生徒会 - 獅子王 陽①
急遽、生徒会に所属する生徒たちが呼びだされた。
今は放課後、僕らは生徒会室の前で先生が来るのを待っている。
僕らを呼び出したのは、新しく生徒会をまとめている御影先生。
さっきジミーズのグループチャットに、友紀からのメッセージが届いた。
僕も彼の意見に賛成する。立て続けに事件が起きているから、新しい2人の先生にもしばらく警戒が必要だ。
「よぉ、ペテン師。不正して勝ち取った王座に満足か?」
少し遅れてやって来た彼は、僕を睨みつけていつものように毒を吐いた。
マッシュヘアで切れ長な目をしている彼の名前は、猿渡 玖音。
僕がいなければ、彼は生徒会長になっていた。
悪態をつかれるのも無理はない。僕は文月の改竄で生徒会長になったんだから。
彼は本気で会長の座を狙っていた。ありとあらゆる手を使い、200票近くを獲得。
僕がいなければ、彼はぶっちぎりで生徒会長に就任していたはずなんだ。
生徒会副会長の座に、彼は甘んじる気はない。
猿渡「まぁ、お前みたいなカースト底辺はそうでもしないと誰からも支持なんて得られねぇからなぁ」
切れ長で鋭い目を更に細めて、彼はそう吐き捨てる。
そんなになりたいなら、代わってほしいっていうのが本音なんだけど…。
一度、投票で決まったら1年間は代えられないのがルールらしいから。
猿渡「モヤシみたいな身体しやがって……。意地汚い心を持った上に、体格もゴミだと救いようがねぇな」
最初は、会うたびに言われる多彩な暴言に心を抉られていた。彼に非がない分、言い返すことはできない。
でも、毎日言われると慣れてくるもんなんだ。自分が必死になってやっていたことが、他の人の不正で台無しになったら、怒るのも仕方ないと思う。
ただ何度も言ってるけど、僕じゃなくて文月がやったって言うのを信じてほしい。
「だから、僕じゃなくて文月って奴がやったんだって! 生徒会長なんて代わってほしいくらいだよ!」
いつも同じ弁明しかしない僕のことがかんに障ったのか、彼は眉間にしわを寄せて舌打ちをした。
毎回、彼は新しい悪口を言ってくる。最近、彼の悪口のレパートリーがどれくらいあるのか気になっているところだ。
今回は何を言われるんだろう?
悪口に慣れていた僕の心にはかなり余裕があったと思うんだけど…。
彼が次に発した言葉によって、僕は一気に取り乱してしまった。
猿渡「チッ…、ヘラヘラしやがって。ゴリラみたいな顔しやがってよぉ!」
おい、それはダメだろ…?
僕は動揺を隠そうと笑顔を取り繕いつつ、反射的に彼の胸ぐらを掴んだ。
猿渡の胸ぐらを思わず掴んでから、遅れて僕の思考は回り始める。
ヤバいヤバい…。なんでこいつ、僕の特質を知ってるんだ?
一体、どこで見ていた? 鬼ごっこと石成高校に襲撃したときしか変身してないはずなんだけど…?
とにかく今の発言を撤回して貰わないと。
胸ぐらを掴んだ状態で、僕は彼を睨みつけた。
「他の悪口に訂正してほしい。僕の顔が何だって?」
いつも黙っている僕がやり返したからか、辺りはざわつき始める。
猿渡「何だよ! お前が悪りぃんだろクソがっ!」
僕の手を振り解こうと、声を荒げながら暴れる猿渡。
人間の僕の手じゃ彼を押さえるのは難しい。かと言って、今ゴリラになってみんなにバレたら本末転倒だ。
彼の胸ぐらを掴んだ手にぐっと力を入れて、僕も声を上げる。
「あぁ、改竄した僕が悪い。けど、君は今それ以上の大罪を犯そうとした。もう一度聞く。僕の顔が何だって?」
ゴリラ以外なら何でもいい。早く自分の口で訂正してくれ!
