ともだち - 皇 尚人②
ガキを監禁するとか、やっぱりお前は犯罪者の素質持ってるわ。
見せたいものってこれか? ふざけんじゃねぇ。俺は、さっさとこの不快感から解放されたいんだよ。
………待てよ。一応あるにはあるぞ。不快感から解放される方法。
だいぶ無茶振りな手段だと思うが、俺の勘がいつも通り当たってくれれば問題ねぇ。
「おい、ガキ。お前の名前は?」
俺は目の前にしゃがみ込み、体育座りをしているこいつに話しかける。
薄暗いこの教室の端っこにいて気づかなかったが、こいつは俺と同じ吉波校の制服を着ていた。
余所から連れてこられたガキじゃなくて、この学校の生徒なのか。
座っているせいでわからないが、150センチもないだろうな。
ちなみにこいつからキモさは感じられない。だから、声を掛けた。
俺の声を聞いてこいつは顔を上げる。
俺が来るまでずっと泣いていたのか、目元には涙の跡がくっきりと残っていた。
「僕は……、不知火真羽」
聞き覚えのある名前だ。こいつは確か、水瀬の面接で首を切ろうとして止められた奴か。
あいつからそう聞かされて、ぶっ飛んだ奴がいるもんだなと思った記憶がある。
こいつが自身で言った特質は“不死身”。それを証明できなかったから面接で落とされたわけだが…。
「なんで泣いていた?」
俺がそう問うと、こいつは再び涙目になり、弱々しい声でぽつりと呟いた。
不知火「友達が………いないんだ………」
どっちの意味だ? 友達とはぐれたのか、ぼっちなのか。
続けて、不知火はこう話す。
不知火「あの人は言うことを聞けば友達になってくれるって言ったのに…。僕の初めての友達になると思っていたのに…」
あぁ、ぼっちだな。可哀想に……。文月に利用されたのか。
あのサイコ野郎、新しい校章を買って調子に乗ってやがるぜ。
人を騙して利用することに何の躊躇いもないとんだクズ野郎だ。
ふっ…あいつに校章を与えるとこうなることはわかっていた。
だから、俺は牢にぶち込まれることになっても校章を返さなかったんだ………ということにしておくぜぇ♪
俺が上機嫌なのに対してこいつ……、いや彼は涙を堪えてぷるぷると震えている。
不知火「許さない…。嘘つき……嘘つきだぁ! プロテインのように粉々にして喰ってやるぅ……ぐすん」
泣くのを我慢しきれなかった不知火の目から、ぼろぼろと涙が溢れ出した。
こいつ、見た目も中身もガキのまんまだ。何でも食おうとするところとか。
こいつの特質上の問題かもな。不死身ってのが本当で性格はガキみたいに単純なら…。
俺は顔を覆ってしくしくと泣いている彼に話しかけた。
「かわいそうに…。代わりに俺が友達になってやるよ」
不知火「ほ、本当!? やったー! じゃあ、あいついらないね」
さすがは、見た目はガキ、中身もガキの不知火真羽。
すぐに泣きやんで希望に満ちた笑顔に変わる。
「あぁ、本当だぜぇ♪ ただし、俺の言うことを聞け」
不知火「うん! 何でも聞くよ」
こいつは俺にとって都合の良い存在だぁ♪ 本当に何でも聞くだろうな。
だが、これだとゲスの文月と同じだ。俺はあいつとは違うぜ。
あいつと違って優しくて紳士な俺は、特別にボーナスを加えてやる。
「今から言う2つのことを聞けば、俺だけじゃなく俺の愉快な仲間たちもお前の友達にしてやるぜ」
俺は二本指を立てて、こっちの要求を丁寧に話してやった。
1つ目は、キモさを解決するために手を貸すこと。その作戦の内容は細かく伝えた。
かなりヤバいことを言ったつもりだが、彼は何も考えてない様子で了承する。
そして、2つ目は……、
「俺のクラスの時間割を常時把握し、俺がその日に必要な物を全部持ってきて貸してくれ♪ 教科書は当たり前、体育のときは体操服を……、習字のときは半紙や墨汁などを俺に貸すんだ。やってくれるか? まぁ、俺たち友達だもんなぁ♪」
笑いを堪えながらそう伝えた俺は、不知火の肩に手を置いた。
不知火「うん、任せて! そんなことで良いんだね!」
2つ目の要求に対しても、彼は純粋な笑顔で快諾する。
“そんなこと”か…。2つ目はまだしも、1つ目に対してもそう言えるのは……かなり狂ってやがるな。
こいつが狂ってるなら、協力させる俺もそうなるが…。
まぁ、良い♪ 俺はこれから毎日、手ぶらで登校できる超快適ライフを送れるからな。
こいつが同意したんなら早速行動だ。まだ2限の途中だが、早いに越したことはねぇ。
俺はスマホを取りだして、ジミーズのグループチャットに、あるメッセージを送った。
これを見て駆けつけない奴は人外だ。
俺はニヤリと笑いながら立ち上がり、不知火を見下ろした。
「さぁ、行くぜぇ♪ 屋上になぁ」
不知火「うん!」
彼も元気良く立ち上がり、共に生徒指導室を後にする。
屋上に行く前に、忠告しておかないとな。
「お前の特質を疑ってるわけじゃないが、油断はするなよ。あいつらも相当、厄介だからな」
不知火「大丈夫! 言われたことはちゃんとするよ」
俺らが屋上に着く頃には、ジミーズのグループチャットから大量の返信が来ていた。
改めて思うが、俺の人望ってすげぇよな♪
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屋上に着いてからほんの数分ってところかぁ?
