決勝戦 - 水瀬 友紀⑨
他の試合と同じようにお互い頭を下げてから、僕らは自分たちのポジションに着いた。
「サッカー部、頑張って~! そんな陰気臭い奴ら、ぶっ飛ばしちゃって~!」
「藤原くん、かっこいい~!」
僕から見て、コートの右側にあるベンチはこれ以上ないくらい賑わっている。
かなりアウェイだな。僕ら“自警部”を応援してくれる人はいない。
藤原くんっていうのは、サッカー部のキャプテンだ。
リーダーシップ溢れる性格に、鉄壁のディフェンス力を誇る。
攻撃に的場、守備に藤原くんを擁している吉波高校のサッカー部は盤石だろう。
応援用のベンチには、怜の言っていた彼女たちも来ていた。
“ロベリア・ブロッサム”。
通称ロベリア。
彼女たち3人は、自分たちのことをそう呼んでいるらしい。
怜は今日、見張りを兼ねて、仲間に引き入れられそうな特質持ちはいないか偵察もしていた。
ロベリアの3人は、バスケの大会に出ていたらしくその強さは圧巻だったとのこと。
華麗なパスワークと身のこなしで相手を翻弄する姿は、とても綺麗で妖艶だったと彼は語っていた。
この3人でトーナメントを順調に勝ち進み、男子バスケ部との決勝では副会長の美澄さんもチームに加わって圧倒していたらしいんだけど…。
ある1人の人物が助っ人に入ることで、状況は一転した。
ちなみに、美澄さんがチームに加わることをロベリアのみんなは快く思ってなかったらしい。
一応、3人は女子テニス部所属で面識はあると思うんだけど。
僕もその助っ人に入った人を何度か見たことあるけど、サッカーの応援には来ていないようだ。
その人物とは……、
“常時学年1位の怪物”。
基本100点しか取らない彼は、スポーツも万能というわけだ。
そんな彼が男子バスケ部に加わることで互角になり、最終的には逆転勝利を収めている。
「藤原くんって爽やかイケメンね。沼らせたいわ」
「黙って。私は今、あんたにムシャクシャしてるの。あんたが使わなかったせいで負けたのよ…」
ロベリアの1人の浮かれた発言に対し、もう1人が冷たく言い放った。
「だって、気分じゃなかったもん。あの人嫌いだし」
冷たく言われた彼女は、頬を膨らませてあからさまに不機嫌をアピールする。
さぁ、そろそろ笛が吹かれるだろう。
コートの真ん中にいる五十嵐先生がホイッスルを咥えた瞬間、ベンチが静かになった。
ピピーー!!
そして、笛の音が鳴り響いた瞬間、ベンチは再び盛り上がり試合が始まる。
幸いキックオフは僕らの方からだ。
コートの中央に置かれたサッカーボールを皇が蹴り出し、的場にパスを出した。
それを見て思わず僕は嫌な笑みを零してしまう。
これで1点は確定だ。
的場は彼からのパスを上手く足元に収めて、右足を大きく振り上げた。
的場「必殺__エイムショット!」
技の名前を叫んだ彼の右足は、勢いよくボールに向かっていく。
彼の“外れないシュート”が炸裂しようとしていたその時だった。
藤原「待て、的場!」
サッカー部のキャプテン、藤原くんが的場を呼びかけると、彼の足はボールに当たる寸前の所で止まる。
僕はこの時、嫌な予感が頭をよぎった。
まさかとは思うけど、向こう側に着いたりしないよな?
