全校集会 - 獅子王 陽①
【次の日】
急遽、全校集会を開くことになった。この学校の全生徒が体育館に集まり、全校集会が始まるのを待っている。
昼休みが終わるまであと少し。僕は壇上に上がり演台についているマイクに向かった。
「それでは、全校集会を始めます」
僕は、獅子王 陽。2年生にして生徒会長をやっている……と言うかやらされている。
強そうな名前だろ。だけど、僕は普通の髪型(短髪)、身長170cm前後の普通の体型で突出した個性もなくどこにでもいるような人間だ。
強いて言うなら、優しそうとかおっとりした目をしてるってよく言われるかな。
そんな僕がなぜ3年生を退け、生徒会長に選ばれたのか。
それは、この全校集会を開くことになった要因の1つでもある文月 慶の仕業だ。
毎年、この学校では新学期に新しい生徒会長の投票が行われる。
当然、僕は立候補せず、演説することもなかったから本来1票も入るはずがない。
しかし、結果は僕に9999票。2位は200票くらいと断トツで僕が1位になって生徒会長に選ばれてしまったんだ。
いや、疑えよ。明らかにおかしいだろこの数字。
この学校の生徒数は300行くか行かないくらい。まず、4桁の数字になることは絶対にありえない。
文月が学校のデータをハッキングして書き換えたんだ。
多分ただの悪ノリ。まぁまぁ仲の良い関係ではあるけども、やって良いことと悪いことがある。
お陰で300人中200票という圧倒的な支持を得ていた2位の人とその友達には冷たい目で見られている。
生徒会の座を本気で狙っていたらしいから。
勝手に立候補したことになっていて、拒否する余地もなくここに立たされている訳だけど、なんで急に全校集会をすることになったのか。
1つはさっき言った文月が起こしたテロについて。
2つ目は、彼のテロ行為によって近隣の高校がギスギスしていること。
このことに関する報告と注意喚起が主な内容だ。
昨日、僕らは歴史を教えている羽柴先生から学生大戦について教わった。
正直、そんな過去があったことに驚いている。そして、文月のテロをきっかけにまた大戦が繰り返されるかもしれない。
けど、これに関しては今日の朝、各校の校長先生が話し合って争いはしないことに決定したんだ。
このこともこの集会を通して全生徒に伝える。僕が壇上に立って言うのはここまで。
後は、歴史の先生で生徒会もまとめている羽柴先生と校長先生が話をして全校集会は終了。
羽柴先生は、あのときのような殺し合いは二度と起きてはならないと強く主張していた。
全校集会が終わり、みんな自分の教室に戻っていく。
僕ら生徒会も少し残って体育館の掃除や片付けなどをした後に解散した。
全校集会が予定より早く終わったため、次の授業まで後20分くらいある。
そう言えば課題まだやってなかったな。早く戻って終わらせようか。
少し早足で自分の教室に続く廊下を歩いた。
ん? 教室の前に誰かいる。
同じクラスではない。知り合いでもないな。
誰かを待っているようにも見える彼は、廊下側の壁に腕を組んでもたれかかっている。
彼を横切って教室に入ろうとしたとき、彼はある言葉を発したんだ。
「ゴリラ」
え? 今、何て?
いや、気のせいだ。多分、僕のことじゃない。空耳かもしれないし。
「ウホゥ! ウホゥ! ホーホーホー!」
そんなことを思っていると、彼はいきなりドラミングをしながら、こちらに向かってきた。
「おい! やめろ!」
僕はつい焦って彼に詰め寄り、ドラミングしている手を掴んでしまう。
すると、彼の口角と目尻は限界まで上がり悍ましさを感じさせる笑顔を作った。
「やっぱりお前だったか! あのときは助かったぜぇ! 会長ゴリラくん♪」
背筋にゾクッとした感覚が走り、思わず手首を離して2、3歩ほど距離をとる。
いったい彼は何者だ? なんでバレている?
いや、まだ確信しているとは限らない。平常を装いつつ僕はノリ良く返事をした。
「うるさいぞ! ゴリラじゃなくて破壊神みたいなもっとかっこいい名前で言ってくれよ! で、君は誰?」
皇「皇 尚人。水瀬の代理人ってことで、お前をスカウトしに来た」
いや、意味がわからない。水瀬って……友紀のことか?
「スカウト? 友紀と知り合いなのか?」
皇は常にニヤニヤしている。これが平常運転なのか。
何を考えているのか読み取りづらく、その笑顔からは若干の狂気を感じる。
皇「俺たちはお前の力を必要としている」
「な、何を言っているかわからないな。あぁ、投票数のこと? あれは僕じゃなくて文月が改竄したんだ。やり方は文月に聞いてくれ」
多分、バレてるぞ…。必死で誤魔化そうと試みるけど、彼はいっさい表情を変えず僕を見据えた。
皇「見苦しいなぁ♪ 下らないやり取りに付き合う暇はないぞ。早くしないと来る、第2次学生大戦がな」
 




