神対策 - 文月 慶⑭
僧頭「融かせ__千本頭剛義」
無数の白く輝く頭頂部から僕に向かって放たれる幾多の熱線。
『予測演算開始完了』
対してこちらは“FUMIZUKI”に“AntiDeity”を託し、全てを熱線の相殺を試みる。
“AntiDeity:Mode.OFFSET_AutoAI”。
ピカーン! ピカーン! ピカーン! ピカカーン!!
直進する熱線、曲がってくる熱線。
1つの熱線に対し、ちょうど同じ直径の壁を形成。
多様な軌道を描く熱線だが、“FUMIZUKI”は完璧かつ高速な演算を基に寸分の狂いもなく相殺していく。
今のところは、相殺率100パーセント。
「ふっ…、やるじゃないか」
多少の相殺漏れはあると予想していた僕は、こいつの完璧な仕事に対し思わず褒めてしまう。
“FUMIZUKI”の演算に関しては全く問題ない。
だが…。
僕はどんどん熱くなっていくスマホをポケットに仕舞って、ある構えをとった。
アプリの高負荷な処理がスマホに熱を持たせている。
充電切れやオーバーヒートによってスマホが強制終了したら僕の負けだ。ここが現実なら跡形もなく焼き尽くされるだろう。
“AntiDeity”には2つほど欠点があるとさっき言ったな。
1つ目は今の話と被るが、充電の減りが激しいこと。スマホの電源が落ちたら僕は無防備になる。
そして2つ目の欠点だ。
それは、異なるモードを同時には使えないこと。
つまり今この相殺に徹している状態からは、攻勢に出れないということだ。
相殺モード中は敵の攻撃を往なすことしかできない。逆にこちらが攻撃するモードの場合は、敵の攻撃を相殺することができないんだ。
完璧に相殺している反面、防戦一方というあまり良くない状況でもある。
ただ、それはアプリだけで戦う場合の話だ。
僕が無数の頭に対してとったこの構えは…。
「妖瀧拳、錯綜・泡沫の構」
両手を開いた状態。
右手は下に向けて腹部の前に添え、左手は心臓を守るように左胸の前に添える。
妖瀧拳の基本の構えだ。
「FUMIZUKI、仕掛けるぞ。引き続き僕を援護しろ」
『了解しました』
今から僕は僧頭に向かって走り出す。僕が動く分、相殺の演算は複雑になるだろうがこの出来なら心配ないだろう。
問題は僕を囲い込む無数の頭が邪魔で、どこに本物がいるかわからないことだが…。
「千本頭剛義・巨頭熱線」
全く効いてないことに気づいたのか、奴も出方を変えるようだ。
皇ではないが、これは運が良いと言えるだろう。
展開された無数の蜃気楼的なハゲ頭は一点に集まり、1つの巨頭へと変貌する。
巨大隕石のような圧迫感を放つ巨頭は上空でニヤリと笑い、こちらに光り輝く頭を向けてきた。
それと同時に邪魔な頭がなくなり、本体の姿が露わになる。
僕の前方に立ち、巨頭と同じ表情を浮かべる僧頭。
無数の頭を展開する前と位置は変わっていないみたいだな。
僧頭「融けて無くなれ、不良生徒!」
ピカーーーーーン!!
巨大隕石1個分の極太熱線がこちらに向かって放たれた。
眩しさは変わらない。ていうか、これ以上眩しくなったら失明しそうで怖い。
あのハゲはバカだ。神性子を視認できるようだが、この壁は大技を当てれば突破できるというものではない。
仮に大技を放つ際に“Deity値”が上昇したとしても、アプリがその値を上回る壁を再形成する。
こいつの神が弱いから通らないんじゃない。たとえ最高の位を持つ神が相手でも、真っ向から戦えるように設計したつもりだ。
つもりと言ったのは懸念要素が多少あるのと、テストがまだ不充分だからな。
雑魚は雑魚でもこいつに憑いた神を倒せたら、それは大きな1歩になる。
迫り来る巨大熱線。
僕の前に形成されたであろう神性子の壁と接触する。
技が変わろうと当たり前のように相殺し、奴に接近できると思っていた。
『バカな…。相殺できない?』
思わず漏らしたその言葉を最期に、僕は熱線を喰らって跡形もなく消滅した。
僧頭「死んだか、次は“BREAKERZ”だ」
音もなく消える巨頭。奴は完全に臨戦態勢を解いたというわけだ。
この僕を殺せたと思ってな。
ザッ…!
