友人、神の力を手に入れる③
文月は我の問いに臆することなく淡々と答えた。
「別に君に用があるわけじゃない。有益なデータを収集させてくれたことに感謝の意を伝えたいだけだ」
不思議なことを言う。もう闘いは終わって君の仲間は全滅したのにデータを集めて何ができるのだ?
「そのデータとやらを参考にして君1人で我に挑む気か?」
油断はできない。神である故の傲慢さはもう捨てろ。二度も窮地に立たされるようなことなどあってはならない。
“BREAKERZ”は確かにこの手で葬った。だが文月は、何をしてくるか予測できない。
彼は今までに様々なものを創造してきた。普通に考えてこの状況を覆すのは不可能だが、彼が創ってきたものには人智を超えるものがある。
何か怪しい動きをしたら即座に指を鳴らさねば…。
「僕が今、君に挑んで勝てるわけがないだろう。僕は完璧主義者なんだ。たとえ勝算があったとしても確実に勝てる方法じゃないと実行しない。しかし、データを収集し対策することで少しずつこちらの勝率も上がってくる」
相変わらずよく喋る。全てを説明しないと気がすまないのだろう。
本来敵である我に話す内容ではない。勝率云々の話をした時点で我を討とうとしているのは明白だ。
どのような計画なのか全て聞き出すとしよう。
「随分堅実なことだ。だがどんなに情報を集めようとも、我が絶対的な神であり、君たち人間との圧倒的な差が埋まることはない」
まるで慢心しているかのような言いようで隙を晒す。
相手が油断していると思うと自身も気が緩んでしまうものだ。彼はただでさえよく喋る。更に饒舌になってくれるだろう。
「それはどうかな? 君は自我を失った鬼塚に力のみで圧倒された。僕も初めて見る状態だったが、“闘獣”とでも言っておこうか。御門伊織が止めないと君は負けていた。だが…さっきも言ったように僕は完璧主義者だ。勝てたとしても仲間が死んでしまっては意味がない。次は全員生存した上で君を倒す。いや、君を……必ず改心させる」
予想通り長々と話してくれたわけだが我は一つの言葉に引っかかった。
「次とは何だ?」
彼はニヤリと笑いポケットに入れていたボタンを取り出した。
我は警戒を怠ってはいなかった。文月が謎のボタンを取り出した瞬間、すぐさま指を鳴らす。
………………。
彼だけを対象にする余裕はなく、この世界全ての時間を止めた。
しかし………、
「後2つ、欲しかったデータがある」
彼は何事もなかったかのように話しだす。一体どうなっている? 先程から効かないのは何故だ?
「まず1つ目は、その“指鳴らし”の有効範囲だ。僕は今ここにはいない。君が見ているのは僕のホログラム。これまでに君は2回ほど神の力を使った。それはブラックホールの生成と鬼塚に対する時間制御。そのとき君から特殊なエネルギーを感知した。それと同じエネルギーが今、君の指から半径約10キロメートルの範囲内で発生。つまり君が全力で全ての範囲を対象に指を鳴らしたとしても、君から10キロメートル以上離れていれば、どんな効果であろうがこちらは影響を受けないわけだ」
何だと……? そんなバカな。有効範囲など、本来我が決めるものだろう。
完全に適合しているのになぜだ!
「有効範囲が限られていると推測したのはブラックホールを生成したとき。もし地球の地表付近でブラックホールが出現すれば、本来地球は一瞬にして押し潰され粉々になる。しかしそうはならなかった。ブラックホールの性質すらも10キロメートルの範囲を超えて影響することはなかったということだ」
我はそんな制約、信じない! だがもし本当なら…。考えられる理由は、あくまで我の肉体が人間であること。
その人間の身体に完全に取りこんだとしても、引き出せる力にはある程度限界があるということかもしれない。
まずい…。全てを見通す我の神眼も10キロメートル以上は適応されないとすれば奴の居場所を特定できない。あのボタンが何なのかわからない今、我は不利な立場にいる。
「そして2つ目。これはあくまで予想でしかないが…。君は確か完全に適合したと言っていたな?」
「あぁ、そうだ。それは間違いない。そ、そのボタンは何だ?」
我の問いは完全に無視され、彼は淡々と2つ目について語り始めた。
「君は恐らく______
“運命の最終決定権”を所有してない」
その言葉を聞いて身体が固まる。
何故その言葉を……その概念を知っている?
我が今、1番欲している権利。神を取りこんでも手に入らなかったもの。
「図星のようだな。その名の通り運命を決める権利。これによって定められた運命は、僕たちがどう足掻いても変えることができない絶大な力となる。どう抗おうと、既に敷かれた“流れ”に呑まれるだけ。定まった運命は一切の抵抗を許さない。僕が今、このボタンを押すことで君がその権利を持っていないことが証明される。もしそれを持っていたら、僕がこのボタンを押さない運命を決定するだろうからな」
やめろ…。頼むから邪魔しないでくれ!
「我が…我が神になったのは、私欲のためではない!」
「そう焦るな。これは君を殺すボタンではない」
そう言って彼は無情にもボタンを押してしまった。
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なぜ、このような事態になってしまったのか。
彼はどういった経緯で神の力を得たのか。
そして、“BREAKERZ”とはいったい…。
時間は彼らの高校時代に遡る。
【友人、神の力を手に入れる ー 完結 ー 】