極上の体罰 - 皇 尚人⑩
「どしたん? 話でも聞きましょうかぁ?」
皇流話術・完全確定人心掌握“どしたん傾聴”だぁ♪
ついにこの話術を使うことになるとはなぁ。まぁ、この場を丸く収めるにはこれしかねぇ。
あぁクソ…、嫌な予感がプンプンするぜ。だが傍観するわけには行かなかったんだよ。
不知火のガキが“BREAKERZ”の一味と名乗ろうもんなら…。
そう考えただけで想像を絶するキモさが湧いた蛆のように身体中を這いずりやがった。
これは勘だが、僧頭は神憑だ。つまり奴が使うのは神の力。
熱い頭を擦り付ける攻撃は序章に過ぎねぇ。本気を出せば校舎が一瞬で焼けて灰になるってことも有り得るわけだ。
“BREAKERZ”を呼ぶどころか逃げる暇すらねぇ。まぁ、俺は善人だからパンピー見捨てて逃げるなんてことはしないがな♪
そんな超絶ヤバい中、俺が考えついたのは…。
僧頭「私は長年御門家に仕えてきた住職だったんだ」
「ほうほう♪ 続けて下さい♪」
奴の話を聞いてやることだったってわけだ。
“どしたん傾聴”は悪魔的に効く話術だ。
別に俺が上手く使ってるからじゃねぇ。
誰が使ってもそれなりの効果が見込める代物だ。
人間ってのは話したがりなんだよ。テキトーに相槌を打って聞いてやるだけでも、ある程度心を掴めてしまう。
僧頭「ある日、私に邪神が憑いてしまったのだ。最初は祓おうとしたが、間もなくして気づいた。彼らは悪い神ではないと」
「なるほど! 悪い神ではなかったんですねぇ?」
テキトーに返事をしながら俺は考える。
このつるっぱげ、俺ら“BREAKERZ”に相当な恨みがあるみてぇだが…。
心当たりが全くねぇ。水瀬の野郎が何かやらかしたのかぁ?
僧頭「御門家の娘、全ての邪神を祓わんとする御門伊織様に私は訴えかけたのだが…。あの輪郭ベビーカステラは神が憑いた私を問答無用で破門にしたのだ! あのベビーカステラがっ!」
ドン!
話の途中で声を荒げた僧頭は、眉間にしわを寄せて近くにある机を殴った。
御門伊織…、聞いたことあると思ったらあいつのことか。
最強の鬼塚の能力を持った“EvilRoid - Destroy”。最凶である奴の動きを一瞬封じた謎の女だった。
このつるっぱげのご乱心にあいつが関わっているのかぁ? はぁ…、とんだ迷惑だぜ。
「それはヒャクパー、ベビーカステラが悪いですわ! 俺だったらそんな想いさせませんよ!」
ここは良い感じの返事を返しておくぜ。このまま行けば奴はただのハゲた無害な先生になるはずだ。
僧頭「うっ…ありがとう皇。そして、すまない。私は悟りを開いたはずの住職なのに取り乱してしまった。あ、元住職だからもう関係ないのか! 死ねベビーカステラ! 悟りの境地なんてクソ喰らえだ!!」
俺に謝った舌の根も乾かぬ内に、奴は暴言を目いっぱい叫びながら机に頭をゴンゴンとぶつけだした。
「そ、そうですね…! 我慢は良くないですぜ! この際なんで机で発散しちゃいましょう♪ その机をベビーカステラだと思って…!」
僧頭「あああ熱いっ! 熱いかぁ?!!」
机を持ち上げた僧頭は、それを御門伊織だと仮想して頭を高速に擦り付ける。
ここまでなるのは予想外だが、まぁ良い方向には向かってるだろうよ…。
ボッ!
「あ……僕の机………僕の教科書…………」
余りの高熱に発火し燃え尽きる机と、それを見てしくしくと泣き始める1人の生徒。
悪いな。だが堪えてくれ。
学校が灰になるレベルの被害を、お前の机と教科書に留めたんだ。
後は任せろ。
“BREAKERZ”のリーダー、そして自警部部長としての仕事はちゃんとするぜぇ♪
「気は済みましたか? それとも話を続けますか?」
僧頭「はぁはぁ…、話は終わっていない。ここからが本題だ。破門になった直後、私はお告げを聞いたのだ」
奴は若干不機嫌そうな顔をして、俺に話を続けた。
僧頭自身の怒りは収まりつつあるが、愉快なクラスメイトたちの不安は増している。
空気的にそんな感じだ。
僧頭「神の力を使役せんとする“BREAKERZ”を屠れと。汚名を返上したら、ベビーカステラの元へ帰れる…! きっとベビーカステラ様も許してくださる!」
いかつい表情とは打って変わり、キラキラと目を輝かせる僧頭。
ベビーカステラこと御門伊織にキレてるんじゃなかったのかぁ?
