表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•連休編
202/270

西の旅2日目 - 水瀬 友紀㉕

二手に分かれてから半時間くらい経っただろうか?


若干の都会の空気にやられて元気のない的場まとばと、金属バットを持った金髪の新庄しんじょう


彼らと一緒に、僕らはテーマパーク内を隈無く捜した。


だけど、琉蓮りゅうれんは見つからない。


結構広いからなぁ。思ってたより時間がかかるかも…。


それに多分、琉蓮りゅうれんも僕らを捜している。


お互いに見つけようと動いているから、逆に入れ違いになって会えないのかな。


空から捜しているシリウスや、テーマパークの外に出たあきら樹神こだまからも連絡はない。


新庄しんじょう「ちょっと休憩しようぜ。パズダイの周回させてくれ」


的場まとば「俺も休憩じゃ。ここの空気は悪すぎて、すぐ過呼吸になる…」


ずっと歩いているだけで退屈そうな新庄しんじょうと、息の荒い的場まとば


後ろから着いてきている彼らはそう言った。


「もうちょっと捜そう。今日は琉蓮りゅうれんの日なんだ。主役の彼に寂しい想いはさせられない」


僕がそう言いながら振り返ると…。



新庄しんじょう「1回データ飛んだからなぁ。ラスボスまで後何年かかんだ…?」


的場まとば「ヒューヒュー…、ダメじゃ。都会高とかいこうが高すぎる」



彼らは既に休憩していた。


地面にあぐらをかいて座る新庄しんじょうは、スマホのゲームを高速で操作している。


プロゲーマーばりの凄まじい指さばきだ。


てか、データ飛んだのにまだしてるんだ。もう諦めたら良いのに…。


そして、的場まとばはそのすぐ隣で、両手を地面に着き過呼吸になっていた。


都会高とかいこうってなんだ? 標高の都会版的な?


それは、そうと…。



「なんで、そんな琉蓮りゅうれんに冷たいんだ! だから…、琉蓮りゅうれんは昨日…」



僕は思わず、2人に声を荒げた。


新庄しんじょう「いや、でもよ…。別に1人でも遊べるくね? ここ、テーマパークなんだし」


新庄しんじょうはスマホを操作しながら、ぶっきらぼうにそう言う。


琉蓮りゅうれんは今、財布すら持ってないんだよ。無一文でどう遊べっていうんだ。


的場まとば「お前は…、俺にめっちゃ冷たいぞ。吐きながら捜せって酷い仕打ちじゃ」


過呼吸な的場まとばは、新庄しんじょうに続いてそう言った。


違う、それは違う。


僕らは昨日、もっと酷いことを琉蓮りゅうれんにしたんだ。


琉蓮りゅうれんツアー”は、彼が楽しむだけじゃなく、僕ら贖罪しょくざいでもあるんだよ。



的場まとば、悪いけど手伝ってくれ。吐きながらでも捜すんだ。それぐらいの誠意は見せないと、琉蓮りゅうれんは報われない」



僕の発言に対し、的場まとばは固まり、新庄しんじょうはスマホを動かす手を止めた。


捜す気になってくれたかな?


そんな僕の思いとは裏腹に、新庄しんじょうは眉をひそめてこう言った。


新庄しんじょう剣崎けんざき、悪ぃけどお前の頼みは聞けねぇ」


は? なんでだよ。


僕の気持ち、伝わってないのか?

今日は、琉蓮りゅうれんの日なんだ。


多少、無理してでも彼に尽くしてくれよ!


少しばかり苛立ちを覚えた僕に対し、新庄しんじょうは話を続けた。


新庄しんじょうりょうは動ける状態じゃねぇ。だから、周回しながら俺はここで看病する」


彼は鋭い目つきで僕を睨んでくる。


新庄しんじょう「お前がリュウ何とかを庇うなら、俺はりょうに味方するぜ」


ダメだ、聞く耳を持ってくれない。


ていうか、もう名前忘れてるし…。


ゴンっていう全然関係ないあだ名を付けたから、余計に覚えにくいんだろうな。


「その友達思いな優しい気持ちを、琉蓮りゅうれんにも少しは…」


新庄しんじょう「おぉ、すげぇ! 20コンボだぁ!」


僕が返事をする時には、新庄しんじょうは既に座り込みスマホで遊んでいた。


風でシバいで良いかな?


