1日目 - 新庄 篤史③
あれからどれくらいたった? まだ数分てとこか? 気づけば空は薄暗くなっていた。
俺の首を絞めていたあいつは何処に行ったんだ?
俺はゆっくりと立ち上がり、グラウンドを見渡した。
あのクソアフロ、ぜってぇ許さねぇぞ。
あいつのせいで全滅だ。
みんなはまだ笑っている。鬼に捕まった人は、ゲラゲラ笑いながらカプセルみたいなものに入れられていく。
そして、人を入れたカプセルはどんどん空へ飛びあがっていっていた。どこかに転送しているのか?
にしてもすげぇ技術だな。あのカプセルは鬼の手から出てきている。持ち歩くときは手のひらサイズに小型化できるのか。
いや、感心してる場合じゃねぇな。俺以外の転送は終わったみてぇだ。
数十体の鬼全てが俺の方に身体を向け、ゆっくりとこちらに迫ってきた。
賢いのか偶然か校門側にも5体いる。逃げられねぇように塞がれたか。
どうする? グラウンド側に戻っても出口はない。
とは言うものの、グラウンド側に行くしかなく俺は後ずさった。
何となく気配を察して後ろを確認するけど…。案の定、後方からも数体の鬼が徐々に迫ってきていた。
だよな、グラウンドの方にもいるよな。完全に囲まれちまった。
ガツッ……
逃げ道を失い、すり足気味に後ずさりしていた俺の足に何か硬いものが引っかかる。
ん? 何か埋まってるぞ? 金属っぽいな。
相変わらず鬼たちは鈍い。捕まえられるのを確信しているからかもしれねぇけど、悠長に歩いてきている。
普通に取れそうだな。俺は金属っぽい何かが気になり、足で砂を除けた。
これは………。
誰がどう見ても金属バットだな。野球部のものか? これじゃあ勝てねぇ…。
でも、こいつらぶっ壊さないと逃げれねぇし。どのみち捕まるんなら足掻いてみるか。
ダセぇけど、何も抵抗せずに大人しく捕まんのはもっとダセぇ。
俺は埋まっていた金属バットを拾い上げようと持ち手の部分に触れた。
バチッ!
痛っ! 静電気かよ。めっちゃデカい音鳴ったな。普通に痛いんだけど。
まぁ、いいや。見てろよテロリスト。これが俺の最期の足掻きだ!
「おらっ! 死ねよ!」
俺は1番近くに寄ってきていた鬼の首を目がけて、思い切りバットを振り抜いた。
バキッ…!
「……は?」
鈍い音がして俺は目を疑う。これは、バットがひしゃげた音じゃない。
バットが直撃した瞬間、鬼の首が吹っ飛んだんだ。切断された首の断面から数本の銅線のようなものが見えている。
ぶっ壊れたのかわかんねぇけど、頭をなくした鬼の身体は膝から崩れ落ちた。
もしかして本気で振れば勝てるのか? 気合いで何とかなるもんなのか?
他の鬼たちが走ってくる。さっきみんなを追いかけていたときより数倍速い。
やっぱり手抜いてやがったか。いいぜ、全部ぶっ壊してやらぁ!
「来いよ。ゴキブリ野郎!」
全方向から迫り来る鬼たちに対して俺はバットを身構えた。
「うらあああぁぁぁぁ!」
1番最初に俺の前に来た奴目がけてバットを真下から振り上げる。
バキバキバキッ!
その鬼の身体は真っ二つに割れ、動きを止めてグラウンドに倒れ込んだ。
気持ちいいくらい簡単に壊れるな。
もしかして、あれか? 何とかの馬鹿力って奴か? そりゃ死にそうだもんなぁ。これくらい本気出さねぇとな!
他の鬼に対しても、俺はただひたすらにバットを振りまくった。
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ぜぇぜぇ…。終わったぞ。全部ぶっ壊してやった。
気づけば、壊れた鬼が散乱している中に俺は立っていた。
それにしてもすげぇな、人間って。死ぬ気でやったら何とかなるもんなんだな。
もう日が暮れて夜になっている。照明がなきゃ何も見えねぇ。
あいつら、真っ黒だから近くにいても気づけねぇんだ。
だから、逃げるのは明日にしよう。今日は学校に隠れて日が昇るのを待つ。
隠れるとするなら体育館倉庫とか? 最悪見つかっても本気出せば何とかなるか。
よし、行くか。
バチッ
痛ぇな。さっきから静電気ヤバいんだけど…。金属バットに触れるたびに静電気が流れてくる。
そういや、じいちゃんの形見ひしゃげちまったな…。
形見を壊してしまった罪悪感からか俺は不意に右手に持っているバットを見つめた。
このバット、似てる気がするな。
じぃちゃん、俺を助けてくれたのか?
…………。
いや、バットなんてどれも同じか。
「じゃあ、よろしくな! じいちゃん2世」