表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•連休編
206/271

フクマ - 日下部 雅(シリウス)②

あれから何分経った?


いや、何時間経過した?


退屈で無駄な時間というものは、とても長く感じる。


僕はいったい何回彼を殺したのだろうか?


同じ手法、同じ流れで…。



“弾けろ”。



僕は前方で人差し指をこちらに向けているフクマに、またもそう念じた。


彼の身体は展開された臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートによって引き裂かれ、臓物を撒き散らしながら爆散する。


変わらず、敵意と禍々しい気配は消えない。


そして…、彼が居た所に黒いオーラのようなものが集束し形を為していく。


人差し指をこちらに向けたフクマの復活だ。


あぁ、またレーザーを撃つんだろう。


わかるよ、僕らはさっきからずっと同じことを繰り返しているからね。


この後の流れは2つしかない。


彼がレーザーを撃つ前に引き裂くか、放たれたレーザーを()()してから引き裂くか。


拒絶っていうのは、単なる意識さ。


僕は彼のレーザーを何かしらの力で相殺しているわけじゃない。


神や神憑かみつき同士の戦いにおいて、神のくらいは絶対的な要素だ。


くらいの差が大きければ大きいほど、神の力は通用しなくなる。


彼は神ではないけど、僕との力の差は歴然ということだね。


人の形を為した謎多きフクマだけど、彼の能力は神の力に近いのだろう。


“はぁ…、弾けろ”。


僕の心の声に溜め息が混ざり始める。


何度引き裂いても復活するフクマに、僕はうんざりしていた。



“弾けなさい”。


“弾けてあそばせ”。


“弾けるのよ”。



もう言葉遊びにも飽きてきたよ。


「いい加減にしないか! いつまで続けるつもりだい?」


淡々と復活して黙々とレーザーを放とうとする彼に対し、僕はついに声を荒げた。


永遠に続きそうな彼との戦いに、僕はイライラしていたんだ。


「何度でも復活できるのは素晴らしいことだ。だけど、君は僕には勝てない。“諦めが肝心”さ。お互いもっと有意義な時間を過ごそう。フクマは趣味とやらはないのかい? 人間の好物の1つだよ。せっかく人間の形をしているんだ。引き裂かれながらレーザーを撃ちまくるより、趣味に時間を使った方が良いと僕は思うけどね」


僕が話している間、彼は人差し指を向けたままじっとしていた。


話がわからない者ではないみたいだ。


僕は、人でも神でもない謎の存在に話を続けた。


「僕は神だから、人間のことはわからない部分もある。でも、君は人間に成り得るかもしれない。さぁ、今すぐここを去って趣味とやらを見つけるんだ。僕はもう疲れたよ。お尻も痛いし…」


話が終わって少しの間、沈黙が訪れる。


聞こえるのは、新幹線の発する音だけ。


そして、彼は…。






今までと変わらず、レーザーを撃ってきた。





“弾けろ…!”。


僕はレーザーを拒絶してから、強くそう念じる。


爆散して再び復活するフクマ。


そんな彼に対し、僕は猛烈な怒りを感じていた。


話が通じないこと。


永遠に終わりそうにない戦いの続行。


少しずつ募っていた僕のストレスが怒りに昇華したんだ。


僕は怒り任せにズボンとパンツを下ろし、ボラギノールを肛門に注入する。



「そっちがその気なら良いさ。死ぬまで殺してやる」



僕はフクマに怒鳴ってから、ズボンを上げた。


あぁ、怒ってても忘れはしないさ。


水瀬みなせの言葉を…。


下半身の露出は、人間に目立つ行動だ。


だから、如何なる状況でもズボンは履いておかないといけない。


こちらに指を向けたまま微動だにしないフクマ。


また同じようにレーザーを撃ってくるんだろう。それが無駄なことだと理解できずに…。


暗い紫色のオーラがフクマの人差し指に集まってくる。


何度も見た光景だ。


僕にレーザーを待つ気はなく、放たれる前に引き裂こうと思っていた。


“弾けて消えろ”。


僕がそう念じると同時に…、






彼は口が張り裂けるような勢いで口角を上げ、おぞましく嗤った。






フクマの身体は弾けたけど、レーザーはこちらに向かってくる。


そして、それは僕の首元まで迫り消滅した。


念じるタイミングが少し遅かった?


