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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•連休編
194/271

出発 - 水瀬 友紀⑳

新幹線は想像以上に速かった。


新幹線の窓から見える外の景色は、目まぐるしく入れ替わる。


最大時速300キロで走る新幹線。


れい唾液滑走よだれスケートとどっちが速いんだろう。流石に新幹線の方が速そうだけど。



日下部くさかべ「よし、もう大丈夫。路線を間違えると全然違うところに行ってしまうからね。後は到着を待つだけさ」



僕の隣に座っている日下部くさかべは、安心したような表情を浮かべてそう言う。


都会や旅行に慣れまくっている大人の日下部くさかべも、少しは緊張していたのかな。


頼りのない僕らを連れての移動は、結構負担になっているのかもしれない。


旅行が終わったら、何かお礼しないと…。


日下部くさかべ「そういえばバスの中でしていたあの話、気になるね。続きを話してくれないかい?」


席に深く腰を掛けた彼は、僕に話を振ってきた。


新幹線に乗りさえすれば、後はウォルトランドに着くのを待つだけ。


移動や乗り換えでバタバタしてたから、話が途中になってたな。


『まもなく姫道ひめみちです。姫道ひめみちを出ますと、次は相城あいじょうに停まります』


到着駅を知らせる新幹線のアナウンス。


目的の駅に着くのは、多分まだまだ先だろう。


僕らは途中になっていた話を再開した。


バスの中でしていたあの話っていうのは、僕が()()した2つの能力のことだ。


五十嵐いがらし先生の恋人繋ぎによって授かったウインドパワー改め、“かぜことわり”。


そして、もう1つ。


EvilRoidエビルロイド - Aquaアクア”から引き継がれたと思われる“みずことわり”。


使いこなせるかどうかは別として、僕は今、風と水を自在に操れる能力を持っているみたいなんだ。


日下部くさかべには、この2つの力を継承しているって所まで話している。


そして、それらを使いこなしていたAquaアクア五十嵐いがらし先生のことも話したよ。


Aquaアクアの時は、彼が生成した水の中で気を失っていた。


五十嵐いがらし先生の時は、足を痛めて保健室にいた。


日下部くさかべは、これら水と風の能力を見たことがないんだ。



日下部くさかべ「本当に使えるなら強力で頼もしい能力になるだろうね。Aquaアクアには君が、五十嵐いがらし先生には鬼塚おにづかがいないと負けていた。君には是非、両方ともマスターしてほしいよ」



僕の話を聞いた日下部くさかべは、真剣な表情でそう言った。


敵や脅威が一定の頻度でやって来ている。


高校生活残り1年間、何事もなく平和に過ごせるとは思えない。


日下部くさかべの言うとおり、この能力を使いこなせるに越したことはないだろう。



「うん。僕もある程度、試してはみたんだ」


日下部くさかべ「本当かい? 風や水を彼らのように使いこなせるのかい?」



隣に座っている日下部くさかべは、少し前のめりになって僕に尋ねてくる。


『まもなく丘山おかやまです。丘山おかやまを出ますと、次は異倉敷あだくらしきに停まります』


再び聞こえてくる新幹線のアナウンス。


日下部くさかべはこのアナウンスを注意深く聞いているみたいだったけど、すぐ僕の方へ向き直る。


「まぁ一応…、使えるみたいなんだけど」


僕は数日前の出来事を思い返しながら、彼に話を続けた。


みずことわり”を使えたのは、まだ1度だけだ。


Aquaアクアがグラウンドに展開していた水を手の平に集結させてDestroyデストロイの動きを止めた時、僕は思い通りに水を操れていた。


だけど、あれ以来は1度も…。


花壇に水をあげるときや、お風呂にお湯を溜めるとき、練習がてら使おうとしたこともある。


この前の球技大会や五十嵐いがらし先生との戦いにも使おうとしていたよ。


だけど、水は全く応えてくれなかった。


僕は、“みずことわり”という能力を本当に持っているのだろうか。


あの時、偶然そうなっただけかもしれない。


一方この前もらったばかりのウインドパワー…、じゃなくて“かぜことわり”はというと…。


これもちょっと前、自分の庭で試してみたんだ。


試す場所をもっと考えるべきだった。


結論から言うと、風の方はバリバリ使える。



かぜことわり…、えっと…、とりあえず、ウインドハリケーン竜巻タイフーン』



数日前、能力を試そうと思った僕は、家の庭の真ん中に立ち、誰にも聞こえない小さな声でそう呟いた。


親や近所に聞こえると恥ずかしいから。


この時ざっくりと想像していたのは、小さな竜巻だ。


水が言うこと聞かないというのもあって、1発目から使えるとは思ってなかった。


だから、何も考えず父さんの仕事場を見ながらテキトウな技名を発したんだ。


まさか、目の前に大きな竜巻が発生するなんて思いもしなかった。


この日、臨時休校になった僕にとっては休日だけど、大多数の人にとっては平日だ。


社長の父さんも例外なく仕事場で仕事をしていた。


竜巻は仕事場をバキバキと破壊し、中にいた父さんを巻き上げる。



『父さあああぁぁぁぁぁん!!』



僕は思わず、上空にいる父さんに手を伸ばした。


『ぐっ、友紀ゆうき…! 机の下に頭を隠すんだ!』


父さんは上空で身体を回されながらも、僕に向かって指示を出す。


さすが自国民、地震に対しての対策は完璧だ。だけど、これは地震じゃない!


