法螺吹き - 皇 尚人⑫
生命の最上位神、興禅立休を子分みてぇに連れ回して何分経った?
生きてる心地がしねぇぜ。
吉波踊りの会場は、徒歩で全部回るには広すぎる。
広すぎるんだが…、もう1周しちまいそうなくらい歩き回ってるぜ…。
おいおい…。
俺のマジの子分ども、“BREAKERZ”は何処に居るんだぁ?
分け入っても分け入っても死体の山じゃねぇか。
“BREAKERZ”どころか生きてるパンピーすら出くわさねぇ。
興禅の野郎、“皆殺しにした”ってのは大げさでも何でもない。
こいつは祭りの会場に居たパンピーを1人残らず殺しやがった。
興禅「おい」
俺の法螺話を信じてずっと黙って着いてきていた興禅の低い声が、血生臭い会場に響く。
ちっ、そろそろ限界か。
ちょうど会場を1周して、奴と出くわした場所に戻ってきたところだ。
興禅「いつ着く? 同じ所をぐるぐる回る気か?」
俺は、背後から聞いてくる奴の言葉を聞いて足を止めた。
はぁ、いつになく今日はツイてないぜ。“強運”ってのは俺の代名詞じゃなかったのかぁ?
「どうした? 興禅立休さんよぉ」
俺はそれとなく返しながら考える。
流石に疑われるか。
どう誤魔化す? 誤魔化したところで奴らに逢えないと意味がねぇ。
そして、1つ……いや2つほど嫌な予感が頭を過った。
興禅「まさかとは思うが、嘘を吐いてないだろうな?」
絶体絶命も良いところだぜ。生まれたての赤ちゃん神でも流石に勘繰ってくる頃合いだな。
嫌な予感、1つ目──。
こいつは、はっきり言ってクソ強い。能力的にも性格的にもなぁ。
神の位とやらでも、最上位に位置する生命の神。簡単に言えば、神の中でも最強に近い存在だ。
その上、人を殺すことにも全くの躊躇がないサイコ気質と来た。
“BREAKERZ”は、既に殺られてるんじゃねぇのかぁ?
だとすれば、逢えねぇことにも合点が行く。死体の山に奴らも埋もれてるからだ。
これは俺の運が良いとか悪いとか以前の問題だ。
「ふっ、俺を疑うのかい? 立休さんよぉ」
あぁ、言われなくてもわかってるぜ。俺の語彙力はすこぶる低下している。
もはや名前しか呼んでねぇ。
嫌な予感、2つ目──。
まだこっちはマシだ。
全員死んでるよりかはな。
あいつら…。
陰キャだから祭りに来てないんじゃねぇのかぁ?
『夏と言えば、海! 花火! キャンプ!』
ってのは一般論だ。
あいつらは春夏秋冬、四六時中、家で引きこもってゲームしかしてねぇだろ。
だが、2つ目なら希望はある。
興禅「俺を馬鹿にしてるのか? 人間の分際で」
目を瞑ったまま、眉をひそめる興禅。
「あぁ、此処には居ねぇみたいだな」
俺はゆっくりと振り返りながら、余裕げに笑ってみせた。
そして、バイト着のポケットに手を突っ込みスマホを取り出す。
「これで、仲間を呼ぶぜ♪」
仲間っつっても、お前を打ちのめす俺の仲間……な♪
だが、こいつは…。
興禅「なんだ、呼べるなら最初からそうしろよ」
俺たちの仲間だと思うよなぁ。
かなり強引だがやるしかねぇ。
“あいつらに電話を掛けて助けを求める”。
回りくどい言い方なんざ、絶対伝わらねぇ。興禅には色々とバレちまうが…。
何も、俺はただぼーっとこいつと歩いていたわけじゃねぇ♪ “BREAKERZ”到着までの時間は稼いでやる。
「まぁまぁ焦んなよ、立休さん♪」
俺はこいつに対しニヤリと笑って、奴らのグループチャットを開いた。
そして、通話ボタンを押そうとしたその時──。
興禅の背後に2つの人影が見えた。
遠くてまだ顔は見えねぇが、2人は死体を跨ぎながらこちらに走ってくる。
1人はガタイの良い奴、もう1人は……女の人?
