ウインドマスター - 水瀬 友紀⑭
ーー
ウインドマスター五十嵐の強力かつ多彩な攻撃に絶望して蹲る水瀬。
茫然と立ち尽くす樹神。
気を失っている皇にゆっくりと迫る五十嵐。
見えない強敵ウインドキングと、それに吹き飛ばされ意識のない剣崎。
そして、友人である的場との一件で気を病んでいる鬼塚と、彼に動いて貰おうと説得している文月。
“BREAKERZ”……いや、グラウンドにいる全生徒は命の危機に晒されていた。
「うっ………うっ………」
そんな中、身体と切り離され首だけになった獅子王は、息絶え絶えに何かを伝えようとしている。
目の前で両足を抱えて蹲っている水瀬を、決死の想いで見据えていた。
実を言うと獅子王は、首を切り落とされてからずっと、彼に向かって必死に彼を呼びかけていたのだ。
しかし、友人の死や敗れた剣崎に動揺していた水瀬に、その声を聞き取る余裕はなかった。
獅子王「た……い………よ……う………!」
口に入った砂が口内に溜まった血と混ざり合う。堪え難い異物感を感じながらも、獅子王はその言葉を発し続けた。
伝えようとしていたその言葉に、何の意味があるのかはおわかりだろう。
彼の特質は、太陽を直視して自身の名前を声にすることで発動する。
太陽の下で名前を呼べば、巨躯のゴリラに変身できるのだ。
“EvilRoid”との戦いで、変身前の状態は引き継がれないことがわかった。
たとえ首だけの状態でも、太陽を見て名前を言えば復活でき、万全な五体を取り戻せるだろう。
獅子王はそれを狙っているが、首は横を向いていて自力で太陽を見ることができないのだ。
獅子王(ダメだ、気づいてくれない。もう……死ぬ……)
視界がぼやけ意識が遠のく中、彼は生きることを諦めようとしていた。
不知火「さっきから何言ってるの?」
絶望的な状況の中、不知火はきょとんとした表情で、獅子王の首の前で屈み込む。
獅子王「…………! た………い……よ………う………見……た……い!」
彼にとって不知火は、一度自分を殺した因縁の相手。
だが、死にかけている今、四の五の言ってはいられない。
何としてでも生き返り、皆を助けたいと思った彼は最後の力を振り絞ってそう言った。
不知火「え、太陽見たい?」
首を傾げた彼は、砂と吐いた血で汚れた獅子王の首を拾い上げる。
不知火「これで良いの?」
そして、不知火は意味がわからないまま、言われた通り獅子王の顔を太陽に向けた。
獅子王「ア…………キィ………ラァ…………ッ!」
不知火に持ち上げられた彼は、太陽を直視して名前を言うが…。
不知火「あれ? 死んじゃった? もう話せない?」
呼吸が完全に止まった彼の生首に耳を傾け、上下に激しく振る不知火。
心なしか寂しそうな表情をしている彼の肩に、黒い体毛で覆われた大きな手が置かれた。
ーー
唖毅羅「あ゛り゛がどう゛。助がっ゛だ」
絶望していた僕は、ガラガラとしたこの声に何故か希望を感じて顔を上げた。
「え、陽?」
血みどろになった生首を真剣な顔で振っている不知火。
道徳心皆無な彼の肩に手を置いている大きなゴリラを見て、思わず涙が零れた。
生きていたんだ。そういえば、“この世に太陽ある限り不死身だ”とか言ってたっけ。
カッコつけてるだけかと思ってたよ。
彼は僕の方に向いて、満面の笑みと共にグッドポーズをしてきた。
ん、ちょっと待てよ。不知火が持っているあの首は、陽だよな?
まさか、このゴリラは陽じゃない? ただの野生のゴリラ?
