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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•ゴリラ消失編
224/271

犯則瞬足 - 皇 尚人⑦

「わかってる。俺の家も裕福じゃない。1人バナナ1本が精いっぱいなんだ」



奴は淡々とそう話しながら、深く被っているフードを脱いだ。


薄暗い地下室で犯人の正体が露わになる。


生徒会副会長、陸上部のキャプテン。


速い特質を持った京極きょうごく瞬介しゅんすけ容疑者のお帰りだ♪


俺の直感は今回も当たっていた。


地下に座敷牢のある古びた家、ここは京極きょうごくさんのお家だ。



『運が良いなぁ♪ 少なくとも今日1日は稼げたぜ』



そう言って奴の肩を組んだあの時、俺は制服に発信機を着けた。


その発信機はずっとこの家を示していたが、奴は黒い服に着替えて俺を捜し回ってたみてぇだな。


今日の狙いは俺だったってわけか♪ リーダーだってのに、舐められたもんだぜ。



「じゃあ、拉致んなよ。人間とゴリラの飼育代はシャレにならねぇぜ♪」



お金がないと言い訳する奴に、俺は笑いながらそう返した。


京極きょうごく「ふっ、そうだな。ところで、なんで俺だとわかった? この場所もよく見つけたな」


この場所と犯人を突き止めた俺に感心する様子の京極きょうごく


この前あった体育のサッカー、奴の足の速さは尋常じゃなかった。陸上部のキャプテンという肩書きじゃ誤魔化せねぇよ。


あの速さはどう見ても特質だ。

だから、目は付けていた。


こいつはバレた理由を知りたいみたいだが、発信機のことや奇策の全貌を一から喋るのは面倒だな。



京極きょうごく、お前は出しゃばりすぎた。この場所はそうだなぁ♪ 俺の直感とインスピレーションで見つけたってことにしておくぜ」


京極きょうごく「なるほど…! それが“BREAKERZブレイカーズ”のリーダー、自警部じけいぶ部長が持つ能力ってことか」



俺のテキトーな返事に対して、京極きょうごくは目をキラキラとさせて頷いてやがる。


おめでたい奴だぜ。俺らのファンには変わりねぇみたいだな。


ワンチャン話せばわかるパターンかぁ?


しょうもねぇ動機なら、俺の話術でどうにかなりそうな気がしなくもねぇ。



「俺の能力がわかって満足かぁ? なら、チンパンジーとオタクを解放しやがれ。拉致った動機も言いたけりゃ聞いてやるよ」


唖毅羅アキラ「ウキキー! ヂン゛バン゛ジーじゃな゛い゛! ゴリ゛……唖毅羅アキラだ! でい゛う゛か゛、“ヴボ”っで鳴ごう゛どじだら゛“ウキキ”に゛な゛る゛。どう゛な゛っでる゛ん゛だ?!」


剣崎けんざき「落ち着くのだ! チンパンジー氏じゃなくて、ゴリラ氏じゃなくて、獅子王ししおう氏! いや、この形態は唖毅羅アキラ氏と呼ぶべきなのか? いったいどれが正しいのだ…?」



俺の言葉に対して荒れるチンパンジー。


そして、奴の呼び名に戸惑うよだれ。


しょうもねぇことでパニクるんじゃねぇ。敵は目の前、こっちはいま真剣なんだよ。


それにお前らが発する雑音のせいで、俺の話術の効果が薄れたらどうしてくれんだぁ?