身体も頭もぐるぐるで、きっとまともな判断ができてないんだ。


いや、僕は何をしているんだ! 自分で作った竜巻なら止められるじゃないか。


僕は竜巻に向かって手をかざしてこう言った。



『竜巻、ストップ!』



この一言で竜巻は瞬時に消え、家の破片と共に父さんが落ちてくる。


『くっ、これまでか…』


どこか生きることを諦めた様子の父さん。


僕は反射的に、手で何かをすくうような形を作りこう叫んだ。



『低反発ウインドふかふかベッド!!』



イメージとしては、風でできたふかふかベッドを空中に作り、落ちてくる父さんを受け止めるといった感じだ。


そして、僕のイメージ通りに風は動いてくれた。風の力を使ったのは、この時が初めてだったのに。


風のベッドに包まれながら、ゆっくりと降りてくる父さんの身体。


庭の地面に背中を着けた父さんはゆっくりと上体を起こし、半壊した仕事場を見てぽつりと呟いた。


()()()の会社、()()するかもな…』


ちょっと笑いそうになったけど、何とか堪えて謝ったよ。


至って深刻な顔をしていて、ギャグのつもりじゃなさそうだったし。



「まぁ、なんでお前が謝るんだって言われたけど。かぜことわりは、技の名前とかテキトウでもイメージ通り使えるんだ。練習とか清らかな心とか必要ないのかも」


日下部くさかべ「なるほどね。風の方はすぐ使えるのに、水の方は一向に使えないと…」



ここまで話を聞いた日下部くさかべは、顎に手を当てて考える素振りを見せる。


そして、彼は何か閃いたかのようにはっとして、ニヤリと笑いながらこう述べた。



日下部くさかべ「つまり、水は素直になれないツンデレ彼女。風の方は、大好きな人に貢ぎがちなATM彼女というわけだ」



君…、水にられるよ? しばらく水気のある所に行かない方が良いかも。


風はイジられるのとか平気そうだけど、水は普通に怒りそうで怖い。


彼はツンデレ彼女に例えたけど、そもそも僕自身、水に好かれている気がしないんだよな。


逆に、なんであの時は協力してくれたんだろう?



『まもなく東狭島ひがしさじまです。東狭島ひがしさじまを出ますと、次は狭島さじまに停まります』



次の駅が近づくたびに流れる新幹線のアナウンス。


日下部くさかべは、このアナウンスに首を傾げた。


日下部くさかべ「さっきから聞いたことのない駅ばかりだね。事前に調べた駅名とは違う」


聞いたことのない駅か。県外の電車とか交通機関に疎い僕からすると、全部そうなんだけど…。


何か今までの経験上、嫌な予感がしなくもない。


日下部くさかべ「シリウス、近くに神憑かみつきはいるかい?」


日下部くさかべは自身に憑いている神“シリウス”にそう問いかけた。


僕らには見えない存在、シリウスは何かしらの返事をしたんだろう。


日下部くさかべ「うん、僕も感じない。なら、神憑かみつきとは違う力か」


彼は恐らくその返事に対してぽつりと呟き、神妙な面もちで立ち上がった。



日下部くさかべ「どうやら、何者かが仕掛けてきたようだ。聞き覚えのない駅名に知らない風景。別次元の世界に飛ばされたか、あるいは結界か」



何だって? また敵が来るのか?


なんで…、なんでだよ。僕らが何をしたっていうんだよ。


連休中くらい普通にゆっくりさせてくれよ…!


日下部くさかべは後ろに振り返り、僕らの後ろの席に座っている皆を呼びかけた。


日下部くさかべ「敵襲だ。各自、臨戦態勢に入ってくれ」


彼の一言で、“BREAKERZブレイカーズ”に緊張が走る。


同時に、他の乗客の視線が席を立っている日下部くさかべに集まった。


日下部くさかべ「シリウス、今は目立つとか目立たないとか気にしている場合じゃない。十中八九敵襲だ、こうするしかないんだ」


シリウスと小声で何かしらの会話を交わす日下部くさかべ


獅子王ししおう「敵って? この中にいるのか? 一体どんな能力を…?」


僕らのすぐ後ろの席に座っていたあきらは、画面の点いたスマホを片手にそう質問する。


日下部くさかべ「敵の所在と能力の詳細はわからない。だけど、別世界に飛ばされているようだね。さっきから聞いたことのない駅名ばかりアナウンスで流れるんだ。ほら、耳を澄まして聞いてごらん」


