西の旅2日目 - 水瀬 友紀㉕
二手に分かれてから半時間くらい経っただろうか?
若干の都会の空気にやられて元気のない的場と、金属バットを持った金髪の新庄。
彼らと一緒に、僕らはテーマパーク内を隈無く捜した。
だけど、琉蓮は見つからない。
結構広いからなぁ。思ってたより時間がかかるかも…。
それに多分、琉蓮も僕らを捜している。
お互いに見つけようと動いているから、逆に入れ違いになって会えないのかな。
空から捜しているシリウスや、テーマパークの外に出た陽と樹神からも連絡はない。
新庄「ちょっと休憩しようぜ。パズダイの周回させてくれ」
的場「俺も休憩じゃ。ここの空気は悪すぎて、すぐ過呼吸になる…」
ずっと歩いているだけで退屈そうな新庄と、息の荒い的場。
後ろから着いてきている彼らはそう言った。
「もうちょっと捜そう。今日は琉蓮の日なんだ。主役の彼に寂しい想いはさせられない」
僕がそう言いながら振り返ると…。
新庄「1回データ飛んだからなぁ。ラスボスまで後何年かかんだ…?」
的場「ヒューヒュー…、ダメじゃ。都会高が高すぎる」
彼らは既に休憩していた。
地面にあぐらをかいて座る新庄は、スマホのゲームを高速で操作している。
プロゲーマーばりの凄まじい指さばきだ。
てか、データ飛んだのにまだしてるんだ。もう諦めたら良いのに…。
そして、的場はそのすぐ隣で、両手を地面に着き過呼吸になっていた。
都会高ってなんだ? 標高の都会版的な?
それは、そうと…。
「なんで、そんな琉蓮に冷たいんだ! だから…、琉蓮は昨日…」
僕は思わず、2人に声を荒げた。
新庄「いや、でもよ…。別に1人でも遊べるくね? ここ、テーマパークなんだし」
新庄はスマホを操作しながら、ぶっきらぼうにそう言う。
琉蓮は今、財布すら持ってないんだよ。無一文でどう遊べっていうんだ。
的場「お前は…、俺にめっちゃ冷たいぞ。吐きながら捜せって酷い仕打ちじゃ」
過呼吸な的場は、新庄に続いてそう言った。
違う、それは違う。
僕らは昨日、もっと酷いことを琉蓮にしたんだ。
“琉蓮ツアー”は、彼が楽しむだけじゃなく、僕ら贖罪でもあるんだよ。
「的場、悪いけど手伝ってくれ。吐きながらでも捜すんだ。それぐらいの誠意は見せないと、琉蓮は報われない」
僕の発言に対し、的場は固まり、新庄はスマホを動かす手を止めた。
捜す気になってくれたかな?
そんな僕の思いとは裏腹に、新庄は眉をひそめてこう言った。
新庄「剣崎、悪ぃけどお前の頼みは聞けねぇ」
は? なんでだよ。
僕の気持ち、伝わってないのか?
今日は、琉蓮の日なんだ。
多少、無理してでも彼に尽くしてくれよ!
少しばかり苛立ちを覚えた僕に対し、新庄は話を続けた。
新庄「凌は動ける状態じゃねぇ。だから、周回しながら俺はここで看病する」
彼は鋭い目つきで僕を睨んでくる。
新庄「お前がリュウ何とかを庇うなら、俺は凌に味方するぜ」
ダメだ、聞く耳を持ってくれない。
ていうか、もう名前忘れてるし…。
ゴンっていう全然関係ないあだ名を付けたから、余計に覚えにくいんだろうな。
「その友達思いな優しい気持ちを、琉蓮にも少しは…」
新庄「おぉ、すげぇ! 20コンボだぁ!」
僕が返事をする時には、新庄は既に座り込みスマホで遊んでいた。
風でシバいで良いかな?
僕は今、ウインドマスター……じゃなくて“風の理”って力が使えるんだけど。
特質みたいな力を持ってるんだけど。
やっちゃって良いかな?
的場「篤史…、ヤバい。助けてくれ…」
顔色が徐々に悪くなる的場は、新庄に手を伸ばしてそう言った。
僕の殺意と的場の苦しみを、彼は全く感じ取っていないみたいだ。
ピロンッ♪
シンプルな通知音が僕のスマホから流れる。
メッセージを受信した音だ。
僕はスマホを取り出して、チャットを開いた。
樹神[兄貴、テーマパークの入口に来てくれ]
樹神からのメッセージに、僕はほっと胸を撫で下ろす。
きっと琉蓮が見つかったんだ。
やっぱりそう遠くには行ってなかった。
彼を探し始めてから1時間は経っていない。
[わかった。すぐ向かうよ。ありがとう]
僕は樹神に返信してから、休憩している新庄の方へ振り向いた。
「2人とも、琉蓮が見つかったみたいだ! 合流しよう!」
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樹神「よ、よぅ……兄貴ぃ」
テーマパークの入口に向かうと、挙動不審で目を泳がせまくっている樹神がいた。
彼と一緒に行動していたはずの陽の姿は見当たらない。
まさかとは思うけど、陽もはぐれた?