僕は今、ウインドマスター……じゃなくて“かぜことわり”って力が使えるんだけど。


特質みたいな力を持ってるんだけど。


やっちゃって良いかな?



的場まとば篤史あつし…、ヤバい。助けてくれ…」



顔色が徐々に悪くなる的場まとばは、新庄に手を伸ばしてそう言った。


僕の殺意と的場まとばの苦しみを、彼は全く感じ取っていないみたいだ。



ピロンッ♪



シンプルな通知音が僕のスマホから流れる。


メッセージを受信した音だ。


僕はスマホを取り出して、チャットを開いた。



樹神こだま[兄貴、テーマパークの入口に来てくれ]



樹神こだまからのメッセージに、僕はほっと胸を撫で下ろす。


きっと琉蓮りゅうれんが見つかったんだ。


やっぱりそう遠くには行ってなかった。


彼を探し始めてから1時間は経っていない。


[わかった。すぐ向かうよ。ありがとう]


僕は樹神こだまに返信してから、休憩している新庄しんじょうの方へ振り向いた。



「2人とも、琉蓮りゅうれんが見つかったみたいだ! 合流しよう!」



__________________




樹神こだま「よ、よぅ……兄貴ぃ」


テーマパークの入口に向かうと、挙動不審で目を泳がせまくっている樹神こだまがいた。


彼と一緒に行動していたはずのあきらの姿は見当たらない。


まさかとは思うけど、あきらもはぐれた?


いや、それはないか。彼はスマホを持っているし、ナビの使い方にも長けている。


僕らの旅行を円滑にしてくれた彼が道に迷ったりしないだろう。



獅子王ししおう「お~い!」



遠くから聞こえてくるあきらの声。


声が聞こえた方に振り向くと、手を振りながらこちらに走ってくる彼の姿が見えた。



獅子王ししおう樹神こだま、ここにいたのか! いつの間にかいなくなって…。いったい何処に行ってたんだ?」



あきらは僕らの元へやって来るや否や、樹神こだまに詰め寄り心配そうに問いかける。


どうやら、2人ははぐれていたみたいだ。


あきらはやっと見つけたって顔をしてるけど、連絡取れてなかったのかな?