京極きょうごく「ごめん、2人とも。毎日バナナ1本という無礼を許してほしい。将来、出世したら最高のおもてなしをさせてくれ…!」


パニクる2人に、申し訳なさそうな顔をして謝る京極きょうごく


やっぱりファンだな。

心酔してやがるが…。


もてなしてぇなら、こんなばっちぃとこじゃなく客間に閉じ込めやがれ。



剣崎けんざき「私たちを閉じ込めたのは京極きょうごく氏であったのだな? あれは特質だったのか? 見事な速さであったが…。ここから出してほしい。お腹が空いて死にそうである」


唖毅羅アキラ「ぞう゛だ、僕を゛バナナで釣っだの゛も゛君が! お゛願い゛だ、早ぐ太陽の゛下に゛…!」



全く空気の読めねぇ奴らだぜ。特にゴリラな。


「お前ら黙れ」


一瞬で静まるチビゴリラとよだれ。


普段はお優しい俺が凄んだ声を出したからな。ビビったんだろう。


「いま交渉するから、ちょっと黙ってろ」


薄暗い地下室に、少しの間だが静寂が訪れる。


だいぶ暗さにも慣れてきたぜ。奴の顔も今じゃよく見える。


京極きょうごく「2人を捕まえた動機か…」


静まり返ったこの場所で、奴は考えながら動機をぽつりと口にした。



京極きょうごく「大した動機はない。ただ自分を試したくなったんだ」



試したい? お前の実力を俺らにかぁ?


ただのファンのクセに、随分と見下げてやがるぜ。



「ハッ、いちファンが調子に乗るんじゃねぇ。俺らはお前の試供品じゃねぇよ。大人しく陸上でもやっとけ」


京極きょうごく「陸上はつまらない。今年も県大会優勝、無難に地方大会初戦敗退だ。もう決まっている」



俺の愛ある叱責に対し、奴はキャプテンならざる失言をする。


おいおい、大丈夫か陸上部キャプテン。


速い特質とか言いながら、実力は県大会止まりなのか。それ、特質じゃなくてただ足が速いだけじゃねぇのかぁ?


剣崎けんざき、お前騙されてるだろ。



京極きょうごく「俺は本気で戦って、本当の勝利を実感したい。君たちになら本気でやれる。これは試合(ゲーム)だ。皆をここに閉じ込めたら俺の勝ち。勝ったらちゃんと解放するよ」



はぁ…


こいつの発言に思わず溜め息が出ちまった。


しょうもねぇ動機でしょうもねぇゲームに付き合わすんじゃねぇ。


だが、やっぱりガチな奴じゃなかったな。最初から生温い気はしてたぜ。


要はこいつ、俺たちに勝ちたいってことなんだろ。そして、牢屋に入れることを勝利の基準としている。


「わかった。ファンの要望にスターの俺様が直々かつ即行で応えるぜ♪」


上がる口角にニヤけ顔、勝利の確定演出だ。


1番手っ取り早く終わらせる方法を思いついたぜ♪


なに、簡単なことだ。勝利感ならいくらでも味わわせてやるよ。


俺は両手をさっと真上に上げてから、勢い良く地面に膝を着き土下座した。



()()()()()っ! 我々“BREAKERZブレイカーズ”一同、貴方様に降伏致します。貴方様の勝利でございやす! どうか、ゴリラとオタクを解放してください!」



どうだ、京極きょうごくさんよぉ。


リーダーである俺様が完全降伏。これ以上ない勝利感を噛みしめろ。


すめらぎ流話術・対話強制終了平伏“このとおり土下座”で一丁上がりだぁ♪


俺が土下座をしてから5秒経った。


そろそろ良いだろう。ハリボテの勝利に浸ったご満悦そうな顔を見てやるぜ♪


勝負に負けて仲間を助ける。


良きリーダーとしての責務を果たした俺は、ニヤけそうになるのを堪えながら顔を上げた。



京極きょうごく「ふざけるな」



何だと…?


悦に浸るどころかキレてやがる。


こいつ、中々にこじらせてるなぁ♪


こいつが欲しいのは勝利じゃねぇ。


本当の勝利などと言っていたが、勝ち負けに嘘なんてねぇんだよ。


こいつがマジに欲しているのは__



「チッ、仕方のねぇ奴だな。面倒くせぇが相手してやるよ。俺はお人好しだからなぁ。願い通り完膚無きまでボコボコにしてやるぜ♪」



__全力を限界まで出した上での圧倒的敗北だ。


なら、鬼塚おにづかを呼んだ方が早いって?