いや、それはないか。彼はスマホを持っているし、ナビの使い方にも長けている。
僕らの旅行を円滑にしてくれた彼が道に迷ったりしないだろう。
獅子王「お~い!」
遠くから聞こえてくる陽の声。
声が聞こえた方に振り向くと、手を振りながらこちらに走ってくる彼の姿が見えた。
獅子王「樹神、ここにいたのか! いつの間にかいなくなって…。いったい何処に行ってたんだ?」
陽は僕らの元へやって来るや否や、樹神に詰め寄り心配そうに問いかける。
どうやら、2人ははぐれていたみたいだ。
陽はやっと見つけたって顔をしてるけど、連絡取れてなかったのかな?
樹神「い、いやぁ…、それは今から話そうかなと思いまして…」
おどおどしながら不自然な敬語で話す樹神。
何だか嫌な予感がする。
それに、琉蓮がいない。
彼のメッセージは、琉蓮を見つけたことを知らせるものじゃなかったみたいだ。
シューーーーーー
そして、お馴染みのガスが抜けるような音と共に、空からシリウスが舞い降りる。
「シリウス! どうだった? 琉蓮は見つかった?」
着地したシリウスに、僕は聞いた。
すると、彼は首を横に振る。
シリウス「雲しか見えなかったよ」
上に行きすぎだ。どんだけ飛んでるんだよ。
シリウス「人間の目って不能だね」
やれやれといった様子でお手上げのポーズをするシリウス。
いや、他の生物に比べても、人間の目って優秀な方だと思うんだけど。
シリウス「少しお尻に痛覚を感じるね。イボ痔とやらの仕業かい?」
彼は1人そう言いながら、ポケットから挿すタイプのボラギノールを取り出し、ズボンを少し下ろして半ケツになった。
シリウス「痔には、ボラギノールッ!!」
ブスッ
そして、決めセリフ的な感じで叫びながら、ボラギノールを勢いよく肛門に挿入する。
シリウス「アッ…///」
誰も聞きたくないシリウスの色気のある声が木霊した。
もう彼のことは放っておこう。
神の割に、頼りにならない。
「それで、樹神…。話っていうのは?」
僕が何かを話そうとしていた樹神に問いかけると、彼は目を泳がせ明らかに動揺した様子でこう言った。
樹神「あの…、金貸してくんねぇかな? いま無一文でよ。色々あったんすわ~…」
背中を丸めて頭をポリポリと掻く樹神。
君のことを疑うつもりはないけど、色々っていう曖昧な言い方をされると勘ぐってしまう。
樹神「これじゃ、帰りの新幹線も乗れなくて徒歩っすわ」
続けて僕にそう話す彼だけど、目を合わせようとしない。
友達を疑うのは良くないよな。
「何があったのか詳しく教えてくれないか。どうしてお金がなくなったのかを聞かせてほしい」
帰りの新幹線代とかは貸すつもりだ。
だけど、理由は聞いておかないと。
カツアゲとかスリに遭ったんなら、警察に行った方が良いと思うし。
樹神「ええと…、うーん」
頭を掻きながら返事を考えている樹神の額からは、汗が滲んできた。
友達を疑うのは良くないし、疑いたくもない。
まさかとは思うけど…。
樹神「…………あ!」
彼は何かを閃いたような顔をして、意気揚々と僕にこう言った。
樹神「パチ屋でパチンコ玉……じゃなくて財布落としたんすわ~!」
いや、完全にパチンコ絡みじゃん。
誤魔化せてないって。
「樹神、負けたのか? 全お小遣いを突っ込んで」
僕は樹神の肩に手を置いてそう言った。
樹神「うん…、負け……落とした。財布を」
僕の質問に対し、彼はボロを出しまくる。
樹神、君の良いところ見つけたよ。
君は、嘘を吐けない素直なエンターテイナーなんだ。
「パチンコで負けたんだな?」
樹神「違う、ギャンブルに負けたんだ」
とりあえず、パチンコでお小遣いを使い果たしたのは間違いない。
どうしよう。理由が理由だ。
お金を貸す気にならない。
でも、本当は今日の夜帰るつもりだったんだ。
琉蓮がここにいたら、もう熊木駅へ向かっていただろう。
かと言って、今すぐ稼いで来いなんて無茶振りは言えない。
樹神「兄貴、旦那、番長に大将、そして変態男。お願いします。お金を貸してください」
樹神は、大きな頭を地面に着けて土下座した。
困ったな。
琉蓮は見つからないし、樹神は全お小遣いを使い尽くした。
最初から最後までトラブルだらけの旅行だ。
獅子王「仕方ない。人肌脱いで、一皮被ろう」
陽は、土下座した樹神に優しく微笑んでから空を見上げた。
陽、いくらなんでも優しすぎるよ。
ハッキリ言って、樹神が100パーセント悪い。
それでも、君はお金を貸すんだな。もしかしたら、返ってこないかもしれないよ。
樹神「うぅ…、旦那あぁ~! 恩に着ますわぁ」
今にも泣き出しそうな声で感謝をする樹神。
そんな彼には目を向けず、陽は沈みかけている夕日を見据えながらこう言った。
獅子王「霊長類の神であり富を齎す金満の王よ。全てを失った敗北者を導くべく、今ここに降臨せよ___唖毅羅」
夕日を見て決め台詞的なことを言った陽の身体は、お馴染みの大きめゴリラに変化する。
なんで、ゴリラ化したんだ? お金の貸すためにゴリラになったとは思えない。
ゴリラとなった陽は、ニッコリと笑ってこう言った。
唖毅羅「ざぁ゛、出稼ぎに゛行ぐよ゛! 背中に゛乗っ゛で」
樹神「…………はい?」
少し話しにくそうに発した彼の言葉に対して、樹神は首を傾げる。
正直、僕もよくわからない。
出稼ぎ…、背中に乗る…、ゴリラ化…。
いったい何を考えているんだ?