彼も僕の胸ぐらをぐっと掴んで、自分の方へ引き寄せた。額と額が微かに触れるのを感じる。
激昂している彼は僕に対して、怒りのあまり震える声でこう言った。
猿渡「お前を………服従させてやる」
ヤバい、これぶん殴られるのかな…? 彼の方が僕より背が高く力も若干強そうだから、振りほどけそうにもない。
喧嘩が始まる雰囲気になったとき、彼と僕の肩に手を置いた2人の人物がいた。
一触即発の僕らの間に割って入ったのは………
日下部「そこまでだよ。僕らは暴力団じゃないからね。喧嘩で解決なんてあってはならない」
景川「その通りだ、猿渡。いい加減、不正を疑うのは止めないか?」
彼らだった。この学校に生徒会副会長は2人いる。
猿渡と景川。
猿渡が僕を嫌っているのに対し、景川は僕を慕ってくれているみたいだ。
猿渡は僕の胸ぐらから手を離し、肩に置かれた彼らの手を振り払う。
舌打ちをしながら僕らに背を向け、少し離れたところの壁にもたれかかってスマホを触り出した。
2人の仲裁でトラブルにならずにすんだ。ほんと助かったよ。
日下部「君が怒るのは珍しいね。ちょっとこっちに」
日下部は僕に耳打ちをし、景川から距離をとって小声で話し始めた。
言ってなかったけど、彼も生徒会の一員だ。普段、生徒会活動に積極的に参加してくれている。
日下部「猿渡がゴリラと言ったのは恐らく偶然だと思う。だから、気にしなくていい。とは言っても、今回の急な打ち合わせ…。新任の先生には注意を払っておいたほうが良いだろうね」
冷静に考えると、確かにそうだ。急にその言葉が出てきたからあのときは焦ってしまったけど…。
そもそも僕の特質は、隠しておかないといけないのだろうか。
いつ猛獣になるかわからない僕と一緒にいるなんてみんな怖がると思って、言わなかったんだけど。
怖がられた結果、誰からも声を掛けられず僕は独りで高校生活を送る羽目に…。
いや、待てよ。もういるじゃないか。僕を受け入れてくれる人たちが!
僕と同じ特質持ちのジミーズのみんな。
…………。
ジミーズって何かダサいな。他の名前にしたほうが良い気がする。
ダサい名前のチームの彼らは、僕と一緒にいてくれる。
打ち明けて避けられてもいい。それを気にしない人だけと一緒にいれば良いんだ。
逆にもし、僕が暴走して何も知らなかった人たちを傷つけてしまうほうがまずい。
決めた。今ここで、僕はカミングアウトをする。
友達が……話せる人がいなくなるのが怖いっていうのは、自分本位な理由だ。
一応、僕は生徒会長を務めていて、みんなの安全を守る義務があるんだ!
決心した僕は、両手に力を込め天井に向かって思い切り叫んだ。
「僕は………ゴリラだあああぁぁぁぁ!」
日下部「………!」
ふぅ~、スッキリした! 心が軽くなった気がする。
みんな、僕の発言に狼狽えているけど僕は気にしない。
日下部「あのさぁ……」
彼は大声を上げた僕とは対照的に小声で話しかけてきた。
日下部「注意を払おうって今言ったばかりだよね? 今、手の内を明かすのは悪手だよ」
日下部はそう言いながら、ゆっくりと僕の後ろ側を見るように視線を動かし、彼の動きにつられて僕も後ろに振り返った。
最悪のタイミングだ…。いつの間にか僕の後ろに、警戒するべき御影先生が立っていたんだ。
御影「元気があって良いですね。遅れてごめんなさい。今、鍵を開けますね」
口角は上がっているけど、目は全く笑っていない。全てを見透かされている気分になる。
先生は僕の横を通りすぎ、生徒会室の鍵を開けた。
御影「お待たせ! みんな入ってください。今日は重要な打ち合わせよ」
先生の言葉を聞いて、みんな生徒会室へ入っていく。僕と副会長2人は全員入るまでドアの前で立っていた。
そのときに腕を組んだ景川の発した言葉が頭に残る。
景川「へぇ…。ゴリラ……か」
僕は、カミングアウトをきっかけにイジメられるんじゃないだろうか?
生徒会のみんなが教室に入ったのを確認してから、僕と副会長の2人も中へ。
みんなが席に着いたところで、今回の事件のきっかけとなってしまう打ち合わせが始まった。
 




