異能闘技 - 水瀬 友紀㊵
午前のプログラムは、陽や琉蓮の一件を除いて何事もなく終了した。
1時間ほどの昼休みを挟んで、午後のプログラムが始まる。
「みんな、午前中どうだった?」
薄暗い生徒指導室で弁当を広げる彼らに僕は問いかけた。
剣崎「特に何もなく…。普通の体育祭であった」
僕と同じ青いハチマキを巻いている怜。
日下部「そうだね、こちらも異常はなし。神憑の気配もないしね」
橙組の日下部と、彼をじとっと睨む陽。
朧月「…………。」
鬼塚「フフフ……フフフフ………」
紫組の朧月くんに、未だナーバスな赤組の琉蓮。
的場「俺らは絶好調じゃ! のうカリフラワー!」
樹神「カリフラワーはあきまへんわぁ! ブロッコリー最大の好敵手ですがなぁ的場はん!」
互いに肩を組む緑組の的場と樹神。
怜や陽、琉蓮といったお馴染み“BREAKERZ”の面々に加えて…。
霊園「“どう”とは…? 己は何を問うておる、水瀬友紀」
美澄「私は大丈夫だったけど、会長が…。鬼塚くんも結構落ち込んでいるみたいだし…」
紫色のハチマキを巻いた霊園さんと、心配した様子で陽と琉蓮を見つめる美澄さん。
彼女らも僕らと一緒に弁当を食べていた。
まぁ、霊園さんと朧月くんは弁当を持ってきてなくて何も食べてないんだけど。
朧月くんは小食で好き嫌いも結構あるみたいだから、食べれるものが少ないらしい。
彼は何かしら食べてるんだろうから心配なさそうだけど、霊園さんは食べる行為自体を忘れてそうなんだよな。
「まぁ、大体は問題なさそうな感じなんだね。陽も顔治ってるし、琉蓮も日にち薬で良くなる……かな?」
的場と樹神の2人を除いて、全体的にテンション低めな彼らに僕はそう言った。
生徒指導室が薄暗いからだろうか? 午前のプログラムが平和に終わったのに、みんな浮かない顔をしているように見える。
僕らに加えて女子が2人。それも才色兼備で美しい万能女子に、言動はあれだけど見た目はスレンダーで美人なミステリアス女子。
まさか僕らが女子と一緒に弁当食べる日が来るとは…! ついに僕らも陽キャラグループの仲間入り?!
なんて、素直に喜べるような雰囲気じゃない。
美澄「うん、そうだね…!」
僕の言葉に、美澄さんはニコリと微笑んだ。
直後に訪れる静寂。
フフフフ………
聞こえるのは、琉蓮の不自然な笑い声のみ。
まだそんなに話したことのない美澄さんや、幸薄そうな雰囲気を醸し出している霊園さんが居るからだろうか。
この沈黙はかなり気まずい。
樹神と的場のハイテンションも一発屋だった。
「り、琉蓮、大丈夫? 弁当食べないとお腹空くよ? 霊園さんも何か食べた方が良いんじゃないかな…?」
どんよりとした雰囲気に堪えられなくなった僕は、弁当箱に一切手をつけない琉蓮と何も持ってきていない霊園さんに話を振った。
鬼塚「良いんだ、友紀くん。僕みたいな人間は…」
そう言って黙り込む琉蓮。
この場の空気は、より重いものとなってしまった。
霊園「現状、身体は安定しておるが…。栄養は多く摂取するに越したことはない」
腕を組んで考えている素振りを見せる霊園さん。
霊園「水瀬友紀、己の忠告を聞き入れよう。丁度ここに栄養源たる箱が在る」
僕にそう言って立ち上がった彼女は、琉蓮の弁当箱に手を伸ばした。
もしかして、彼の弁当を食べようとしている? 常識的に考えてそんなこと…、なんて思うけど霊園さんはやりかねない。
「ちょっと…! 人の弁当はダメだ! 食べるなら購買で買ってこないと」
鬼塚「あげるよ、弁当。僕なんて死ねば良いんだ」
彼女を制止しようとする僕の言葉を遮る琉蓮。
霊園「何故止める? 死を望む此奴と、栄養を求める我の利害は一致している」
霊園さんは僕に問いかけながら、がさつに琉蓮の弁当箱を掴んだ。
もっともらしく言ってるけど、良いのかそれで…。まぁ、でも琉蓮自身ショックで食欲が湧かないんだと思う。
鷲掴みにした弁当箱をそのまま口元へ持って行く霊園さん。
食べずに残して捨てるくらいならあげた方が良いよな。彼がそれで良いなら。
美澄「えっと…、鬼塚くん。本当にあげても良いのかn…」
ガリッ…!