的場「ん? 何じゃ?」
的場は頭を上げて、藤原くんに問いかける。
藤原「的場、大会が近い。こっちに加わって連携を高めておかないか?」
的場「え、でも、こんなん遊びじゃし。そんなガチらんでも良いんじゃない?」
何か雲行きが怪しい。これ、上手いこと説得されて的場が敵になる可能性大だよな。
学生大戦の時もそうだけど、的場はすぐサッカー部に絆されるから…。
「的場、彼に耳を貸さないでほしい。今は僕らが勝つことを…」
的場「待つんじゃ、水瀬。藤原は良い奴じゃ。無視するわけにはいかん」
僕の話を聞こうとしない的場。
やっぱり彼は、サッカー部の説得に弱い。このままだと最悪の事態になってしまう。
藤原「的場、俺はいつだって真剣なんだ。今度こそ優勝したい。お前は2年の夏以降、大会がある時はいつも怪我でいなかった。だけど今は違う。万全のお前がいる。今から練習しよう。5月の市総体に向けて!」
彼は力強くそう言って、的場に手を差し伸べた。
あぁ、これは終わった。十中八九、的場は向こう側に着くだろう。
案の定、彼は藤原くんに近付いていき、差し出していた手をガッチリと掴んだ。
的場「おう! 絶対、優勝するんじゃ!」
彼が向こうに行ったことで、僕らは10人で戦うことになる。
そして、相手チームのフォワードにいた選手が1人ベンチに下がった。
まさか、こんな事態になるとは…。
皇「おい、巫山戯んな。何裏切ってんだよバカヤロー」
的場の背中を睨みつけながらそう話す皇。
彼が怒るのも無理はない。僕だって、あっさり向こうに行かれてショックだ。
的場はこちらに振り返ることなく、拳をぐっと握り締めてこう言った。
的場「それは違う。俺は、サッカー部を裏切っとったんじゃ…!」
的場、君は僕らにとっては最低な友達だよ。
「ううっ、胸アツすぎる!」
「藤原くんが報われて良かった。感動的! 的場くんも辛かったね」
「うんうん、きっと彼らに脅されていたんだわ! 正義のサッカー部! 諸悪の根源、自警部なんかやっつけちゃって!」
観客用のベンチから感動と僕らの批判の声が聞こえてくる。
なんで、僕らはこんなにアウェイなんだ…? あれか、慶がいるからか。
みんな人質に取られたこと、根に持っているとか? それ以外、思い当たる節がない。
でも、ある種僕らは目立っている。皇的にはまぁまぁ良い展開なんじゃないだろうか。
藤原「ボールはやるよ。俺たちを崩せるもんならやってみろ、素人が」
彼は僕らを小馬鹿にしたようにそう言い、ボールを足で転がして皇に渡した。
的場を引き入れたことで勝ちを確信したんだろう。
逆を言えば、的場の特質がそれだけ脅威だったということだ。
「皇、君の直感で彼らを躱してハットトリックを決めてくれ! できる限りの援護はするよ」
僕はボールを足の裏で止めている皇にそう言った。
皇「あぁ、任せろ。裏切られた上にボロ負けだと、胸クソ悪りぃしなぁ…」
彼は相手のゴールだけを見据えてそう返す。
皇「行くぜ、自警部!」
彼はボールを蹴りだし、相手の陣地に侵入した。
僕が隣にいる陽にダメ元で合図を送ると、彼は両手を広げて偉そうにこう語る。
獅子王「生徒会長様の謁見だ! 試合を放棄し道を開けるんだ!」
…………。
相変わらず効果はない上に、応援席からはクスクスと笑い声が聞こえてきた。
心なしかしょんぼりしている陽を横目に、僕はサッカー部たちに手を突き出す。
正直、僕は怒っていた。
的場が裏切ったこと。藤原くんに煽られたことに対して…!