レーザーが放たれる前に弾けるイメージだったんだけど。


黒いオーラが集まり、復活を遂げるフクマ。



“弾けろ…!”。



そんな彼に対し、僕はすぐさまそう念じた。


怒りを感じている僕に、猶予を与えるという選択肢はない。


彼は為す術もなく、再び身体を引き裂かれる……はずだった。


しかし、僕の想像とは違って、彼の人差し指からレーザーが放たれた。


フクマの身体が飛び散ったのはその直後だ。


首元に迫るレーザーに戸惑いながらも、僕はそれを拒絶する。


妙な感じだ。さっきまでと何かが違う。


今までのレーザーは、僕が拒絶した瞬間に消滅していたんだけど。


今回のは、意識してから消滅するまでほんの少し間があったんだ。


危うくレーザーの先端が首に触れるとこだったよ。


フクマの身体もそうだ。


念じてから弾けるまでの間があった。


展開している臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートは、念じた瞬間から動いていたんだけどね。


この時間差は、いったい何だ?


一瞬だけ耐えたとでもいうのかい?


臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートは、物理的な力を自在に加える放屁ファート


身体が引き裂かれるのに対し、踏ん張って耐えようとしても意味はない。


踏ん張って抵抗した力の分だけ、こちらも力を加えるだけだからね。


それに、フクマの身体に力の変化はなかった。耐えようとするような動きはしていないということさ。


訳あって放屁を司る神みたいになっているけど、僕は本来力の神だ。


注視しているものへの力の変化は見逃さない。


集束した黒いオーラによって復活したフクマは、馬鹿の一つ覚えのようにレーザーを撃ってくる。


同じように拒絶するけど…、すぐには消えない。


僕の首元で止まり…、いや止まっていない…!


微々たるものだけど、少しずつ迫ってきている。


日下部くさかべの首にこのレーザーが貫通すると死ぬだろうね。


僕は思わず後ずさった。


それと同時にレーザーは消滅する。


明らかにおかしい。


フクマの攻撃を脅威に感じたのは、今回が初めてだ。


彼は変化している。


フクマの変化に対して、嫌な仮説が頭に浮かんだ。


まだ踏ん張って耐えてくれてたほうが良かったよ。


さっき話したように、フクマの能力は神の力に近い。


それを僕が意識的に拒絶するだけで無効にできるのは、力の差がかなりあるからだ。


臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートが速攻で効くのも同じ理屈だね。


だけど、今は違ってきている。


拒絶に要する時間や、放屁ファートの効きが悪くなっているのさ。


つまり…、あまり考えたくはないけど。




僕とフクマの力の差が徐々に埋まってきている。




フクマが使う神の力じみた能力は、少しずつ強くなっているんだ。


最初からくらいの差がある神同士の戦いでは、まずありえないだろうね。


こんな短時間で神のくらいが上がることはない。


上の神たちが贔屓しまくってたら知らないけど…、そんな話は聞かないね。



“弾けろ”。



やはり念じてから弾けるまで少し間が空くようだ。


仮説を考えていたせいで、僕の攻撃は少しばかり遅れる。


フクマは、復活後2発目のレーザーを放ってから爆散した。


僕の首元まで迫る暗い紫色のレーザー。


もう意識だけで対応するのは危険だね。


彼の力は強くなっている。


こんなに長引かせるつもりはなかったんだけど、仕方ないか。


僕は2、3歩後ずさりながら開いた左手を前に突き出した。



放屁解離セパレート



そして、そう呟いてからレーザーに背中を向けて更にこう言う。


相殺屁リバフ・ファート


展開された赤い放屁ファートとは別に、僕の肛門から白色の放屁ファートが放出された。


その白色の放屁ファートは僕の背中の前で漂い、迫ってきたレーザーを相殺する。


相殺屁リバフ・ファート、触れた神の力や攻撃を無効化する白い放屁ファートだ。


もっとも、格上の神の力を相殺するのは難しいけどね。


現在、新幹線を直方体状に囲った臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートと、僕の近くで漂っている相殺屁リバフ・ファートが混在している。