樹神こだま「い、いやぁ…、それは今から話そうかなと思いまして…」


おどおどしながら不自然な敬語で話す樹神こだま


何だか嫌な予感がする。


それに、琉蓮りゅうれんがいない。


彼のメッセージは、琉蓮りゅうれんを見つけたことを知らせるものじゃなかったみたいだ。



シューーーーーー



そして、お馴染みのガスが抜けるような音と共に、空からシリウスが舞い降りる。


「シリウス! どうだった? 琉蓮りゅうれんは見つかった?」


着地したシリウスに、僕は聞いた。


すると、彼は首を横に振る。



シリウス「雲しか見えなかったよ」



上に行きすぎだ。どんだけ飛んでるんだよ。


シリウス「人間の目って不能だね」


やれやれといった様子でお手上げのポーズをするシリウス。


いや、他の生物に比べても、人間の目って優秀な方だと思うんだけど。


シリウス「少しお尻に痛覚を感じるね。イボ痔とやらの仕業かい?」


彼は1人そう言いながら、ポケットから挿すタイプのボラギノールを取り出し、ズボンを少し下ろして半ケツになった。



シリウス「痔には、ボラギノールッ!!」


ブスッ



そして、決めセリフ的な感じで叫びながら、ボラギノールを勢いよく肛門に挿入する。



シリウス「アッ…///」



誰も聞きたくないシリウスの色気のある声が木霊した。


もう彼のことは放っておこう。

神の割に、頼りにならない。


「それで、樹神こだま…。話っていうのは?」


僕が何かを話そうとしていた樹神こだまに問いかけると、彼は目を泳がせ明らかに動揺した様子でこう言った。



樹神こだま「あの…、金貸してくんねぇかな? いま無一文でよ。色々あったんすわ~…」



背中を丸めて頭をポリポリと掻く樹神こだま


君のことを疑うつもりはないけど、色々っていう曖昧な言い方をされると勘ぐってしまう。


樹神こだま「これじゃ、帰りの新幹線も乗れなくて徒歩っすわ」


続けて僕にそう話す彼だけど、目を合わせようとしない。


友達を疑うのは良くないよな。


「何があったのか詳しく教えてくれないか。どうしてお金がなくなったのかを聞かせてほしい」


帰りの新幹線代とかは貸すつもりだ。


だけど、理由は聞いておかないと。


カツアゲとかスリに遭ったんなら、警察に行った方が良いと思うし。



樹神こだま「ええと…、うーん」



頭を掻きながら返事を考えている樹神こだまの額からは、汗が滲んできた。


友達を疑うのは良くないし、疑いたくもない。


まさかとは思うけど…。


樹神こだま「…………あ!」


彼は何かを閃いたような顔をして、意気揚々と僕にこう言った。


樹神こだま「パチ屋でパチンコ玉……じゃなくて財布落としたんすわ~!」


いや、完全にパチンコ絡みじゃん。


誤魔化せてないって。


樹神こだま、負けたのか? 全お小遣いを突っ込んで」


僕は樹神こだまの肩に手を置いてそう言った。


樹神こだま「うん…、負け……落とした。財布を」


僕の質問に対し、彼はボロを出しまくる。


樹神こだま、君の良いところ見つけたよ。


君は、嘘を吐けない素直なエンターテイナーなんだ。


「パチンコで負けたんだな?」


樹神こだま「違う、ギャンブルに負けたんだ」


とりあえず、パチンコでお小遣いを使い果たしたのは間違いない。


どうしよう。理由が理由だ。

お金を貸す気にならない。


でも、本当は今日の夜帰るつもりだったんだ。


琉蓮りゅうれんがここにいたら、もう熊木くまもく駅へ向かっていただろう。


かと言って、今すぐ稼いで来いなんて無茶振りは言えない。


樹神こだま「兄貴、旦那、番長に大将、そして変態男。お願いします。お金を貸してください」


樹神こだまは、大きな頭を地面に着けて土下座した。


困ったな。


琉蓮りゅうれんは見つからないし、樹神こだまは全お小遣いを使い尽くした。


最初から最後までトラブルだらけの旅行だ。



獅子王ししおう「仕方ない。()()脱いで、一皮被ろう」



あきらは、土下座した樹神こだまに優しく微笑んでから空を見上げた。


あきら、いくらなんでも優しすぎるよ。


ハッキリ言って、樹神こだまが100パーセント悪い。


それでも、君はお金を貸すんだな。もしかしたら、返ってこないかもしれないよ。


樹神こだま「うぅ…、旦那あぁ~! 恩に着ますわぁ」


今にも泣き出しそうな声で感謝をする樹神こだま


そんな彼には目を向けず、あきらは沈みかけている夕日を見据えながらこう言った。



獅子王ししおう「霊長類の神であり富をもたらす金満の王よ。全てを失った敗北者を導くべく、今ここに降臨せよ___唖毅羅(アキラ)



夕日を見て決め台詞的なことを言ったあきらの身体は、お馴染みの大きめゴリラに変化する。


なんで、ゴリラ化したんだ? お金の貸すためにゴリラになったとは思えない。


ゴリラとなったあきらは、ニッコリと笑ってこう言った。



唖毅羅アキラ「ざぁ゛、出稼ぎに゛行ぐよ゛! 背中に゛乗っ゛で」


樹神こだま「…………はい?」



少し話しにくそうに発した彼の言葉に対して、樹神こだまは首を傾げる。


正直、僕もよくわからない。


出稼ぎ…、背中に乗る…、ゴリラ化…。


いったい何を考えているんだ?


