面接 - 水瀬 友紀④
昨日、皇からウホを確保したと連絡が入った。
今は1限が終わった後の休み時間。
僕は生徒指導室を借りて、能力を持っている人たちが面接に来るのを待っている。
まさかウホの正体が陽だったとは。ウホに会ったとき親近感が沸いたのはそういうことだったんだ。
陽は今年の4月、生徒会の選挙で9999票と圧倒的な支持を受け、吉波高校の生徒会長に就任。
凄いよ、陽。歴代最高の投票数に違いない。
生徒がおよそ300人しかないのに4桁の投票数。みんな、不正投票をしてまで陽になってもらいたかったのだろう。
彼は温厚な性格で、その暖かい心をもってみんなを包みこむことができる人だ。
それに加えて、いざというときはゴリラに変身して強さで守ることもできる。
彼はきっと良い生徒会長になるだろう。
さて、今日から本格的に能力を持った生徒を探さないといけない。
昨日のうちにある程度、準備は済ませておいた。
探すにあたって効率の良い方法は何か。ただ、闇雲に学校内を走りまわって1人1人に能力を持ってるか聞いていくのは効率が悪い。
あの盗聴器で得た情報通りだとすると、今から6日後に彼らは奇襲を仕掛けてくるだろう。
5日以内にこちらが先制し、相手の動きを封じなければならない。
そして、今回の作戦には能力持ちを集めること以外にもしなければならないことがある。
能力持ちを集めるのに費やせるのは今日と遅くても明日まで。
内申点を上げるというのを餌にして、面接方式で休み時間の合間に探す。
もちろん、校長先生から内申点のことは許可をいただいた。
僕が思いつく限りではこれが1番効率良さそうだ。というか、これしか思いつかなかった……。
必要なのは圧倒的な攻撃力や破壊力ではなく、あくまで誰も傷つけずに動きを封じる能力。
新庄の金属バットや立髪って人のモヒカッターは殺傷能力が高いため今回は使えない。
この2つの能力とは違い、傷つけずに動きを封じれる怜の唾液は適任だったんだけど…。
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僕は昨日の放課後、怜を生徒指導室に呼び出した。
剣崎「水瀬氏、私を叱責するつもりであるか?」
「怜、協力してくれ。君の力を最大限活かせば1つの学校を丸々封じることができるはずだ」
彼の質問を無視して、僕は協力してほしいと伝えるけど…。
剣崎「断る。君は私を社会的に殺したいのか? あのときは強大な敵を前にして、あれしか手段がなかったから使ったのだ」
僕にとっては頼もしい能力でも、怜にとってはただのコンプレックスなんだ。
何となく断られるんじゃないかなと思っていた。
「そこを何とか頼むよ…。今回だって下手したら誰かが死ぬかもしれない」
だけど、2度目の学生大戦が起こればたくさんの生徒が死んでしまうかもしれないんだ。
こっちも簡単に引き下がるわけにはいかない。
剣崎「はっきり言うが、文月氏の鬼と比べると学生同士の討ち合いなどただのママゴトである。他校でこの力を使うということは世間に知られると言うこと。よだれまみれの汚い奴というレッテルを貼られ、私の進学や就職の道は途絶えるであろう。悪いが他を当たってくれ給え」
確かに慶の鬼と比べると、武装した高校生なんてしれている。でも、どっちかって言うと今回の方が危険だと思うんだ。
「慶は僕らを傷つけないように手加減していた。今回の相手は鬼ほど強くないけど殺意を持っている。ある意味、鬼より危険なんだ! 頼む、協力してくれ!」
僕の押しに負けたのか、怜は少し俯き、顎に手を当ててしばらく考える素振りをした。
剣崎「うむ…。そこまで言うならば……」
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そこまで言うなら協力すると言ってくれたんだけど…。唾液の能力をいっさい使わないのが条件。
唾液のない怜なんてただの怜じゃないか……。
彼いわく格ゲーで動体視力を鍛えていて、相手の動きを見切れるらしいから、木刀や竹刀を持たせてくれればそれなりに戦力になれるとのこと。
…………ダメだ。
それが本当かどうかわからないし、敵地に乗り込めば恐らく相手は本気で殺しにくる。
そんな相手に木刀1本は無茶があるし、かと言って真剣を持たせて人を斬ってしまうと怜が人殺しに……。
この戦いに唾液を使わない怜を参戦させるのは危険だ。彼を採用するのはやめておくことにした。
ただ、良い知らせもある。動きを封じるのに最適な能力持ちがもう1人。
日下部 雅って人は協力してくれるそうだ。
慶との決戦時、彼は5体の新型の鬼を相手にして彼に打ち勝ったらしい。
らしいって言うのは……、なんでかわからないけど、彼がお尻を突き出したところで僕の記憶は途絶えていてその後のことがわからないんだ。
彼が言うには臭いオナラで相手を気絶させる能力らしいけど。
オナラで空を飛ぶこともでき、攻撃の届かない空中から学校中に臭いを撒き散らせば、彼1人で1つの学校を落とすことができるみたい。
これらのことは彼の自己申告だったから、さっきこの場で証明してもらったんだ。
臭いタイプの方はまた記憶が飛んで証拠にならないからと言って、無臭のタイプの方で彼は浮遊。
目の前で何のトリックもなく人が浮くなんてにわかには信じられないけど、本当に浮いていたんだ。
疑わしいところはまだあるけど、無敵の鬼5体を従えた慶を刑務所に送った実績があるから採用に。
そして、昨日この作戦に参加すると言ってくれた陽。
皇は学校1つ封じるくらいなら彼1人の力で大丈夫だと言っていた。
陽の能力と彼の発言を信じよう。皇とは一昨日話したばかりでそこまで信頼関係はないけど嘘はつかないだろう。
相手は3校。つまり後1人、適任者が見つかれば…。
その1人を見つけるのに今日と明日の2日をかけられる。作戦は今のところ順調だ。
まぁ、最終的には敵地に乗り込むわけだからどんなに順調でも不安は残るんだけど…。
コンコン
生徒指導室のドアが2回ほどノックされた。
そういえば、どうして生徒指導室を面接の場にしたのか言ってなかったっけ。
奇襲の話を誰にも知られず密かに面接できるのはこの場所しかなかったんだ。
あの3校の生徒たちが殺しに来ると公に知れたらパニックになりかねない。
早速、面接に来てくれて少しホッとしている。誰も来てくれないんじゃないかと言う不安があったから。
内申点アップというのが高校生にとって如何にパワーワードだと言うことがわかる。
「どうぞ、入ってください」
僕がノックに対して応えると、ガラガラと音をたてながらゆっくりとドアが開いていった。
見たことのない顔、初対面だ。
身長140センチあるかもわからない小柄でか細い体格をしている少年のような生徒だ。
全く生えクセのない直毛で襟足が長くいわゆるウルフカットのような髪型。
男子にしては随分と小さいな。ちゃんと食べているのかな?
この子……この人は多分、不採用だな。
僕の腕力でてきとうに殴っても骨折れそうなくらい貧相だから…。
でも、せっかく来てくれたんだから話は聞いてあげよう。
「来てくれてありがとう。まずは名前から聞いてもいいかな?」
生徒指導室にて、能力を持った生徒を集める初めての面接が始まった。