心配になるぜ、元住職さんよぉ。
悟りもクソもねぇ。
情緒不安定にも程があるぜ…。
「残念ながら“BREAKERZ”なんて聞いたこともありません。屠るなんて物騒なこと、もう止めましょう。田んぼと民家しかねぇ自然豊かな吉波町で僕たちと暮らすんです♪」
俺は手でゴマをすりながら、出来る限りの笑顔を見せて話を続ける。
「怒りや暴力は何も生みませんぜ。貴方の頭は人を焼くためにあるものじゃない。人の心を暖かくするためにあるべきものなんだ」
我ながら上手いこと言ってる自覚はあった。手応えも充分ある。
だが、どうしてだ?
僧頭の奴、むちゃくちゃ険しい顔してやがるじゃねぇか。
今の話を聞いたら、普通目をうるうるさせて改心するだろうよ。
こいつがキレたのは、俺の話術のせいじゃねぇ…。
四方から俺の指さす愉快なクラスメイトたち。
奴らは震えた声で口々にこう言っていた。
「この人、“BREAKERZ”です……」
「あいつは“BREAKERZ”を仕切ってるリーダーなんです!」
あぁ、そういうことかよ。
ずっとキモかったのは、この展開を俺の直感が予見していたからだ。
「おい、お前ら一旦落ち着け。今良い感じに説得…」
俺は振り返り、告発した奴らを落ち着かせようとしたが…。
「あんた、リーダーなんだろ? 何とかしてくれよ! あんな風になりたくないよ!!」
1人の生徒が俺の話を遮って、半泣きですがりついてきた。
勘弁してくれ、パンピーども。
リーダー名乗ってる俺に期待してるのか知らねぇが、俺もパンピーなんだよ。
「あぁ…、僧頭さん? お元気ですかぁ?」
ダメ元で話しかけてみるが、これはもう詰んでるぜ。
俺並みに口の上手いパンピーがいたらまだどうにかなりそうなんだが…、そんな奴いねぇよな。
不知火「は~い! 僕も“BREAKERZ”だよ! 友達だよ~!」
そして、火に油を注ぐアホの不知火。
キレまくってるせいか身体が小刻みに震えて焦点が定まっていない僧頭は、俺たちにこう言った。
「死刑という名の極上の体罰を決行する」
一瞬逃げようかとも思ったが、愉快なクラスメイトたちが逃がしてくれるわけもねぇ。
俺と不知火は総勢30人ほどのパンピーに一瞬にして取り押さえられた。
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グラウンドに立てられた木製の十字架が2つ。
こんなもん、どこから調達してきたのか知らねぇが…。
パンピーどもは俺と不知火を十字架に括り付けやがった。あの情緒不安定なつるっぱげの指示通りにな。
僧頭『私が戻ってくるまでに2人を縛り付けておけ』
数分前に、奴はそう言って校舎に戻っていった。
極上の体罰なんて面白いことを言いやがる。要は“BREAKERZ”を殺したいんだろう。
俺たちを殺せばベビーカステラの元へ帰れると盲信しているみてぇだが、普通にムショ行きだろ。
そんなことを考えていると、マシンガンを持った僧頭が校舎の方から帰ってくる。
大層なもん持ってんじゃねぇか。
あれで俺たちを撃ち殺すつもりかぁ?
ザッ…
僧頭「それでは極上の体罰を決行する。私の頭はあてにならんから、職員室にあったマシンガンを使わせてもらうぞ」
ハハッ♪ 思わず笑ってしまいそうだぜ。自信喪失ってとこだな。
磔になった俺と不知火にマシンガンの銃口が向けられた。
「え、ちょっと待って。これ死ぬんじゃない?」
「い、いや“BREAKERZ”のリーダーだぞ? 何とかしてくれるんだろ…?」
「何とかできるんだったら、あんな誤魔化し方しないんじゃ…」
ひそひそとビビりながら話し合うパンピーども。
はぁ…、そんな失望したような目を向けるんじゃねぇ。何もできなくなったのはお前らのせいだぜ。
事態は丸く収まっていた。そうなる前にお前らがビビって告発しやがったんだ。
奴らが不安げな顔をする中、俺は至って冷静だった。
心なしか笑けて来るぜ。
ここ数日ずっと感じていた謎の視線。
「おい、見てんだろぉ? 文月ぃ~♪」
俺は何となく奴に監視されていると思っていた。
理由はわからねぇが、友達の大ピンチってやつだ。あのネチネチ大魔王も流石に助けようと動くだろうよ。
絶体絶命のピンチに追い込まれた方が安全だったってわけだぁ♪
「“BREAKERZ”に連絡しろ。あのつるっぱげは神憑だ!」
俺は空に向かってそう叫んだ。
僧頭「ち、違う! これは坊主だ! 私は元住職だぞ! 敢えてボウズにしているんだ!」
「往生際が悪いぜ、元住職さんよぉ。あんたの毛根はとっくに死んでんだよ!」
直に“BREAKERZ”が来る。奴はもう終わりだ。
勝ちを確信した俺は奴を罵った。
僧頭「うおおおぉぉぉぉぉ!! ベビーカステラのせいだああぁぁぁ!!」
堪え難い現実に雄叫びを上げやがる僧頭。
僧頭「殺してやる…!」
奴は目に涙を浮かべながら、マシンガンを強く握り締めた。
トリガーを引かれたら俺は死ぬ。
まだ来ねぇのか、“BREAKERZ”。校舎からここまですぐだろ。
おい、まさか…。
強く引かれたマシンガンのトリガー。
ドドドドドドドド…!