あまりの高熱に融けた砂、舞い上がる砂埃に無機物が焼ける臭い。
僕は油断を見せた奴の死角から接近し、右手の拳で大ぶりに殴りかかった。
僧頭「なっ…! 死んでいない?!」
まぁ死んだように見えて当然だ。
初見では確実にそう思い、2度目以降も見破れない。
「残念、あれは“RealWorld”が創り出した偽物の僕だ」
ちなみに言うと、意表を突くため相殺はあえてしなかった。あの程度の技、しようと思えばいくらでも出来る。
初手で囮を使うのはかなり有効だ。相手の能力を知った上で本番に行けるからな。
“RealWorld”内では任意のタイミングでいくらでも創れるが、現実ではおむすびせんべい型ホログラムを代用しよう。
僧頭「私の熱さを思いしれぇ!」
大ぶりに殴りかかった僕に意表を突かれたものの、奴は白く光った頭を突き出して対抗してくる。
このままただの拳と高熱の頭がかち合えば負けるのは拳の方だろう。
鬼塚とか男虎先生とか、フィジカルお化けの場合は例外だが…。
この突きは妖瀧拳、錯綜・泡沫の構から放ったもの。
大ぶりの素人パンチはブラフ。
本命は背後からの蹴りだ、頭にしか能が無い僧頭剛義。
妖瀧拳特有の間合いで背後に回り込んだ僕は、奴の背中に足のつま先を軽く押し当てた。
「石穿雫突、我流蹴りバージョン」
大した力は加えていない。
だが、この蹴りは…。
僧頭「がっ……はっ……!」
僅かな力で内臓に大きな振動を与え、五臓六腑を通じて全身に激痛を走らせる。
口から胃液を吐き白目を剥いて倒れ込もうとしている奴に対し、僕は更に同じ蹴りを加えた後で背中を思い切り蹴飛ばした。
声を上げる間もなく、数メートル先まで転がる僧頭。
石穿雫突蹴りバージョンを二度喰らわして蹴り飛ばしたんだ。
奴に神の力を行使する余力はない。
激痛に悶えながら意識を保つので精一杯だろう。
小学生の時にやっていた妖瀧拳の練度を上げる。
それも神対策の一環としてやっていた。
“BREAKERZ”の奇っ怪な能力に頼らず、僕自身の力であの神を討ち取るために。
「FUMIZUKI、お前にしては良くやった。後は太陽神とやらを殺すだけだ」
僕はスマホを操作し、“AntiDeity”を手動に切り替える。
そして、相殺モードから抹消モードへ。
実験は上手くいった。この程度の神なら現段階でも難なく倒せるというわけだ。
『文月、アプリ“RealWorld”に異常が発生しています』
僕が勝ちを確信し、気分良くモードを切り替えようとしたタイミングで“FUMIZUKI”はそう言った。
「異常? 何の異常だ?」
スマホを操作する手を止めて、僕は問いかける。
『生成したこの空間に歪みが生じています。視認できるほどではないのですが、正常な動作をしない恐れがあります』
歪み…。どういうことだ?
外的要因か? 現実側から別の神が干渉してきている?