「水よ、彼らを溺れさせてくださああぁぁぁい!!」
僕は手を翳して、思いを込めて絶叫する。
…………。ダメだ、やっぱり水は応えてくれない。
応援席の静かな笑い声は、爆笑に変わった。
そして……、
皇「クソッ…! どうしたよ、俺の直感…!」
舌打ちをして、悔しそうにする皇。
1人ドリブルで突っ込んでいった彼だったけど、経験者には呆気なくボールを取られてしまった。
そして、ボールを持った彼らの反撃が始まる。
相手のボランチからサイドハーフに少し速めのパスが渡った。
こちらのサイドバックと1vs1の形になるんだけど…。
志鎌「やぁ、セクシーな雑草さんだね」
向こうのサイドハーフと対峙するのは、サッカーボールに目もくれない志鎌緑夢。
通称“グリムのぐっさん”だ。
彼はあっさりと躱されたというより、素通りされたと言った方が正しいだろう。
僕らのサイドは機能していない。
センターバック2人の出番だ。
ゴール前に立ちはだかるセンターバックは守備の要。ここを突破されると後はキーパーだけになる。
「止めてくれ、不知火! “自傷ビビらせ戦法”だ!」
センターバックの1人、僕は不死身の不知火を呼びかけた。
不知火「やっと出番か! 了解、任せて!」
どうして小柄な彼をセンターバックにしたのか。
彼には彼にしかできない守り方があるんだ。
僕の指示を受けた不知火は体操服の半ズボンからある物を取りだした。
それを見て、敵のサイドハーフは動揺する。何かされるのかと一瞬焦ったのかもしれない。
不知火が取り出したのは、工作でよく使う金槌だった。
そして、それを……、
バキッ! バキッ!
自身の顔面に打ちつけながら、敵のサイドハーフに迫っていく。
「ひ、ひぃ…!」
飛び散る血飛沫、陥没した頭、飛び出る目玉に声にならない悲鳴を漏らすけど、流石はサッカー部だ。
彼は怖がりながらも、左足でボールを蹴り上げ、右サイドハーフの選手にパスを送った。
できれば不知火の作戦で止めたかったけど、まだ敵の攻撃は続く。
右サイドハーフに対峙するのは、僕らの右サイドバック、國吉旺我だ。
國吉「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!! こっち来るなああぁぁぁ!!」
敵の右サイドハーフは彼の絶叫に少しびっくりしたものの、普通に通り抜けて縦に突破した。
大丈夫、サイドバックには元々期待してないから。
もう1人のセンターバックに止めてもらう。
そう思った僕は、センターバックの彼に呼びかけた。
「頼んだぞ! 朧月くん!」
そう言った矢先、ゴール前にいた朧月くんは姿を消し、ライン際を走っていた右サイドハーフの彼の前に現れる。
「いっ…! な、なんだよ…」
もの凄い速さで走っていた彼は、朧月くんの冷ややかな目を見て硬直した。
恐怖で動けなくなった彼からボールを取ろうと、ゆっくりと足を伸ばす朧月くん。
相手チームの反撃はこれで止まったと思ったのに…。
的場「ヘイ、フリー! パスじゃ!」
左サイドハーフに寄っていった不知火と、右サイドハーフの前に現れた朧月くん。
2人のセンターバックがサイドのカバーに行ったため、中央はガラ空き。
そこに的場が走り込んで、パスを要求したんだ。
朧月くんが怖くて動けなかった右サイドハーフの選手も、言われた通りにパスを出すくらいならできる。
彼は怖がりながらもパスを出し、的場はボールを受け取ってシュートの構えに入った。
的場「必殺__エイム…」
この状況、普通なら止めに入っても間に合わない。
だけど……、
朧月「…………。」
時間をとばす神憑、朧月くんなら話は違ってくる。
彼は足を振り上げた的場の前に現れて、シュートを足で止めようとしたんだけど。
的場「エイムショット!」
的場は足を伸ばしてくることも読んでいたんだろう。
彼はボールを、僅かに開いた足の隙間を通してシュートを成功させた。
股の間を通ったボールは真っ直ぐゴールへ向かっていく。
“外れないシュート”、狙ったところへ確実に飛んでいくボール。
彼の最強のシュートから、ゴールを守るのは…。
「ふふっ、最初は誰しも疑問に思うだろうね。どうして僕が背中を向けているのか」
僕らのゴールキーパーは、体操服のポケットに手を入れ、こちらに背中を向けたまま落ち着いた口調でそう言った。
そして、自分で出した問いに対し、彼はすぐにこう答える。
「何故ならこれが、僕の臨戦態勢だからさ」
背中を向けた僕らの守護神、日下部雅は、こちらをチラッと見てニヤリと笑った。
日下部「宙屁、応用」
シューーー!