唖毅羅「自分の゛お゛金ば、自分で稼ぐ!」
そう言い放った陽は、相対的に小さくなった自分のリュックサックを背負い、ゴリラの指でスマホを操作し始めた。
唖毅羅「あ゛ぁ゛! 指デガい゛! 画面小ざい゛!」
いつもは温厚で優しい陽だけど、ゴリラ状態だとスマホが扱いにくく、少しイライラしているようだ。
彼は多分、樹神自身に自分のお金を稼いで貰おうと思っている。
ゴリラになって、その手伝いをしようと思っているのかな?
でも、どうやって稼ぐんだろう。
樹神「え! 旦那、ちょっと待ってくださいよ! 俺、バイトは嫌っすよ!」
樹神は働かされることを察したのか、ゴリラの陽に抗議する。
唖毅羅「四の゛五の゛言わ゛な゛い゛!」
彼はそう言って、駄々をこねる樹神の身体を左腕で担いだ。
樹神「うわああぁぁぁ! 放せええぇぇぇ! アフロブレェェェェイク!!!」
アフロブレイクという名のヘッドバンキングで何とか逃げようとする樹神。
言っちゃ悪いけど、頭を振っても意味ないと思う。
「でも、陽…。いったいどうやって稼ぐんだ?」
僕は率直な疑問を陽にぶつけた。
すると、彼は満面の笑みと共にスマホの画面をこちらに向けてこう言う。
唖毅羅「ゴリ゛ラ゛とブロ゛ッ゛ゴリ゛ーの゛飛び込み゛営業だ!」
スマホには熊木の農家の住所リストが表示されていた。
それ本気なのか?
樹神の5メートル級のブロッコリーを農家に売りつけるってことだろ。
そんな5メートルのブロッコリーを買いたい人なんているんだろうか。
唖毅羅「行っ゛でぐる゛! 熊木駅で落ぢ合お゛う゛!」
「ち、ちょっと待っ…!」
陽は樹神と自分の荷物を持って、もの凄いスピードで走って行った。
まずいな、どうしよう。
まだ琉蓮も見つかってないのに…。
とりあえず、このメンバーで琉蓮を見つけよう。
ゴリラ・ブロッコリーコンビは後だ。
新庄「え…? あれ? ん? あれ!?」
僕がそんなことを考えていると、新庄が自分の身体を触り始めた。
ズボンや服をポケットに手を突っ込んで何かを探しているみたいだ。
そして、彼は絶望した表情で僕にこう言った。
新庄「剣崎、財布落とした…」
マジかよ。嘘だと言ってくれ。
これ以上、トラブルを増やさないでくれ…!
行方不明の琉蓮、出稼ぎに行ったゴリラとブロッコリー、財布を無くした新庄。
何から手を着けろっていうんだ!
新庄「お、俺も出稼ぎに行かねぇと! 剣崎、ちょっとバイトしてくる! 熊木駅、集合な!」
そう言い放った新庄は、金属バットを持って2人とは反対の方向に走り出した。
「ちょっと待ってくれ!!」
そう言った時にはもう、彼は遠くの方へ行っていた。
何か走るの超速くない? 前から速いと思ってたけど、その比じゃない気がする。
的場「篤史いぃ!! 置いていかんといてくれぇ!」
的場の体調も限界が来ていたんだろう。
仲の良い新庄に放っていかれたショックもあってか、彼は嘔吐した。
都会にいても田舎にいても、結局は吐いてしまうのか。
的場が元気いっぱいに暮らせるのは、地元しかないのかもしれないな。
5メートル級ブロッコリーの飛び込み営業に行った陽と樹神。
アルバイトを探して走り出した新庄。
シリウス「何だか騒々しいね。これもイボ痔とやらの仕業かい?」
取り残された僕らは、テーマパークの前で立ち尽くすしかなかった。