いや、違うな。まぁ何でもありの神のことだから、干渉も有り得ないことではないが…。
『原因は、“AntiDeity:Mode.OFFSET”にあると推測します』
こいつと同じく、僕も神の力を相殺するモードに原因があると考えた。
“RealWorld”は、謂わば神の力と科学の融合によって完成したアプリだ。
このアプリの開発には、御影丸魅の能力である双涅の霧の粒子が関与している。
日下部の発言から、御影に憑いた神の位も大して高くはなさそうだった。
“AntiDeity:Mode.OFFSET”によって出力された神性子の壁のDeity値が、御影に憑いた神の値を上回ったのだろう。
“RealWorld”で創り出したこの空間も相殺の対象になってしまったというわけだ。
“RealWorld”内で“AntiDeity”を使い続ければ予期せぬ異常が更に発生するかもしれない。
これ以上ここで戦うのは危険だ。
後はとどめを刺すだけ。皇を含めた野次馬が鬱陶しいが仕方ない。
早々に避難させれば巻き込んでしまうことはないだろう。
「あぁ僕もそう思う。“RealWorld”を解除して早急に終わらせよう」
僕は“FUMIZUKI”にそう告げてから、スマホを操作し“RealWorld”を解除した。
現実に戻ってきた実感はすぐには湧かない。
強いて言うなら、僧頭が放った熱線によって融けていた砂が元の状態に戻ったくらいか。
皇「お前ら全員、今日から無期限で俺のパシリな」
「そ、それだけは勘弁を!」
「3日とかじゃダメかなぁ…?」
「女の子をパシリにするってどういう了見? 男としてそれどうなん?」
「あんた、“BREAKERZ”のリーダーなんだろ? 無条件で守ってくれるヒーローみたいなもんじゃないのか?!」
校舎の近くで言い合っている皇と野次馬。
僕らからこれだけ離れていたら問題ないとは思うが…。
皇「おいおい、逆ギレかぁ? こちとら死にかけたんだぜぇ? お前、教科書担当。お前、体操服。お前、リコーダー。お前、墨汁と半紙。安心しろ、男女平等にパシッてやるよ♪」
1人ずつ指さして、勝手に担当を決めていく皇。それに対し、野次馬の声は更に大きくなった。
ふっ、小さい奴め。あれにリーダーの器があるとは到底思えない。
下らない言い争いをしている暇があったら、早く僕に校章を返せ。
「皇! そいつらと校舎に戻れ! まだ終わってないから念の為……」
僧頭「うぅ…」
僕が声を上げて皇に指示を送るや否や、うつ伏せに倒れた僧頭が頭だけを上げてこちらを睨んできた。
僕と奴の存在に気づいた皇は何かを察したのか、焦った様子で野次馬にこう言った。
皇「お前ら走れ!」
腐っても“BREAKERZ”のリーダー。それなりの信頼はあるのか、単純に僧頭が怖いのか。
文句を言いまくっていた奴らも皇に続いて校舎の方へと走り出した。
そして、うつ伏せの状態でこちらを睨んでいる僧頭の頭が白く光り始める。
同時に僕の周辺も白く光り出し、足場の砂がどろどろと溶け出した。
僧頭「千本頭剛義・太陽院地獄堂」
ーー
千本頭剛義・太陽院地獄堂。
この技は僧頭剛義の奥義と言えるだろう。
文月慶を取り囲んだ輝く業火は、巨大な仏堂を象った。
万物を融解させる業火で象った仏堂の中に閉じ込められて無事でいられる者はいない。
僧頭「うぅ…、今度こそ“BREAKERZ”を…」
身体中に痛みを感じながらも起き上がる僧頭は、文月の死を確信していたが…。
ギギギ……
ゆっくりと開いていく巨大な仏堂の扉。
僧頭「まさか…」
開いた扉の中から文月慶は表情1つ変えずに無傷で出てきたのだった。
ーー
僧頭「まさか…」
こちらを見る奴の表情からは驚きと絶望が窺える。
どうやらこれが最終奥義だったようだな。
「お前の能力は効かないと何度も言っているだろ」
僕は炎で象られた仏堂の階段を降りながら奴にそう言い掛ける。
“AntiDeity:Mode.OFFSET_FullBody”。
これは僕の全身を神性子で覆い、僕に降り掛かる全ての能力を相殺するものだ。
最初からこれを使えば良かったと思うだろうが、“FullBody”はかなりの負荷がかかるんだ。
奴の奥義発動から今までの間でスマホの充電を20パーセント消費した。
全体の充電は残り30パーセントほど…。
「悪いがもうそんなに余裕がない。手荒になるが、骨の1本や2本は堪忍してくれ」
僕は両手に拳を作りながらそう言って、奴の元へ駆けだした。
僧頭「うっ…!」
接近した僕に対し、奴は反射的に頭を突き出して身を守ろうとする。
良いことを思いついた。これなら大した怪我をさせなくて済む。その上、意識を確実に飛ばせるだろう。
若干怯えながら頭を突き出した僧頭に対し、僕が繰り出したのは…。
妖瀧拳の中で最も攻撃的かつらしくないゴリ押し技。
「溺葬波濤」
ゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!