才色兼備かつ優しい美澄さん。
“本当に弁当をあげても良いのか”。
気を遣った彼女が琉蓮にそう聞こうとしたと同時に、その異音は鳴り響いた。
食べているとき、たまに聞く不快な音に近い。
卵の殻、浅利の砂を間違って噛んでしまったときに聞こえる音にそっくりだ。
霊園さんは変わっている。
常識の範疇にないことをする人だ。
だけど、これは予想できないよ。
美澄「う、嘘…」
日下部「な、何をしているんだい…?」
みんなが動揺するのも無理はない。
だって、彼女は今…。
バリバリバリバリバリ…!
剣崎「御弁当を御弁当箱ごと食べている…?」
怜が震える声で言った通り、霊園さんは凄まじい勢いで噛み砕いて食べたんだ。
的場「なんちゅうこっちゃ…」
樹神「ヤバいって…」
僕らは異能力を持つ高校生。だけど、弁当箱を貪る彼女を止められる人はいなかった。
鬼塚「べ、弁当箱が……コワレテ……。オトーサンにコロサレル……」
ガクッ…
弁当箱を食べられたのがかなりショックだったのか、琉蓮は座ったまま白目を剥いて失神した。
霊園「感謝の意を伝えよう。鬼塚琉蓮、餓死を願う己の心が我の腹を満たした」
氷の眼差しで気絶した彼を見下ろす霊園さん。
「良いから良いから!」
「見てるだけじゃ何も始まらないよ!」
「違う、そういうのじゃない!」
廊下から聞こえてくる女子生徒3人の声。
脳の処理が追いつかないまま、新たな刺客がやって来る。
「あの…! 私たちも一緒にお昼しても良いですか?」
僕らの視線は弁当箱を喰った霊園さんから、自然と生徒指導室のドアの方へ移った。
あ…、あの子だ。
僕に突進してきたあの子。
さっきお茶を吹き出したあの子。
雛と呼ばれているその子が、友達2人に両脇を掴まれて持ち上げられている状態でバタバタしている。
日下部「お昼を一緒にするのは構わないけど、むさ苦しい僕たちに何か用でもあるのかい?」
僕らが固まってる中、日下部は余裕の表情で彼女たちにそう尋ねた。
姫崎「違うっ! うちは用なんてない! 離せ、群れずに生きれない連れションフレンズ!」
日下部の質問に答えながら暴れる雛さん。
「「えっ、ヒドい!」」
ドサッ
ショックを受けたような表情を浮かべた2人は雛さんから手を離し、彼女は尻餅を着く形となった。
姫崎「き、急に手を離すのは違うと思う」
彼女は不機嫌そうに口を尖らせて、文句を言いながら立ち上がる。
言い合いになりそうな不穏な空気だ。
彼女たちもあれだけど、弁当箱ごと食べた霊園さんも大丈夫か?
「雛は私たちのこと、そんな風に思ってたの?」
「男子の前で“連れション”なんて言わないで、恥ずかしいよ…」
姫崎「む……うぅ……」
2人に哀しそうな口調で問い詰められた雛さんは、口を尖らせたまま硬直していた。
「私は雛のこと、大切な友達だと思っているよ」
「私も。1人で行けないからトイレに誘ってるんじゃない。私たちと雛、3人でトイレに行きたいんだ!」
固まった彼女に、2人は続けてそう話す。
トイレの話…? いまいち掴めないけど、彼女たちにはわかる話なのかな。
姫崎「う、うちも大切だと思う気持ちある。連れシ…、複数人で同時に用を足す行為に限らず、伝統や文化というものは、要る要らない関係なく語り受け継がれていくべきだと思う。さっきのは言葉の綾だと思って受け流して欲しい」
真剣な表情で語る雛さん。
やっぱり話の内容が掴めない。
てか、彼女たちはなんでここに? 特に用があるわけでもないのかな?
