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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
鬼ごっこ編
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1日目 - 水瀬 友紀②

 放送のチャイムが3回。

 この学校では1回鳴るときと3回鳴るときがある。

 1回の場合、通常の連絡。誰かを呼び出すときとか部活が休みになったときとか。

 3回の場合は緊急事態。火災が発生したときや不審者が侵入したときなど。

 つまり、3回鳴ることは押し間違えや避難訓練を除いては滅多にない。


 今日は避難訓練とか、特に何もない日。

 押し間違えにしては一定の間隔で3回鳴らしている。


 本当の緊急事態かもしれない。

 不審者か? 火事か? それとも地震?


 先ほどまで賑やかだった教室が静まり返る。


『…ザッ…ザザッ……あー…あー……ザッ…聞こえてる?』


 どこかで聞いたことある声。だけど先生の声ではない。

 誰だ? ノイズが混じっていて聞きとりづらい。そもそも、こんなにノイズ酷かったか?


『あ、その様子だと…ザザッ……聞こえてるね…ザッ…電波悪いな…ザッ……さすがに遠いか』


 こちらが見えている? どこかにカメラが?

 それにこの声、やっぱり知っている。


『まぁ、いいや。手短に話そう。君たちにはこれから3日間、僕の造ったロボットと楽しい鬼ごっこをやってもらう。どこに逃げてもいい。まぁ町から出られると面倒だが、それも良しとする。壊してくれてもいい。捕まらなければ何をしてもいい。捕まれば人質、3日間逃げ切れば君たちは幸せな日常に戻れる……というわけで早速始めようか!』


 長々と話し始めたと同時に少しだけノイズが薄れた。


 わかった! この声は……



水瀬みなせけいか!」



 声の正体がわかった僕は思わず声を上げる。


 彼の名前は、文月ふづき けい


 全体的に整った端正な顔立ちに、この国の男性の平均身長より少し高い175センチくらいの彼は僕の友達だ。

 中学のときの同期で同じ高校なんだけど、違うクラスになってから最近は話してなかった。

 このクラスにもけいを知っている人は結構いる。地元の中学、地元の高校だから。


文月ふづき『フフッ…バレたか』


 正体がわかって、みんな安堵する。

 彼は幼少の頃からプログラミングや物づくりが得意だった。

 おまけにかなり冴えていて、普通の人が思いつかないような面白いものをよく造ってくれた。

 今回はロボットと放送室のハッキングか。随分ずいぶん、大胆だな。


樹神こだまけいかよ! 焦らすなよ! 兄さんやってんねぇ~!」


 この独特な言い回しをする彼は樹神こだま 寛海ひろみ

 かなりの癖っ毛で小学生の頃は髪が伸びると丸く膨らむから


“アフロ”

“ブロッコリー”

“カリフラワー”

“実験で失敗した頭”


なんて言われていたらしい。


樹神こだま「捕まったら殺す? 逃げ切っても景品無し? ハズレ台しかないパチ屋かな? 俺、降りま~す」


 そして今は、パチンコにハマっている。

 最近はパチンコに例えたツッコミばかりになった。前はもうちょっとキレのあるツッコミが多かったのに…。


文月ふづき『“殺す”とは言っていない。人質だ。後、君たちに拒否権はない。もう鬼たちがそちらに向かっている。笑ってないでそろそろ逃げたほうが良い』


樹神こだま「ちょっとトイレ行ってくるわ~!」


 話を聞かずに樹神こだまはトイレに行ってしまった。


 これはどこまで本気なのだろうか。ロボットを造るってのはけいならありえる。

 けど人質って何だ。もし、本気だとしたら何のために?


文月ふづき『忠告はした。それでは、3日後に。後、壊してもいいと言ったが…。耐久テストであらゆる銃火器を試したが、傷一つ付かなかったので戦うより逃げたほうが賢明だろう。それではよろしく。……ブツッ』


 放送はここで終わった。

 クラスはざわついている。


 冗談だと思って笑っている人。

 真に受けて少し不安になっている人。


 半々くらいだろうか。


辻本つじもと文月ふづきめ。ハッキングしやがったな! まぁなぁ授業中じゃなかったからなぁ、あまりキツくは言わんけどなぁ、ハッキングは犯罪だからなぁ、また後日なぁ、ちょっと指導するなぁ」


