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BREAKERZ - 奇っ怪な能力で神を討つ  作者: Maw
自警部•球技大会編
175/271

チーム結成 - 水瀬 友紀⑤

キーン コーン カーン コーン


キーン コーン カーン コーン


昼休みの開始を告げるチャイムが鳴った。


松坂まつさか「よし、今日はここまで! みんなお疲れさん、昼休みゆっくりするんだぞ!」


優しくてハキハキしている僕らの担任で、数学を教えている松坂まつさか先生はそう言う。


まだ来て間もないけど、生徒のみんなからは好評だ。


僕らはいつものように立ち上がって礼をした後、各自散らばっていった。


教室で弁当を食べようとしている人。


購買や食堂に行くために、教室を出ていく人。


それぞれが自分なりの昼休みを過ごそうとしている中、僕は自分の席に座り込んだ。


廃部を言い渡されてから数日、いまいちやる気が出ないんだ。



剣崎けんざき水瀬みなせ氏、今日も私たちと御弁当を食べるのだ」



虚ろに自分の机を見つめていた僕の前に、今日も彼らはやって来た。


可愛らしいアニメのキャラクターシールが貼られた無機質な弁当箱を持っているれい


全身肉離れはもうすっかり治ったらしい。


その隣には、申し訳なさそうに僕の顔色をうかがっている生徒会長のあきらがいる。


そして、もう1人。


鬼塚おにづか友紀ゆうきくん! みんな! 今日も昼休みがやって来たね! ご飯を食べようか! 元気いっぱい、音を立てずに!」


何か良いことがあったのか、ここ数日ハイテンションな琉蓮りゅうれんは、自身の弁当箱をがさつに置いた。


若干跳ねながら物音を立てる自身の弁当箱を見て微笑む琉蓮りゅうれん


鬼塚おにづか「完璧な力加減。いつもこうでなければならない……なんてね!」


それ、みんなで食べ出してからずっと言ってるよね。


日下部くさかべ「やぁ、今日は僕もご一緒させてもらうよ」


購買から帰ってきた日下部くさかべはパンを持って、僕らの元へやって来た。


みんな、落ち込んだ僕や廃部になったことを気にかけてくれている。


「みんな、ありがとう。じゃあ、食べようか」


僕が低い声でそう言うと、みんな持ってきた自分のイスに座って手を合わせた。


僕も母さんが毎日作ってくれている弁当を机に出して口に運ぶけど、何だか味気ない。



剣崎けんざき鬼塚おにづか氏、最近元気な様子だが、何か良いことでもあったのか?」



みんなが黙々と食べている中、れいが口を開く。


確かに、それは結構気になるかも。いつもどこか暗い雰囲気の琉蓮りゅうれんがこんなに元気なのは珍しい。


むしろ、ここ数日は僕らの方が琉蓮りゅうれんみたいだ。


鬼塚おにづか「まぁそうだね。色々あって…。新しい自分に出会えたというか、ひと皮剥けたって感じかな?」


れいの質問に対し、彼は口をもごもごさせながらそう答えた。



ガタッ



すると、れいは真剣な表情ですっと立ち上がり、琉蓮りゅうれんを見据える。


そして、一呼吸置いてからこう言ったんだ。




剣崎けんざき「まさか…、()()()()()?」




致すって何をだろう? わからない上に、丁寧な言い回しに違和感を覚える。


鬼塚おにづか「ん? 何の話?」


ご飯を頬張りながら返事をした琉蓮りゅうれんも、意味がわからないといった様子で首を傾げた。


剣崎けんざき「それが大人の余裕か、鬼塚おにづか氏」


れいはそう言いながら、座って弁当を食べている彼に詰め寄る。


剣崎けんざき「良き友人として話を聞きたい。それはいつ…、そして相手は誰なのだ?」


いったい何の話をしているんだろう?


顔は超真剣だから、れいにとってはかなり重要なことなのかもしれないけど…。全く話が読めない。


日下部くさかべ剣崎けんざき、その質問はデリカシーに欠けるね。僕も気になる……じゃなくて、みんなお食事中なんだ」


日下部くさかべも、食べかけのパンを机に置いて立ち上がった。


真剣な表情で見つめ合う2人。


彼は、れいの言っていることがわかるのか?