妖瀧拳特有の間合いやフェイントは使わず、単純な突きの連打で圧倒する。
僕は突き出されたハゲ頭を思い切り殴りまくった。
頭蓋骨はかなり硬くそう簡単には壊れない上に、脳震盪を起こして失神させられる。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!
僕の連打によって鳴り響く僧頭のハゲ頭。
頭を殴りまくるという構図は野蛮だが、見かけに反して割と平和的な攻撃だと思う。
そして、ある程度殴りまくった所で、僧頭は白目を剥いてその場に倒れ込んだ。
こいつが気を失うと同時に、炎で象られていた仏堂も静かに消えた。
広範囲に溶けた砂の異臭が鼻を刺激する。
僕はよく生きていたな。神性子を身に纏った状態では熱さすらも相殺できていた。
我ながら素晴らしいアプリを創ったものだ。
さて、後は神本体か。
相殺モードから抹消モードへ切り替えよう。
熱くなったスマホでアプリを操作する。
“AntiDeity:Mode.DELETE_TrackingSpear”。
これが抹消モードだ。
神を跡形もなく消し去る攻撃的な神性子を出力し、それを槍状に形成する。
この槍が神に刺されば抹消完了。
そして、その槍は一度放てば命中するまで対象の神を追尾する機能付き。
普通の人間である僕には神性子も神も視えない。
だが、今握り締めたこの右手に槍があることはわかる。後は投げるジェスチャーが追尾開始の合図となり、神を屠るまで追い続けるだろう。
僕は右手をゆっくりと後ろに引いていく。
「太陽神とやらよ。これで終わりだ」
そして、神性子の槍を投げようとしたその時…。
朧月「やめて…………!」
朧月が目の前に現れて僕の手首を掴んだ。
「うっ…、ビックリさせるな! 最後のとどめだ。邪魔しないでくれ」
突然現れた朧月の雰囲気にビビった僕は、フラつきながら何歩か後ずさる。
朧月「神は………悪くない……! 時神や…………シリウスと…………同じ」
時神…、シリウス…。
悲壮感漂う彼から出た言葉に、僕は少しばかり考えた。
朧月や日下部に憑いた神の名前だ。
直接話したことはないが、日下部の身体に乗り移ったシリウスを何度か見たことはある。
確か、神の力を濫用する的なことを僧頭は言っていたな。
神憑が力を行使することに、神自身の意思は影響しないということか。
そう考えると、太陽神は力を悪用された被害者という可能性が出てくる。
「はぁ…、わかった。この神の抹消は止めにしよう」
僕が朧月の頼みを了承すると、普段は無表情な彼が安心したかのように微笑んだ。
こいつも失神していることだ。拘束して警察にでも渡して終わりにしよう。
僧頭「うぅ…」
おい、嘘だろ…? まだ起き上がるのか?
タフにも程がある。これも太陽神の力の影響か? よくわからないが、起き上がれなくなるまでボコボコにするしかないようだな。
僕は溺葬波濤で、今度は頭だけじゃなく身体中に突きを打ち込んだ。
吹き飛んでまたも地面を転がる僧頭。
そろそろ手が痛くなってきたんだが…。
僧頭「うぅ…、まだだ。私はあの場所へ帰るんだ。悪しき“BREAKERZ”を屠って…」
「言いがかりはやめろ。あいつらはお前に何もしていない。素行の良い奴ばかりだ。悪事を働くのは僕くらいだぞ」
仰向けに倒れて目に涙を浮かべた奴に対して、僕はそう語った。
「更に殴られるか、大人しく警察に行くか選べ。こっちも必要以上に殴りたくはない。だいぶ手も痛いしな」
僕の話を聞いてかゆっくりと起き上がる僧頭。
大人しく警察に行ってくれるのか?
だが、雰囲気が怪しい。
手を胸の前ですりながら念仏を唱えるようにぶつぶつと何かを言っている。
僧頭「頭が冴えて…、ようやく境地に辿り着きました。あぁ御門様、少しでも貴女に近づいた私を見て下さい」
奴は合掌した状態で涙を流しながら、空に向かってそう告げた。
朧月「済まない、文月」
朧月らしくないハキハキとした口調に違和感を覚えて振り返るが、彼の姿は何処にも見当たらない。
何だこの異様な空気は…。
『文月、僧頭剛義のDeity値が0になりました』
そして、告げられる“FUMIZUKI”の報告。
“Deity値”が0? 神憑ではなくなった?
