1日目 - 水瀬 友紀①
はぁはぁ...
なんでこうなった?
息が苦しい。こんなに死ぬ気で走ったのはいつぶりだろうか。
真っ暗で街灯も何もない田舎道をただ走り続ける。
あれはいったい何なんだ?
確か自分で発明したものだと言ってたけど。見た目は全身真っ黒で光をほとんど反射しない。
ホームルームが終わってどのくらい経ったかわからないけど、もう日は沈んでいる。
この時間帯を狙っていたんだろう。あの感じだと近くにいても気づけない。
どこか奴らが追ってこれない場所、隠れられる場所はあるか。
あいつら速いし息も切れない。このまま走っているだけじゃ確実に捕まる。
そうか。あいつらは機械だ。
水だ。どんなに高性能な機械……いや、高性能で精密に作られた機械ほど水に弱いはず。
防水だったら詰むけど、走るより逃げ切れる可能性はある。
確かこの近くに大きな川があったはずだ。そこに行こう。
【時間はホームルームに遡る】
「起立! 礼! ありがとうございました!」
今日も終わりかぁ。いつもと変わらない1日だった。
辻本「じゃあ、明日までになぁ進路希望の紙書いてきてなぁ。まだ2年生だから決まってない人は興味のある学校とか、ざっくりこんな仕事に興味あるとかでもいいからなぁ」
忘れそうだから今書いて渡そう。
まだ進路なんて全然決めてないけど。
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学年:2年
学籍番号:02015
名前:水瀬 友紀
進路:どこかは決まってないけど大学に進学したいと思ってます。
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こんな感じでいいかな。
よし、まだ先生いるから出しにいこう。
今は放課後、みんなまだクラスに残って談笑している。
だいたいいつもこんな感じ。このクラスはみんな温厚で仲が良い。
ホームルームが終わってすぐに帰る人って基本いない。1人の不良を除いて。
だけど、今日は早く帰るべきだった。
水瀬「先生、今書けたので提出します」
辻本「お、ありがとな。水瀬はいつも早くて助かるよ。気をつけて帰るんだぞ」
水瀬「はい。ありがとうございます」
僕は先生に一礼してから、教室のドアの方に身体を向ける。
そのとき、放課後にはあまり鳴らない教室のスピーカーからチャイムが鳴り響いた。
このときはまだ何とも思わなかった。
ここから僕たちの長い物語が始まったんだ。
このチャイムが全校生徒を巻き込む“鬼ごっこ事件”の始まりだなんて──。
僕たちの長い物語はここから動き出した。