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神の投影

「ハッハッハ、俺がファーアだ。お前がオールグローリアだろ? よろしくな!」


「はい、私がオールグローリアです。よろしくお願いします。ところで、その……」


 イニシエンの従者の残り二人の内の一人。ファーアは良くも悪くも、暑苦しい人物であった。筋肉質な男の姿をしており、豪快に笑っている。ただ、それよりもオールグローリアには気になるものがあった。一言で言うなれば肉塊、よーくみても肉塊。なんなら、蠢いているようにも見える。そんな気持ち悪いものが床に置かれていた。


「これが気になるんだろ? 俺達の最後の一人、アストアだよ。もしくは、俺達が自分自身を失った成れの果てとも言えるかもな」


「どうしてこんなことに……」


 肉塊、もとい、アストアは激しく蠢き始めたが、それ以上は何も起こらない。まるで、何かに押し止められているかのように。それはそうとしても、なかなかに気色悪いものである。


「ハッハッハ! 安心しろよ。こいつは手を出せないからな。まぁ、あれだよ。魂が無い奴にとって、在り方を守る事の大切さが解るだろ? 俺達にとっては、自分が自分で在ることだ。自分を失うと、自分の形さえも忘れるって事だ」


「なんと言いますか、恐ろしい話ですね……」


 魂というのはその存在を証明する根元のようなもの。その、存在を証明する魂がないのだから、自分自身で存在を証明する必要があるのだ、それこそが在り方であり、それを見失っては、自身を証明することが出来なくなってしまう。


「言っとくけど、お前にもあり得る未来なんだ。俺達は自分自身から個として証明するんだけど、お前たちは周囲から証明される存在だろ? 在り方が歪む可能性は消しきれないよな」


「それはあり得ると言うよりも、恐らく世界が変わるごとに起こると思います。ですが、私たちはそれに合わせるだけなので、致命的なものになるとは思えないのですが」


 そもそも、メビウスの従者は多くの人の思いから形を得る。そして、その思いに沿うように在るといえる。つまりは、変化すること前提の存在とも言えるわけだ。その辺はイニシエンの従者とは大きく違う。


「違うんだ。違うんだよ。お前は、それじゃ満たされないだろ?」


「どういう事ですか?」


「ハッハッハ! 気にするなよ。あいつが希望で、お前が信仰だったと言うことは、俺達は反対の存在では無いんだ。何かあったら相談くらいはのるからよ!」


 オールグローリアには豪快に笑っているファーアの言葉は理解できず、首を傾げるだけであったが、考えても仕方ないと思うことにした。不思議な人だと言われていたし、本当にその通りだと感じるばかりだ。


「そういえば、ファーアさんの権限は、暴食ですよね。と言うことは、残りの強欲がアストアさんという事ですか」


「ハッハッハ! その通り俺は暴食だよ。誰かから聞いたんだろ。まぁ、傲慢とかと比べるとパッとしないか? だけどな、俺達は沿う必要がない、そうだろ?」


 相変わらずファーアは良く解らないことを言っているが、それを気にしても仕方無いと、オールグローリアは結論付けた。変にツッコミを入れてもちゃんとした返事は来なさそうでもある。


「ファーアさんは、創造された時から在り方を見出だしていたと聞いたんですが、それって本当ですか?」


「ハッハッハ! それはな、俺がそれに関することだからだよ。素質は、グネデアも持ってたんだけどな、まー、怠惰らしくて良いんじゃないか?」


「完全にはぐらかしているじゃないですか」


 オールグローリアの少し不満そうな言葉にも、ファーアは誤魔化すのみであった。どうやら、この事に関しては何も話すつもりはないのか、それか、そもそも自分自身も理解していないのか、何とも言えない。


「俺の力を教えてやるからさ、気にすんなよ。とは言っても、何となく予想つくだろ?」


「暴食という事ですから、食べることに関係してそうですね」


「ハッハッハ! そうだ、俺は何かを食べることによって、力を増すことが出来るし、身体を再生させることもできるぞ!」


 そう言ってファーアは、自身の筋肉を強調させるようにポーズをとるが、感想としては暑苦しいとしか言えない。見せつけられる側としては勘弁して欲しいものだが、流石にそれを口に出すことは出来ない。


「それは、なんと言いますか。使い勝手のよさそうな力ですね」


「ハッハッハ! 地味な力だってハッキリ言ってくれても良いんだぞ? グレスアの支配の言葉、というか、あれは強制の言葉だと思うんだけどな? そういうのと比べると大したものじゃないからな」


「あはは……」


 ただただサッパリと、言い切ってしまうファーアに、オールグローリアは乾いた笑いを返すことしか出来なかった。なんというか、本当に裏を感じさせない存在である。


「俺はそろそろ、別の所にでも行こうかな。お前も気を付けろ、底無しになる前に、どこかで満足しとけ。頑張れよ」


 ファーアは、アストアを持ち上げると、そのまま重さを感じさせない足取りで去って行った。ただ、何を伝えたかったのか、良く解らないままに。


「底無しになる前に、ですか。どういう事なんでしょう……」

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