僕とあきら琉蓮りゅうれんは、弁当を食べながら向き合う2人を交互に見つめる。


剣崎けんざき日下部くさかべ氏、これは私にとって重要な話だ。ようやく私の知人から経験者が輩出された。私も助言を頂き、二次元から脱却するのだ」


日下部くさかべ「ちょっと待った。その言い方は気になるね。僕に経験がないとでも言いたいのかい?」


話し合う2人の声は割と大きく、教室にいた他の人たちが僕らに注目し始めた。


気まずいな、変に目立っている。


鬼塚おにづか「視線が…視線が眩しいよ。でも、もう大丈夫だ。完璧な力加減、強固な精神力…、いつもこうでなければならない! ワッハッハ!」


腕を組み、変にハイテンションな琉蓮りゅうれん


きっと痩せ我慢をしているんだ。僕も変な意味で注目されるのは嫌だからわかる。


獅子王ししおう「わかった! 宇宙が何次元かについて話しているんだろ?」


何かを閃いたように人差し指を立てて、いつもの調子で話すあきら


さすが生徒会長だ。人目なんて気にしてたら、みんなの前に立てないよな。


剣崎けんざき「はははっ、日下部くさかべ氏…」


珍しくれいが声を上げて笑う。


剣崎けんざき「オナラの君が経験済みなら、世も末であるぞ。経験者とは到底思えない」


笑いを堪えられない様子のれいに対し、日下部くさかべは一瞬眉をひそめた後で穏やかに微笑んだ。


日下部くさかべ「そうかい。なら、よだれの君が経験するようなことがあれば、宇宙は跡形もなく消滅するだろうね」


獅子王ししおう「ほら、やっぱり宇宙の話だ!」


あきらはさっきよりも強く人差し指をぴんと立てた。


男子生徒の怪訝な目線、女子生徒のひそひそ話がどんどん強くなっている。


一旦、れいたちを落ち着かせないと。でも、彼らの間に割って入ることはできそうにない。


剣崎けんざき「公共の場で私のコンプレックスを語ったな。それも愚弄の意を込めて。私を社会的死に追い込むつもりなら、己の命と引き換えだ」


なんでかわからないけど、彼らが怒っているからだ。仲裁に入れる程度の怒りじゃない。


日下部くさかべ「君の発言も頂けないね。命と引き換えか。ふっ、良いね。お昼ご飯を終えたらグラウンドで決闘しようか。物理的な力を自在に加えられる名も無き放屁ファート燕脂蒙昧屁アンノウン・ファートで瞬殺さ」


剣崎けんざき「先に私の斬華繚乱ざんかりょうらんが君を襲うだろう」


睨み合う2人。止まない周囲のひそひそ話。


そして、どうやって聞き付けたのか、廊下側にも人が徐々に集まってくる。


確かに2人は怒っているけど、教室の外に響くような怒鳴り合いや大喧嘩をしているわけじゃない。


なんで、こんなに注目されているんだ?


その理由は、すぐにわかった。




「そう、こいつら2人が決闘するんだよ。どっちかが死ぬまで終わらねぇ、ガチの決闘をなぁ♪」




飄々としたいつもの口調でそう語る彼は、人混みの中から姿を現した。


人混みを背に開いたドアの前に立つ彼の名前は、すめらぎ尚人なおと


いつもの笑顔で注目の的になった僕らを見据える。


れい日下部くさかべのちょっとした言い合いを、大げさに言って広めたんだろう。


多分、彼が原因でみんな集まってきているんだ。


「マジか、結構ガチなのか?」


「あの立っている2人がやるのか? てか、あいつら誰だ?」


集まってきている生徒や元々教室にいた人たちがざわつき始める中、すめらぎは続けてこう言った。



すめらぎ「そう、あの2人だ。だが、ただの殴り合いじゃねぇ。あいつら…いや、俺たち自警部じけいぶは皆、普通じゃないものを持っている。それを使ってり合うんだ」



彼は僕らの特質や神憑かみつきの能力をバラす気だ。


まぁ、隠しているつもりはなかったし、その必要もないから僕は良いんだけど。


そう思いながら、僕はれいの方へ視線を移した。


彼は自分の特質にコンプレックスを抱えている。


間違ってもれいの唾液について話すなよ、すめらぎ。ほんとに殺されるかもしれないから。


「普通じゃないものって何だ? ナイフとか持ってんのか?」


すめらぎ「ヒャッハッハッハァ♪」


廊下側から聞こえてきた疑問の声に対し、彼は狂気的な声で高らかに笑った。


すめらぎ「そんなちんけな物じゃねぇよ♪ 何も知らないお前らにわかりやすい言葉でいうとすれば…、まぁ超能力って奴だなぁ♪」


“超能力”という言葉が嘘っぽく聞こえたのか、ざわつきが止んで辺りはしーんとする。


「なんだよ、嘘かよ。しょうもね…」


確かに、子どもっぽい幼稚な嘘にしか聞こえない。


その生徒の発言を皮切りに、集まってきた彼らは自分たちの教室に戻り始めた。



すめらぎ「屈強な校長を吹き飛ばした鬼塚おにづかのパンチ、あれを普通だと思うか?」



白けた彼らに対し、すめらぎは真剣なトーンでそう言う。


聞き流して帰っていく人もいたけど、何人かは足を止めて彼を見た。


そして、すめらぎは話を続ける。



すめらぎ鬼塚おにづか自警部じけいぶの1人だ。鬼塚おにづかのお陰でお前らは解き放たれたんだ。恐怖心を煽り服従させる超能力からな。あぁ…、後、お前らが見た黒いデカいのや世間で言われている緑の災害も全部、超能力だ」