ガスが抜けるような音がした瞬間、ゴールに向かうボールの速度が緩やかになっていく。
そして……、
スポッ
たまたまかはわからないけど、緩やかになったサッカーボールは、日下部のお尻に挟まった。
と、止めた…。絶対に外れない的場のシュートを彼は止めたんだ。
さすが、神憑の日下部。特質より神の力が上回ったということか。
的場「なん……じゃと…?」
日下部「シリウス、粋な計らいは止めてくれ。みんなは喜ぶだろうけど、僕は恥ずかしいよ。かっこつかないしね」
止められて動揺する的場と、恥ずかしそうにもじもじとする日下部。
日下部「仕切り直そう。今度はかっこよく止めたいね」
そう呟いた日下部はお尻に挟まったボールを手で取って、的場の足元に転がした。
かっこよくも何も…、オナラで止めてる時点でそれなりにダサいと思うよ。
日下部「さぁ、おいで。できるだけ良いコースに打つと良い。僕の凄さが際立つからね」
そう言って手招きをしてから、再び背中を向ける日下部。
的場「な、舐めんなぁ! 必殺__ナーブスショット!!」
挑発された的場は顔を真っ赤にしながらボールを蹴り上げた。
ナーブスショット。ボールはS字を描くように2回曲がり、ゴールの右上の隅へ吸い込まれるように向かっていく。
しかし、ボールはゴールに入る寸前の所で勢いを失って地面に落ち、コロコロと的場の元まで転がった。
日下部「どうやら、君の特質では僕の力を破れないようだね」
勝ちを確信し、ニヤリと笑う日下部。
的場「クソッ! ズルじゃ! チートじゃ!」
対して的場は、怒り任せに何度もシュートを放った。
だけど、結果は同じだ。見えない壁…、日下部の何かしらの放屁に弾き返されている。
日下部「説明してあげよう。これは宙屁、空飛ぶ放屁の応用さ」
彼は得意気に人差し指をぴんと立て、どうやってシュートを止めているのかを話し始めた。
簡単に言うと、本来空を飛ぶために使う宙屁を足で踏ん張った状態でお尻から放出しているんだ。
その噴射力によって、ボールを押し返しているって感じかな。
僕からしたらそのやり方、1つ懸念があるんだけど。
足、大丈……
ピキッ
日下部「あっ……」
彼は背中を向けたまま、前へ倒れ込んだ。
足、やっぱり大丈夫じゃなかったみたい。
ただでさえ、人1人浮かせるほどの噴射力なんだ。それを足で踏ん張るなんて、絶対痛めると思ったよ。
的場「クソッ……、あれ、普通に入ったぞ?」
怒り任せに蹴った的場のシュートはそのままゴールに入り、相手チームに1点を許す形となってしまった。
日下部「すまない、みんな。調子に乗りすぎたよ」
実行委員の人が持つ担架に乗せられた彼は、見下ろす僕らに対しそう謝る。
「いや、僕もごめん。君が止めている間、傍観するんじゃなく普通に止めに入れば良かったんだ」
僕がそう言うと、日下部は穏やかに笑い、保健室へ運ばれていった。
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文月「で、なんで僕がキーパーなんだ」
「君しか控えにいないんだ。絶対に勝つと誓うよ。ほら、あの何とか拳って武術で止めてくれ!」
不服そうな顔をしてグローブを着ける慶に、僕はチームの勝利を誓った。
文月「妖瀧拳のことか。あれは小学生の時にやめたし、サッカーに応用できるわけないだろ」
ぶつぶつと不満を言う慶を置いて、僕は自分のポジションに着く。
ピピーー!!
そして、再び僕らのボールで試合が始まった。
とにかく、どうにかして1点返さないと…。
絶望的な顔をしている皇が僕にパスを出す。
ディフェンスが早い…!
ボールを受けた僕の前には、既に敵が2人いた。
もう前へのパスコースは塞がれている。かと言って、横にいる陽に出しても詰められて取られてしまう。
もう機能していないサイドにパスを出すしかない。
僕は右サイドバックに向けて、ボールを蹴りだした。
ボールは、それなりの速さで彼の足元に転がっていく。
志鎌「アゲハチョウさん、とっても綺麗だよ」
彼は相変わらず、ボールに興味を示さない。でも、今は興味持ってくれないと困る!