神の力は無限だ。それを使う神憑かみつきの能力もね。


だけど、僕らは例外なんだ。


訳あって、日下部くさかべのお尻にしか力を注げてないからね。


異なる2つの技を同時に使うのは、他の神憑かみつきなら訳ないだろう。


だけど、例外である僕らは違う。


1つの肛門につき、1つの放屁ファートしか出せないんだ。


2つの放屁ファートを同時に使うには、肛門を2つに増やすか、身体に負荷がかかる併合型ユニオン・モルドを使う必要がある。


後は、日下部くさかべと僕の連携。お互いに違う放屁ファートを同時に使う方法だ。


憑神つきがみである僕自身も力が使えるのは、彼のお尻に一部の力しか注がなかった僕の特権さ。


だけど、この方法は日下部くさかべの身体を完全に借りている状態ではできない。


今回使った“放屁解離セパレート”は、この状態でも異なる放屁ファートを同時に使うようにできる僕の御業みわざだ。


現在放出している放屁ファートを肛門から切り離し、肛門をフリーにする技と言えば伝わるかな?


境域型アンビット・モルド臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートを肛門から切り離し、相殺屁リバフ・ファートを放出した。


切り離した方の放屁ファートは、ある程度の時間なら留まってくれる。


その間だけ、同時に2つの放屁ファートを使えるというわけさ。


僕はフクマの方に振り返り、同じようにこう念じた。



“弾けろ”。


ビキ……ビキビキ……



ゆっくりと膨張するフクマの身体。


これが自分の思惑でそうなっているなら気にしないんだけどね。


僕は今まで通り、爽快に引き裂くつもりだったよ。


だけど、彼の身体はゆっくりと膨張し内側から裂け始める。


フクマが裂けて弾けるまで、かなりの時間を要した。


これだけの猶予があったら、彼も攻撃を続けるだろう。


弾けて飛び散るまでに、フクマは3発ほど僕にレーザーを撃ち込んだ。


相殺屁リバフ・ファートを放出しておいて正解だったね。


恐らく、もう意識だけで相殺するのは不可能だ。


僕の意思通りに動く相殺屁リバフ・ファートはレーザーを相殺する際、乱れが生じた。


神の力を無効化するこの放屁ファートもってしても、余裕ではないということか。


こちらの余裕はどんどんなくなっているにも関わらず、フクマはこちらを指さしたまま平然と復活を遂げる。


日下部くさかべの身体の震えは更に増していた。


あぁ、恐いんだね。わかるよ。


きっとこの身体が激しく震えているのは、僕の恐怖も加わったからだ。


この圧倒的恐怖感、君たち人間は最初から感じていたんだね。


ほんとに困ったな…。


軽く倒すか撃退して水瀬みなせたちの所に戻ろうと思ってたんだけど。


想像以上に厄介な敵だったみたいだ。


フクマの力は、既に僕と同等かそれ以上に強くなっているだろう。


これ以上、力の差が開くといよいよ通用しなくなる。


景川かげかわ慧真けいまに憑いていたあいつとの戦いみたいに…。


神のくらいの差が圧倒的だと、僕の力は何も通じない。


臙脂蒙昧屁アンノウン・ファート相殺屁リバフ・ファート、その他諸々の放屁ファート


これらは格上の神にとって空気同然だ。


あぁ、恐いよ、日下部くさかべ


恐怖という感情で震えが止まらない。


もう逃げても良いかな?

こんなはずじゃなかったんだ。


僕は新幹線並みに速く飛べるから、恐らく逃げ切れる。


恐れおののく僕の弱気な気持ちを察したのだろうか。


フクマは、あのおぞましい笑みを浮かべながら5本の指をこちらに向けた。


「ははっ…」


思わず漏れる乾いた笑い。


僕はよく似た技を知っている。


羽柴はしばとおる紫死骸閃デス・レーザーだ。


彼の能力と同じように、フクマのレーザーも…。


こちらに向けられた5本の指先全てに、紫色のオーラが集束する。


そして、5つのレーザーが僕に向かって放たれた。


それも1回限りじゃない。


羽柴はしばとおるの能力同様、それは連続的に絶え間なく発射される。


僕は両手を前に出して、相殺屁リバフ・ファートの操作に集中した。


白い放屁ファートと紫の閃光レーザーが衝突する。



「くっそ…!」



無数に放たれるレーザーに撃たれ、酷く入り乱れる相殺屁リバフ・ファート


何とか相殺できているけど、安定はしていない。


もっと…、もっとだ!



シューーーーーーッ!



