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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
新・生徒会編
91/270

エピローグ - 前編

今回は、複数の人物の目線が書かれてます。

水瀬みなせ 友紀ゆうき


昨日は本当に長い1日だった。


御影みかげ先生の正体は、あの後慶けいから聞いたよ。でも、何も知らない先生たちは、突然消えた雲龍うんりゅう校長と彼女を捜している。


景川かげかわ猿渡さわたりは僕らに謝り、責任を感じたのか転校すると言ってきた。


転校と言えば、もう1人いる。


立髪たてがみ斬斗きりと。彼は立て続けに起こる事件のことを両親に相談した。


これ以上、吉波よしなみ高校に在籍するのは危ないと思って転校を決めたらしい。


ここ最近、色々なことが起こりすぎた。そう思うのも仕方ないし、何だか申し訳ない気持ちになる。


そして今、僕はどこにいるかというと…。



文月ふづき「何か起こった後、必ずここに誰か来ている気がするんだが…」



けいが収監されている刑務所だ。


なんで向こう側についていたのかは教えてくれた。


彼が敵か味方なのかは未だにわからない。


でも、僕らの学校を救ってくれたのは事実だ。体育館は倒壊し、町に甚大な被害をもたらしかけたけど…。


彼なりのやり方で吉波よしなみ高校を、政府の支配やあの滅茶苦茶な校則から守ってくれた。


文月ふづき「さて、そろそろ帰ってくれ。色々と忙しいんだ。樹神こだまに偽札を刷ったり、研究したりとな」


彼はガラスの向こう側で椅子にもたれかかり、両手を頭の後ろに回した。


何だろう…。いつものけいが戻ってきた気がする。


負のオーラが消えたというか、リラックスしているというか…。


まぁ、復讐を果たしたみたいなことを言ってたからスッキリしたのかな?


けいは友達だ。中学からの同期でちょっと偉そうな秀才で冷たそうに見えるけど、実は仲間想いだったりもする。


敵か味方かなんて考える必要はない。大前提として、彼は友達だから。


もし今後、君がまた道を誤りそうになったら、僕ら“BREAKERZブレイカーズ”が必ず止めに行くよ。



文月ふづき「何、じろじろ見てる? お前も何か欲しいのか? 欲しいなら偽札を刷る片手間に造ってやる」



得意気な顔をして、けいはそう言った。


僕が今、1番欲しいのは戦いに貢献できる力かな。でも、平和な日常が戻るならそんなものは必要ない。


じゃあ今、他に欲しいものは何もないのかと言われるとそうでもない。健全な男子高校生誰もが想う願いなら僕にもある。



「モテたい…」



僕はけいから目をそらし、俯き気味に小さく呟いた。


こんなこと彼に言っても仕方ない。でも、そろそろモテたり名声を得たりしても良いと思うんだ。


僕だって鬼ごっこや学生大戦、御影みかげ先生の支配からみんなを守ることに少なからず貢献しているじゃないか。


なんでゴリラばかり称賛されるんだ…。



文月ふづき「そんな簡単なことで良いのか? ちょっと待っていろ」



彼は拍子抜けだと言わんばかりに首を傾げてから席を立ち、奥の方へと消えていった。


そんな簡単なこと…? まさか、モテ期を到来させるような機械があるのか?


男性ホルモンを活性化させるドーピング剤? 持っているだけで女の子を惹きつけるキーホルダーとか?


けい、やっぱり君は天才だ! 僕は君の友達であることを誇りに思うよ。 


彼が席を立ってからまだ1分も経っていないと思う。彼は両手に何かを持ってこちらに戻ってきた。


早い……もう造ったのか? さすがは“BrainCreateブレインクリエイト”。考えたものが目の前に現れるアプリ。


ん? でも、それって、今は未完成の方しか持っていないよな?



とんっ



けいは机の上に、両手に持っていたある物を置いた。それが何かわかった瞬間、僕の興奮は一気に冷める。


文月ふづき「こっちは樹神こだまの分。こっちは水瀬みなせ、お前の分だ」


僕が言ったこと、何かと聞き間違えたのかな。確かにお金を貰って嬉しくないことはないけど、それって…。


文月ふづき「偽の万札、100枚分。樹神こだまの10倍だ。モテる法則は至極単純。“金”と“顔”、どちらかが備わっていればそれなりにモテるだろう。これでお前はしばらくモテ期を謳歌できるはずだ」


そう語る彼の顔は笑っていた。


バカにしている笑顔じゃない。自信に満ち溢れた笑顔…。


きっと確信しているんだ。自分の造った偽札のお陰で僕がモテるようになると…。


「ご、ごめん。遠慮しておくよ」


君の厚意は嬉しいけど、偽札はちょっと抵抗が…。


文月ふづき「何故だ? 安心しろ、光に照らさない限りはバレない」


いや、それ結構な確率でバレると思うんだけど!?


