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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•夏祭り編
266/271

法螺吹き - 皇 尚人⑪

ーー


「通して! 息子が……息子が中にいるの!」


「いったい何があったんだ!」


「妻は……妻は………どこに? 祭りに行ったきり帰ってこないんだ!」


 口々に悲壮な声を上げる民間人。


 銃器を持った迷彩服の軍人たちが彼らを制止している。


 政府の軍によって、全域閉鎖された吉波踊よしなみおどりの会場。


 鳴り止まないサイレン。

 至る所で光る赤色灯。


水瀬みなせ母「友紀ゆうき…」


あずま「お兄ちゃん…」


民間人と軍隊のやり取りを遠目で見ている水瀬みなせの母親と、文月ふづきけいの妹──(あずま)


「クソ……、受験あるから行くなって言ったのに……!」


タバコを咥えて辛そうに頭を抱えているのは、獅子王ししおうあきらの父親。


 祭りの会場が興禅立休こうぜんりっきゅうによって血の海と化していることなど、誰も知る由もない。


 だが全国的にも有名で大規模な吉波踊よしなみおどりの急な中止と、軍隊による会場の全域閉鎖は、大事件やテロを彷彿とさせた。


「落ち着いて下さい! 中は危険です!」


「何があったか説明しろよ! うちの子は…!」


 軍人の注意に耳を傾ける者はいない。彼らを押し退け、大勢の民間人が閉鎖区域に足を踏み入れようとしたその時だった。


 周囲を覆う無数の黒い粒子。


「なんだ、これ?」


「黒い霧…?」


 異変に気づく者、目もくれず中に入ろうとする者、半々と言ったところだろうか。


現霧げんむ──」


 静かに呟いたある女性の声は、暴徒化しつつある人々の怒号に掻き消された。


 そして、その無数の黒い粒子は…。



ドオオォォォン…!


「「うわああぁぁぁぁ!」」



 がさつに民間人を後方へ押し退けた……というより吹き飛ばした。


 吹き飛んだ彼らと、会場を閉鎖した軍隊の間に距離ができる。


 軍隊の前に集約する黒い粒子は、人の形を成していき、ある人物の姿となった。



御影みかげ「全員、帰りなさい。ここに居たら餌になるわよ」



 量子の神が憑いた政府の人間、吉波よしなみ高校の教頭でもある──御影みかげ丸魅まるみ


 彼女は自身の異能で押し退けた民間人に対し、苛立った様子で言い放った。


 光の異能を持つ最強格の神憑かみつき興禅こうぜん立休りっきゅう


 彼に突撃した空軍は瞬く間に全滅した。現在、政府は興禅こうぜんに対し有効な策を講じられていない。


御影みかげ隊長…! あれは…!」


 かなり絶望的な状況の中、1人の軍人が上空を指さした。


 3つの異様な流星が、祭りの会場へと落ちていく。


「あれも……興禅こうぜんの……!」


 焦りを見せる軍人に対し、その流星を静かに目で追う御影みかげ


御影みかげ「違う、神の気配じゃない。あれは別の勢力…」


ーー



あぁ、クソ…。


今日はマジでツイてねぇぜ。


吉波踊よしなみおどり期間の単発バイトを終えて、帰りにコーラでも買おうとしたらこのザマだ。


自販機に500円を入れた瞬間、目の前が真っ白になった。


会場一帯がクソみてぇな光に包まれたって言うのが正しいのかぁ?


ピカッ! まぶしっ!


そう思った瞬間、全部変わっちまった。


買おうとしたコーラも、自販機も、入れた500円も──うじゃうじゃ居た人混みも……全部消し飛んでいた。


意味わかんねぇよなぁ? 俺はコーラのボタンを押すポーズで固まった。


『あぁ? 自販機どこ行った?』からの『おい、500円返せよ』からの『血の海』は、流石の俺様でもビビるぜ…。


だが、ビビって腰抜かして状況を整理して……なんて悠長なことをしてる暇はなかった。


いつもの“キモい”直感じゃねぇ。


キモさを感じてから動いていたら恐らくやられていた。


自分でも理解できないが…。


俺は奴の方へ振り向き、ありえないぐらい嗤いながらこう言っていたんだ。



「良いのかぁ♪ そんなもん撃っちまってぇ♪」



反射って奴かぁ? “キモい”と感じたのは俺の脳じゃない、脊髄だ。


派手な色の浴衣を着た坊主頭は目を閉じたまま、気圧けおされたかのように後ずさった。


こいつの名前は、興禅立休こうぜんりっきゅう。急に人をぶち殺したクレイジー野郎だ。


興禅こうぜん「やはり“口から出任せ”って奴だろ? 人間が神の力にどうこうできるわけがない」


「おう、そう思うならやってみろよ♪」


このやり取りも何度目だぁ?