僕は日下部くさかべのお腹にぐっと力を込めて、更なる相殺屁リバフ・ファートを肛門から放出する。


それらも僕の前にやって、レーザーの相殺に注力させた。


さっきよりは安定しているけど、それでも乱れが生じているね。


困ったな、いつの間にか僕の方が圧倒的アウェイじゃないか。


「…………ッ! 痛い…」


しかも、お尻が痛い。


無理して気張ったせいだろうね。


病魔(イボ痔)は見逃してくれないようだ。


いま主張してくるのは違うだろう、僕のイボ痔…。空気を読んでくれ。


君が人間だったら、間違いなくKYというニックネームで呼ばれているよ。


君にはK(空気が)Y(読めない)じゃなく、I()B()G()であってほしい。


あぁ、でも君は僕の友達でも味方でもない。


むしろ、不快感を与えるべく生まれた存在なんだろう。


イボ痔界隈では、君は最高なタイミングで僕の邪魔をした素敵なムッシュなんだろう。


何とも不快な気分だ。


ていうか、僕は何を考えているんだ!


この…、ただレーザーを相殺するしかない状況はとてもヤバいんだぞ。


無数のレーザーを喰らったら日下部くさかべは死に、僕の存在は消滅する。


あぁ、逃げ出したい。


僕なら飛んで逃げられる。


でも、こいつの目的は僕じゃなく“BREAKERZブレイカーズ”だ。


フクマの敵意がそう語っている。


悔しいけど認めよう。今のフクマの力は中位神ちゅういしんである僕以上だ。


僕がここで逃げたら、全滅する可能性だってある。


日下部くさかべは逃げた僕に怒るだろうね。


そして、友達の死を嘆き悲しむ。


神である僕は本来、無限の存在だ。


消滅する恐怖は、人間が感じる死の恐怖とは比にならない。


だから、逃げれるものなら逃げたいさ。


だけどね…。


僕は前に突き出していた右手をズボンのポケットに突っ込み、ボラギノールを取り出した。



「君たちが死ぬのは困るんだよ! 身近な人間が一度に死ぬと、これ以上なく目立つからね!」



勢い余った僕は、取り出したボラギノールを夜空に掲げた。


次の一手で一度終わらせよう。


まずは、ボラギノールを肛門に注入する。


そして、放屁解離セパレートで今度は相殺屁リバフ・ファートを切り離すんだ。


そして、もう薄まって効果が切れつつある臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートを再展開させる。


抹消するためじゃない。


フクマをこの新幹線から振り落とすんだ。


いくら身体を引き裂いても、彼は復活する。それも強くなってね。


このまま戦い続けて、彼がどんどん強くなれば“BREAKERZブレイカーズ”の総戦力でも勝てなくなるだろう。


だから、ここから振り落として一時休戦とするわけさ。


そして、家に帰ってから作戦を立てるんだ。


知力に長けた水瀬みなせ、天才発明家の文月ふづき、勘の鋭いすめらぎ


彼らが寄れば、“不滅のフクマ”に対する有効打を導き出してくれるだろう。


“三人寄れば文殊の知恵”か…。



「紛い物のフクマよ、一時休戦と行こうじゃないか。僕らは必ず君を倒す」



僕は空に掲げたボラギノールを握り締め、無数のレーザーを放つフクマにそう言った。


放屁解セパレ…」


そして、相殺屁リバフ・ファートを解離させようと思った矢先だ。


…………! 何だこの悪寒は…。


僕は背後に突如現れた禍々しい気配を感じ取り、咄嗟に振り返った。


フクマは前方からレーザーを放ち続けている。

なのに、同じ気配が後ろから…。


彼は人でも神でもない異質な存在。


だとすれば、僕の想像を超えてくる。


僕のすぐ後ろにいたのは、人差し指をこちらに向けたもう1体のフクマだった。


分身したのか別の個体か。


どちらにしろ、僕は意表を突かれた。


そして僕は恐怖し、彼は嗤った。


至近距離から放たれる暗い紫のレーザー。


左手は無数のレーザーを相殺している相殺屁リバフ・ファートに集中している。


このレーザーに対して、僕は咄嗟に右手を広げて顔を覆ったんだ。


戦いに欠かせないボラギノールを握っていたことを忘れてね。


もう1体のフクマが放ったレーザーは、最悪なことにボラギノールに命中した。


いや、顔に当たっていたら僕らは死んでいたのか。


じゃあ、超絶最悪よりはマシな最悪だね。


レーザーが命中したボラギノールはみるみる黒くなり、ボロボロになって新幹線から落ちていった。


猛烈な足の震えが止まらない。


レーザーが当たったらどうなるかなんて、考えてなかったよ。


当たらないと思ってたし、普通に勝てると思っていたからね。


“おっちゃん”と名乗る空間の神と戦った時みたいに…。


だけど、今当たりかけたし、貴重なボラギノールを失った。


彼のレーザーはただ貫通するだけじゃない。


命中した対象を腐敗させるんだ。


恐らくかすっただけでも、そうなるんじゃないのかい?