「僕は……捕まりたくないから。それに人のお金でモテるのって…。やっぱり、もうちょっと努力してみるよ」


偽札を受け取らない僕に対して、けいは不服そうな顔をして首を振る。


そして、彼はいつになく優しい笑顔でこう言った。


文月ふづき「刑務所、お前が思っているより快適だと思うぞ」


いや、それ君のところだけだから。





__________________






鬼塚おにづか 琉蓮りゅうれん


「ごめんなさい!」



昨日、僕は前代未聞の器物損壊事件を起こしてしまった。後、隠蔽された説あるけど傷害事件も…。


体育館を全壊させてしまったんだ。そのせいで体育館の損害賠償は僕のお父さんに…。


壮蓮そうれん「もういい、顔を上げろ」


鬼塚おにづか 壮蓮そうれん。僕のお父さんの名前だ。


土下座して床に頭を擦りつけている僕を案じてそう言ってくれているけど、頭を上げるわけにはいかない。


「ごめんなさい!」


謝るしかない。何度も何度も謝るしか僕にはできないんだ。


僕はバイトをしていない。毎月貰っているお小遣いは散財して次の月には消えている。


体育館を壊したのは僕だ。本当なら僕が弁償しないといけないのに…。何もできない、僕は無力だ。


壮蓮そうれん「この下り、99回目だ。頭を上げるんだ、琉蓮りゅうれん


何度も何度も頭を床に打ちつけて痛みで自戒しないと、僕は……僕はやってられない!


「ごめんなさい!」



ズドンッ!



土下座100回目にして僕は力を誤ってしまった。床に僕の顔面くらいある穴が空いてしまう。


壮蓮そうれん「………頼む。もうやめてくれ」


お父さんの悲しそうな顔を見て僕ははっとした。


いつも気まずいとか怖いとか思ってたけど、子どもの痛みを悲しむ優しいお父さんだったんだ。


壮蓮そうれん琉蓮りゅうれん……」


椅子に座っていたお父さんは立ち上がり、片膝を着いて僕の顔を覗き込む。


壮蓮そうれん「確かにお前は器物損壊という罪を負った。だが、お父さんはお前がしたことを誇りに思っている」


え、どういうこと? 僕はただ坊主になるのが嫌で無我夢中に殴り続けたんだよ?


壮蓮そうれん「昨日起こった緑の災害。お前のことが心配になって学校に向かったんだ」


そうだったんだ。戦いに夢中で全然気づかなかった。


お父さんは僕の目を見据えて話しを続けた。


壮蓮そうれん「ワン・ビート。そう言いながら何もない空に向かって、ただ拳を突き上げているようにしか最初は見えなかった。だが、よく目を凝らすと()()は見えた。絶望と恐怖がな」


お父さんもあの隕石や核ミサイルを見ていたってことか。


御影みかげ先生の能力、あれは強大なものだった。下手したらお父さんも巻き込まれて死んでいたかも…。


僕の背中を押してくれた文月ふづきくんには感謝しないといけない。


壮蓮そうれん「そんな中、お前は怯むことなく、友達を守るために絶望と対峙し打ち勝った。たくましかったぞ、琉蓮りゅうれん。これからもその力で大切な人たちを守り抜け」


違うよ、お父さん。


僕が勝てたのは、文月ふづきくんが……みんなが僕を応援してくれたからなんだ。


僕1人だけだったら、自分の力にビクビクして何もできなかった。


これからはちゃんとこの力と向き合って生きていくよ。力加減の練習だって毎日する。


世界中の人たちを守れるヒーローに僕はなってみせる。あ、ちゃんと働きながらね。


「ありがとう! お父さん!」


僕は最後に、謝罪じゃなく感謝の意を込めて深く土下座した。


壮蓮そうれん「ふっ……さて体育館の賠償金はいくらくらいだ?」


お父さんは後ろにある机の上から封筒を取って、丁寧にゆっくりと開けていく。


いくらくらいだろ? 全壊だから体育館の建設費くらい請求されるよね…?


不安が顔に出ていたのか、お父さんは真顔で僕を見た。


壮蓮そうれん「安心しろ。父さんの経済力を舐めるなよ」


封筒に入っている紙を抜き出し、ゆっくりと開いていく。


壮蓮そうれん「3000万円くらいローンを組めば何とか………何?!」


あの強くて頼もしくて怖いお父さんが僕の前で初めて動揺した。


しばらく静寂の時が流れた後、お父さんは紙を丁重に元の形に折りたたむ。その後、鋭い目つきで僕を見てこう言ったんだ。



壮蓮そうれん琉蓮りゅうれん、銀行にワンビートしに行くぞ」


「………え?」


壮蓮そうれん「…………冗談だ」





__________________






すめらぎ 尚人なおと



はぁ~、良い眺めだぜ。


学校の屋上で飲むコーラは極上だということに気づいてしまった。


昨日、色々あったお陰で今日は休校なんだが。ある理由で俺は学校にいるわけだ。


その理由とは…。


俺はスマホで時計を確認した。もうそろそろ来るか?