俺と奴は一定の距離をとったまま対峙して、同じやり取りを繰り返している。


名前はその下りで聞いた。そして神がどうとか言いまくってる辺り、奴は神憑かみつき、もしくは神本体ってところだろう。


あの人殺しの光は、神の異能。


一瞬で大量虐殺できるぶっ飛んだ威力な上に、1発目はキモさを感じなかった。


1発目を貰わなかったのは、毎度おなじみ“運が良かった”って奴かぁ?


キモさを感じる頃には死んでいる。文字通り光の速さと核兵器並の威力を兼ね備えた、人殺し界隈最強の能力ってところだ。


興禅こうぜん「まぁ、お前1人如きいつでも殺せる。別に後回しでも良い」


めんどくさそうに頭を掻く興禅こうぜん


「いやいや、殺せてねぇだろぉ? わざと俺を残したかぁ? いち人間如きを敢えて残した、その心とは何ですかぁ♪」


内心ガクブルなのに、無駄に口だけは廻りやがる。無理してでも余裕げに嗤っていれば、ぽっと出の神には見抜かれる気がしねぇ♪


ピクリと眉を動かす興禅こうぜん


何かしらの能力で相殺した?


自分よりも格上の人間?


デマカセじゃない?


なんてなぁ♪


ただの強運だとしても、こいつは勘繰るだろうな。


興禅こうぜん「まぁ良い。仮に嘘じゃなくて、俺が死んだとしても問題ない。もう充分に()()()()()()


あぁ? こいつ、何言ってやがる。


充分に殺したから死んでも良い……だと?


ヤケクソの集団無理心中……いや違うな。だったら俺の言葉に耳を貸さずにぶっ放してるだろうよ。


となると、“死んでも復活できる手段がある”か、こいつは本体じゃなく“分身的な存在”か…。


真夏の夜、額から滲んだ冷や汗が元から掻いていた汗に紛れ込む。


高鳴る鼓動と緊迫感……じっくり考える余裕はねぇ。


「ハッ♪ 浅いんだよ」


俺は緊張を隠すため、前髪を掻きあげながら汗を拭った。


いつもの勘で行くしかねぇよなぁ。


「俺への攻撃をきっかけに、全部繋がるぜぇ♪」


奴がこの言葉に一瞬動揺したのを、俺は見逃さなかった。


「ネットワークって知ってっかぁ? 視えない物質で全部繋がってんだぁ♪」


興禅こうぜん「ネットワーク…?」


首を傾げる興禅こうぜん


ヒャハッ♪


心の中で響く俺の笑い声。奴への嘲笑と、確信を得た事への悦び。


ネットワークなんて言葉、今どき爺さん婆さんでも知ってるぜぇ♪


やはり、こいつは人間じゃねぇ。


たった今降り立ったレベルの……こっちのことを何も知らねぇ無知神むちがみだ。


神憑かみつき……、つまり憑いた神の力を使って暴れてる人間なら、まずそこには引っかからねぇ。


無知故に、かなり無茶なデマカセですら通ってしまう。これは、カモれるぜ。


「多少の自覚はあんだろぉ? 末端から大元、分身から本体、人の世は全部繋がってるんだ。来ちまったからには、神もこっちのルールにのっとることになる。ルール無視は不可能だ」


