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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•連休編
203/270

西の旅2日目 - 水瀬 友紀㉖

はぁ…、なんでこんなことになったんだ。


新庄しんじょうあきらたちが走り去ってから1時間ほど…、ついに日が暮れた。


街灯の近く以外、辺りは真っ暗だ。


いま僕と一緒にいるのは、体調不良の的場まとば日下部くさかべに乗り移ったシリウスの2人。


いや、2人って言うのかな…?


1人と1体…?


暗くなったせいで、琉蓮りゅうれんを見つけるのは更に難しくなった。


その上、財布を無くした新庄しんじょうも行方不明に…。


僕らはほとんど路頭に迷っているようなものだった。


ただ明かりがある方向へ歩き、気づけばそこそこ大きい商店街に入っていた。


琉蓮りゅうれん、君にはもう会えないのか?


財布もなければスマホもない。


そんな君が僕らと合流できなかったら…。


スマホがないなら帰り道も調べようがないよな。


仮にわかったとしても、お金がなければ帰りの新幹線には乗れない。


君はこの未開の地で独り生きていくんだ。


そんなこと、絶対ダメだ! どうにかして連れて帰るんだ。


彼を見つけたい気持ちはあるのに…。


僕は商店街の真ん中で足を止めて、ぐっと拳を握りしめた。


見つけ出す術がない。



シリウス「急に立ち止まって。どうしたというんだい?」


的場まとば「死ニタイ…。帰リタイ…」



僕の行動に対し首を傾げるシリウスと、青白い顔でぶつぶつと呟いている的場まとば


彼らはずっと後ろを着いてきていた。


クソッ…! クソッ…!


僕は何もできないのかよ!


ウインドパワーがなんだ!

みずことわりがなんだ!


そんなもの使えたって、琉蓮りゅうれんは見つからない。


結局、琉蓮りゅうれんを楽しませてあげられなかった…!


特質的な能力が使えるようになっても、僕自身は何も変わってないんだ。


ただの平凡で普通な僕のまんまじゃないか。



ピロンッ♪



ズボンのポケットに入れていたスマホから聞こえてくる通知音。


何もできない自分にやるせなさを感じながら、僕はスマホを開いた。



獅子王ししおう[ブロッコリーいがいと好評だったよ。金はなんとかとかなったから駅にむかいます]



ブロッコリーの営業に行ったあきら (ゴリラ) からのメッセージだ。


きっとゴリラの指で打ったんだろう。


拙くて少しばかり読みづらい文章と共に、1枚の写真が送られてきていた。


森の大木のようにそびえ立ついくつものブロッコリーを背景に撮られた集合写真のようなもの。


満面の笑みでグッドポーズをしているゴリラを中心に、左右には百姓と思われるおっちゃんやおばちゃんたちが並んでいる。


樹神こだまは写真に写っていない。


多分、埋まっているんだろう。


いや、厳密に言えばブロッコリーは樹神こだまの一部だから写っているということになるのか?


あと樹神こだまのブロッコリーって、彼自身が埋まるのを止めると無くなるんじゃなかったっけ?


色々と懸念はあるけど、向こうは上手くいったみたいだ。


流石だよ、あきら


生徒会長の君は、優しくて人を惹きつける魅力がある。


僕はウインドパワー……かぜことわりを習得しても、何も変わってない。


巨大ゴリラという絶対に警戒される状態で、人と打ち解けられた君はほんとに凄いよ。



[ナイス、あきら。僕も琉蓮りゅうれん新庄しんじょうを見つけてそっちに向かうよ]



僕はこのメッセージを送信すると同時に、決意を固めた。


必ず琉蓮りゅうれんを連れて帰るんだ。


未開の地で独りぼっちにはさせない!


僕は後ろに振り返り、2人にこう言った。



琉蓮りゅうれんを捜してくる。疲れているなら、そこらへんで休憩してくれ」



さっきのことは少し反省している。


今にも吐きそうな的場まとばに、琉蓮りゅうれん捜索を強要したこと。


あれは良くなかった。


だから、ここからは僕1人で捜すよ。



シリウス「ふっ、僕らを置いていくのかい?」



背中を向けて歩き出そうとした僕に対し、シリウスはそう言う。


シリウス「君は人間だ。人間1人で出来ることは限られている」


手伝ってくれるのか?


嬉しいけど、君はただのイボ痔持ちだ。


捜索の助けになるかな…?


