エピローグ - 水瀬 友紀⑧
3校の生徒たちとの大戦や、羽柴先生との戦い。それは、まだ昨日の話だと言うことに違和感を覚える。
あの後、顔面以外動かせない羽柴先生は的場に出血するほどの暴力を振るった疑いで警察に連行された。
警察は、先生が身体を動かせないことに疑問を感じているようだったけど…。
怜の唾液で固めてるからなんて言うと彼に殺されるだろう。みんなそう思っていたから、何を聞かれても知らないふりをしていた。
太ももを撃ち抜かれた的場と左足に火傷を負った朧月くんは入院。
命に別状はないものの、軽傷ってわけでもないから退院はしばらく先になりそうだ。
命を懸けて僕たちを守ってくれた男虎先生も病院へ搬送されたけど、生死は不明。
グラウンドに駆けつけた医師は、身体中に穴が空いた先生の身体を見て、原因がわからず頭を捻った。
そして今、僕は………
文月「羽柴先生の言っていた“神憑”と僕らの言っている“特質”には言い方以外にも違いがあると思っている」
慶が収監されている刑務所で、ガラスを挟んで彼と面会している。
脱走していたことが村川先生にバレて、彼の刑期は延長された。
1億年だった刑期は50億年に…。本人は生きてる内に出られないことに変わりはないと開き直っている。
そもそも慶なら、こんなやる気のない刑務所、いつでも脱獄できるだろう。
文月「それにしても鬼ごっこに学生大戦。君たちは大変だな」
はぁ、誰のせいだと思っているんだ…。
君が鬼ごっこをしたせいで学生大戦が起こってしまった。8割くらい君のせいでこうなったんだよ。
僕らは、羽柴先生の過去、“特質”や“神憑”と呼ばれている能力について話していた。
新庄が途中で遮った話の続きだ。
羽柴先生と当時、仲の良かった4人は一命を取り留めた。
病院で目を覚ました彼らは皆、何かしらの能力が備わっていることに気づく。
それだけですめば良かったんだけど、その日から良くないことが吉波高校を中心に起こり続けたんだ。
その不幸は近隣の地域にまで広がり、吉波高校は気味悪がられる。
最初の学生大戦が起こった本当の理由、それは大学受験のためじゃない。
羽柴先生は自身の力を隠すために嘘をついていた。
先生が高校生だったころは数十年も前。まだ呪いや怪異などが信じられていた時代。
吉波高校に災いをもたらす何かが棲みついていると思った住民は、近隣の亜和・七葉・石成の生徒たちに殲滅するよう促した。
もちろん、良識のある普通の高校生が大人の「殺してこい」の一言で従うはずがない。
だから、嘘をついたんだ。怪異に取り憑かれた吉波の高校生が大学受験者数を減らすために殺しに来ると。
立て続けに起こる不可解な出来事は彼らの仕業。先に始末しないとやられると焚きつけた。
何故、自分たちではなく高校生にさせたのか? それくらい、恐かったんだと思う。
そうして起こったのが最初の学生大戦。
羽柴先生たちは向かってくる彼らを能力で蹂躙した。
そのとき生き残った3校の生徒が、今の亜和の校長たちや生徒の親にあたるんだろう。
誤解されている。彼らは羽柴先生たちが大戦を起こしたと思っているから。
ちなみに怪異が取り憑いているというのは、あながち間違いではなかったのかもしれないと羽柴先生は言っていた。
覚醒した彼らの中の1人には視えていたんだ。たびたび話に出てくる最強と言われた彼には…。
自分たち1人1人に黒い靄のようなものが付き纏っていたらしい。
それを見て神や霊などの何かに憑かれていると思い、“神憑”と呼ぶようになった。
それが災いの原因だとすれば大きな選択をしなければならない。
自決して立て続けに起こる災いを止めるか。
災いと向き合いながら生きていくか。
高校生の彼らに自決する勇気なんてなかった。彼らは生きることを選んだんだ。
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羽柴『全てはあのとき自決しなかった私たちの責任です。今回のことも、文月君のテロも、私か貴方たちが引きつけてしまった可能性があるのです』
怜の唾液で身体を固められた羽柴先生はそう語る。
それに対して慶は、科学的根拠がないものは信じないと言い張っていた。
羽柴先生たちが自決しても解決には至らない可能性だってあると。
文月『特質には興味がある。特質を調べるついでに不幸が起こる原因を探ってもいいですよ。それに先生の能力と、僕ら側の特質は何か性質が違うような気がする』