「うん、雛が良い人なのはわかってる。感情的になっちゃってごめんね」
「私もごめん。雛、大好き。ずっと友達だよ…!」
2人は雛さんの小さな身体を優しく抱きしめた。
姫崎「うん…、こいうい話し合いは大事だと思う」
照れ臭いのか、彼女は若干噛みながら返事をして辿々しいハグを返す。
ガタッ…!
さっと立ち上がる鼻息の荒い怜。
剣崎「まさか3次元で百合展開にお目にかかれるとは…! 尊い、非常に尊いであるぞ!」
彼はそう叫びながら、円陣を組んでいるようにも見える3人のハグに大きな拍手を送った。
気まずい空気がカオスになっていく。
「そうだ、自警部の皆さんに聞きたいことがあって!」
「そうだね! 忘れてた!」
姫崎「ん…?」
彼女たちはハグを止めて、僕らの方へと向き直った。
真ん中に立つ雛さんは、何を聞くことがあるのかと言わんばかりに首を傾げる。
僕も彼女と同じような気持ちだ。2人は僕らに何を聞きたいのだろう?
そんな疑問はすぐに解消された。
誰も予想しなかったと思われる質問。
「あの…!」
2人は雛さんを一瞥してこう言った。
「「文月くんって、彼女いるんですかっ!!」」
姫崎「…………ッ!」
フヅキ…、慶に彼女?
予想外の質問に思考が停止する。
日下部「慶に彼女……ね。恐らくいないだろうね。彼はずっと刑務所に居る。出会いがあるとは思えない」
微動だにしない雛さんと、パッと顔が明るくなる左右の2人。
日下部は顎に手を当てて話を続けた。
日下部「それに、いま彼は恋愛どころではなさそうだ。何か大きなものを抱えている。仲間である僕らにも言えない何かを…」
彼の言うとおり、慶は何かを抱え込んでいる。そして、それを僕らに打ち明けない。
彼女たちの質問に対しては、“十中八九、彼女はいない”というのが答えになるだろう。
「そうですか…」
「うーん…。これは中々…」
さっきとは打って変わって暗い表情を見せる2人に、日下部は優しく微笑んだ。
日下部「慶が収監されている刑務所を教えるよ。彼の話をうんと聞いてあげて」
「…………! はい!」
「ありがとうございます!」
日下部はスマホで地図を出して、慶の刑務所の場所を説明した。
その流れで、しれっと連絡先を聞こうとしたんだけどやんわり断られたみたい。
彼女ら2人と日下部のやり取りよりも気になることがある。
さっきから雛さんが入口の前で微動だにしないんだ。琉蓮に負けずとも劣らない直立不動っぷりだ。
いつから動かなくなったんだっけ?
そんなことを考えていると、的場がゆっくりと席から立ち上がった。
樹神「的場はん、急にどうしたん?」
隣の席で困惑する樹神を差し置いて、真剣な顔で雛さんの元へ向かっていく。
いったい何をするつもりなんだ?
目の前に人が来ても全く動かない雛さん。
そんな彼女に対し、的場はマッスルポーズを決めてこう告げた。
的場「ごっつい好きじゃ」
…………え? 今なんて?
すき……スキ……好き?!
まさかの告白?! なんで急に? 体育祭だから?
日下部「え…?」
獅子王「……へ?」
美澄「告……白……?」
「「えぇ─────?!」」
またも僕らは予想外の展開に意表を突かれた。
「雛、どうする?!」
「もうこっちにしとく?」
直立不動の彼女に、上ずった声で問いかける2人。
返事を待つ的場も満面の笑み&マッスルポーズのまま動かない。
的場と雛さんって結構仲良かったのかな? まさか初対面で告白とかしないよね?
