遭逢 - 水瀬 友紀①
【次の日】
「行ってきまーす」
制服に着替えて靴を履き、少し余裕を持って家を出る。いつも通りの平日の朝。
生徒会の一件以来、ここ半年間くらいは平和な毎日を過ごしている。
いつも通りの徒歩での登校。僕の家は吉波高校からかなり近い……て言っても琉蓮の家よりは遠いけど。
今はもう2月の後半…。もうすぐ3月だというのに、まだまだ寒い日が続いている。
そういや、半年前はまだ夏服だったな。白い半袖のポロシャツ、グレーでチェック柄の学生ズボンやスカート。
御影先生が去って以来、辻本先生がやたら男子にシャツインを強要してきたのを覚えている。
シャツインしないと市役所の人に皆殺しにされるとか言ってたけど、何かあったんだろうか?
そして、今は学生服も冬仕様だ。紺のブレザーとグレーのズボン・スカートに白い長袖のポロシャツ。それに加えて、学校規定のベージュのセーターを着ている人もいる。
僕も寒がりだから毎日、フルセットで着ているよ。
この半年間、僕は努力した。モテるため、特質を発現させるために…。
筋トレやランニングといった運動、食生活や睡眠の改善。惰性でやってきた勉強にも少し真剣に向き合ったり、将来について考えてみたり…。
でも、何も変化は起こらなかった。モテることは疎か、特質すら発現しなかったんだ。
モテることが難しいのはわかってる。偏見かもしれないけど“BREAKERZ”の中でモテてる人は多分いない。
でも、みんな何かしら能力は持ってるんだ。
僕って特質の才能ないのかな? 半永久的に泳ぎ続けること以外できないのかな…?
いや、そんなこと考えたらダメだ。自分でできないって決めつけてしまったらそれ以上は進めない。
ただ、ひたむきに……自分にできる努力をし続けるんだ。
そんなことを考えている内に、学校の校門が見えてきた。
今日は金曜日。今日を乗り切れば、至福の2日間が待っている。
春休み前のテストが近いから、完全に寛げる訳じゃないけど…。
色々あったけど、長いようで早かった2年生の後期。
第2次学生大戦で負傷した的場と朧月くんもとっくに復帰している。
それでも2ヶ月くらい入院していて授業に出られてない分、キツいところはあると思う。
赤点を取らないように、しっかり進級できるように頑張ってほしい。違うクラスだけど、僕も教えられる範囲で手伝いたい。
そして、新庄は未だに停学処分中…。
全然学校来てないけど、進級大丈夫かな? 出席日数とかテストの成績とか色々とヤバい気がするんだけど。
学生大戦といえば、羽柴先生に撃ち抜かれた男虎先生を思い出す。
ちょうどこの前、墓参りに行ったよ…。
プラスチック製のヌンチャクのレプリカを2つ置いてきてあげた。先生、ヌンチャク好きそうだったから。
あれだけ撃たれて軽傷じゃすまないのはわかってたけど、本当に亡くなったんだって思うと心が重たい。
校門はもう目の前だ。
男虎先生……僕、頑張ります。身体を張って守った甲斐があったと思える生徒にきっとなってみせます!
そう心に誓い、大きく確かな1歩を踏みだして校門に向かった。
今日は登校中、ずっと何かを考えながら歩いていたんだ。
普通に前を見て歩いていたら、もう少し早く気づけたかもしれない。あるいはここ最近、何もなかったことによる平和ボケのせいかも。
校門の付近を私服でずっとうろうろしていた1人の女の子。
吉波高校の生徒じゃないのは明らかなのに、僕は見落としてしまった。
「ねぇ……」
後ろから声をかけられるまで、僕は彼女の存在に気づいてなかったんだ。
全く面識のない、この学校の生徒でもなさそうな人に話しかけられ背中がピリピリし始める。
心の底で眠っていたであろう警戒心が久しぶりに露わになった。
彼女はいったい何者…?
悪意のある神憑? 政府に関係する人? それとも…?
彼女に呼び止められて様々な感情が渦巻く中、僕は背中を向けたまま動けなくなっていた。
 