ギギギギ………



屋上の扉が軋みながらゆっくり開いていく。


その扉の奥から姿を現したのは、両手に大きなスーパーの袋を持った不死身のガキだ。


こいつの名前は、不知火しらぬい真羽まう。まぁ、知ってるか。


俺がここにいる理由は、こいつの訓練のためだ。俺の有能なともだち (パシリ) になるためのなぁ♪



不知火しらぬい「お待たせ! 今、何ポイント?」


どさっ



奴はそう言いながらこちらにやって来て、スーパーの袋をがさつに置いた。


クソッ……嫌な音だぜ…。


俺は額に汗を滲ませながら袋の中身を確認する。こいつが俺の指示通りに動いていたら、この袋の中身は…、






2リットルのコーラが5本ずつ入っているはずだ。






だが、がさつに置かれたときに発したあの嫌なキモい音は…。


俺は恐る恐る袋の中を覗き込む。


…………。


俺の勘は当たっていた。袋の中のコーラを見たときにわかってしまったぜ…。


今、蓋を開けると勢いよく飛びだすに違いねぇ。つまり、すぐには飲めないってことだ。


今、何ポイントだって? 本当なら0から再スタートさせてやりたいが、それは可哀想だな。


炭酸飲料をがさつに置くなと言ってなかった俺にも一応、非はある。



「今回、溜まったポイントは……0.01だ。合計は0.21。10000ポイントまで励むんだな」



考えた末、懐が深すぎる俺は不知火しらぬいにそう言った。


俺の寛大な心に助けられたな。世の中、そんなに甘くはねぇぞ。


不知火しらぬい「えぇ? 少なくない?」


そんな俺の厚意に対し、奴は愚痴を零す。


「黙れ! リセットされないだけマシだと思え! 次から炭酸飲料は慎重に扱えよ! これじゃしばらく飲めねぇだろ!」


クソッ…。何十万年、閉じ込められてたか何だか知らねぇが、あまりにも常識がなさすぎる。


炭酸飲料振ったらヤバいってことくらい踏まえておけよ。


不知火しらぬい「わかった……」


不満そうな顔をしつつも頷く不知火しらぬい


まぁ、10000ポイント貯まるまでは見習いだ。この調子じゃ永遠に貯まらねぇ気がするけどなぁ♪


そして優しい俺は、早くポイントを溜めさせてやるため、奴にこう言うんだ。


「よし、じゃあ、もう1回だ。同じコーラを買ってこい。今度は慎重にな。ちゃんと出来たらボーナスで0.15ポイントやる」


不知火しらぬい「おぉ! 高ポイントじゃん!」


ふっ……何だか喜ばれるとこっちも嬉しくなるぜ♪ 人を育てるってのはこういうことなんだろうな!


その素直で濁りのない透き通った笑顔、最高に良いねぇ♪ お前にはパシリの素質が充分にある。


10000ポイントまでまだまだ遠いが、一緒に頑張ろうぜぇ♪



「よし、行ってこい!」



俺の言葉にこいつは頷き、フェンスに足をかけて登り始めた。


………ん? 何をしている? まさか、パシられるのが嫌で自殺を…?


いや、でもこいつは不死身なはず。そんな簡単に死ぬわけないか。


「おい、何の真似だ?」


不知火しらぬい「普通に階段下りると効率悪いなと思って」


俺の問いに、不知火しらぬいはそう答えた。


おいおい、こいつ…。たった数回の訓練で効率を考え出しやがったぜ!


やっぱりお前にはパシリの才能がある。その発言に1ポイント……いや5ポイントやっても惜しくはない。


「で、お前は効率良くするためにどんな方法を考えたんだ?」


ヒャハハハ♪ 心の笑いが止まらねぇ。


あいつにはパシリの才能があり、俺には育てる才能があるってことだ。


文月ふづき、これはお前にはできねぇことだぜ。一匹狼を気取ってるお前にはなぁ♪



不知火しらぬい「こうするの♪」



………は?


奴はキラキラとした笑顔でそう言って、屋上のフェンスから飛び降りた。


ぐしゃっ……バキッ……。


肉が潰れる音や骨が砕ける生々しい音が鮮明に聞こえてくる。


この音、前にもっと近くで聞いたことがあるぜ…。文月ふづきが創ったあのキモい世界で、俺が飛び降りたときに聞こえた音と同じだ。



帰るか…。コーラ飲む気分じゃなくなったわ。



不知火しらぬい「どう? こっちの方が早いでしょ?」


下から声が聞こえて来て恐る恐る覗くと、そこには何事もなかったように手を大きく振っている奴がいた。


あいつの足元のコンクリートは、赤黒く染まっている。


「き、今日の訓練は中止だ…」


不知火しらぬい「え? なんで?」


俺の発言に、不知火しらぬいはきょとんとした顔で首を傾げる。


聞こえるように声を張ろうとしたが、思った以上に出なかった。まぁ、聞き取れたんなら別に良いがな。


俺は少しだけ考えて…。



「10……いや、100ポイントやる」



あまりに高いポイントを提示したことで、不知火しらぬいは奇声を上げながら校庭を走り回った。


「だから、しばらく俺には近寄るなよ」


狂ったように走り回っているあいつに、俺の声は届いてねぇかもな。


だが、そんなことはどうでも良い。さっさと帰るぜ…。


俺はクソ重いスーパーの袋を2つげて屋上を後にした。






【エピローグ、後編に続く】




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