俺は勝ちを確信した。
ついに強運が舞い降りた。
「ヒャハハハハ♪」
興禅「うっ! なんだ?」
思わず高笑いしちまった俺にビビったのか、奴は1歩後ずさった。
女の方は知らねぇ。だがもう1人のあの体格、あの動きは知っている。
よりによって、最強の中の最強の男が俺の元にやって来た。
あいつは──“BREAKERZ”最強の特質持ち。
地球を鼻くそ穿りながらでも壊せる規格外の化け物。
“王撃”の…!
俺は笑いながら両手を広げて、彼を歓迎した。
「探したぜぇ♪ 鬼塚ぁ!!」
後ろに振り返る興禅。
こちらにやって来る2人の顔が月に照らされ露わになった。
翠蓮「ダメだ、母さん!!」
鬼塚母「うそ…。なんで…?」
…………。
翠蓮かよ…。
んで、もう1人は……鬼塚のお母さん?
妙にガタイが良いとは思ったぜ。鬼塚はもっと小柄で、見た目に関しては翠蓮の方が強そうなんだが…。
致命的な見間違えをしてしまったぜ。動きとか雰囲気似すぎだろ。血は争えないってかぁ?
最強の特質を持つ鬼塚とは違って、弟の翠蓮には何の能力もねぇ。俺と同じ、そこら辺のパンピーって奴だ。
鬼塚母「翠蓮、行きなさい。お母さんがあいつを食い止めるから…!」
質素な見た目と頼りない細身の体型のお母さんだが…、食い止めるってことは何かしら力があるのか?
翠蓮「何言ってんだよ! 一緒に逃げるんだよ!」
鬼塚母「言うこと聞きなさい! ほら、お母さんだって覚醒するかもしれないじゃない!」
生命の最上位神の前で、死体が転がる中、日常的な口喧嘩を始める鬼塚親子。
肝っ玉は世界最強クラスってかぁ? 話を聞いた感じ、こりゃおかんもパンピーだな。
興禅「生き残りか」
奴が言い合いしている2人に対し、そう呟いた瞬間だった。
ハハッ♪ 来たぜ、あの感覚がな。
先にキモさが脳に来る。
つまり、仕込みは大成功ってことだ。
棒立ちのまま何の動作や予兆もなく、光の速度で攻撃できる異能を持つ興禅立休。
そんな奴が、ピッチャーのような構えをとってこう言った。
興禅「4番バッター、興禅立休__結びます」
俺はその言葉を聞いて、奴の元へと駆け出した。
奴は、野球ボールを投げるように、鬼塚親子に向かって大きく振りかぶる。
興禅の光の異能──。
奴自身から事細かく聞いた俺は、その能力をこう名付けてやった。
興禅「線分光矢」
振りかぶった奴の手が眩く光り出す。
“キモさ”も万事健在♪
視える、キモい、大振りの三拍子。
光が親子に放たれる直前、俺は奴の背後から振り上げた腕を掴み、もう片方の手で首を締め上げた。
興禅「があ゛っ…!」
俺が教えたとおりにできてやがる♪
飲み込みが早ぇ優秀な奴だな。
腐っても神ってかぁ?
だが、1つだけ違う。
「ピッチャーな」
ドン!
俺はそう耳打ちしてから、自分の身体ごと奴を地面に叩きつけた。
軌道が上に逸れた直線状の光が夜空を照らす。
鬼塚母「きゃああ! ほら、危ないでしょ!」
翠蓮「あ、あれは……皇先輩?」
悲鳴を上げながら注意する母親に対し、翠蓮はこちらを見て俺の名前を呼んだ。
改めて久しぶりだな、翠蓮。
人工物くせぇ不知火もどきと殺り合った時以来かぁ?
興禅「クソがっ…!」
興禅と俺は、同時に身体を横転させて立ち上がった。
立ち位置が入れ替わる。
俺の背後には鬼塚親子。
修羅場と化した祭りの会場。
俺は振り返ることなく、翠蓮と母親にこう言った。
「走れ、パンピー親子! 最強のお兄ちゃん呼んでこい!」