でも、このグッドポーズは本人で間違いない。
「本当に陽なのか?」
僕の問いに、ゴリラは優しく微笑んで強く頷いた。
そして、すぐに前を見据え、右手に拳を作って腕をぶんぶんと回し始める。
「ねぇ、あれ、あの時のゴリラじゃない?」
「だよな、間違いねぇ。俺たちを檻から解放した救世主ゴリラだ!」
皆がゴリラの陽に気づいて口々に言う中、右腕の回転速度がどんどん上がっていく。
「ゴリラ、やってくれ! いつもみたいに俺たちを救ってくれええぇぇぇ!」
飛び交うゴリラという言葉に、不満そうな顔をする陽。
「ゴリラは禁句!! 彼の名前は……唖毅羅だ!」
僕は立ち上がり、黄色い歓声を上げる彼らにそう言った。
美澄「え、嘘…。あの時助けてくれたのは、会長だったの?」
京極「あれは会長の超能力だったのか!」
救世主だと思っていたゴリラの正体は、みんなが慕っている優しい獅子王会長。
その事実が判明し、歓声は更に大きくなる。
盛り上がるみんなの声を聞いてか、あれだけ変身を躊躇っていた陽から笑みが零れた。
五十嵐「ん? ゴリラ?」
倒れた皇の元に向かっていた五十嵐も足を止めて、こちらに振り返る。
陽はそんな奴の顔を見据えながら、ぶん回していた右腕を後ろに引いた。
唖毅羅「終焉万象回帰開闢猩擲」
彼が前に拳を突き出すと同時に、何かが砕け散るような音が炸裂する。
五十嵐「ウインド・バリアが……破られた?」
奴の発言からわかるように、陽は風の壁を打ち破ったんだ。
これで僕らも戦える。
五十嵐「あのゴリラ…! なんてことをするんだ!」
困った顔をした五十嵐は、頭を抱えてそう言った。
五十嵐「迷い込んだのか? ここにいると危ない。バナナをあげるから動物園に帰ってくれ」
奴はどこか悲しげな表情で、ゴリラの陽にそう頼み込む。
動物には優しいタイプなんだろうか?
根は悪い奴じゃない?
唖毅羅「陽……」
僕の隣に立つ大きなゴリラが名前を呟くと、背丈や筋肉はみるみる縮まり、黒い体毛は毛穴の中に戻っていく。
獅子王「先生、もう止めてください。僕は戦いたくない」
ゴリラから元の姿に戻った陽は、すぐさまそう言った。
首もちゃんと繋がっている。完全に復活したんだ。
でも、1つ気になることがあるんだけど。
不知火は、血みどろになった彼の生首を持っている。
対して、首を切られた身体の方はどこにも見当たらない。
つまり、ゴリラに変身して復活したのは首のない身体の方だ。
獅子王「誰も死んでいない今なら間に合います。怪我人も腕利きの外科医がちゃんと治してくれる。変なサッカーをしたことは謝ります。もう終わりにしましょう」
五十嵐を説得しようと話を続ける陽。
果たして、隣で話している彼は本当に陽なのか?
陽の自我は、生首が死ぬのと同時に消えたって可能性もあるよな。
彼はクローンのようなもので、僕らが知っている陽はもういないのかもしれない。
この予想は外れててほしいな。復活したことを素直に喜びたい。
五十嵐「あぁ、お前だったのか。迷えるゴリラじゃないなら何度でも殺してやる!」
獅子王「くっ…! 唖毅羅あぁ!」
奴の言葉を聞いた陽は、太陽を見て再びゴリラに変身して身構えた。
殺伐とした雰囲気に圧倒されたのか、黄色い歓声を上げていた皆は静かになる。
五十嵐「やれ、ウインドキング!! ハンドナイフカットだぁ!」
ゴリラの陽を指さしてそう叫ぶ五十嵐。
怜と奴の戦いを見ていた僕は、その言動から何が起こるのかを想像できた。
「陽、ウインドキングって言う見えない敵が…」
唖毅羅「ホオオオォォォォォン!!」
”ウインドキングと言う見えない風の敵が攻撃を仕掛けてくる”。
そう伝えようとしたけど、敵は速くて強い。
伝える時間なんて一切なかったんだ。
独特な悲鳴と共に、ゴリラの首が血を撒き散らしながら後ろに飛んでいった。
だけど、心配はいらない。
唖毅羅「陽……!」
太陽がある限り、彼は何度でも復活する!
スポンッ!