いま無数にやって来ているこのレーザー、どれか1本でも日下部くさかべの頬にでもかすったら…。


全身が腐り落ちて死んでしまうということか。


僕の目の前にいるフクマは、おぞましい笑みを浮かべたまま、すーっと通り抜けるように新幹線の中へ入っていった。


その直後、音を立てることなく相殺屁リバフ・ファートが崩壊する。


僕は今、完全に無防備になった。


彼のレーザーに消されたんだ。


恐らくフクマの力は完全に僕を上回ったんだろう。


肉体的死を重ねるごとに強くなる訳ではないようだね。


それとは別の要因で強くなっていたということか。


フクマは相殺屁リバフ・ファートが崩壊すると同時に、連射を止めた。


そのまま連射していれば、僕を殺せたのになんでだい?


何を考えている?


悠長に考える余裕はなかった。


解離して展開していた臙脂蒙昧屁アンノウン・ファートも期限切れのようだ。


直方体状に新幹線を囲っていた赤い放屁ファートは消滅し、僕の靴底に着いていたそれも消える。


高速で走る新幹線から吹き飛ばされそうになった僕は、突っ伏して車体にしがみついた。


更にイボ痔が主張してきてお尻が痛い。


ボラギノールは消えた。


もう僕にできることはない。


前方にいたフクマは突っ伏した僕の目の前に現れる。


そして、彼は両手を自身の胸の前に添えて、指で円をかたどった。


その円の中に、暗い紫色の球体が現れる。


それも見覚えあるね。

もっと大きかったけど。


フクマは嗤いながら、何もできない僕の顔にその球を近づけてきた。


わかったよ、君が僕をすぐに殺さない理由。



「もしかして、僕に恐がってほしいのかい?」



僕は、恐怖とは相反する満面な笑みを浮かべてそう言った。


悍ましい笑顔から不服そうな表情に変わるフクマ。


図星のようだね。


「君は“恐怖”や“怒り”を餌に強くなるんじゃないかい? そして、“希望”や“明るい感情”といったものに感化されると君は弱くなる」


僕がそう話すと、彼は眉をひそめた。


どうやら、僕の見解は間違ってないようだ。


「そんなに不味いのかい? 僕が感じているこの僅かな“希望”が」


笑顔でそう話す僕に対し、彼は苛立ちの感情と共に歯を食いしばる。


そして、紫色の球体は更に大きくなった。


怒り任せに僕を殺すつもりかい?


まだ意識だけで拒絶できるほど、弱くなってはいないだろう。


希望は感じているけど、僕はまだまだ圧倒的不利だ。


お尻が痛くてボラギノールがないこの状況では、放屁ファートを使えない。


だけど、ただの屁なら出せる。


痛いのを我慢すればね。


殺意溢れるフクマを前に、僕は深呼吸をしてからお腹に力を込めた。



『上に行って見てくるよ。君たちに危害を加えようものなら、僕が制圧する』



悪いね、こんな余裕そうなことを言って…。


でも、敵は想像以上に強かった。


僕だけでは勝てない。


力を貸してくれ、“BREAKERZブレイカーズ”!



ブフォ! ブフォ! ブフォ!


ブーーブーーブーー!!


ブフォ! ブフォ! ブフォ!



新幹線にも負けない大きなオナラの音がリズミカルにとどろいた。


どうか気づいてくれ。


イボ痔が与えてくる痛覚に耐えながら出したこの渾身のオナラに…!


水瀬みなせ、君ならわかるだろう?


これは…、




 ブフォ! ブフォ! ブフォ!

(トン   トン   トン)


 ブーーブーーブーー!!

(ツー ツー ツー )


 ブフォ! ブフォ! ブフォ!

(トン   トン   トン)




オナラのモールス信号“SOS”だ!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