僕はそう思いながら、もう一度彼らに振り返った。


シリウス「確か、こういう言葉があるね」


カッコいいことを言ってやるぞと言わんばかりにニヤリと笑うシリウス。


青白い顔をした的場まとばの隣で、彼はこう言った。



シリウス「“三人寄れば文殊の知恵”。2人と1柱(ひとはしら)なら、“神がかった文殊の知恵”さ」



おぉ、ちょっとカッコいいけど。

欲を言うなら、もうちょっと捻りが欲しかった。


シリウス「いや、違うね。神々しい文殊の知恵…? 文殊の知恵 神バージョン? 言葉って深いね」


彼自身も少し違うと思っているみたいだ。


「ありがとう。じゃあ、できる範囲で協力してほしい。的場まとば、君は大丈夫?」


的場まとば「…………」


返事がない。ただの屍の1歩手前まで弱っているようだ。


これだけ弱っていると、1人にしておくのは心配だな。


とりあえず、着いてきてもらおう。


こうして、僕らは琉蓮りゅうれん捜索を再開した。



__________________




商店街を突き進むと、人がどんどん増えてくる。


まずい、迷ったな。


テーマパークってどっちの方向だったっけ。


いや、はぐれてから結構時間が経っている。


琉蓮りゅうれんがテーマパークに戻っているとは限らない。


むしろ、安心したくて明かりと人気ひとけのあるここに来る可能性もあるよな。



シリウス「あの言葉は嘘みたいだね。3人寄っても何も起こらないじゃないか」



ぶつぶつと小言を言い始めるシリウス。


寄るってただ集まるって意味じゃないんだよ。ちゃんと話し合わないと…。



『炎国サラマンデルズ、ここでバッターを変えるようです』



商店街のど真ん中を歩いていると、どこからか野球の実況音声が聞こえてきた。


テレビ? ラジオかな?


どこだろう?


野球に興味があるわけじゃない。


でも、何となく惹かれて辺りを見渡した。



あぁ、上か。あんなところに…。



都会のビルとかで見かけそうな大型モニタが、商店街の天井辺りの壁に着いていた。


そのモニターに野球の試合が映し出されている。


そして…、



『えぇ、新庄しんじょう……選手?』


『そんな人いましたっけ?』



見覚えしかない黒ジャージの金髪がバッターボックスに立った。


新庄しんじょう? なんでそこにいるんだ?


その金属バットって、威力絶大な“じいちゃん2世”だよな?


ヤバい、ヤバいって。そんなもの、そんなとこで振ったら…。



新庄しんじょう『え、ここっすよね? 1億くらい稼げるバイトって。野球してたら良いんすよね?』



彼は相手チームのキャッチャーにそう尋ねている。


え、1億? 待って、これプロ野球なの?


何があったんだ、新庄しんじょう


ていうか、止めないと!

あの金属バットはまずい!


モニター越しに映る試合映像。


ピッチャーがバットを構える新庄しんじょうに向かってボールを投げた。


真っ直ぐ向かってくるボールを真剣な眼差しで見据える新庄しんじょう


彼の身体には、バチバチと光る蒼い稲妻が走っていた。



新庄しんじょう『ホームランスイング』


ドオオオオオォォォォォォン!!



雷鳴と共に、真っ暗になるモニター。


『おや、会場が暗くなりました。停電でしょうか?』


実況の人の声を聞いて、僕は安心する。


ただ停電しただけで済んだんだ。


誰かが感電死したり、野球場が吹き飛ぶようなことにはなっていない。


でも新庄しんじょう、マジで止めてくれ。心臓に悪いよ。


新庄しんじょう『あの…、これで1億すかね? 早く欲しいです。今日の新幹線、間に合わなくなっちまう』


真っ暗なモニターからバイト代を催促する新庄しんじょうの声が聞こえてくる。


モニターを通じて、野球の試合を見ていた人たちはざわついていた。


そして…、



「オ兄サン、私ト良イコトシナイ?」



僕らが立ち止まっていた場所は、たまたま風俗店の目の前だったんだ。


店の前に立っていた風俗嬢が僕らに声を掛けてきた。


スルーした僕と、多分よくわかっていない神のシリウスは無反応。


新庄しんじょうとどう合流しようか考えていたその矢先だ。



的場まとば「キ……キキキ………キレイなオネエサン」



歩く屍と化して一言も喋らなかった的場まとばが口を開いた。


そして、ガタガタと痙攣のように震える身体を彼女の方へ向ける。


都会の空気にやられていた的場まとばが元気を取り戻した?


いや、そうではないみたいだ。


的場まとば「キキキ奇奇……、奇レイオネネネ」


気をつけの姿勢で、どんどん痙攣が激しくなる的場まとばはやがて…。




ブフオォォーーー!!




大量の鼻血を噴射し、気をつけのまま空へと飛び立った。


パリイィィン!!


商店街の天井のガラスを突き破って、彼はただただ上昇する。


一直線に流れ落ちてくる大量の鼻血。


いったい何がどうなってるんだ?


元気取り戻しすぎだって…。


これも的場まとばの特質ってこと?


日下部くさかべみたいに空を飛べるのか?