再びざわつき始める生徒たち。



「確かにあの時なんでか逆らえなかった。怖かったんだ」


「あれ、そうだったの? 夢かと思ってた」


「緑の災害、あれまだ原因わかんないんだよな。超能力の仕業って言われても否定はできねぇ…」



話に夢中になっている彼らを見て、彼はニヤリと笑い口調を強めた。



すめらぎ「嘘かどうかはすぐにわかるぜぇ♪ こいつらは飯を食った後、すぐに殺し合う。自分たちの超能力を使ってなぁ♪」



勝ち誇った顔をして、2人を指さすすめらぎ


すめらぎ「俺たちで奴らを応援してやろうぜ! 決闘(けぇ~っとう)♪ 決闘(けぇ~っとう)♪」


そして、指さした手を開いて、みんなを煽るかのように手拍子を始めた。


彼はいつも笑っていて、何を考えているかわからない。


でも、今回の行動に関しては思い当たるところがあるんだ。



すめらぎ『まだ出すんじゃねぇぞ。催促されてもできる限り引き伸ばしてチャンスを待て』



廃部を言い渡された日に、彼が言った言葉が頭を過る。


そして、廃部になった自警部じけいぶの名前を節々に出しているということは…。


彼は、自警部じけいぶを何かしらの手段で復活させようとしているのかもしれない。


だけど、そのために本気で殺し合いをさせようとしているのなら、僕は彼を止める。



「「「決闘(けぇ~っとう)!! 決闘(けぇ~っとう)!!」」」


「えぇ、ちょっとヤバくな~い?」


「オタクの人、よく見たらイケメンじゃない? ハーフみたい」



すめらぎの手拍子に乗っかる男子生徒に、クスクスと笑いながら密かに盛り上がる女子生徒。


ニヤけが止まらないすめらぎを見た感じ、彼的には上手くいったようだ。


お互いに睨み合ったままのれい日下部くさかべ


獅子王ししおう「え、やっぱり違う話?」


この異様な盛り上がり方には、流石に戸惑っている様子のあきら


そして……、




鬼塚おにづか「ぬわああああぁぁぁぁぁぁ!! 視線が、歓声が凄まじいよ友紀ゆうきくん…! 落ち着くんだ、僕はヒーロー。完璧な力加減、強固な精神力。完璧な力加減、強固な精神力。完璧な力加減、強固な精神力……」




パニックに陥った琉蓮りゅうれんは頭を抱えながら、お経のように同じことを呟き始めた。


琉蓮りゅうれん、彼はやっぱりどこかが変わった。元々目立つの自体は苦手そうだったけど、テンションが違う。


何かあったのは間違いなさそうだ。



「「「決闘(けぇ~っとう)!! 決闘(けぇ~っとう)!!」」」



手拍子が大きくなる中…、



『決闘も悪くないが、もっと良いのもあるぞ』



聞き覚えのある声が教室のスピーカーから流れてくる。


この声を知っているのは、僕だけじゃない。この学校の生徒なら多分忘れもしないだろう。


スピーカーから流れてきたその声を聞いて、みんなはまた静かになった。


『静粛に感謝する。僕は君らの後ろにいる。道を開けてくれ』


すめらぎの後ろにいた人たちは左右に分かれて、人が通れるようなスペースを作っていく。


彼らは誰の声かわかっている。恐怖か怒りからか、顔を強ばらせながら道を空けた。


すめらぎ「チッ…、間が悪いな」


舌打ちをするすめらぎの背後の廊下にはスペースができ、そこに彼は立っている。


そんな彼に対し、すめらぎは振り返りながら気怠そうにこう言った。


すめらぎ「邪魔すんじゃねぇよ、クソ文月ふづきぃ」


制服姿の彼を見るのは、かなり久しぶりで新鮮だ。


青白さはなく鮮明に見える辺り、今回はたぶん実物だろう。



文月ふづきって鬼ごっこの…?」


「なんで、ここに…? 確か収監されてるんじゃ…」


「あ、あの人が文月ふづき? え、イケメンじゃん!」



違う意味でみんながざわつき始める中、けいすめらぎに対してこう言った。


文月ふづき「邪魔をしたつもりはない。ただ、僕は用があってここに来たんだ」


そして、彼は手に持っていた1枚の紙を僕らに見せる。



文月ふづき「久しぶりだな、お前ら。元気そうで何よりだ。球技大会について話がある」



元気そう…。


その言葉とは対照的に、彼はやつれているような気がした。



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