興禅こうぜん「どういう意味だ? 何を言っている?」


俺って奴は、法螺ほらを超えて新しい世界のことわりを創造しちまってるじゃねぇか♪


普通に見たら、ただの厨二病か夢想家でしかないんだろうが…。


「人間社会の初心者にわかりやすく教えてやるぜ。結論、俺に攻撃した瞬間、お前の本体は死ぬ」


興禅こうぜん「…………嘘だろ。死にたくなくて、お前は嘘を言っている」


「そう思うなら、やってみろよ♪」



ーー


 すめらぎが土壇場で説いた世のことわりを疑い、カマをかける興禅こうぜん


 内心、死への恐怖で震え、動揺や緊張も最高潮に達していたすめらぎだったが…。


 彼の巧みな話術や余裕をかました秀逸な演技によって、それらの感情は上手く隠されていた。


 すめらぎを攻撃したら、自身もやられる。嘘だと断定して攻撃するにはかなりの高リスク。


 自身が本体ではないことを見抜かれていると思った興禅こうぜんに、死のリスクを背負う勇気はなかった。


ーー



興禅こうぜん「お前、何者だ…?」


こちらを警戒しながら見据える奴を見て、俺は高らかに嗤いそうになる衝動を静かに抑えた。


殺戮最強の神に大法螺おおほらが通った瞬間だ。


俺は口角を限界まで上げて、狂った強者の如く笑って見せた。



「俺の名は、すめらぎ尚人なおと。人類で最も神に近い男だ。二度は名乗らせるなよ♪」



そして、俺は奴に近づき手を差し伸べる。


興禅こうぜん「何の真似だ?」


そう言うと思ったぜ。

生まれたての神さんよぉ。


「俺の手を握れ。“仲間”って意味だ♪」


興禅こうぜん「は…?」


変わらず警戒をしていた奴は、俺の手を取ることなく距離をとる。


ひとまず、攻撃される心配はなくなったがまだ終わりじゃねぇ。


俺の法螺は広く深く、まだまだ続く。


「まぁまぁ、肩の力抜けよ」


今度は余裕の笑いから真剣なフェイスに変えて、話を続けた。


「お前の野望と、俺の……()()()の目的は一致している」


興禅こうぜん「何だと…?」


こいつが何を考えているかはわからねぇが、後少しだ。こいつが乗ってきたら、こっちのもんよ。


「お前だけだと思ったかぁ? こんなこと、考えはするがしねぇんだよ。単体で見たら雑魚だがな、人間ってのはしぶといんだよ。だから、1人で人類虐殺なんてのは馬鹿で孤独な奴がやることだ」


眉をひそめる奴に、俺は真剣な顔のまま歩み寄り、もう一度手を差し伸べた。


「共に来い。お前の能力は俺たち……人類に仇なす神の抵抗軍レジスタンスの重要なピースに成り得る。お前が俺たちに手を貸した日が、人類最後の日になるだろうよ♪」


僅かに流れる沈黙。


辺りに充満した鉄くせぇ臭いが、今になって鼻を刺激しやがる。


深く考えたような素振りを見せた興禅こうぜんは、覚悟を決めた目でこちらを見据えて俺の手を取った。


興禅こうぜん「信じるぞ、すめらぎ尚人なおと。お前の仲間は特別に見逃してやる」


ハハッ♪ 有り難いお言葉だぜ。


いやぁマジで…。

嘘も方便すぎるだろ。


「歓迎するぜ、興禅こうぜん立休りっきゅう。俺の仲間はこっちだ。着いてこい」


俺は握った奴の手を離し、背中を向けて歩き出した。


無言で後ろから着いてくる興禅こうぜんは、俺を完全に信用しているみたいだ。


さて、俺の仲間は何処にいるかなぁ?


こればっかりは得意の“運任せ”だぜ。

全員、固まって居たら最高なんだが♪


「あぁ、そうそう♪ 地球歴18年に差しかかる大先輩の俺様が、お前にアドバイスしてやるよ」


興禅こうぜん「アドバイス…?」


俺は歩きながら振り返り、興禅こうぜんに話しかけた。


「能力の使い方がなってねぇ。棒立ちで、真顔で技を使う奴なんていねぇよ♪」


興禅こうぜん「技……俺の力のことか?」


こいつ…、マジで“地球にわか”じゃねぇか。そりゃそうか、マンガもアニメも知らなきゃ技とかいう概念もなく…。


逆にそれが厄介なんだよな。


“技”とかいう概念の無さが、キモさよりも速い“最速かつ読めねぇ攻撃”を実現させてるってわけだ。


「あぁ、こっちでは“言葉”や“動き”ってのが何よりも大事なんだぜぇ。威力、かっこよさ、共に倍増~♪ お前の能力を詳しく聞かせろ。俺が最適な技名と動きを教えてやるよ」


興禅こうぜん「そうか。俺の力は、光の──」


最早、奴に俺を疑う余地はないらしい。


奴は自身の能力について、詳しく語り始めた。


手の内わかりゃ対策もできんだろぉ?


って、思ったんだが…。聞けば聞くほど、クソみてぇなチート能力じゃねぇか。


こんなアホみたいな奴、パンピーの俺がどうこうできる相手じゃねぇ。


だが、やれることはやっておくぜ♪


ハハッ♪ 一応こんなんでも…。






()()()()のリーダーだからなぁ♪






「お前、説明うめぇじゃねぇか。そこらの人間よりわかりやすいぜ♪」


興禅こうぜん「そうか? 覚えた言葉を並べているだけだぞ」


俺は愛想良く嗤いながらこいつをおだてた。


ずっと後ろから着いてくる興禅こうぜん立休りっきゅう


転がる無数の死体を跨いで、俺は宛てもなく壊れた屋台を回る。


見覚えのある顔もちらほら居やがる。


知り合いってわけでもないが、吉波よしなみ高校の生徒とか、さっきまで一緒だったバイトのおっさんとかなぁ。


まぁ、俺のことだ。

すぐにえるだろう。


光の異能──。


【生命】の最上位神、興禅こうぜん立休りっきゅう


お前は()()()を見逃すと言ったなぁ?


慕ってくれてるところ悪いが──。











()()()BREAKERZ(ブレイカーズ)”は、お前を跡形もなくぶっ壊す。











むちゃくちゃしやがって、クソ野郎が。


ただで済むと思うなよ?



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