色々思うことはあるけど、今は…。



「助けないと…」



僕は大量の鼻血を見上げて、そう呟いた。


的場まとばだって、飛びたくて飛んだんじゃないと思う。


お姉さんの誘惑に興奮して、自制が効かなくなったんだ。


地上に戻りたくても、戻れない状況にあるだろう。



シリウス「全く…、目立つなとあれ程言っているのに…。仕方のない人間だよ」



シリウスはやれやれといった様子で、僕の前に出た。


シリウス「水瀬みなせ、ここで待っていて。的場まとばりょうを連れ戻してくる」


そして、彼は大きく屈み、若干痛そうな顔をしながらこう言う。



シリウス「宙屁フライ・ファート迅翼スウィフト



放屁ファートの力で勢いよく飛び上がるシリウス。


彼は瞬く間に、天井に空いた穴をくぐった。


「え? 何あれ? 血?」


「ヤバくない?」


商店街を歩いていた人たちが鼻血の元に集まってくる。


僕らはこの2日間、目立ちすぎた。


シリウスには申し訳ない。


だけど、これは力を試せるちょうど良い機会でもある。


五十嵐いがらし先生から継承したウインドパワー改め、“かぜことわり”。


この力は、風を利用して空を飛べるんだ。


僕もやっと皆の力になれる。


シリウス、的場まとば


僕も今から向かうよ。


水とは違って、風はいつでも応えてくれる。


何となくそう感じるんだ。


だけど、少しだけ緊張する。


実践で能力を使うのは初めてだから。


大丈夫、風なら応えてくれる。


僕は背中に翼が生えた自分を思い浮かべながら、こう呟いた。



かぜことわり…、ウインド・ウイング」



感じる…、風の声を。


そして、形成される……、風の翼。


飛べると確信した僕は、地面を思い切り蹴飛ばした。


鼻血に沿って上昇していく僕の身体。


上から来る風が強くて、少しばかり息苦しい。


嬉しさ半分、怖さが半分。


身体は完全に浮いている。


落ちたらどうしようという不安から下を見れない。


僕はただただ空を見上げ、鼻血のいただきを目指した。


どれくらい飛んだんだろうか。


そう時間は掛かってない気がする。


オナラと鼻血で飛ぶ2人の姿が見えてきた。


シリウスは、ガクガクと痙攣しながら飛んでいる的場まとばの肩を掴んで説得しているようだ。



シューーーーーー!!


ブフオォォーーー!!


シリウス「何をしているんだい? 目立つから今すぐ降りるんだ。僕と日下部くさかべの今後に関わってくる」


的場まとば「キレイなオネエサン」



ガスが抜けるような音と、水が噴射するような音が交じる中、彼らは対話していた。


「シリウス、僕も来れたよ。何か手伝えることがあれば…」


僕が声を掛けるとシリウスは振り返り、少し驚いたような顔をする。


だけど、それも一瞬だ。


彼は僕にこう指示を出した。


シリウス「じゃあ、的場まとばを連れ戻すのを手伝ってくれるかい? 僕が指を突っ込んで鼻の穴を塞ぐから、君は身体を持ってほしい」


確かに鼻を塞げば鼻血の噴射は止まって、上昇は収まるだろう。


そして、僕らが的場まとばの身体を地上に運べば一件落着だ。


鼻血の止め方は、地面に降りてから考えれば良い。


「わかった。地面まで運ぼう」


僕が頷き、シリウスが彼の鼻に指を突っ込もうとしたその時だった。



的場まとば「危ナアアァァァイッ!!」



彼はいきなりそう叫んで、シリウスを突き飛ばしたんだ。


何が危ないのか、理解するのに時間は掛からなかった。


ただ、なんでそっちに突き飛ばしたんだ。


せめて、別の方向に…。


突き飛ばされたシリウスの後ろから、何かが迫ってきていた。


暗いし遠くてよく見えなかったけど、徐々に姿が鮮明になる。


あのシルエットは、もしかして…。


向こうが発した声で、僕は確信した。



「ゆ、友紀ゆうきくん?! ち○こさん?!」



感動の再会だ。


まさか、こんな形で琉蓮りゅうれんを見つけることになるとは思いもしなかった。


彼は、ミサイルのように身体をピンと伸ばした状態で頭から飛んできていた。


ようやく見つけた。皆で帰れるんだ。


樹神こだまは自分の力でお金を稼いだ。


新庄しんじょうは連絡を取って居場所を聞けばすぐに会えると思う。


僕はほっと胸を撫で下ろした。



鬼塚おにづか「ち、ち○こさん! 退いてくださああぁぁぁい!!」


ドンッ!



突き飛ばされたシリウスのお尻と、ミサイルのように飛んできていた琉蓮りゅうれんの頭が激突する。


シリウス「あ゛ぁっ! イボ痔がぁっ!!」


お尻を押さえて叫びながら落ちていくシリウスと、謝りながら落ちていく琉蓮りゅうれん



こうして僕らと琉蓮りゅうれんは、無事 (?) 再会を果たした。



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