キモキモキモキモキモキモキモキモ…!
前方から無数のキモさ。
目にも留まらないスピードで弾丸がやって来る。
手足を括られた俺は死に物狂いで身をよじりながら、運と直感で弾丸を避けまくった。
あの腐れ外道…、俺を見捨てやがったな?! 俺が何をしたっていうんだぁ?
まさか、ネタで奪ったあの校章の件か? それで助ける気は無いと?
ドドドドド…!
キモキモキモ…!
「ふざけんじゃねぇ!!」
俺は文月に向かってそう叫んだ。
隣の不知火は喰らいまくって、もう肉塊みたいになってやがるぜ。
僧頭「弾が当たらない…? これが神の力なのか…?」
ただ運と直感で避けまくってる俺に対し、奴はそう言う。
神はテメェだろ。
俺は大したことしてねぇよ♪
キモキモキモキモキモ…!
この無数のキモさに従って、本能のままに身体を動かしているだけだ。
「あの人、磔にされてるのに全部避けている?」
「さすが“BREAKERZ”のリーダー。俺たち一般生徒とは格が違うんだ」
「やっつけてくれ! 皇くうぅぅん!!」
いや、無理だろ。
あとお前ら調子良すぎな。
ドドド……カチッ、カチッ。
弾丸の雨が止む。弾切れってとこか。
危ねぇ危ねぇ♪
もう少しでスタミナ切れだったぜ。
僧頭「嘘だ…。私は…、あの場所へ帰るんだ…! ならば覚悟を決めろ、僧頭剛義!」
奴は弾切れになったマシンガンを投げ捨てこう続ける。
僧頭「自分の頭に誇りを持て、僧頭剛義! 私の頭は熱したフライパン……否! 太陽の如く熱いぞぉ!!」
ピカーン!
自分に渇を入れるかのようにそう話した僧頭。奴のハゲ頭はマジで太陽みてぇに光り輝いた。
おいおい、あれはマジでヤベぇぞ。
あんなもん腹に擦り付けられたら融解する。
マジで太陽並みに熱そうだ。
そして、どうやらこれが奴の本領だったらしい。
俺と僧頭の間に突如現れる黒い大穴。そこから余裕げに歩いて出てくるクソ野郎。
満を持して文月様の登場ってわけだ。
ガシッ
奴はめちゃくちゃ分厚くデカい黒い手袋で僧頭の光り輝く頭を鷲掴みにした。
文月「皇、良いものを見させてもらった。これに懲りたら僕を煽らないことだ」
そして、頭を掴んだままご満悦そうな顔をこちらに向ける。
「これで懲りるだぁ? 生温いぜ。死ぬどころか怪我1つしてねぇよ♪」
俺はいつもの如く笑って見せた。
僧頭「ちなみに、私の頭は熱いか?」
俺らの会話に割り込んでくる僧頭。
文月「熱くない」
僧頭「うっ…!」
文月「熱を一切通さない素材でできた手袋をしているからな」
文月の発言に対し、奴は身体をびくりと震わせた。
文月「気に病む必要はない。測定したところ、お前は間違いなく神憑だ」
奴は頭を掴んだまま話を続ける。
文月「力を存分に発揮できる場を提供しよう。お前を実験体第1号として歓迎する」
やけに嬉しそうな顔をしてやがる。
俺がやられそうになったからじゃなさそうだな。
“良いオモチャが見つかった”。
あれは、そういう面だ。
文月「“RealWorld”起動」
一瞬感じた吐き気を催すクソみてぇなキモさ。
次の瞬間、奴と僧頭は忽然と姿を消した。