階段を駆け上がる音が聞こえて、勢いよく屋上のドアが開いた。
息を荒げて入ってきたのは、獅子王、剣崎、日下部、樹神………そして、1人知らない奴がいるな。
全員、特有のキモさは感じられない。ここまでは順調だ。
息が上がってる中、1番最初に声を上げたのは剣崎だった。
彼はグループチャットの画面が映った自身のスマホを俺に突きつけてくる。
剣崎「はぁはぁ……皇氏、一体何があったのだ? “死にます。探さないでください。屋上にいます。”、このメッセージは何であるか?!」
はははっ……、思わず笑みが零れそうになったぜ。お前たちのリーダーになれてつくづく良かったと思う。
真に受けてくれねぇと困るからなぁ。
剣崎の発言を皮切りに、全員、俺を止めるために口々に話し出した。
日下部「君が思い悩むのは珍しい。何があったのか相談してくれないかい?」
ガチで心配そうに俺を見つめる日下部。
お前がそう言ってくれると、何か勝った気分になるぜ。俺に対して何か冷たかったからな。
獅子王「皇、僕はゴミ捨て場から救ってくれた件の恩返しができてない。死ぬのはそれまで待ってくれないかキリッ」
対して、獅子王は少し面白がっている様子で、疼く右肩を抑えるようなポーズを取りながらそう言った。
こいつはただの厨二病。緊迫した状況だってのがわかってねぇみたいだな。
この期に及んでふざけるとは減点だ。
樹神「な…何、辛気くさい顔してんだよ、兄貴! い、一緒にパチンコしてハイになろうぜ!」
人差し指と親指でお金を表す円を作る樹神。
黙れ、ブロッコリー。何でもパチンコに絡めようとするんじゃねぇ。
ハイになれるのは、たまたま勝ってるときだけだぜぇ…。
「死んだらダメだ! 俺と一緒にモヒカッターの練習しようぜ!」
最後に、前髪を掻き上げながらそう言い放ったこいつ。
思い出したぜ。確か、文月が言っていた立髪斬斗か。
奴の鬼に傷一つ付けられない技なんかいらねぇよ。
全員、一通り言い終えた後で沈黙が流れた。ひゅーっと通り抜ける風の音だけが聞こえてくる。
刺激しないよう俺の様子を伺ってるみたいだが…。
俺は真後ろに振り向き、フェンスに向かってダッシュした。
「す、皇……!」
俺の名前を呼ぶ奴らの声を無視して、自分の背と同じくらいの高さしかないフェンスを乗り越える。
今フェンスを掴んでいるこの手を離せば、俺は真っ逆さまに落ちてコンクリートに打ちつけられるだろう。
獅子王「あ、あ………」
ようやくガチってことに気づいたのか、青ざめた顔で手を伸ばす獅子王。
パニックになって声にもならないみたいだな。強引に止めに来るかと思ったが、その心配はなかったみたいだ。
「ひひひ………ひゃはは♪」
こいつらの反応を見ると何故か笑けてくるぜぇ♪
俺はフェンスから手を離すと同時に、軽く足場を蹴って空中に身を投げ出した。
意外と余裕があって手を振ることができたので……
「ばいば~い♪」
一応、挨拶しといてやる。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~!!!」
あいつらの悲痛な叫び声が聞こえたと思った瞬間、俺の身体は下にぐっと引っぱられた。
思ったより身体は早く落ちていく。恐怖なんて感じる暇はねぇ。
待てよ、これで良いんだろうな…?
頭がコンクリートに直撃する手前で俺は初めて自分の勘を疑った。
ぐしゃっ…………。