それじゃ京極きょうごくは納得しないだろう。


あいつは手の内がわかる相手、自分が勝てそうな相手を選んで襲撃している。


あいつなりにステージってものがあるんだよ。


最初はゴリラをバナナで釣るという騙し討ち。


次は、剣崎けんざきとの真っ向勝負。


そして、俺との戦いは負傷した状態からのスタートだ。


京極きょうごくは自分のペースで難易度を上げていっている。


奴は敗北を味わいたいのと同時に、自分の実力も測りたいってわけだ。


全力を出す間もなく鬼塚おにづかに小突かれて終わりじゃ、奴も不完全燃焼だろうよ。


はぁ、全く世話の焼ける副会長だぜ…。


ダルいが、俺は自警部じけいぶだ。

人の依頼や要望には応えてやらねぇとな♪


「お前によるお前のための実力テストはここで打ち切りだ。お前は俺に負けるんだよ!」


俺が京極きょうごくを指さしてそう言い放つと、奴は満足そうにニコリと笑った。


京極きょうごく「じゃあ、手合わせお願いするよ」


右手に拳を作りながら右足を後ろに引いて、走り出す前のような構えをとる京極きょうごく


奴は足の速い特質を持っているようだが、俺の敵じゃねぇ。


速いのには慣れっこだぜ。


あの時のあいつは素早いだけじゃなく、手を鉤爪に変えたり下からデカい棘を出してきたりしてきたが勝ったのは俺だった。


「あぁ、どこからでも掛かって来やがれ♪」


動きを目で追えなくても、身体能力で劣っていても最終的に勝つのは俺だ。


“キモい”というあの感覚が、俺に勝利を引き寄せる。


京極「俺の特質は、犯則瞬足チーター・チーター。本気で行くぞ」


チーター・チーター…、放屁ファートの次にダセぇな。


ダサい名前も“BREAKERZブレイカーズ”リスペクトってかぁ?


チートを使うチーターと、動物のチーターを合わせているんだろうが…。


自分の特質を名乗った奴の足は若干震えてやがる。


昨日の真っ向勝負が響いているな。足をった時の筋肉痛が残ってるに違いねぇ。



「ほら、来いよ怪我人」



俺は奴に手招きしてから、構えをとった。


頼むぜ、俺の直感。



ザッ…!



走り出した京極きょうごくは俺の視界から消える。


速すぎて見えないのか単純に死角から走ってきてるのか。


急に消えたことで判断できねぇが、どっちにしろ俺は普通に勝てると思っていた。


奴は素早く拳1つで突っ込んでくるだけだ。しかも、ただの手合わせ。殺意はねぇ。


あの時の不知火しらぬいもどきの方がよっぽど強敵でヤベぇ奴だった。


悪いが、ちょっと喧嘩がしたい中途半端野郎に負けるような話じゃねぇんだわ。



ドコッ!



キモさを待っていた俺の左頬に鈍痛が走る。


同時に右の拳を振り抜いた京極きょうごくの姿が目に入った。



ガン!


「がはっ…!」



若干後ろに吹き飛んだ俺は、背後にあった鉄格子に頭をぶつけて倒れ込んだ。


はっ? どうなってんだ?


こいつの攻撃、全くキモさがなかった。


そもそも俺の直感が働いてない…?


「おい、お前。俺の直感に何しやがった?」


視界が揺らぐ中、俺は地面に手を着いてゆっくりと顔を上げる。



京極きょうごく「ただ走って殴っただけだけど。君は俺に何かしたか?」



ただパンチを喰らって倒れただけの俺を不審がる京極きょうごく


直感が上手く働かない相手…。


こいつは少々手こずりそうだぜ。




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