「ぎぃゃああああああぁぁぁぁぁ!」


 トイレの方向から聞こえてきた叫び声に先生の声が掻き消される。


 樹神こだま…? 何があった。


 あまりに大きい断末魔だったので教室にいた生徒全員が廊下へ飛びだした。

 すると、そこにいたのは2メートルほどある大きな黒い人型の物体。樹神こだま()()に髪を掴まれてもがいている。

 そして、後ろから同じようなものが複数体、こちらに向かって来ているのが見えた。


樹神こだま「デカいゴキブリイィィィィ~! 虫きらーい!」


 樹神こだま、それは虫じゃない。

 けいの言っていた“鬼”だ。


 僕も含めて、全員逃げ出した。あの放送の内容が全て本当だったと気づいて。

 ただ1人、辻本つじもと先生だけは樹神こだまを助けようと立ち向かっていった。


辻本つじもと「お前ら! 樹神こだまくんを放せ!」


樹神こだま「必殺! アフロブレイク! アフロブレェェェェイク!!!」


 背後から大きな声が聞こえてくる。かなり離れたはずなのに耳元で叫んでいるかのような大きな声。

 樹神こだま、僕は君のことを面白くない奴だと思っていたけど撤回するよ。


 君は死ぬ間際までエンターテイナーだったんだ。

 いや、人質って言ってたから死なないかもしれないけど。


 ダメだ。笑いが込み上げてくる。恐怖と笑いの感情が相まって足がガクガクと震える。

 笑うな。走れ! 逃げ切らないと殺されるかもしれないんだ!


 樹神こだまの最期のボケを聞いた大半の人は笑ったせいで転んでしまい、捕まってしまった。



__________________




 ……と言ったことがあったんだ。


 今は何とか逃げ伸びて川を泳いでいる。


 水泳を習っていて良かった。水が好きで水の法則を知っていて良かった。

 お陰で僕は魚のように何時間でも泳いでいられる。


 僕のクラスは樹神こだまのせいで全滅した。他のみんなも捕まってしまったのだろうか。

 いや、今は余計なことは考えないでおこう。とりあえず3日間ここで泳いでいれば大丈夫。

 かなりの時間、泳いでいるけど鬼とは遭遇しない。やっぱり、あいつら機械だから水に弱いのか。


 そんなことを考えていると、下の方で動いている大きな黒い影が目に入った。


 何だろう? 大きな魚かな? それにしては大きすぎる気がするけど。

 よく見るとだんだんと上がってきている。まずい、引き返そう!


 元いた場所に引き返そうと、身体を後ろに捻る。


 そ、そんな……。


 僕は今までにない恐怖を感じた。

 黒い影は一つだけではなく、気がつくと全方向から僕を囲っていた。

 ざっと10体くらいいるだろうか。こいつらの正体は…。


 もしかして………ワニ?


 いや、それはないと祈りたい。 

 この国にワニは居ない。


 外来種を逃がして問題になったりもしてるけど、ワニだけはやめてほしい。


 何なのかはわからないけど、その10の黒い影は明らかに僕に向かって来ている。


 そして、僕を完全に囲った黒い大きな影たちはゆっくりと水面に浮上してきた。


 見覚えのある黒光りした人型の物体。

 今は亡き樹神こだまにゴキブリと勘違いされたけいの鬼だった。


「何だよ! 驚かせるなよ!」


 ベシッ


 少しイラッとした僕は鬼に近づき頭を叩いた。

 ホッとしたのも束の間──。

 10体の鬼は僕を掴もうと手を伸ばしてくる。


 あぁ、そうだった! こいつら敵だ! 何でちょっと仲の良い友達みたいな感覚で頭を叩いてんだ。


 精神的にも限界が近い。まともな判断ができなくなっている。


 3日間、睡眠・食事・休憩なし──オリンピック選手もびっくりな72時間連続水泳なんて夢のまた夢だと痛感する。


 まずい。完全に囲まれてしまった。近づいたりせず、素早く泳げば逃げられたかもしれないのに…。

 川の近くにいる鬼に見つかって泳いでくるのは想定してたけど、まさか浮いてくるとは…。ほんと心臓に悪いことをしてくる。


 けい、君は本気なんだな。僕を……僕らを本当に……。


 72時間、気合の水中断食生活は止めだ。


 完全な防水っていうのなら、次の一手と行こうじゃないか。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ギャグみたいな能力を駆使して戦う 斬新で誰もやったことのない話ですね( ̄▽ ̄) [一言] 今、第四回「小説家になろうラジオ大賞」への 参加作品をいくつか執筆しているので 良かったら見に来て…
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