「グリムのぐっさん! ボールを前に蹴ってくれえぇ!」
コロコロ……とん
僕の掛け声は虚しく、グリムのぐっさんの踵にボールが当たる。
そして、いとも簡単に相手にボールを奪われてしまった。
志鎌「すーっ、痛いなぁ。これ折れたかなぁ? アキレス腱切れたかもしれないなぁ」
踵を撫でながらじとっと睨んでくるグリムのぐっさん。
いや、ちょこっと当たっただけじゃないか。大げさすぎるよ。
志鎌「すーっ、痛いなぁ。あ、お迎えの死神さんが来ているなぁ。今日が僕の命日なんだなぁ」
よくわからないことをぶつぶつと言いながら、彼はコートから出ていった。
そんなことより、ボールは今どこに…?
僕がグリムのぐっさんに気を取られている間に、ボールはゴール前まで運ばれていた。
キャプテンの藤原くんがゴール前でシュートを打とうと足を上げている。
ドンッ!
文月「ぐっ…!」
そして、打たれたボールは真っ直ぐ進み、慶のお腹に命中した。
「慶、大丈夫か!?」
急所に入ったのか、彼はお腹を押さえて蹲ったまま立ち上がろうとしない。
文月「お前、わざとだろ?」
藤原「何のことだ? ていうか、凄いな、ナイスセーブ。才能あるんじゃね?」
彼の発言にヘラヘラと笑い出すサッカー部たち。
もし、わざとなら最低な奴だ。遊びで痛めつけるようなことをするなら、僕は許さない。
藤原「ほら的場、お前もやれよ。良いシュート練習になるぞ」
ニヤニヤしながらボールを的場に渡す藤原くん。
的場「いや、俺絶対外さんし、普通に決めるけど…」
藤原「優しいな、お前は…。あいつテロリストだぞ?」
戸惑う的場を、彼はそそのかした。
的場、やめろよ。君なら普通に決めてくれるよな?
的場「そ、そうじゃな! テロリストは悪いやつやけん、何しても良いよな!」
彼の良くないところ。
それはサッカー部の意見に流されやすいところと、めちゃくちゃ甘いところだ。
的場はキーパーの慶を見据えて、足を振り上げた。
クソッ、止めないと! ファールになってもいい。転かしてでも止めるんだ!
ーー
水瀬は友を守る決死の思いで走り出した。そして、同じタイミングで別の意図を持って走り出した者がいる。
その者の名前は、鬼塚 琉蓮。
鬼塚(絶対に止めないと! 2点も取られたらマジで勝てない!)
彼もまた決死の思いで走り出した。チームのために人を傷つけるかもしれないというリスクを取ったのだ。
だが、力加減は完璧にできている故、彼が走っても大地震は疎か、地面に亀裂すら入らない。
そんな絶妙な力加減をしていた彼だったが、最後の最後で失敗してしまったのだ。
鬼塚(ッ! まずい、躓いた)
彼が躓いた理由として、1つ考えられることがある。
彼は色々と考えすぎた。
どうやってシュートを止めるのか。
タックルは的場が死ぬ。
スライディングは地割れが起きて、皆が死ぬ。
立ちはだかってシュートを身体で止めるのはどうだろう?
恐らく身体に当たった瞬間、ボールが破裂して弁償&先生に怒られる。
色々と悩みに悩んだ末、注意散漫になって転んでしまったのだ。
だが、それでも地面が陥没することはなかった。完璧な力加減で転べたからだ。
問題は、転んだことではなく転んだ場所にあった。
鬼塚琉蓮は的場凌の足元に転んだのだ。
彼は転んだ際、足元にあったボールを頭で押し出してしまった。
そして、サッカーボールと鬼塚の頭が入れ替わったことに気づかなかった的場は……、
ゴンッ!!
思い切り足を振り抜いてしまったのだ。
的場「ノ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォォォォォン!!」
この世のものとは思えない彼の断末魔の叫びは、町中に響き渡った。