いや、“Deity値”は神の位を数値化したものだ。
僧頭から神の力が検出されなくなったということは、太陽神が消滅したか……あるいは逃げた?
朧月も僕に謝って居なくなった。
2体の神が何かを恐れて姿を暗ました。
何に恐れた? いったい何がやって来る?
念仏らしき何かを唱え終えた僧頭は、涙を流しながらニヤリと笑いこう言った。
僧頭「解術・金剛住職」
そう告げた奴はジャージ姿から袈裟のような恰好に変化し、合掌していた手には黒い数珠が現れた。
もう頭は光り輝いていない。
ただのスキンヘッドだ。
数珠を擦りながら、お経や念仏のような言葉をぶつぶつと羅列する僧頭。
それに伴って、赤く光る数珠から放出された炎が奴の目の前で集約し巨大な火球を形成した。
僧頭「経術・日輪火葬」
謎の読経によって生成された火球はこちらに向かって飛んでくる。
“AntiDeity”、相殺モード。
手を翳して神性子の壁を形成…。
『検出エラー。避けて』
“FUMIZUKI”の警告を即座に理解して行動に移す猶予はなかった。
神性子の壁の生成に失敗。原因は相殺する能力が検出できなかったからだ。
つまり、この火球は神の力によって創られたものではない。
これは………何か…………別の力。
迫り来る巨大な火球。
死ぬ…。
死を悟った僕の身体は硬直し、為す術なくただただ目を見開いて火球を眺めていた。
ごおおおぉぉぉぉぉ……
唸るような轟音。
「ふんふんふんふんふんふんふんふんっ!!」
それを掻き消すかのように荒い鼻息みたいな音が聞こえてくる。
そして、僕の身体は火球に呑まれるすんでの所で…。
「違うと思う!!」
ドゴッ!
「あ゛っ…!」
左の脇腹に激痛を感じながら真横に吹き飛んだ。
火球は通過し緑色の防球ネットに大きな穴を空ける。
何があった? なんで僕は生きている?
仰向けに倒れて空を見上げている…?
そして、脇腹がクソ痛いし重たいぞ…。
全身を打ち付けたような痛みを感じる中、周りを確認しようと身体を起こした。
…………。
誰だ? この小さい女子は…。
僕の脇腹に強くしがみ付いている姫カットの女子が視界に入る。
吉波高校の制服を着ているということは、ここの生徒だと思うが…。
「誰だ? 何処から来た? 何がどうなっている?」
現状を把握しきれない僕は突然現れた彼女に問いかける。
すると、彼女はすっと顔を上げて不服そうに口を尖らせた。
「何がどうなってるはうちのセリフ。あのハゲちゃびんセンコーは何? 後そんなに顔をじろじろ見ないでほしい。異性の顔をじっと見るのは、多感な時期を生きるうちらには良くないと思う」
そこまで言って彼女はそっぽを向いた。
何だこいつは…。まぁ、とにかく避難してもらうか。
「あのハゲは超能力者といったところだ。危ないから校舎に戻ってくれ。あいつは僕が何とかする」
とは言ったものの、どう倒す?
今のあいつには“AntiDeity”が効かない。
どんな能力かもわからない。
もうスマホの充電もギリギリだ。
頼れるのは少しばかり練度を上げた妖瀧拳だけだが、そもそも丸腰で接近できるのか…?
僕は悩みながらゆっくりと立ち上がり、こちらを睨んでくる住職姿の奴を見据える。
そして彼女も続いて立ち上がり、僕の隣で鼻をふんと鳴らして得意気に構えをとった。
「うちの名前は、姫崎 雛。ふんっ、ひーちゃんとお呼び下さい」
おい、話聞いてないだろ。早く戻れ。
この時は助けられたことに気づいてなかった。
姫崎雛と名乗る彼女が居なかったら、僕は火球に呑まれて死んでいただろう。
ただのでしゃばり女子生徒だと思っていた僕は、隣で構える彼女をただただウザく感じていた。