え、何これ…?
胴体から切り離された首が名前を発すると、ゴリラの身体から陽の顔が生えてきた。
人間の頭とゴリラの身体が合わさった姿。
だけど、それは一瞬のこと。
ゴリラの身体は縮んで、人間の陽にちゃんと戻ってくれた。
正直、ホッとしたよ。いや、ホッとしても良いのか?
この陽はクローン2代目かもしれないだろ…。
五十嵐「なるほどな。ウインドキング、今度は縦に切れ」
五十嵐が顎に手を当てて、考えた素振りをしながらそう言った瞬間…、
ザクッ…! パカッ…
獅子王「あ゛っ……がっ……!」
陽の身体は脳天から縦に切れ目が入り、真っ二つに分断された。
「ひ、ひぃ…!」
情けないことに、僕は恐怖のあまりまた腰を抜かしてしまう。
切れた断面から噴き出る血や、こぼれ落ちる内臓が嫌でも目に入り吐き気を催した。
首が飛ぶだけならまだしも、これはグロすぎる。
早くゴリラになって治してくれ…!
…………。いや、それは無理だ。
頭から縦に真っ二つということは、口もぶった切られているということ。
名前を発するどころか、声すら出せない。
五十嵐はそれを狙って、ああいう指示を出した。
陽の復活方法がバレたんだ。
分断された身体はバランスを崩し、左右に倒れようとしている。
まだ息はあるだろうけど、名前を発せなければ死んでしまう。
完全な不死身ってわけじゃないのに、どこか安心して油断している自分がいた。
多分、彼自身もそうだろうけど、僕が注意していたら死なずに済んだかもしれないのに…!
不知火「ともだち、死んじゃダメ!!」
近くにいた不知火の泣きだしそうな声が聞こえてくる。
わかるよ、僕もめっちゃ辛い。
でも、涙は枯れたのかもう出ないんだ。奴への怒りが悲しみに勝っている。
バシッ!
って、何してんの?
彼は倒れそうになっていた2つの身体を手で支えて無理やりくっつけた。
良い意味で、不知火はイカれている。
たとえ思いついても咄嗟にできる人は中々いない。
身体を合わせて口をくっつければ、声が出せるんじゃないかって思ったんだろう。
普通に考えたら、神経は切れたままだから口は動かせない。
獅子王「唖毅羅あぁ!!」
僕の常識的な予想に反して、身体がくっついた彼は難なく声を上げた。
そもそも、特質は普通の常識に当てはめて考えるものじゃないのかもしれないな。
大きくなった身体は黒い体毛に覆われ、ゴリラの姿に変身する。
ちょっと真ん中で上下ズレてるけど…。慌ててくっつけたから、ちゃんと合わさってなかったんだろう。
「陽、ちょっとズレてるけど大丈夫? 痛くはない?」
ゴリラの彼は不知火に笑顔でグッドポーズをした後、こちらに振り向き同じく親指を立ててニコリと笑う。
やっぱりズレが気になるけど、痛くないなら良いか。
五十嵐「エア・ウインド! し~~ら~~ぬ~~い~~!!」
奴は指を少し曲げた両手を前に出し、不知火の名前を呼んだ。
ターゲットを陽から彼に変えたらしい。
多分、ゴリラのサポート役だと思ったんだろう。先に排除しないと陽を倒せないって。
非力な不知火は突風によって、グラウンドの真ん中に引き摺り出された。
五十嵐が手を引っ込めると風は止み、彼はよろめきながらも立ち上がる。
そんな彼を奴は指さしてこう言った。
五十嵐「ウインドキング、ハンドナイフカットだ」
ズバッ…!