すかさずそう答えた日下部くさかべが耳に手を当てると、次のアナウンスが流れた。



『まもなく狭島さじまです。狭島さじまを出ますと、次は真石国しんせきこくに停まります』



あぁ、何か言われてみれば別世界の駅な気がする。


シンセキコク…、神世斬刻しんせきこく


能力の名前みたいにも聞こえてきた。


ヤバい、旅行どころじゃない。


もう夢の国には行けないんだ。現実で僕らは戦わなくちゃいけないんだ。



獅子王ししおう「あの…、単純に乗り場を間違えたとかじゃなくて?」



自分の席に座ったまま、気まずそうにそう問いかけるあきら


日下部くさかべ「な、何を言ってるんだい? 大丈夫さ、全ての1番乗り場は首都に帰結する。それにさっき東狭島ひがしさじまって駅を通ったんだ。東に向かっているのは間違いない。東って名前に書いてあるからね」


彼の発言に、日下部くさかべは動揺し取り乱した。


敵が近くにいるんだ。いくら大人の日下部くさかべでも冷静でいるのは難しいと思う。


だけど、あきらはとても落ち着いている……というよりも戸惑っている様子だった。



獅子王ししおう「その1番乗り場の話、どこ情報なの? マジで初耳なんだけど」


日下部くさかべ「どこ情報って…。普通に考えればわかることじゃないか。1番は全部首都。簡単でシンプルな方が皆わかりやすいだろう?」



座席の背もたれも挟んで、立っている日下部くさかべと座っているあきらの対話が繰り広げられている。


獅子王ししおう「つまり、持論ってこと…? その持論であの時どっちに乗るか決めたってこと?」


日下部くさかべ「自分の感情を全て捨て、あくまで理論的に考えて編み出した僕の憶測が間違っていると言いたいのかい? シリウス、君は静かにしてくれるかい。これは人間同士の話し合いだ」


あきらと誰もいない自分の隣を交互に見ながら話をする日下部くさかべ


シリウスも横から何かを主張しているんだろうか。


もし、彼が敵のことを知らせているのなら無視をするのは良くない。



「2人とも落ち着こう! 敵の襲来で動揺するのはわかるけど、言い合いしている場合じゃない。どう迎え撃つか考えないと…」



僕も席から立ち上がり、話に加わった。


そうだ、この場で戦いになるのはかなりまずい。


狭いスペースに、たくさんの乗客。


いつも通り戦ったら乗客を巻き込んでしまうし、自由に動けるスペースもない。


逆に敵がなり振り構わず攻撃してきたら、みんな死んでしまう。


落ち着いて、考えて行動しないと取り返しのつかないことになるだろう。



獅子王ししおう「2人ともこれを見て」



あきらはスマホを操作して、ある画面を僕と日下部くさかべに見せてきた。


これは、“GORGLEゴーゴル Mapマップ”の画面だ。


地図上に僕らの現在地が青丸で表示されていて、もの凄い速さで左に移動している。


地図では上が北になるから、左は……西?


確か日下部くさかべは言っていた。


僕らが向かうのは東の夢の国、ウォルトランドだって。


そもそも首都は僕らの地元から見て東側にあるんだ。


今、西に向かっているのはかなりおかしい。


そりゃこのまま西に突っ切って、地球を一周すれば首都にも着くだろうけど、まさかそんな遠回りを…?


世界を一周してからウォルトランドに向かうという壮大な計画なのか? そんな旅費、貰ったお小遣いで払える気しないんだけど。


日下部くさかべ…」


僕は彼の思惑を聞こうと、隣に振り向いた。


顔面蒼白でスマホを見ている日下部くさかべが視界に飛び込んでくる。


獅子王ししおう「これ多分、環状線みたいに一周して首都に戻るとかではないよね…? てことは、この路線は多分…」


“首都には停まらない”。


そう言おうとして、言葉を詰まらせたんだと思う。


獅子王ししおう「もしかして、1番乗り場、全部首都理論で首都に行くというのはブラフで、実は西に旅行するっていう感じかな?」


これはあきらなりの気遣いだったんだろう。それとも、ちゃんと計画通りに行っているという願望からの発言かもしれない。


日下部くさかべが起こした次の行動で僕らは絶望の淵に立たされた。






日下部くさかべ「1番乗り場ちゃうんかああぁぁぁい!!」






そう叫びながら膝から崩れ落ちる日下部くさかべと、突然の大声に反応してこちらに振り向く人たち。


あきらを筆頭に、どうしていいかわからず固まるみんな。


スマートな日下部くさかべが計画し、完全完璧だったと思われる夢の旅行は消え去った。


敵の襲来ではなくただ路線を間違えただけなのは、不幸中の幸いと言うべきだろうか。


僕は乗客の冷ややかな視線を浴びながら、皆の沈んだ表情をただ見守ることしかできない。



『まもなく真石国しんせきこくです。真石国しんせきこくを出ますと、次は徳善山とくぜんやまに停まります』



淡々と流れる新幹線のアナウンスは、無情にも更に西へ進むことを意味していた。




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