いや、でも一目惚れとかなら…。
「ひ、雛…?」
「目に光がない。立ったまま気を失っている…?」
2人は雛さんの顔を覗き込んでそう言った。
彼女も失神…? 平和で敵もいない体育祭の昼休み。
この短時間で2人も失神するなんてことある?
ーー
姫崎雛が気を失ったのは友人2人が文月慶の恋人について質問した時だった。
“そんなことを聞いたらうちの好意がバレる”。
“ここに乗り込んできた時点でだいぶ怪しいのに…!”。
“もし彼女が居たら、うちの妄想BLライフは終わり”。
“てか、この尼どもマジ何してんねん”。
“もし、こいつらBLじゃなかったら、うちは今から押し倒されて襲われる? どないしよ、うちは何も抵抗できへんか弱い小さな女子。いや、鬼炎拳あるやんけ”。
“いや、黙れ自分。押し倒されて襲われる妄想に鬼炎拳要素は要らんねん”。
“てか、こいつら陰キャラでいつもイツメンの男としか絡んでないから、絶対溜まっとるやん。妄想通りのBLちゃうかったら普通にアブない集団やん”。
パチン……プスッ…。
姫崎の脳内で何かが事切れる音がした。
膨大かつ複雑な想いが彼女の脳内に溢れてショートしたのだ。
ーー
タッタッタッタッ!
廊下を駆ける音。
「はぁ…はぁ…! アンタ、ここにおったんか!」
また新しい人がやってくる。
面長でハーフアップの髪型が特徴的な彼女は、紫色のハチマキを巻いていた。
彼女は確かロベリアの1人。
名前は、蟻本 美羽瑠さん。
蟻本「ちょっと来て! アンタ、背もあってそこそこ強そうやし女子の部で出てもらうわよ!」
生徒指導室に入ってくるや否や、霊園さんの元に駆け寄り彼女の肩に手を置いた。
霊園「見知らぬ女よ、我に何用ぞ?」
霊園さんはいつもと変わりなく生気のない声で問いかける。
何かの競技で欠員でも出たのかな。
何も知らない僕はそんな風に考えていた。
蟻本「プログラム表見てみ。知らん競技が1個追加されてんねん」
でも、欠員とかじゃないらしい。
知らない競技…。僕はざっとしか見てなかったプログラム表を取り出してよく確認した。
開会式から始まって…、
プログラム1番“綱引き”。
プログラム2番“玉入れ”。
プログラム3番“徒競走”。
プログラム4番“吉波踊り”。
午前のプログラムはここで終了して昼休みに入る。
ここまでは予行演習通りだ。
そして、午後のプログラム。
プログラム5番…、“異能闘技”。
異能闘技…? これのこと?
確か5番目って障害物競走とかじゃなかったっけ?
名前からして嫌な予感がする。
蟻本「これのせいで、皆バタバタやねん。まぁウチらのチームは見つけたからええねんけど」
蟻本さんが言うには、人員を確保して出場しないと失格で最下位になってしまうらしい。それでは、他チームと大きく差が開いてしまう。
みんな、昼休みやその直前に気づいて慌てて人を捜しているんだとか。
蟻本「失格なりとうなかったら自分らも見つけた方がええで! 男子の部と女子の部で別れてるから要注意や! 霊園ちゃんやっけ? ほな行くでー!」
霊園「己は我を何処へ誘う?」
明るいトーンで話す関西弁の彼女は、あまりやる気の無さそうな霊園さんを立たせて無理やり引っ張っていった。
背が高くて強そうって言ってたけど、霊園さん大丈夫かな?
戦っているイメージが全く浮かばない。
僕らも人を捜した方が良いのかな。
体育祭に熱量のある人はかなりいる。出場せず失格になるのをみんな良くは思わないだろう。
昼休みは後何分だ?
僕はスマホを取り出して時計を確認した。午後のプログラム開始まで後5分ほど。
ダダダダ…!
廊下を駆ける大勢の足音?