その直後、不知火の首が鮮血と共に宙を舞う。
ショッキングな光景だけど、彼は大丈夫だ。不死身は伊達じゃない。
ベンチにいる何人かはショックの余り、気を失っているみたいだ。
陽が復活してから、やたらグロいもんな。
不知火「えぇ、今の何? 何か首取れたんだけど!」
地面に転がった不知火の首は、興味津々な表情で話し出す。
同時に切り離された身体も動き出し、自身の首の方へと歩き出した。
首を拾ってくっつけようとしているんだろう。
五十嵐「うっ…! お前も死なないのか!」
ドン引きしているかのように顔を引き攣らせる五十嵐。
五十嵐「動かなくなるまでズタズタに引き裂け、ウインドキング!!」
そして、奴はすぐに次の指示を出した。
自分の首の元に向かっていた不知火の身体は、みるみる分断されていく。
細切れになった肉片、絶え間なく飛び散る血。
それでも、地面に落ちた腕は地を這い、首の元へ向かうとしていたけど…。
ザクッ!
それも虚しく切り裂かれて動かなくなった。
不知火、僕は君のことをただ死なないだけの人と思っていたけど撤回するよ。
君は“BREAKERZ”最高の囮役だ。
唖毅羅「ぞごがあ゛ぁぁ!!」
ゴリラの陽はそう言いながら空高く跳び上がった。
彼は見えないウインドキングを捉えることができたんだ。
不知火の返り血によって、奴の姿が露わになったから。
剣崎『更に筋骨隆々、王様的なマントを羽織った風男…!』
怜が言ったとおりの見た目だ。
陽は両手をがっちりと組んで、腕を頭上に振り上げる。
ウインドキングは指示を最優先にするのか、上空にいる彼には見向きもしない。
唖毅羅「龍滅穿天兜割!」
そして、長くて小難しい名前を叫びながら、赤く染まったウインドキングの頭に両腕を振り下ろした。
ドオォォンッ! パアァァンッ!
頭に攻撃を喰らったウインドキングは、破裂音と共に爆散する。
四方に飛び散る返り血。ぴたりと止む不気味な風の音。
そして……、
「あぁっ…!」
僕は泣き声のような音に思わず耳を塞いだ。
何だこの哀しい音は…。風が啼いている…?
だけど、その音は一瞬で止む。
いったい今のは…。
五十嵐「チッ、邪魔しやがって。だが、遅かったな。もう奴は死んだ」
五十嵐は舌打ちをしながらも、ニヤリと笑う。
不知火のこと死んだと思っているみたいだけど、彼は間違いなく生きているよ。
御影教頭の黒い巨神に踏み潰された時は、もっとグチャグチャだったけど、それでも死ななかったんだ。
唖毅羅「も゛う゛許ざな゛い゛!」
ゴリラの陽は怒りを含んだ声でそう言って、五十嵐に迫っていった。
五十嵐「もう相棒はいないぞ。死ね__シュレッド・ウインド!」
奴の翳した手から繰り出される無数の風の斬撃。
唖毅羅「ホオオオォォォォォン!!」
咄嗟に口元を手で覆った陽だったけど、風に切り刻まれた身体は千切れてズタズタになる。
攻撃を喰らうことは想定内だったんだろう。
痛くて叫びはしたものの、彼は冷静だった。
唖毅羅「陽あぁっ!」
太陽を直視して名前を呼び、人間に戻ることで陽は完全復活を果た……す?
何か切れ目残っているというか、全体的にズレててチグハグなんだけど大丈夫?
獅子王「あれ? 何か走りにくい。まぁいいや、唖毅羅あぁ!」
継ぎ接ぎがおかしい人形みたいな陽は、カクカクと不便そうに走りながら名前を叫ぶ。
良かった、ゴリラはちゃんとしたゴリラだ!
もう一回言ったら、人間の方も元に戻りそうで安心したよ。
唖毅羅「先生ぇ!! 僕ば戦う゛! 先生が止め゛な゛い゛限り゛!!」
喋りにくそうなゴリラの陽は、そう言いながら五十嵐に迫っていく。
本当は戦いたくないんだと思う。僕だって平和的に解決できるならそうしたい。
五十嵐「お前、気持ち悪いな。よし、最後にじっくり殺してやる。それまで引っ込んでてもらおう」
奴はそう言って、指を曲げた両手を陽に突き出した。
向こうは話し合いをいっさい望んでいない。だから、何とかして止めるしかないんだ。
五十嵐「エア・ウインド! ゴ~~リ~~ラ~~!!」
発生した突風は陽の前進を妨げる。
後で殺すため、どこかに飛ばそうとしているのか。
唖毅羅「ホッ! ホッ! ホッ!」
だけど、ゴリラの陽は手で顔を覆いながら両脚で踏ん張っている。
さすが大きいゴリラだ。力が人間の比じゃない。
五十嵐「早く飛んでいけえぇ! 踏ん張るんじゃない!」
飛ばなかったことに動揺し、声を荒げる五十嵐。
唖毅羅「ホッ! ホッ! ホオオォォォォッ!!」
スルッ…!