唖毅羅アキラ「自分の゛お゛金ば、自分で稼ぐ!」


そう言い放ったあきらは、相対的に小さくなった自分のリュックサックを背負い、ゴリラの指でスマホを操作し始めた。


唖毅羅アキラ「あ゛ぁ゛! 指デガい゛! 画面小ざい゛!」


いつもは温厚で優しいあきらだけど、ゴリラ状態だとスマホが扱いにくく、少しイライラしているようだ。


彼は多分、樹神こだま自身に自分のお金を稼いで貰おうと思っている。


ゴリラになって、その手伝いをしようと思っているのかな?


でも、どうやって稼ぐんだろう。


樹神こだま「え! 旦那、ちょっと待ってくださいよ! 俺、バイトは嫌っすよ!」


樹神こだまは働かされることを察したのか、ゴリラのあきらに抗議する。


唖毅羅アキラ「四の゛五の゛言わ゛な゛い゛!」


彼はそう言って、駄々をこねる樹神こだまの身体を左腕で担いだ。


樹神こだま「うわああぁぁぁ! 放せええぇぇぇ! アフロブレェェェェイク!!!」


アフロブレイクという名のヘッドバンキングで何とか逃げようとする樹神こだま


言っちゃ悪いけど、頭を振っても意味ないと思う。


「でも、あきら…。いったいどうやって稼ぐんだ?」


僕は率直な疑問をあきらにぶつけた。


すると、彼は満面の笑みと共にスマホの画面をこちらに向けてこう言う。



唖毅羅アキラ「ゴリ゛ラ゛とブロ゛ッ゛ゴリ゛ーの゛飛び込み゛営業だ!」



スマホには熊木くまもくの農家の住所リストが表示されていた。


それ本気なのか?


樹神こだまの5メートル級のブロッコリーを農家に売りつけるってことだろ。


そんな5メートルのブロッコリーを買いたい人なんているんだろうか。



唖毅羅アキラ「行っ゛でぐる゛! 熊木駅で落ぢ合お゛う゛!」


「ち、ちょっと待っ…!」



あきら樹神こだまと自分の荷物を持って、もの凄いスピードで走って行った。


まずいな、どうしよう。


まだ琉蓮りゅうれんも見つかってないのに…。


とりあえず、このメンバーで琉蓮りゅうれんを見つけよう。


ゴリラ・ブロッコリーコンビは後だ。



新庄しんじょう「え…? あれ? ん? あれ!?」



僕がそんなことを考えていると、新庄しんじょうが自分の身体を触り始めた。


ズボンや服をポケットに手を突っ込んで何かを探しているみたいだ。


そして、彼は絶望した表情で僕にこう言った。



新庄しんじょう剣崎けんざき、財布落とした…」



マジかよ。嘘だと言ってくれ。


これ以上、トラブルを増やさないでくれ…!


行方不明の琉蓮りゅうれん、出稼ぎに行ったゴリラとブロッコリー、財布を無くした新庄しんじょう


何から手を着けろっていうんだ!



新庄しんじょう「お、俺も出稼ぎに行かねぇと! 剣崎けんざき、ちょっとバイトしてくる! 熊木くまもく駅、集合な!」



そう言い放った新庄しんじょうは、金属バットを持って2人とは反対の方向に走り出した。


「ちょっと待ってくれ!!」


そう言った時にはもう、彼は遠くの方へ行っていた。


何か走るの超速くない? 前から速いと思ってたけど、その比じゃない気がする。



的場まとば篤史あつしいぃ!! 置いていかんといてくれぇ!」



的場まとばの体調も限界が来ていたんだろう。


仲の良い新庄しんじょうに放っていかれたショックもあってか、彼は嘔吐した。


都会にいても田舎にいても、結局は吐いてしまうのか。


的場まとばが元気いっぱいに暮らせるのは、地元しかないのかもしれないな。


5メートル級ブロッコリーの飛び込み営業に行ったあきら樹神こだま


アルバイトを探して走り出した新庄しんじょう


シリウス「何だか騒々しいね。これもイボ痔とやらの仕業かい?」



取り残された僕らは、テーマパークの前で立ち尽くすしかなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