何これ? 部屋めっちゃ揺れてるんだけど。
「見つけたぞ、“BREAKERZ”!」
「こんな陰気くさいとこに居たのか!」
大勢の生徒がもの凄い必死な顔をして入ってくる。
陰気くさいって、ここが部室なんだけど…。
姫咲「居た、姫崎雛! 異能闘技、出て! ムカつくけどあんた強いから…!」
トン!
ロベリアの姫咲さんが直立不動の彼女の名前を呼んで、肩に手を置いた。
苗字、同じなんだ。
姫崎「はっ……!」
肩を触られると同時に雛さんは動き出す。
姫崎「いやん、やめて」
ドスの利いた低い声。
一気に静かになる生徒指導室。
ーー 気を失っている間、彼女は夢を見ていた。盛大な妄想で溢れる如何わしい夢を…。
姫崎「へへっ、身体は正直じゃねぇか。いやん、触らないで」
低い声で淡々と語る彼女。
みんな、雛さんの奇行に注目していた。
一人二役で何かやってる感じはするけど、内容が……結構ヤバいぞ。
姫崎「いやん。いやん。やめて」
とんとん
姫崎「いやん……って何、連れションフレンズ? いま良いところ」
心配そうに優しく肩を叩く友達に対し、彼女はむっとした表情を見せる。
「えっと…、いつものあれだよね?」
「みんな見てるから、今はやめた方が良いかも…。近くにノートないから爆発しちゃったんだね」
いつもの…? え、いつも1人でこんなことしてんの?
姫崎「ちょっと待って、これ夢じゃない現実。“いつもの”……“ノート”……バレとる?」
焦ったような顔をして、頬を思い切りつねる雛さん。
赤く腫れた頬をさする彼女の顔はどんどん青ざめていく。
そして…。
的場「ごっつい好きじゃ」
的場は再び彼女の前に立ち、さっきとは違うマッスルポーズを決めて二度目の告白をした。
バキイィッ…!
その直後、彼の顔面に雛さんの拳が食い込んだ。
的場「ノオォ…!」
叫ぶ間もなく仰向けに倒れる的場。
そんな彼に馬乗りになった彼女は…、
姫崎「終わった! 全部終わった! 普通にバレとった! 全員殺してうちも死ぬうぅ!!」
ドドドドドドドドドド…!!
そう叫びながら、的場の顔面に凄まじい速さで連続的にパンチを打ち込んだ。
的場特有の叫び声“ノオオォォン”が上がらない。
叫ぶ暇も与えずボコボコにしているんだ。
「雛あぁぁ!! 殺しちゃダメえぇ!」
「断り方ってものがあるでしょ!!」
2人は彼女の身体を持ち上げて的場から引き剥がそうとするけど、全く動かない。
まずい、このままじゃほんとに死にそうだ。
「雛さん!! 彼はダメだ! 本当に死んでしまう! 殴るなら、太陽を見たら治る陽を殴ってくれ!」
獅子王「え……ヒドい……」
僕の声は届いていないのだろうか。雛さんはこちらに見向きもせず、的場をひたすら殴り続ける。
日下部「的場、成就したんだね。おめでとう」
日下部は赤くなった目を擦りながらそう言った。
何言ってんの? 泣いてる暇があったら、放屁で止めてくれ!
日下部「それにしても、彼女の愛情表現はカマキリみたいに壮絶だね。好きな女性に愛されながら死ねるなら彼も本望だろうさ」
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
風の理で発生させた強風と、ゴリラになった陽と普段鍛えている怜の力で何とか彼女を引き剥がした。
慶と2人で僧頭先生を倒した雛さんの強さは伊達じゃない。
味方になってくれたら頼もしいだろうけど、情緒不安定なところがあるのかな。
美澄「それでは、午後のプログラムに移ります。えっと…、プログラム5番“異能闘技”です。準備ができるまで少々お待ちください」
グラウンドに戻ってきた僕ら。
少しばかり疲れが見える美澄さんの声が反響する。
全く休めなかった怒濤の昼休みを経て、僕らは謎のプログラム“異能闘技”に臨むこととなった。
 