力尽くでは進めないと思った陽は、突風を受け流すように身体を回転させて横に移動する。
五十嵐「何っ!?」
実はこの突風、一方向かつ範囲も狭かったんだ。
仮にそれに気づいたとしても、普通は何もできないと思う。
ほとんどの人は突風の力に逆らえないから。
だけど、踏ん張れているゴリラの陽なら、受け流して横に移動すれば抜けられる。
少しでも横に避けられたら、あの技は意味を成さない。
唖毅羅「ホオ゛ォォーー!」
突風から免れた彼は拳を作り、動揺する五十嵐に迫っていく。
バキッ!
そして、陽は奴の頬を勢いよく殴りつけた。
え、当たった? なんで? ウインドメイルは…?
陽は攻略法を見つけていたのか? だからパンチを繰り出した?
唖毅羅「え゛、な゛ん゛で」
いや、彼もよくわかってないみたいだ。
少しばかり出血した自身の拳と、痛そうに頬を擦る五十嵐を見比べている。
唖毅羅「ごめ゛ん゛な゛ざい゛。当だる゛ど思っ゛でな゛がっ゛だ」
冷徹な目で自分を見てくる奴に対し、頭をポリポリ掻きながら謝るゴリラの陽。
なんで殴ったんだろう…。
アドレナリンでも出てたのかな。
五十嵐「ゴ~~リ~~ラ~~!!」
唖毅羅「え゛、ぢょっど待っで!」
至近距離で繰り出される五十嵐のエア・ウインド。
陽は完全に油断していたのか、いとも簡単に浮かされてしまう。
身体が浮いたら踏ん張りようがない。
ゴリラの彼は焦った様子で、手足をバタつかせている。
唖毅羅「慰謝料あ゛げま゛ず。下ろ゛じで」
五十嵐「うるさい! 遙か彼方へ飛んでいけ! ふんっ!」
許しを乞う陽に対し、五十嵐は両手を大きく開いた。
唖毅羅「ホオオオォォォォォン!!」
風は急激に強くなり、叫ぶ陽は回転しながら校舎の向こうの方へ飛んでいく。
上空に飛ばされた彼はどんどん小さくなり、最後は星になって見えなくなった。
奴の言ったとおり“遙か彼方”へ行ったんだろう。
いくらゴリラでも、自力で帰ってこれる距離ではなさそうだ。
五十嵐「さて、原点に帰ろう。皇、今度こそ殺してやるからな」
奴はそう言って、まだ倒れている皇の方へ歩いていく。
陽、そしてサポート役の不知火。
2人のお陰で、奴の弱点を知ることができたよ。
陽の拳はウインドメイルを貫通し、五十嵐の頬に命中した。
考えられる理由は、1つだ。
それは、ウインドメイルの脆弱性。
ウインドマスターは、風を自在に操る能力だ。言い換えれば、奴の全ての技は風でできている。
風は本来、形のないもの。それを元に鎧や壁を作っても、出せる強度には限界があるんだと思う。
つまり、一定以上の威力で攻撃すれば、ウインドメイルは貫通するということ。
ウインド・バリアやウインドキングもそうだ。ゴリラの陽の一撃で突破できた。
奴の能力は攻撃に長けているけど、防御に関しては意外と脆いんじゃないのか?
だとしたら、何も難しく考える必要はない。
より強い攻撃を加えて倒せばいいだけだ。
僕は念の為、ずっとポケットに入れていたある物を取りだして口に咥えた。
本当に来てくれるんですよね?
男虎先生。
僕は五十嵐を見据えて、先生から貰ったホイッスルを力強く吹いた。