慶は後ろに組んでいた手を顎に当てて考えている様子でそう返した。
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僕らが今、話しているのはこの違いについて。
羽柴先生たちは死にかけるまで普通の高校生だった。
確信はできないけど、生死を彷徨ったのがきっかけで覚醒したと思われる。
そして、僕ら側は死にかけたことなんてない。怜や陽のように元々持っている体質を隠していたり、新庄のように今まで自覚がなかった場合がほとんどだ。
それに彼らとずっと一緒にいるけど、不幸な出来事に巻き込まれたことなんて一度もない。
文月「後は格の違いだ。こっちがよだれ、オナラ、ゴリラ、ブロッコリーなどに対して何だあの反則技は…。何のデメリットもなく殺傷力の高いレーザーを連射しまくれる。あんなのによく勝てたな」
慶は椅子にもたれ掛かりながら、怪訝な顔をして腕を組んだ。
確かに、1対1だと絶対負けていた。
まぁ、君の造った金属バットや鬼も反則級に強いと思うけど…。
神憑である羽柴先生に勝てたのは、怜たちが自分の特質を理解して上手く使いこなしたからってことかな。
文月「わからないことだらけだが、その方が調べがいがある。次はどんなものが出てくるか楽しみだな」
そう言って楽しそうに微笑む彼に対し、僕は肩を落として軽く息を吐く。
「物騒なこと言うなよ。普通の高校生活ってもっと平和なはずなのに…」
文月「災いを引き寄せるっていうのが本当なら次も来るだろうな。まぁ、僕はここで君たちの闘いを堪能させてもらうとするよ」
自分が安全だからって、めっちゃ面白がってるじゃん。ここも安全かどうかわからないと思うけど…。
羽柴先生レベルの能力なら刑務所なんて余裕で壊せるだろう。
文月「後、全く関係ないが、1つ気になることがある。僕が言ったあの言葉…」
慶は目線をやや上に移し、思い出すような素振りをした。
あの言葉っていうのは、多分あのときのだ。
話の最後に羽柴先生は、僕らにあることを頼んできた。
そのときに返した慶の言葉が印象に残っている。
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羽柴『神憑でありながら生きるのなら……お願いです。貴方たちやその周りに降りかかる災い全てを断ち切ってください。今回のように誰も傷つけることなく…。そして、災いの原因を突きとめて解消してください。私を倒した貴方たちならできるはずです!』
屈み込んで話を聞いていた慶は、満足げに微笑んで立ち上がった。
文月『さっきも言ったが、先生とこいつらの能力の性質は違う。こいつらは神に憑かれているわけではないと思います。僕らが災いを引き寄せることはないが……もし、僕らに……この学校に“神憑”とやらが遣ってきたら…』
慶は少しの間を置いてからこう言ったんだ。
文月『この___奇っ怪な能力で神を討つ』
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文月「どこかで言ったような、聞いたような気がするんだが…」
彼は腕を組み、首を傾げている。
「マンガかアニメのセリフじゃない? ちょっと厨二臭いし」
文月「まぁ、そんな大したことでもないから良いか」
僕もどこかで聞いたような気はするけど。
何だろう…? 何か忘れているような…。
僕はそう思いながら、面会室の壁に掛かっている時計に目をやった。
そろそろ帰らないと。時計の針はもう6時を指している。
「じゃあ、そろそろ晩ご飯の時間だから帰るよ」
僕はそう言いながら、椅子から腰を浮かせた。
文月「そうだな。まぁ、何かあったらいつでも来い。“BrainCreate”の件には感謝している。欲しい物があるなら造ってやる」
腕を組んで椅子にもたれたまま、そう話す慶。
「ありがとう! じゃ、また来るよ!」
彼が率直に礼を言うなんて珍しい。あれを取り返せたのは朧月くんの消える特質のお陰だ。
怪我をさせてしまってホントに悪いと思っている。彼にはお礼もだけど、謝らないと…。
僕は慶に手を振って、面会室を後にした。
今度、みんなを誘ってここに来よう。トランプとか意外と盛りあがるんだよな。
学生大戦の件が一段落したのもあって、僕は少し浮ついた気分で家に帰った。
この日以降、しばらく慶たちと会わなくなることも知らずに……。
【 学生大戦編 ー 完結 ー 】




