだね。僕は、サイク。うん、君の予想通り、エンシェントの従者」
「そうですか、貴方は他の存在とは違うのですね?」
今まで会ってきたエンシェントの従者、フロウやグラビと違い、はっきりとした意思を感じる。まだ全員と会ってきた訳では無いが、ハイドワンエルの言っていた事を思い出すに、やっぱりこのサイクと言う存在の異質さが目立つのだろう。
「いや、僕は、皆と同じ。ただ、時間は、僕の手の中。それだけ」
「何を言っているのですか? 確かに、時間か空間に干渉する力は持っているのでしょう」
「うん、気にしないで。僕が言いたいのは、一つだけ。エンシェントに、グラビの事、言わないで、あげて、それだけ」
何を言うのかと思えば、そんな事をわざわざ報告する必要も無いし、そもそもオールグローリアにはエンシェントに会う予定も無いのだ。ただ、それを伝えるという事は、何かあるのだろうか。
「何故でしょうか」
「まだ、早いんだ。もちろん、この会話も、言わないでね。うん、まだ、僕は、ただの歯車、だからね。もし、話したら、君の信者、皆が老いる事に、なるからね」
脅しを入れる程に話して欲しくないらしい。実際にそんなことが出来るのかは解らないが、そんな危険性を冒してまで動く気にはなれない。とりあえず、空間と言うよりは、時間寄りの権限を持っているのだろう。
「サイク、私は、私は? 一体、どうして」
「グラビ、後の事は、僕に任せて。えーと、名前聞くの、忘れてた」
「そういえば、そうでしたね。私はオールグローリアと言います」
本当に今更ではある。そして、グラビを丸め込もうとしているらしい。どうしてそんなにも自我がある事を頑なに隠したがるのか、もしかしたら、エンシェントの性格が問題かもしれない。とにかく頑固であるという話をグレスアからも聞いた、ただそれは、ブーメランと言うものでは無いのであろうか。
「まぁ、いいや。とりあえず、ありがとう。これで、グラビは、一歩進んだよ」
「いえ、私は何もしていませんが、自我の手がかりを得たという事でしょうか?」
「うん、そうだね。確かに、そうだ。グラビ、帰ろう。また、会えると、良いね?」
グラビの力場は消え、サイクは大地に溶けるかのように消えていった。一人残されたオールグローリアは、ようやく椅子に深く座り、休むことにした
「誰もが、色々考えて、複雑ですね」




